トリニティ・ブラッド
 Rage Against the Moons
「フロム・ジ・エンパイア」



「トリニティ・ブラッド」(以下、トリブラと略)シリーズ初の短編集。

フライトナイト
ウイッチ・ハント
フロム・ジ・エンパイア
ソードダンサー

の、四編を収録。

<フライトナイト>
 吸血鬼へと「転向」した元・司教を逮捕してアルビオン王国(イギリス)からローマへと帰還中のアベル・ナイトロード神
父が、乗り合せた飛行船にて遭遇したハイジャックの顛末を描いた一篇。
ハイジャック犯の吸血鬼、アルフレート。かのハンガリア侯ジュラさんなどに比べると、はるかに下品。中指突き上げた
ポーズなど、とうてい映像化はできそうにない。
ただこんなヤンキーな兄ちゃん風の吸血鬼もタマにはいいとは思う。アベルの変身後の正体を実見しても、恐怖以外感
じなかったアルフレート。「クルースニク」の機密は、少なくともジュラ以上でないと知らないということだろうか?
 後、「神学大全」によって明らかとなった事実に、本作品の舞台となった飛行客船「トリスタン」の設計者、キャサリン・
ラングはかってロンディニウム王立学院で学んだ英才であり、その同期生としてゼペット・ガリバルディ(トレス・イクスの
開発者)、ワーズワース、アイザック・バトラー(ケンプファー)らが在籍したというものがある。

<ウイッチ・ハント>
ハイジャック事件の背後に「薔薇十字騎士団」の暗躍を看取したカテリーナ。
アルフレートの所属していた「悪の華」なる秘密結社の調査のため、フランク王国の一都市へアベルを派遣するが、す
でに全滅した後だった。そして一人生き残っていた人間の少女。
その少女の処遇をめぐって対立するトレス・イクスとアベルの決着は・・・?
「俺は人ではない、機械だ」が、口癖のガンスリンガー、トレス。たしかに機械化歩兵らしく無駄のない冷徹さで任務をこ
なしていく彼だが、さりげなくみせる「温情」がじつに格好いい!
少女を抹殺するといいながら「弾丸切れだ。駆除作業は断念せざるをえん」と引き上げる彼。その直後、襲いかかって
きた女吸血鬼に瞬時に弾倉を交換、射殺してのける。ガンスリンガーのファンが急増したであろう一篇であった。
なお、少女のサイキック能力により、アベルが見せられた「幻影」だが、これはかってアベルが体験した事実と思われ
る。「熱砂の女王」でアベルの前に出現したホログラム映像との関係は?

<フロム・ジ・エンパイア>
 第三勢力たる「世界の敵」の暗躍に対処するため、「真人類帝国」と対話をもとうと尽力するカテリーナ。「帝国」から
逃亡した吸血鬼を追って、監察官アスタローシェ・アスランが派遣されてくる。カテリーナはこの逮捕劇に協力すること
で、「帝国」との間にパイプをもとうともくろみ、アベルを支援要員として送り込むのだが・・・。「帝国」からきた吸血美女、
アスト子爵とアベルの掛け合い漫才が笑える一篇。この二人、再会することがあるのだろうか?
(注)(2002年7月刊行された「夜の女皇」にて、それは果たされた)
もう一つの見所、それはガンスリンガー、トレス・イクスと「薔薇十字騎士団」の幹部、「機械仕掛けの魔道士」ケンプファ
ーの直接対決だろう。勝負の結果は痛み分け、というところか。死闘の結果、トレスは両腕を切り落とされるという重大
な損傷をこうむったのだが、カテリーナの命は守り通したわけだし・・・。
にしても、このケンプファー、トレスとは別の意味で格好いい存在である。文学の素養もあるみたいだし、なによりスマー
トのところがいい。同僚の「人形使い」よりよほど好感が持てる。って、それだけに不気味ということも言えるのだが。
トレスとの再戦を楽しみにしたい。

<ソードダンサー>
本編にて新たな「派遣執行官」がその貌を見せている。コード・ネーム、ソードダンサーことユーグ・ヴァトーと、「教授」ウ
ィリアム・W・ワーズワースである。
それといま一人、これは名前のみだが、「ダンディライオン」が挙げられている。少数精鋭というか、癖のある彼らが、吸
血鬼たちと、そして「世界の敵」を相手にして、いかなる戦いを展開していくのか。
続編に期待したい。なお、ユーグ登場の本編のみ、「外伝」との扱いとなっている。このユーグが他の派遣執行官らと合
流することになった時、どうような物語が展開するのだろうか?

戻る
戻る