<第1書架>

読んだ本を思いつくまま
並べてみました・・・!

「トリポッド第四巻 凱歌」(ジョン・クリストファー ハヤカワ文庫)
新装なった「トリポッド・シリーズ」も第四巻をもって完結した。
詳しくは、別項を参照されたい。
あえて付け加えることがあるとするなら、以下の三点。

その一。
このシリーズの異星人、約100年以上にわたって地球を支配したのだが、まずよくやった!そう賞賛したい。ウェルズの「宇宙戦争」、あるいは「インデペンデンス・ディ」の侵略者たちと比較すると、よほど根性のはいった地球支配といえるだろう。
その上、その支配期間中、人類間での紛争をいっさい起こさせなかったのは賞賛に値する。
異星人自体が差異のない一族だという特長があったのかもしれない。が、サイコ・コントロール下にあった人類はともかく、それ以外の生態系にとって平和な時代といえるとおもう。
第三巻にて明らかとなった地球の大気改造計画がなければ、異星人と人類との共存も可能だったのではないか?そう思えるほどである。
(その一点において、彼らの支配は否定されねばならなかった!)

その二。
女の子がいない!
ジュヴィナイル小説としては、コレは致命的であろう。ジョン・クリストファー氏には猛省を求めたい。3巻までは曲がりなりにも女の子の存在があった。
が、そもそもアルプスのレジスタンスの拠点には、女性の描写がいっさいないのである。
女性がいなくて、どうやって組織が保てるというのだ?
何も主人公ウィル少年を慕う美少女をだせ!と強要しているのではない。
指導者ユリウスの奥方、力強いアシスタント役として副リーダーの女性キャラくらいだしてもバチはあたるまい。名前はハイジ、クララ、それこそロッテンマイヤーでもいい!
やや頼りない男の子が、健気な美少女にいいところをみせたくて、実力以上の活躍をみせる。
これこそ、ジュヴィナイル小説の王道である!

第三。
失礼ながら、本書の作者はすっかり過去の人とばかり思いこんでいた。
が、解説をみると、2003年の時点で最新のテーマを盛り込んだ作品をモノしている。81歳!
ブラッドベリ氏といい、このお方といい立派なものだ。
某シリーズで100巻達成したという某作家氏など、まだまだというべきかもしれぬ。横言なれど、200巻、300巻と頑張ってもらいたいものだ。
(2006.1/3)
「天竺熱風録」(田中芳樹)
日本史でいえば「大化の改新」、大唐帝国で玄奘法師が健在だったころのお話。

7世紀の唐時代に生きた王玄策という人の伝記(擬講釈文の体裁をとっている)
時代的には玄奘三蔵法師とほぼ同時代の人。
事実、両者は対面した可能性もある。

王玄策という人。平凡社の世界大百科あたりにも独立項目としてある通り、一部には著名な人物らしいが、可哀想に一般的には著名な存在ではない。
この人、唐王朝の使節として天竺へ三度も往来している。
その二度目の天竺行で、現地でクーデター騒ぎに巻込まれてしまう。
天竺の諸王の中で、最大の威勢を誇り君臨していた戒日王の突然の死去。それに乗じた簒奪者により王玄策とその使節一行は捕らえられ、投獄されてしまう。
からくも脱出した王玄策、そのまま唐へと逃げ帰ったかというと、とんでもない。
そのまま北上し、唐の友好国だったネパール国へと至り、ネパール国王と談判。かの国の騎兵8千名を借りうけ、部下たちを救うべく簒奪者へ戦いを挑むのである。
結果として、一万に欠ける寡兵をもって十万を超す敵の大軍を撃破する王玄策。異国の地で異国の兵をもってのその快挙。
専門の武将ならともかく、王玄策は文官職なのだから、その将才たるや並大抵のものではない。が、王玄策がその知謀を発揮しえたのはその一回かぎりであったらしい。
国力充実期の名将ぞろいの唐王朝にあっては、王玄策がその異才を発揮する場面はふたたびおとずれなかった。
そのことが幸か不幸であったのか・・・王玄策はその一件で幾分昇進をはたしたものの、青史に独立した伝をたてられることなくその生涯を終っている。

