<第1書架>

読んだ本を思いつくまま
並べてみました・・・!

「クロスファイア上・下」(宮部みゆき カッパノベルス)
日本のゼナ・ヘンダースン、宮部みゆきが描くサイキック・サスペンス・ストーリーともいうべき一篇。
 筆者には「鳩笛草」という中編集がある。三者三様、三人の女性超能力者を描いたオムニバス集である。
 本書はそのうちの一人、念力発火の力をもつ青木淳子のその後を描いた作品である。

 未読の方のためにも結末はかかない。ただ、青木淳子にとってはあまり幸せな終わり方ではなかったようだ。たとえ、周囲の生き残った人々になにかしら遺したものはあったにしても・・・。

 作中、超能力者を組織して、法律で裁けぬ悪を制裁する組織が登場する。まさに青木淳子がやっていたことの拡大バージョンなのだが、こうした組織をどうみるか、感情移入の度合いによって物語の様相もかなり異なってくる。
 警視庁の女性刑事で、物語の今一人のヒロイン、石津ちか子はそうした超越的な組織には反対の意志を表明する。たとえ効果的であろうと強引に人を排除していくやり方でなく、遠回りになるけど犠牲者をださずに目的地をめざす、そんな方法を模索したい、と。
 社会の病理を治療するのに、劇薬をもってするか、それともビタミン剤をつかうのか。それこそいろんな考えがあることだろう。僕としては、石津ちか子女史に与したいのだが。さて、じっさいはどんなものだろう?
「SF&ファンタジー・ガイド」(神月摩由璃 教養文庫)
<摩由璃の本棚>とのサブタイトルがついていることから判るように、僕のサイト名の由来となった作品。月刊ゲーム本「ウォーロック」誌に3年にわたって連載されたブックレビューをまとめたモノ。
毎月一冊ずつ、紹介されているが(途中、本棚の総ざらえといった月があり、いろんな本が大紹介というスペシャル版がある!)、それだけでなく筆者がそれらの作品より何をうけとりどう感じたか?自在な麗筆でつづられており、楽しい読書案内となっている。
「指輪物語」「ナルニア国物語」「ゲド戦記」といったファンタジーから「夏への扉」「神狩り」「封神演義」など古今東西の作品までその守備範囲はじつに広い。
その中に、田中芳樹さん「創竜伝」の一項があったので興味をもって読んでみる。
かの作品のルーツともいわれる冬木涼平シリーズ、筆者も再生を望んでおられるようである。
(「創竜伝」があそこまでいってしまったからなぁ!冬木涼平の再登場はムリかも?)

 古書店なんかで見かけたら、即ゲットをお薦めするガイドブックである。1989年刊行。
「妖魔夜行 戦慄のミレニアム」(山本弘 角川スニーカー文庫)
 妖魔夜行シリーズ最終巻。上・下二巻本。
登場時、可憐な少女だった守崎摩耶も最終巻では成熟した美女へと変身した!
本シリーズは彼女のビルディングス・ロマンとしても読めるかもしれない。

 これまで数々の邪妖怪、難敵と戦ってきた摩耶と井神かなた(仔狸)ら「うさぎの穴」の妖怪たち。
その彼らにして、今までにない大スケールの「敵」がその姿をあらわす!
全世界規模で激発する超常現象、人間消失、天変地異、そして怪異な暗殺事件の数々。
紀元前、妖怪たちの先祖により一旦は消滅させられたハズの「神」と天使たち。
その彼らが20世紀をむかえて、復活してきたのだ。そして、人類殺戮を開始する。妖怪たちにとって、人類全滅はそのまま自らの存在が抹消されることを意味した。なぜなら人の想いがあつまることにより、妖怪は誕生したのだから。
全世界の妖怪たちは、己の生存を賭けて人類を守るために結集する。
かくして、絶対唯一神と妖怪たちとの決戦がはじまる。はたして、妖怪は世界を守りきれるのか?そして人類は生存できるのか?
 神との戦い。
ヒロインの摩耶にとってもコレは大きな試練であった。戦う相手が神と天使という事実の中で彼女は信仰を失い、仲間たちとともに戦う中でその信仰を復活させる。神は外にあるのではなく、人の中にこそ存在する。最終シーン、摩耶はそう確信するのだが、これは「神は沈黙せず」で和久優歌が得た「信仰」そのものなのかもしれない。

作中、摩耶が教えを乞うたバレンタイン牧師の話。一読の価値あり。(下巻、「それは、からし種に似ている」の章参照)
「神は沈黙せず」(山本弘 角川書店)
近未来小説。
幼少時に自然災害で両親をなくし、兄とふたり生き残った和久優歌がヒロイン。
クリスチャンでありながら、両親の理不尽な死により、無条件に神を肯定することができない。
フリーライターとなった彼女は取材中にとある超常現象に遭遇し、人間以上の存在を予感する。もし神が実在するなら、なぜ悲惨な事件がおこるのか?疑問を抱く中、「聖書」中の「ヨブ記」の主人公、義人ヨブの生きざまを知り、惹かれる。ヨブの一件は伏線となり、物語の最終章でその途方もない真実が語られることになる。
優歌の兄、人工知能研究者となった和久良輔はその研究のさなか、ショッキングな仮説にたどりついていく。
「この世界は現実ではない、我々は神のシミュレーションの産物なのだ」と!

この作品には、以下のすべてがある。
UFO、超能力、サイバー・ウォー、宗教、臨死体験、神のシミュレーション、フェッセンデンの宇宙、サールの悪魔、ハイ・ストレンジネス、神の顔、カサンドラの呪い・・・。
これらが過不足なく解明され、物語世界を構築しているのはみごとというしかない。
読了後、あるいはコレが真実じゃないか?そう内心思ったほどである。

トンデモ本研究家、そして奇現象コレクターとしての集大成のひとつ!
ぼく個人でいえば、作家・山本弘の最高傑作だと確信している。
「君の名残を」(浅倉卓弥 宝島社)
 タイムスリップものというべきか。
現代日本より三人の若者が800年の過去世界へと転送される。
女子高生で剣道部員の白石友恵。そのクラスメートで、おなじく剣道部員であり道場の跡取りでもある原口武蔵。そして友恵の親友、由紀の弟の志郎。
いかなる運命の悪戯なのか、源平の時代に投げだされた彼ら三人は、それぞれ時代のキー・パーソンともいうべき存在へとなっていく。
 友恵は巴御前として源義仲の覇業をたすけ、武蔵は源義経の傍らにあり武蔵坊弁慶としてその勇名を轟かせていく。志郎は北条義時として鎌倉幕府の基礎を築き上げていくこととなる。
こういうタイムトラベルテーマの場合、過去に転送された現代人は、自分の歴史知識を駆使して生き抜こうと動くモノであるが、今回のケース、主人公たちは歴史上の人物そのものとなってしまった。したがって、三人とも(志郎の場合はやや事情がちがう)自分の運命の行きつき先を知ってしまっているワケで、ある意味残酷な話である。
友恵も、そして武蔵もやがてむかえる己の運命を変えようと苦闘するのだが、その結果は・・・?

現代から消え失せた三人の消息は、むろん遺された家族たちの知るところではない。
が、友恵が過去の世界で地中に埋めた函に託した文により、その一端が親友の由紀の手に届くことになる。

余韻をのこしたエピローグ。


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