矛盾する分岐図からどう選ぶ? 最節約な基準で選べ  

証拠は暫定的なものであり、証拠が証拠であるかは状況によって変化する。

わらし:こういう時は証拠の多い方を選ぶだよ。

ミラ:証拠?

わらし:この場合は共有派生形質のことだな。おめーの分岐図を支持する共有派生形質は”レンズ眼”の1つ、オラの分岐図では今いった3つ+αだな。だから・・・

ミラ:じゃあ私の分岐図が間違いだってことになるの?

わらし:間違いというよりは証拠となる共有派生形質が少ない、ようするにあまり支持されないってことだな。あまり支持されないから、オラの分岐図のほうが採用されるだよ。

ミラ:じゃああんたの分岐図が正しいわけ?

わらし:いや、正しいというよりは”より手堅い”というわけだな。

ミラ:なんかわけわからなくなってきたぞ。そもそも私の分岐図が間違いならレンズ眼は共有派生形質じゃないってことになる、つまりシナポモルフィーじゃなくなるわけよね?

わらし:そうなるな。

ミラ:じゃあなんなのよ?? 同じに見えるからシナポモルフィーにしたのにシナポモルフィーじゃないなんて???

わらし:だからおら、言ったでねーか、最初は・・・とか、とりあえず・・・・とか。

ミラ:????

わらし:例えばだ。おめーが部屋に帰ったらおめーのおやつが喰われていた。窓が開けっ放しで窓枠にネコの足跡があった。おめーのおやつを喰ったのは誰だ?

ミラ:そりゃあ・・・ネコでしょ。

わらし:ところがだ、その足跡をよく見たら一部が拭かれて消えているだ。おめーが先日、部屋を掃除した時におめーはネコの足跡に気がつかないまま雑巾で足跡を拭いたみたいなんだなあ。

ミラ:そうだったらそれはその日の足跡じゃないわけよね・・・。すると犯人はネコじゃなさそうね・・・。

わらし:さらにおめーの部屋のテーブルを調べてみるだ、そうしたらオラの指紋や足跡がでてきて、しかも残りのおやつにはオラの歯形が・・・・。

ミラ:犯人、おまえかーーーっ!!!

わらし:ぶう〜〜わ〜〜れたかあーーー!! というのは冗談にしてもこれはこういうことを示しているだ。

:証拠の確からしさや数によって支持される推理は変わる

:支持される推理によって証拠となる証拠が変わる

というわけだな。

ミラ:いわれれば・・そうねえ・・・・。えっ、じゃあ私の分岐図はあまり支持されない、支持されないから私が見つけた共有派生形質も共有派生形質じゃなくなる、つまりシナポモルフィーじゃなくなってホモプラシーになっちゃうってこと??

わらし:そうだあ。逆にいうと生物の持つある特徴が共有派生形質であるか、それが系統を解き明かす証拠になるかどうかというのはあくまで暫定的だということだ。

ミラ:暫定的・・・??

わらし:仮説的っていってもいいだぞ。ようするに共有派生形質だと思っていても、事態によっては共有派生形質じゃなくなったり、反対にそれまで共有派生形質じゃなかったものが共有派生形質になることもあるわけだ。まあ、詳しいことは別のコンテンツでするが、仮説的だということは覚えておくだ。

ミラ:じゃあ・・・、タコと人間のレンズ眼はなんなわけ?

わらし:ホモプラシーだよ。逆転とか、収斂とかそういうものだな。

ミラ:ぎゃくてん? しゅうれん?

わらし:逆転は元に戻ってしまうこと。収斂は他人のそら似のことだ。この場合、レンズ眼はホモプラシーのなかでも他人のそら似になるだ。

ミラ:他人のそら似?

わらし:ようするに別々に進化したのに見た目は似ている特徴のことだ。

ミラ:同じようなものが別々に進化するってこと?

わらし:そういうこっちゃ。

ミラ:そんなことがあるの??

わらし:そうだな、例えば八重咲きの桜ってあるよな?

ミラ:あるわね。雌しべや雄しべがなくなったりして花びらだらけになっちゃった桜でしょ?

わらし:そうだ。でもな、こういう花びらだけになった八重咲きの園芸植物は他にも色々あるだよ。スイセンでもチューリップでも朝顔でもあるだ。ようするに八重咲きという特徴は違う園芸品種で実際に何度も出現しているってわけだ。

ミラ:同じような変異や変化が現実に起きているってわけか。

わらし:そうだあ。そういうことから考えると収斂はおかしな現象ではないってことだ。

ミラ:でもレンズ眼のような複雑な構造がそれぞれ別々に進化するものかしらね?