これだけ数奇で、とんでもない奇功をたてた人物がその生没年は不詳という。

にしても今回本書を読んであらためておもったこと。
それは、人の歴史意識を形作るのは、歴史書にあらず。歴史小説をよんでのことが圧倒的に多いと云うこと。
7世紀のシルクロード史なんぞをよめば中国関係の記事には、まず王玄策のことが書かれているものなのだが、本書を読むまではここまで大それたことをやってのけた人物とは思わなかった(赤面モノ!)
まぁ、王玄策について歴史家の書いた文章って二、三行だし、それもいたって無味乾燥な内容である。その偉大さがピンとこなかったのも仕方ないか?

そんな状況を改善する意味でも本書が刊行されたのは、意義のあることだったと思う。どこかのテレビ局でドラマ化しないものか?
知略でもって戦象軍団を撃破する智将・王玄策。簒奪王を叱咤する烈婦人。笑いをとる漫才コンビのお坊さん。そしてワケのわからんバラモン僧・・・絵になると思うけども? 

魅力ある歴史フィクションとはいうものの、大体において、史実を取り入れた作品に仕上がっている。族弟の王玄廓も実在の人物だし、長安へ海路にて帰還中、智岸・彼岸両名が客死したのも史実(もっとも、お坊さんたちのキャラに関しては、作者がずいぶんと脚色しているもよう)
王玄策が長安にバラモン僧を連れ帰ったのも事実のようで、どうやらその一件で宮廷中枢に不興をかったらしい・・・王玄策がある地位以上に昇進できなかったのも、ソレが尾を引いていたのでは?
そんな風にも邪推してみたのですが、さてどうだろうか?
「予告探偵」(太田忠司 中央公論社 ノベルス)
1950年代の、戦後まもない旧家が舞台(らしく思われた)
そこで連続しておこる怨恨によると思われる連続殺人事件。さっそうと登場する名探偵、すこし頼りない助手。そして警察、奇矯な館の住人たち・・・。
まさに横溝正史の世界!

が、ここにとんでもない落とし穴があった!
レトロなストーリー展開・・・と思いきや、こういう仕掛けがあったのか!。
いやいや、戦後まもない時期に「原子力研究」というのはおかしなものだ?と思わないでもなかったのだけど、いやまいった!
この本の読者は、読み進むうちなにかしら「異和感」を抱くはず。
なんかおかしい、ってネ。だけどもソレが何かはハッキリしないのだな。
終盤近く、「使用人」について決定的なコメントの前に、いまひとつヒントが明示されるけどソレに気がつく人ってどのくらいいるのか?

古典的なミステリ好きな人にもお薦めしますが、ラストでとんでもない背負い投げをくらう覚悟だけはしておいた方がよろしいと思う。 

にしても、あの探偵くん。言動からして、とても「正義の味方」とはおもえないモノがある。
呼ばれもしないのに押し掛けていき、強引に謎を解いていく「予告探偵」!その傲岸不遜の態度とあわせ、空前絶後、前代未聞の探偵役ではなかろうか?続編希望!
トリニティ・ブラッドCanon 神学大全 (吉田直)
 2004年7月15日、作者の突然の死去により、この雄大な物語はその語り部を喪った。
「嘆きの星」からスタートし、「アポカリプス・ナウ」で中断した「トリニティ・ブラッド」シリーズ。読者をおよそ4年にわたって至福の時間に誘った物語群。いまは失われし物語り・・・。
 
 その空虚感は日を追うごとに増大し、なかなかに埋めがたいモノがある。
<追悼の書>とでもいうべき本巻が上梓されると、その思いはよりいっそう深まる気がする。
なんという作家を失ったことか!
いや、作家個人だけのことではなく、本来紡がれるべき物語がなしえた可能性というか、豊穣な物語世界が我々をたのしませてくれたハズの大きさを考えると、読者の多くが或いは次の如くつぶやくかもしれない。
「あと10年、いや5年(作者が)生きていてくれたら!」
「アベルやエステルたちと、もうすこしつきあっていたかった!」
もっとも我々の現実の世界。
それは、失われた可能性の屍の上に展開されてきた・・・そう云っても過言ではないのだ。
そのことは、歴史をすこしでも学べば理解できる。

