カサゴ

Sebastiscus marmoratus

 

 カサゴ目はカサゴのカサゴさん

 胸びれが1棘5軟条であることから検索を開始、背びれが1基で欠刻あり、眼の下に眼下骨棚( suborbital sray )があること(より詳しくはアイナメを参照のこと)、胸びれ基底が短いこと(長いとオニオコゼ)、背びれの棘が硬くて強いこと(へたにさわると手や指に刺さる刺さる)、さらに背びれの始まりが眼よりも後ろにあること、以上の特徴によってまずはフサカサゴ科へ。

 側線が普通であること、胸びれに遊離した軟条がないこと、ミノカサゴでもないし、胸びれに欠刻がないこと(ちなみにスケッチの胸びれに切れ目があるのは単純にヒレが切れていただけ)、さらに背びれの棘の数が12であり、眼の下の頬に棘がないこと(鰓ぶたへと続く”陵”はスケッチの通り存在するが棘ではない)、これらのことからメバル亜科へ。

 そしてさらに、胸びれの上半分の後縁が浅く湾入/あるいは裁断されたような形であること・・・

とまあ、ここまでは良かったのだけども、こっから先は非常に微妙。暗い茶褐色の色、頬に棘がないこと、胸びれの根元が明るい色になっていること、そうしたことからこのお魚さんがカサゴであるらしい、というのはまあ分かります。

 しかし検索表では尾びれの後ろの縁が裁断されたような形か、あるいは丸いとあるのだけども、スッケチではそうなっていません。もしかしたら尾びれをもっと広げたらそう見えたのかもしれませんが、どうもそういう風に見えた記憶もありません。

 ちなみに以上の検索の過程で”胸びれの上半分の後縁が浅く湾入/あるいは裁断されたような形であること・・・”を見た時点で実はスケッチを少し修正しています。なぜなら、検索表を読んでから魚を見たら、あら本当だ、胸びれの後ろの縁が確かにまっすぐだわ、と納得したから。

 これはたぶん、新しい知識を仕入れて物事を見ると以前は見えなかったものが見えてくるという見本なのでしょう。作業仮説が変わると理解まで変わるということです。でも尾びれに関しては何度見てもややくぼんで見えたので、スケッチを修正せずに現在に至っています。

 いずれにせよ、日本産魚類大図鑑の写真を見てもこれはカサゴでよさげなので、カサゴということで納得。

 カサゴとその仲間は頬に眼下骨棚があって mail-cheeked fishes :頬甲類、と呼ばれています。いわば武装されている魚でなかなか格好がいい。個人的には好きなお魚さん。カサゴの肉は白身でおいしい方です。ただ、背びれの棘が強力で、なおかつ頭にも硬くてとんがった棘が幾つもあるので、扱っていると手にあちこち刺さって痛い痛い。

 

 

:同定に関する余談

 分子データのみならず、形態データも扱える系統推定法、分岐分類学。こうした系統推定方法は既存の分類学と対立するところがあるので、分類学の立場を死守しようとする人々からしばしば色々な批判を受けてきました。その中のひとつに、

:分岐学に基づいて検索表を作っても、系統を知らないとその検索表が使えないという本末転倒なことになる

という批判があります。基本的にこの批判は、分類学の優位性を歌う立場から見た、分岐学/最節約法、ひいては系統学に対する懐疑論だと思われますが、さてこの批判、実際のところ有効な批判になっているんでしょうか? 

 例えばの話、このコンテンツを作るさいに重宝している「日本産魚類検索」。この本は種を同定しやすいように魚種と形質を配置した、いわば”検索に向くように形質を配置した一大検索表”であることは明らか。これは少なくとも系統図に厳密にそって検索表を組んでいるわけではありません。

 例えば、カサゴが代表格のカサゴ目に注目してみましょう。ホウボウ、キホウボウは34ページで基本的な検索の流れから他の多くのさまざまな魚もろとも残りのカサゴ目から分岐してしまいます。さらに33ページでカジカ科は残りのカサゴ目とたもとを分ちます。残りのフサカサゴ、ハオコゼ、オニオコゼ、アイナメ、ギンダラなどのメンバーが登場するのは59ページ。

 こういう検索の流れは明らかに系統には厳密にしたがっていない配置ですし、既存の分類にさえも従っていないでしょう。最終的には同じグループとしてまとめて紹介されるけれども、検索の過程ではばらばらです。もちろん、こうした検索こそが便利なのでしょう。例えば予備知識のない人間にとって植物の検索表で一番便利だなあ、と思えるのは季節と花の色に基づいた体系ではないかと思います。

 以上のことは、人間の利便に基づいた検索表は系統とはあまり関係ないということだけでなく、既存の分類体系とすらも積極的な関係を持たないことを示しているように思えます。系統を知らないと検索表が使えない。だから分岐学とか系統学はダメだ、だが分類は良い、というのは相当に的をはずした意見ではないでしょうか? 

 

 

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