わらし:確かに変異それ自体はでたらめに起きるから、そこから同じようなものが産まれるというと奇異に聞こえるかもな。でも淘汰がかかるとそういう変異も一定の値に収束するだよ。というか生き延びる変異が選抜されることで結果が収束するっていった方がいいかな。実際、そういう例は自然界を眺めれば幾らも見つかるだ。例えば哺乳類であるクジラと軟骨魚類のホホジロザメがどちらも流線形であるというのはいい例だろ?。

ミラ:つまり水という液体のなかを素早く移動するのに適した形態はひとつしかないし、由来が違っていても、進化の歴史が違っていても、淘汰によって一番妥当な解答にたどりついたってことね?

わらし:そういうこっちゃ。おなじようにレンズ眼も淘汰によって同じ、あるいは近似した解答に辿り着いた例だと考えることはできるわけだ。

ミラ:ふーん、なるほどね。あれ、でもさ、なにかおかしくない?

わらし:なにがだ?

ミラ:考えてみればさ、レンズ眼をあえて収斂と考える必要があるのかしら?、反対に外套膜や歯舌を収斂だって考えることもできるわよね?

わらし:できるよ。

ミラ:じゃあなんでレンズ眼の方が収斂にされちゃうのよ?

わらし:証拠の数っていったでねーか。さっきみたいにお互い矛盾する分岐図が描けてしまう場合、分岐学では証拠の数が多い分岐図を選ぶだよ。

ミラ:それが収斂とどういう関係があるわけ?

わらし:証拠の数が多い方を選ぶ、ということは反対にいうと”総合的に考えて証拠ではないと見なされるものもある”ということだろ?

ミラ:そうねえ・・・・そうなるわね。

わらし:”証拠が多い方がグッド”ということを裏返せば”証拠でなくなってしまうものの数を最少にするのがグッド”ということなのさ。これが分岐学の考え方なのよね。

ミラ:・・・なんか当たり前の考え方ね。

わらし:そだな。非常に当たり前の考え方だなあ。ともかく分岐学で要求していることはシナポモルフィーが最大で、ホモプラシーが最少になっている分岐図を選びなさいということなのよ。これは例えば収斂と見なされる特徴が最少ですむ分岐図を選ぶ、ということだな。

ミラ:証拠が多い=他人のそら似が最少、ということなわけ?

わらし:まあおよそそういうことだ。例えばレンズ眼をタコと人間の共有派生形質であると考えるだ。するとカタツムリとタコが持つ、外套膜、足・頭・内臓塊と並んだ身体、歯舌という3つの特徴が証拠ではなくなる、ということになる。

ミラ:ホモプラシーになっちゃうのね?

わらし:そういうこっちゃ。この場合、ナメクジウオと人間の脊索もホモプラシーにする必要があるだろうな。すると全部で4つの共有派生形質が共有派生形質ではなくなってしまうわけだ。

ミラ:なんか図では8回独立でウンヌンて書いてあるけど、なにこれ?

わらし:4つの証拠がホモプラシーになると、この場合は収斂だとしているわけだが、これが全部他人のそら似だとしたら4つの証拠がそれぞれ別々に生じなくちゃいけないだろ?

ミラ:ははーん、なるほどね。だから全部で8回になるんだ。

わらし:そのとおりだ。反対にレンズ眼が共有派生形質でないとしよう。するとこうなるわけだ。

ミラ:なるほど。こちらでは1個の証拠が消えて、同じような進化が2回起きたと考えればすむわけか。

注:今、ここの会話では話を単純化するために逆転の可能性を考えてはいません。例えば理屈の上では4種類の生物すべての共通祖先にレンズ眼があり、それがカタツムリとナメクジウオで独立に失われた、という可能性がありえます。ただしその場合、進化のイベントが合計3回必要なのでレンズ眼が独立に進化したという分岐図よりも結局不利になります。

わらし:そうだな。そして証拠の多い方を選ぶ=ホモプラシーの数を減らす。そういう基準に立つと以下の分岐図が選ばれるだ。そしてこの場合、収斂とされる特徴はレンズ眼だということになるだよ。

ミラ:だからレンズ眼が収斂になっちゃうのか・・・。

わらし:そういうこっちゃ。共有派生形質に見える特徴のうち、どれだけ多くの特徴を共有派生形質として認めるのか?、あるいは否定する共有派生形質をどこまで少なくできるのか? これは最節約、あるいはオッカムの剃刀という考え方だな。分岐学ではこの基準で分岐図をチョイスするだよ。分岐学のことを最節約法ともいうのはこのためだ。そしてこの基準に従って確からしい共有派生形質が選ばれるだなあ。

ミラ:なるほどねえ。だから最初は共有派生形質だと思っていたものがそうじゃなくなっちゃうのか・・・。

わらし:そういうこっちゃ。

ミラ:ところでさ、最節約とかオッカムの剃刀ってなにね?

わらし:じゃあ、こんどはこの最節約という基準が何なのか、それを見ていくことにするだな。

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 参考文献として:

 「系統分類学」 E・O・ワイリー 宮正樹・西田周平・沖山宗雄共訳 1991 文一総合出版

 「生物系統学」 三中信宏 1997 東京大学出版会

 「種の起源」(上下) ダーウィン 原著1859 岩波文庫    

 

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