矛盾:祖先から受け継がれたのではない特徴が混じっている場合

対話形式に向けて工事中

 

 さて、前のコンテンツでは、くらべることで[祖先から受け継いだと思われる特徴]を探すことをお話しました。

 ここで注意しなければならないことがあります。実はこうして集めた特徴の中には

 ”祖先から受け継がれたものではないまがいもの”

 が混じっていることがしばしばあります。

 そもそも、生物の特徴は多くの場合、矛盾した分布を示します

 具体的な例:

 プラナリアとくらべてイカとカタツムリと人間の共通の特徴を探して見ましょう。彼らは

 口と肛門を持つ

という共通の特徴を持っています。このことからすると3種類の動物は口と肛門を持つ祖先から進化したのでしょう。するとこういう分岐図が描けます。

____________プラナリア

   |__A1____ヒト

      |_____カタツムリ

      |_____イカ

 A1は口と肛門を持っていたヒト、カタツムリ、イカの共通の祖先を示しています。さて、ここまではいいのですが、問題はここから先です。

 これらの動物のうち、イカとカタツムリは、

 1:外套膜を持つこと

 2:足、頭、内臓塊と並んだ身体の構造をもつこと

 3:歯舌を持つこと

という共通の特徴を持っています。

 こうした外套膜などが同じ祖先から受け継がれたものだとすると、カタツムリとイカが彼らだけの共通の祖先をもっていたことになります。するとさきほどの分岐図は次ぎのような形にバージョンアップすることができます。

____________プラナリア

   |________ヒト

      | ↓外套膜などがここで進化する

      |_A2__カタツムリ

        |___イカ

 さて、ここまではさきほどのコンテンツでやったことと同じです。

 問題は次ぎのここです。人間とイカにはカタツムリが持っていない

 4:レンズのある眼

という共通の特徴があります。もし、レンズ眼が共通の祖先から受け継がれたものだとすると、人間とイカが彼らだけの祖先から進化したことになります。するとこんどは次ぎのような分岐図が描けます。

____________プラナリア

   |________カタツムリ

      | ↓レンズ眼がここで進化する

      |_A3__ヒト

        |___イカ 

 レンズのある発達した眼という特徴から考えられる分岐図

 今回、このように分岐図が2つ描けてしまいました。

分岐図1:外套膜などに基づいて作ったもの

____________プラナリア

   |________ヒト

      |_A2__カタツムリ

        |___イカ

分岐図2:レンズ眼にもとづいて作ったもの 

____________プラナリア

   |________カタツムリ

      |_A3__ヒト

        |___イカ 

これは矛盾ですね。なぜこんなことが起こるのでしょうか?。実はこれ、最初に集めた特徴のどれかが共通の祖先から受け継がれたものではない、ということなのです。ようするに一見すると同じ祖先から受け継がれたもののように見えるが、じつは別々の祖先から受け継いだまがいもの、他人のそら似が混じっているわけですね。

 他人のそら似とは別々に独立して進化した特徴のことで、”収斂(しゅうれん)”と呼ばれるものです。

 こういう場合、分岐学では他人のそら似が最少になる分岐図を選ぶべきであると考えます。他人のそら似を最少にする。これは最節約、あるいはオッカムの剃刀という考え方です。

 では、こんどはこの最節約という基準が何なのか、そして最節約を使うとどちらの分岐図を選ぶべきなのか?。それを見ていきましょう。

 最節約で選ぶ分岐図へ→  

 

 参考文献として:

 「系統分類学」 E・O・ワイリー 宮正樹・西田周平・沖山宗雄共訳 1991 文一総合出版

 「生物系統学」 三中信宏 1997 東京大学出版会

 「種の起源」(上下) ダーウィン 原著1859 岩波文庫    

 

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