矛盾:祖先から受け継がれたのではない特徴が混じっている場合
それは収斂
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わらし:さて”くらべることで”共通の祖先から受け継いだと思われる特徴”を探すことは話しただな。今度は”共通の祖先から受け継がれたものではないが見た目は似ている特徴”について話すだ。
ミラ:はあ、またわけの分からないことを言い出したわね。共通の祖先から受け継がれたものではなく、しかし見た目は似ているって、なによそれ?
わらし:同形形質(homoplasy :ホモプラシー)ってやつだな。
ミラ:また難しそうな専門用語がでてきたぞ・・・・
わらし:そういうな、まあようするにだなホモプラシーというのは
”一見すると同じものに見えるが、実は共通する祖先から受け継がれたものではないまがいもの”
ってやつだな。
ミラ:はあ・・・、なんかよく分からないわね。
わらし:そうだな、具体的にはタコの眼と人間の眼はホモプラシーだ。あれは似てはいるが違うものだな。
ミラ:そうなの?
わらし:そうだよ。どちらも網膜を持ち、レンズを持ち、レンズによって画像を網膜上に結像させて外部の風景を情報として取り込むことができる複雑な器官だ。でも2つは違うものであり、違う由来を持つもっている。
ミラ:違う由来ってどういうことよ?
わらし:ここにタコと人間の共通の祖先がいる。そしてこの共通祖先がレンズを持つ眼を持っていたとしよう。そうだとしたらタコと人間の眼は同じ由来を持つことになるわけだ。つまり
↓レンズ眼を持つ共通の祖先A
_A___タコ
|___人間
というわけだ。この場合、
1:タコと人間はAからレンズ眼を受け継いだ
2:ゆえにタコのレンズ眼と人間のレンズ眼は同じ由来を持っている(あるいは由来が同じだ)
ということになるだな。もしこうであったのならタコと人間のレンズ眼はシナポモルフィーになっていたはずだ。
ミラ:でもそうじゃないのね?
わらし:その通りだ。実際には”レンズ眼が進化するというイベント”は・・・・
ミラ:イベント?
わらし:進化で起きた出来事のことだ、出来事ならイベントだろ?
ミラ:いわれればそうか・・・。
わらし:話を続けるぞ。レンズ眼が進化するというイベントは次ぎのように別々に起きただよ。
↓レンズ眼を進化させたタコの祖先A2
___A2__タコ
|
|_A3__人間
↑レンズ眼を進化させた人間の祖先A3
つまりタコのレンズ眼と人間のレンズ眼はそれぞれ別々の祖先で生じた特徴なわけだ。だからレンズ眼はタコと人間のシナポモルフィーにはならないだ。だからホモプラシーになるだな。
ミラ:へー? でもさっタコの眼と人間の眼は見た目も構造もよく似ているわけでしょ? 人間の眼とタコの眼ってシナポモルフィーでいいんじゃない?
わらし:おめーはたのもしいやつだな。
ミラ:はいっ?
わらし:教科書を読んでお勉強したお利口さんはタコの眼と人間の眼が別物だって記述を読んで、どういうわけだか知らんが”タコの眼と人間の眼が別物であること”を根拠を説明できないままに信じているからな、そういう人たちはおめーがするような発想はしないもんだよ。
ミラ:それ、ほめてるの?
わらし:肯定的に評価しているよ。
ミラ:はあ? でっ、ともかくどうなのよ。同じものだから同じでいいんじゃないの?、だいたいさっきはそうしたじゃないのよ。
わらし:したな。
ミラ:じゃあ同じでいいじゃない。
わらし:同じでいいよ、最初のステップではな。
ミラ:最初のステップ?
わらし:まあまあ、まずは分岐図を作ってみるだ。カタツムリとタコ、ナメクジウオと人間の血縁関係を推論してみるだぞ。
ミラ:なんか、グロイのがいっぱいでてきたわねえ・・・・。外群には何を使うの?
わらし:うん?、コウガイビルだ。ほーれほれ。
ミラ:ぎゃっ!!なによそれ!!
わらし:陸上生活する扁形動物だ。まあ、見た目はぐにゃぐにゃべっとりのグログロで、そのままその通りのげろげろな生き物だ。特徴は肛門を持たないことだな。
ミラ:じゃあどうやって食事やトイレをするわけ?
わらし:口から喰って口から出すだよ。具体的にはミミズを襲って咽頭を伸ばして包んで溶かすように、なめるようにして喰うだ。組織を崩壊させて崩すようにな。すると相手は泡と血の固まりになってだな、残るのはミミズの糞便である砂の固まりだけで、そして排せつは・・・・
ミラ:いやー、聞きたくない聞きたくない。
わらし:うぶなやつだな。まあなんだ、こいつを外群にして考えると、コウガイビル以外の動物は肛門のある1本の消化管を共通して持っている。ようするにこういうことだ。
ミラ:なるほどね。じゃあこういう分岐図が描けるはずよね?
______コウガイビル
|____カタツムリ
|___タコ
|___ナメクジウオ
|___人間
わらし:うんだ。そういう分岐図になるだな。
ミラ:ようするに肛門を持っている・・というのがコウガイビル以外の動物達のシナポモルフィーなのね?
わらし:そういうこっちゃ。人によっては肛門といういかにも怪しげな特徴で束ねるなんて・・と異論を持つだろうが、まあこういう束ね方ができること自体は確かだな。とはいえ、これだけじゃどれがどれに近いかよく分からないからたいした情報量のない分岐図だ。
ミラ:ええっと、じゃあほら、ここで”レンズ眼を持つ”っていう特徴で束ねればいいじゃない。
わらし:なるほど それで?
ミラ:するとほら、こういう分岐図が描けるわ。
______コウガイビル
|____カタツムリ
|___ナメクジウオ
|___タコ
|_人間
ほら、タコと人間は親戚なのよ。
わらし:まあ、そういう分岐図が描けるのは確かだな。
ミラ:なにか問題でも?
わらし:あるな。解剖学的にいうとカタツムリとタコには他の連中にはない次ぎのような共通点があるだよ。
1:外套膜を持つこと
2:足、頭、内臓塊と並んだ身体の構造をもつこと
3:歯舌を持つこと
ようするにこういうこっちゃ。
ミラ:むむむっ???
わらし:でっこの3つの特徴を共有派生形質にするとこういう分岐図が描けちまうわけだ。
_______コウガイビル
|_____カタツムリ
| |__タコ
|
|____ナメクジウオ
|____人間
これ、おめーがさっき作った分岐図と違うよなあ?
ミラ:違うわねえ・・・・。
わらし:そればかりじゃねーぞ、人間とナメクジウオが近いことを示す証拠もあるだよ。
ミラ:へー? それは何?
わらし:どっちも背中に体を支える棒状の構造物を持つって特徴だな。まあちょっとおおざっぱすぎる言い方をすれば脊索という器官を持つ、という特徴だ。
ミラ:・・・・なんか不穏ね・・・。
わらし:そうだな。脊索はタコにはないからな。なんかますます訳が分からなくなってきたろ? さあどうする?
ミラ:どうするのよ?
わらし:じゃあ、今度はそれを考えてみましょう。
参考文献として:
「系統分類学」 E・O・ワイリー 宮正樹・西田周平・沖山宗雄共訳 1991 文一総合出版
「生物系統学」 三中信宏 1997 東京大学出版会
「種の起源」(上下) ダーウィン 原著1859 岩波文庫
分岐学の入門書(のつもり)「恐竜と遊ぼう」はこちら^^;)→