第ニ夜
スタンドの四大定理
(前編)

 シュッ―
 マッチに火をつけ、それを燭台にささっているロウソクに分け与える。それが夜会を始めるときの縫希(ぬうの)の決められた行動である。3本のロウソクに灯をともした後、マッチ箱をジーンズのポケットにしまい、縫希はイスに腰掛けた。
 白い丸テーブルをはさんで向かいのイスには季子(きこ)が座っている。気だるそうな動きは眠気から来ているのだろう。襟にかかった髪を左手で後ろに流した。
 縫希が口を開く。

「前回は15巻に載っていたスタンドについての定義をとりあげたが、今日はジョジョ・ア・ゴーゴー(以後、JAG)の『スタンズ』における「スタンドの四大定理」について話してみようと思う。まず、「スタンドの四大定理」を挙げてみよう。

(1) (その生死に関わらず)スタンドは必ず本体を持つ。
(2) スタンドは1人1体である。
(3) スタンドの射程距離とパワーは反比例する(ただしスタンドがもたらす「効果」はこの限りでない)。
(4) スタンドはスタンドのみ接触可能である(ただしスタンドが物質と融合している場合はこの限りではない)」

「10年だったかしら…。ずいぶんスタンドのルールも整理されたわね」
 季子が感心したように言った。

「そうだね、15巻の…、正確には「スタンドとは」が載ったジャンプは平成元年、JAGは平成11年だから約10年だね。第5部と第6部の間の約半年の休載期間にJAGは出たんだ。だが、実はスタンドのルールはこの時点でもまだ固定していない。第6部になってもこの四大定理は変化するんだ。そこのところもイッショに話していこう」

「そうなの…」季子は珍しく驚いた。だが、負けず嫌いである彼女はそのことを少し恥じたのか今度はやや攻撃的な口調になった。「でも10年以上もたってまだルールが変わるなんて、作者もあまり考えていないようね」

「逆さ。最低限のルールだけを決めて、後は流れにまかせることで柔軟性を持たせている。9つあったルールが4つに減ったのはその顕れだろう」

 すこし的外れなことを言ったことに少々頬を赤らめ、季子は話を戻した。
「1番目の定理によるとスタンドは必ず本体を持つのね。ここでいう『本体』とは、つまりスタンドを生み出した人間や生物のことなのよね?」縫希がうなずいたの見て季子は続けた。「第6部の…スタンドDISCを挿入された彼等はそういう意味では『本体』ではないんじゃないの?」

「『本体』ではない?」縫希は丸テーブルの上に左手の人差し指で2、3回円を描いた。「それでは『スタンド使い』と言い換えるべきかな」

「それじゃぁ、『スタンド使い』とは何?」

「『スタンド使い』とは………スタンドを意志で自由に操れる人間だ」

「前に縫希は言ったわよね。独立/暴走型の『本体』は『スタンド使い』ではないと…」季子は奇麗な目を瞬かせた。「『本体』と『スタンド使い』、この2つは同義ではないわ。縫希が言ったように、鋼田一豊大や乙雅三は『スタンド使い』ではなくても『本体』ではあるわけよね」

「……。確かに言い換えるというのは間違っている。では、『本体』の定義をもっと広義に使えるように考え直すべきだな」縫希は再び丸テーブルの上に円を何回か描いた後に話を続けた。アヌビス神は自分を生み出したキャラヴァン・サライから独立した後は、チャカやカーン達を本体とした。また、第6部のDISC系スタンド使い達…代表としてスポーツ・マックスを挙げるが…、生み出したわけではないがリンプ・ビズキットの本体である。以上のことから、『本体』には2種類あると考えられる。その2種類とは、

1.スタンドを生み出した者
2.スタンドが発現/発動するためのエネルギーを供給する者

「そうね。2番目の方は『仮の本体』と言われる場合もあるわね」

「普通の場合は1と2は同一人物であるのだが、何らかの理由によって1と2が異なる場合がある。さらに、『スタンド使い』であるか否かという問題も絡んでくる」

「具体例を挙げましょうか。さっき名前が挙がったチャカ、スポーツ・マックス、そして仗助を分析してみましょう」

「スタンダートの代表としての仗助だね。仗助はクレイジー・ダイアモンドを生み出し、エネルギーを供給し、自分の意志で動かせる。チャカはアヌビス神を生み出したわけではないが、エネルギーを供給している、『スタンド使い』であるかどうかは怪しい。どちらかというとアヌビス神が逆にチャカを操っていたと思われる。そしてスポーツ・マックスの場合は、リンプ・ビズキットを生み出したワケではないがエネルギーを供給し、自由に操れる」
 縫希はフリーハンドで表を描いた。 

本体 1. 本体 2. スタンド使い
東方 仗助
チャカ × ×
スポーツ・マックス ×

 季子は表をしばらく見つめていた。
「第6部になっても変化し続ける…か」

「なんだい?何か気付いたことでもあるのかい、季子?」

「ええ。『本体2.のみ』の人間が『スタンド使い』であるという組み合わせは第6部になって初めて顕れているわ」

「なんだって!」

「そもそも本体1.と本体2.が異なるという現象は独立/暴走型スタンドのみに見られたものだったのよ。スタンドが憑りついた後の本体はスタンドに意識を支配される、そうならなくてもエネルギーを搾取されるだけの存在になるわ」

「………」

「自分が生み出したわけでもないスタンドを自由に使える。言うまでもないけど、このことの原因は「心をDISC化する」ホワイストスネイクよ。ホワイトスネイクがスタンド学の中で特殊な存在…、『特異点』であるために起きた現象ね。スタンド学的に特殊なスタンド―『特異点』は何体かいるわ…」

「初の自動操縦スタンドのシアーハートアタックや、スタンドが『矢』によって進化したチャリオッツ・レクイエムなどだね」

「そう。その『特異点』の中でもホワイトスネイクは非常に重要だわ。第6部の根幹に関わっているのだから」季子は前髪をかきあげ、部屋の隅のロウソクの灯りが届いていない闇を少しの時間見つめた。「第3部〜第5部の存在に関してスタンド能力は直接的に影響を与えていないわ。例え、DIOのザ・ワールドが時間を止めることができなくてもDIOの「世界を支配しようとする行動」は間違いなく起きたし、承太郎はDIOを倒しに言ったわ。だけど、第6部はホワイトスネイクの能力が「DISC」以外だったら絶対起きなかったわ。部の存在にスタンド能力が関わったのはホワイトスネイクが初めてなのよ」

「………」
 縫希は黙って話を聴いていた。 

「少し話が脱線したわね。(1)をまとめてみましょう、縫希」

「あぁ…。え〜と…『スタンドは必ず本体を持つ。ここでいう本体とはスタンドを生み出した者またはスタンドに生命エネルギーを供給している者を指す。ただし、両者が明らかな場合は前者を優先する』。これでどうかな?」

「良いわよ。うまく、まとまっていると思うわ」
 季子は微笑んだ。

 

(第三夜に続く)