ハリマオの設立話 第11話
【ハリマオの初勝利】
岐惑の葛西さんからは、またやろうと電話をもらっていた。自分としても再戦を望んでいた。出来ることなら今度は、こちらでグランドを用意して招待したいと考えていた。芝のグランドとなると瑞穂か光明寺になるが、瑞穂は遠いからいやだと言う。贅沢はおじさんたちである。そうなると光明寺しかない。協会に多少顔が利く大原や一宮LPと関係のある木野に光明寺を何とかできないかお願いしていた。
彼らの努力の効あって、平成9年5月5日、光明寺のサブグランドで岐惑と再戦をした。みんなの意気込みはすごかったが負けた。前回よりはるかに内容は良かったが、やはり負けてしまった。我々の意気込みが空回りしていて、彼らの老かいさにかわされた感じだった。みんなには、「ハリマオの実力からすればこんなもんだよな」と言っていたが、本当は勝ちたいと思っていた。なぜか岐惑にはファイトが沸いていた。どうせ勝つならこのチームからだと思っていた。
ハリマオは岐惑に気にいられたようで、定期的に試合を組んでくれるようになった。力の差を埋めるために練習をした。練習は常に岐惑戦を想定していた。力の差を少しでも埋めるために作戦も考え、試した。そして負けて帰ってはまた考えた。通勤途中は勿論のこと、時には仕事中も考えていた。当時、堀江ちゃんとはいっしょの職場だったので検討会をふたりで開いた。検討会で話し合ったことは練習にも取り入れた。奇襲作戦のアイデアを出しては、堀江ちゃんにボツにされた。
何回か試合を重ねるうち、力の差が埋っていると感じるようにはなっていた。メンバーからも『最初のころはとても勝てないと思っていたけど、ひょっとしたら勝てるかもと思うようになりました』という声が聞かれるようになった。いい感じになってきた。もう一息だった。
また、堀江ちゃんと検討会を開いていた。ハリマオの力の全てを岐惑にぶつけたかった。勝ちにこだわっていたのには、別の理由もあった。ハリマオは年功序列のチーム構成できていた。「年寄り先発、全員参加」を基本にしていた。ポジションも年寄りから当て嵌めていたが、「強さ」を求めるなら違った布陣も考えられた。いつまでもそうしている訳にもいかない。若い連中が可哀想である。いずれは変えなければと考えていた。そのためにも早く今のままで一勝したかった。
廣瀬さんや小島や佐々木や加藤先生が、先発しているチームで勝ちたかった。勝つだけならエンジャにゃ〜ズから大勢応援を入れれば済む話であったがこだわりがあった。
「なんとか勝てないかな?」
『まだ、勝てないですよ』
「なんでよ。もう少しじゃん」
『だって、あの人たちうまいですもん』
「俺たちだってうまくなってるじゃん。練習がんばってるじゃん」
『ええ、じょじょに差はなくなっていますよ。最近の岐惑戦は善戦してますよ』
「善戦しているだけじゃダメなんだ」
そして、平成11年9月26日を迎えた。5回目の岐惑戦である。しかし、この試合に関して、僕には語る資格がない。参加していない。
9月20日から22日まで新潟で行われた血液事業学会に行った。出発する前から風邪をひいていた。学会中おとなしくしていればいいのに飲んだ。
学会会場で製剤部長から声を掛けられた。
『林、今晩、めし行くぞ』
「はい、かしこまりました」
『誰か誘っておけ』
「はい、製剤課の女の子でいいですか?」
『まかせた』
製剤課の女の子4人を引き連れ居酒屋へ行った。
「部長、〔越しの寒梅〕がありますよ」
『おお、頼め』
サラリーマンの悲しい嵯峨、場を盛り上げるため飲んで騒いだ。ふだん日本酒は飲まないのに、この時とばかりに越しの寒梅をたらふく飲んだ。どうせ部長のおごりだし。
部長はご機嫌で帰ったが、完全に声はつぶれ風邪はこじらせた。
ホテルにたどり着いて逝った。
みんなにはメールでその旨を伝え、熱が下がるのを願った。
当日の朝、残念ながら熱は下がっていなかった。桂ちゃんに電話した。
「やっぱ、ダメだ」声も出ていなかった。
『ひどそうね』
「とにかくTICOTまで送るわ」
『ううん、私なら自分で行くから寝てて』
「ううん、TICOTまで行く」
ゲームに出られないにしろみんなを送り出したかった。自分なりの『けじめ』のつもりだった。
みんなを送り、家にもどり意識不明になった。
『周ちゃん、勝っちまったぞ』 夕方、加藤先生からとぼけた声で電話が入った。
これは熱のせいの夢に違いないと思った。しかし受話器は握っていった。夢にしては念が入っている。加藤先生の後ろで『林、勝ったぞ。寝てる場合じゃね〜ぞ。ガヤガヤガヤ…』とも聞こえてきた。受話器の向こうの興奮が伝わって来る。これは夢ではなさそうだ。
『夢』が叶った瞬間だった。
自分は出られなかったが、悔しいと思うよりうれしさが込み上げてきた。
「やったね。みんなおめでとう!!」 飛び跳ねたいところだったが、その元気はなかった。
即刻、みんなからメールももらった。
『勝った、勝った、勝った、勝った、勝った』
『林さん、岐惑に勝ちました』
『周ちゃん、ついにやったよ!初勝利!』
みんなの弾んだ気持ちが伝わってきた。疲れているのに、早く試合内容を知らせようとキーボードをたたいてくれたのだろう。みんなの気持ちがうれしかった。
みんなから『ハリマオの初勝利』と『仲間を思うやさしさ』をプレゼントしてもらった。
夜中起きだし、ひとり儀式を行った。
ジャージを取りだし、ハリマオのエンブレムを握り、告げた。
(あの日の約束は果たしました。ハリマオを誉めて下さい。ハリマオは素敵なチームです。)