「大災厄」後の世界での人類と「吸血鬼」、そして謎の「騎士団」との死闘を描く
ノイエ・バロックオペラ!!
吉田直著「トリニティ・ブラッド」・シリーズ
生き残った人類は「汎人類機関ヴァチカン」の指導の元、かってのヨーロッパ世界を再建している。復活が確認されて いるのはヨーロッパ、そして北アフリカの一部のみ。アメリカ南米大陸、ユーラシア大陸、アジア世界そしてわが日本・・・ はどうなっているのか。それは今のところ、不明。 ともかく人類社会は復興への歩みを開始している。 が、その前途に立ちはだかる様々な試練。再生なった人類国家間の軋轢にくわえ、闇の世界に跳梁する「吸血鬼」と彼 らを統括する謎の「真人類帝国」。 さらに第三勢力とも称すべき、人類と吸血鬼共通の敵である「薔薇十字騎士団」・・・! 世界を破滅させようとたくらむこの結社は、物語にとって次第に大きな存在となりつつある。どうやら彼ら「騎士団」は人 類、吸血鬼双方の社会に強力に根付いているらしい。 アベル・ナイトロード神父。 一見頼りない外見の、天然ボケ青年神父。 が、その実態は「ヴァチカン国務聖省特務分室」(通称、AX)の特殊工作員である。 彼とその同僚たちの吸血鬼たち、もしくは「世界の敵」との死闘が物語のメインとなる。 以下、刊行されているシリーズ一覧。 <長編>「トリニティ・ブラッド 嘆きの星」 「熱砂の天使」 「夜の女皇」 「聖女の烙印」 「薔薇の玉座」 「茨の王冠」 <短編集> 「フロム・ジ・エンパイア」 「サイレント・ノイズ」 「ノウ・フェイス」 「ジャッジメント・ディ」 「バード・ケージ」 「アポカリプス・ナウ」 これらの作品の他、2004年7月、作者の突然の死去をうけ、未完のシリーズを補完する意味で刊行された「神学大 全」がある。 「嘆きの星」「熱砂の天使」「夜の女皇」など長編部門は物語の正伝的な性格をもち、後者の短編集は、外伝の様相を 呈しており、本伝より数年前のお話のようだ。むろん独立した物語なので、それぞれに楽しめるのだが、相互補完的な 二つのシリーズ。併せて読むことで、おもしろさも倍増することうけあいである。 たとえば、「嘆きの星」には名前のみしか出てこなかった「真人類帝国」の女帝だが、「フロム・ジ・エンパイヤ」にはそ の意外な素顔が描かれている。 それにアベル・ナイトロード神父の謎の一端も・・・。 アベル自身は「吸血鬼を喰う吸血鬼」と自称しているのだが、それでは何の説明にもなっていない。「真人類帝国」の女 帝の言葉からすると、互いに知己の間柄らしい。 「嘆きの星」 シリーズ全体の起点とも云うべき作品といえる。「堕天使」と「聖女」との出逢い篇。この二者の邂逅により、運命は新た な胎動を開始したといえる。世界の破滅か、それとも新世界の誕生か? 「熱砂の天使」 シリーズ全体を通じての重要なキー・ワードが提示されている。「テラン」「メトセラ」なる語源が明らかとなったこと、が ソレである。アベルの昔の知人らしい女性が遺したメッセージの中にあった。物語世界では一般的に、それぞれ「短生 種」「長生種」として使ってはいるが、原語としてはまったく別の使い方がなされていた。すなわち、テランを「残留者」な いし「地球人」と、そしてメトセラを「帰還者」として、である。ここにこの物語の全体像をひもとくキーワードがある、そう思 われる。 「夜の女皇」 「帝国」から派遣されてきた使節に応える形で、アベルとエステルの二人がはじめて「真人類帝国」へとはいり、その 実体が明らかになった。女帝ヴラディカの治世の下、長生種と短生種との共存が可能となった国家。その事実を目の 当たりにしたエステルは大きな影響をうけ彼女の数奇に満ちた後半生のスタートとなる。そして、その姿をあらわした女 帝ヴラディカ。アベル・ナイトロードとの間柄も判明する! 「聖女の烙印」 「帝国」から帰還したアベルとエステル。カテリーナの指示により、イシュトヴァーンへと立ち寄ることになる。その地でエ ステルは、彼女の運命を決定づける「終生の友」と出逢うことになる。「熱砂の天使」篇に続いて、ブラザー・ペテロとの 共同戦線結成。物語が加速していく中で、ペテロの動向は焦点のひとつとなりうるハズだったのだが・・・。 「薔薇の玉座」「茨の王冠」 シリーズ初の2巻本。父親の故郷のアルビオン王国を訪れたエステル。カテリーナの命により同地に派遣されたアベル と教授らAXのメンバー。アルビオン女王の危篤、死去で揺れ動く彼の国で、長年「ゲットー」にひそんできたメトセラたち の運命をもかけて、ついに姿をあらわした「我が君」と復活したケンプファーとの激闘がはじまる。そして、エステルの運 命も大きく変容を遂げていく! 「フロム・ジ・エンパイア」以下の短編集では、アベル、カテリーナ達の最大の敵となりつつある「騎士団」との争闘はもち ろんだが、どうじに「騎士団」内部でもいろいろ派閥抗争があるらしく、その顛末が描かれている。ケンプファーと、「氷 の魔女」一派との抗争は激烈なものとなり、AXもからんで「アポカリプス・ナウ」でその決着がつくハズであった。 が、作者の死により、それも未完のままとなる。 同時に、完結すれば未曾有の大スケールのハルマゲドン・ストーリーとなるハズだったこの物語も、ついに世に出ること もなくなったのである。「神学大全」によりそのディテールがおよそ判るだけに、なおさら残念である。 |