本書を読了後、僕は、「吉田直氏よ、安らかに!」と心中に作者へ語りかけた。
合掌。 2005年5月1日。スニーカー文庫の一冊として刊行。
「ビザンツの鷲 全4巻」斉城昌美(トクマノベルス)
 15世紀初頭、「ビザンツ帝国」落日の時代、ローマ皇帝にも血のつながるギリシア貴族、アレクシオス・ニカイオスが主人公。
地中海における有能な貿易商として活躍中の彼は、かって対オスマン・トルコ戦にて勇戦し、その力量をもって敵・味方双方から「ビザンツの鷲」と称えられた人物でもあります。

 つまりいろんな意味で無視できない存在なのですね。そんな彼と、親友であるステファーノは、宮廷の権力争いに巻き込まれていきます。そしてステファーは無惨にも謀殺されてしまう。
手をくだしたのは、アレクシオスを陣営に取り込もうとしたローマ皇帝の側近の権力者。なにしろ相手は皇帝のお気に入りです。ふつうだったら涙をのんで諦めるのでしょうが、そこは「ビザンツの鷲」とまで異名をとったアレクシオス。
 敵の邸宅へと単身のりこみ、みごと側近を討ち果たします。しかし、そうなってはもはや彼も、そして彼の弟や仲間たちもこのコンスタンティノープルに留まることはできない。お尋ね者となった一行は、帝都を脱出し、東へ、小アジアの内陸部へと旅を続けていくことになります。
       
 このシリーズ、全4巻。2巻目以降はそんなアレクシオスたちと新たに仲間に加わったホラズム太守の息子ジャラルッディンとの冒険が語られます。仇討ちにやってきた貴族の息子を返り討ちにしたり、女だけの謎の山城に迷い込んだり、山賊退治をやったりと、けっこう珍道中をみせてくれますが・・・
 アレクシオスはしかし、親友を喪ったショックから、かってもっていた覇気や野望をなくしています。それは長くもない彼の人生の中で、ついに癒されることがなかったようです。アレクシオスは死に場所を探していたとも言えるかも知れない。 
  やがて「草原の覇者」ティムールの支配地域に入り込んだ彼らは、そのティムールを呪殺しようとする妖術師の一派との戦いに巻き込まれるのです。その闘いの中で、アレクシオスは、老いたティムールの後継者の一人と目されている四男のシャー・ルフとの知遇をえることになります。
 そのシャー・ルフに名君となりうる資質を認めたアレクシオス。彼は、より良き時代を招来しようとするシャー・ルフのその理想を実現するため尽力しようとする。
 親友を喪ったことで未来を見失っていたアレクシオス。若き覇王シャー・ルフとの出逢いは、そんな彼を再生してくれたのかもしれないのですが・・・。

 未読の方のために、あえて結末は明示しますまい。ただこれだけは云っておきたいと思うのです。 「ビザンツの鷲は東へと飛び去っていった。そしてコンスタンティノープルの都は、ふたたび鷲の姿を見ることはなかった」と。

 ないものねだりでしょうが、しかし、僕はアレクシオスたちにもっと東方への旅を続けてもらいたかった。
ユーラシア大陸を横断して、中国そしてできたら日本へと・・・!
                                                 
 明の永楽帝は宦官・鄭和につごう7回におよぶ大航海を命じます。そのうち第4回目の航海は、シャー・ルフの中国との交流を求めた要請に応じたものといわれている。どうやらチムール帝国の事実上の後継者となったシャー・ルフは、中国との関係修復に意をくばったようなのですね。或いは、アレクシオスが健在だったならば、シャー・ルフは信頼する彼を、友好使節として明へ派遣したのではなかったか。
 それが実現するならば、ビザンツの鷲が鄭和とともに中国の大地にたつ、というシーンがみられたことになり、そこからまた新たな物語がスタートしたのかも知れないけども・・・。(1995,12/30 記)


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