邦題「レッド・ドラゴン 」

原題「Red Dragon 」

2003/3/17@ジョリー岡山東宝


評者   

評価  

ひとこと

ほーく

  イメージ先行を逆手に取る

<コメント>

 ご存知の方も多かろうが、この作品はトマス・ハリス著のハンニバル・レクター博士シリーズの第1作にあたる。映画はというと、第2作「羊たちの沈黙」(ジョナサン・デミ監督、ジョディ・フォスター主演)、第3作「ハンニバル」(リドリー・スコット監督、ジュリアン・ムーア出演)に次いでの3番目である(※一応、「刑事グラハム/凍りついた欲望」ってのが一番最初らしいですね)。共通しているのは、サー・アンソニー・ホプキンス演じるハンニバル・レクター博士の圧倒的な存在感である。作品評をご覧いただきたいのだが、「ハンニバル」はお世辞にも出来がいいとは思えなかった。そこへ来て、第1作の映画化である。監督は、「ランナウェイ」、「ラッシュ・アワー」1,2とジャッキー・チェン映画を無難にこなしてきたとは言え、まだまだ未知数のブレット・ラトナー。演技陣は、サー・アンソニーを中央に、エドワード・ノートン、ハーヴェイ・カイテル、レイフ・ファインズ、エミリー・ワトソンと豪華な顔ぶれ。期待する気持ちもあれど、過度の期待が外れたときの落胆を恐れてしまう昨今である。世間が「二つの塔」に群がるのを横目に、あえて踏み込んだその先には・・・ひさびさの快作が待ち構えていたのである。
  以下、ベタ誉めが続くと思われるので、読み飛ばしても結構である。そんな方はこちらへ。
 さて、なんと言っても今回の成功は明らかに脚色である、とテッド・タリーの略歴を確認すると。おっと、「羊たちの沈黙」も手掛けていたのですか、これは納得。そもそも、シリーズ物の3作目ともなると、すでに出来上がったキャラクター造形にあぐらをかき、創意工夫も見られないことがしばしばである。更に今回は、時系列では一番最初の物語。少なくとも、「羊たちの沈黙」と整合性が取れていないとどうしても違和感が生まれる。それを打開できるのか?もちろん、自然の摂理には逆らえず、レクター博士演じるサー・アンソニーが若返ることはできない。ここを見事にクリアした手並みは、各自で確認していただきたい。
 次に、原作つきの呪縛から逃れられるか?折りしも、この問題については、「ハリー・ポッター」で触れた。物語がミステリー作品であるが故に、原作そのままでしかなければ映画としての個性は消え、また原作を逸脱しすぎてはこれまた、別物とのそしりを受ける。そうでなくとも、稀代のサイコパスと名高いレクター博士の存在感は作品のバランスを危うくする存在である。さらに、共演陣の名声が邪魔をする。性格俳優として定評のある彼らにはすでにある程度のイメージというものが付与されている。彼らの姿を見る前からすでに役柄に先入観を植え付けてしまうのである。
しかし、今作品はそのイメージ先行を逆手にとって、より登場人物に深みを持たせることに成功したと思っている。例えば、エドワード・ノートン。「アメリカン・ヒストリーX」で、さらに幅広い演技を見せつけた彼だが基本的なイメージは外見から来るナイーブな優男である。ハーヴェイ・カイテル。「レザボア・ドッグス」、「パルプ・フィクション」で刷り込んだ無骨なスーツスタイルを前面に押し出す。レイフ・ファインズ。彼も基本は優男。更に、倒錯気味な役柄が似合う彼が今回のキーパーソンである。そして、その彼に厚みを与えるのがエミリー・ワトソン。これまた、「本当のジャクリーヌ・デュ・プレ」で見せたような不安定さがここでも。これらのビッグネームに加えて、シリーズレギュラーのバーニー、チルトン博士は「羊たちの沈黙」を再現。新聞記者ラウンズ、アジア系のFBI捜査官ボウマンなどなど、外見から先行してしまうイメージをうまく取り込んで作品に活かしている。
 まったくもって恐れ入った。
余談だが、ティム・バートン御用達のダニー・エルフマンのスコアは「スリーピー・ホロウ」に続き猟奇作品に似合うと思われる。

お茶屋さん@「チネチッタ高知」の評は、こちらへ(ネタバレ!)


主演 エドワード・ノートン@ウィル・グレアム
共演              アンソニー・ホプキンス@ハンニバル・レクター、レイフ・ファインズ@フランシス・ダラハイド、ハーヴェイ・カイテル@ジャック・クロフォード、エミリー・ワトソン@リーバ、メアリー=ルイーズ・パーカー@モリー(ウィルの妻)、タイラー・パトリック・ジョーンズ@ジョシュ(ウィルの息子)、フィリップ・シーモア・ホフマン@ラウンズ(記者)、アンソニー・ヒールド@チルトン博士、フランキー・フェイソン@バーニー、ケン・リュン@ボウマン(アジア系のFBI捜査官)
監督 ブレット・ラトナー
原作 トマス・ハリス著「レッド・ドラゴン」ハヤカワ文庫
脚色 テッド・タリー ※「羊たちの沈黙」も担当
衣装 ベッツィ・ヘイマン
プロダクション・デザイナー クリスティ・ゼア
撮影 ダンテ・スピノッティ、A.S.C.,A.I.C.
音楽 ダニー・エルフマン
編集 マーク・ヘルフリッチ,A.C.E.
OST 未購入。
パンフレット @600円 作りがぬめっとしていていいかも(違)
2002年作品 2時間5分
参考URL 公式サイト:http://www.reddragonmovie.com

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