ハリマオの設立話 第9話

【岐阜惑々クラブ】

 庄内川河川敷をホームーグランドにしてからは、順調に練習を行っていた。

 

 合宿の時、小島とハリマオの方向性を話し合った。彼は、『今後、このチームを存続して行くためには名西出身にこだわらないで、年齢にこだわったチームで行くべき』と考えていた。

自分としては、そのころはまだ『名西』にこだわっていた。自分の当初目標が『名西グランドの再現』だったからである。ただ、現在練習に参加していない同期の者には、もうプレーは勧められないと考えていた。40才過ぎて、いきなりラグビーでは骨折や怪我をする危険性が高い。それでなくても参加しているメンバーは、その時までにもう9人13本の骨が折れていた。斯く言う自分の体も無傷というわけではなかった。鎖骨は高校時代に折れているし、両足首・左手首は筋が切れて回すと音がし、右肩はずれている。自分の体は死ぬまで五体満足でいたいとも思わないが、仲間の骨折には、一本一本責任を感じていた。「自分がこんなことを言い出さなければ…こんなことに誘わなければ…」と悩んだり、気の重い時期もあったが、その都度みんなから励まされた。『別に、おまえのためにラグビーやってる訳じゃないから。みんな自分たちが好きでやっているんだからな。おまえに感謝こそすれ、恨むことはないよ』 

 うれしかったが、そう言われれば言われるほど、もう怪我をさせたくなかった。

 このころから練習の連絡は、いつも河川敷に集まってくるメンバーに絞った。

 

 平成8年4月21日、大原が見つけてきた「レッドウォーリヤーズ」という、よく知らないチームと光明寺の芝のグランドで試合をした。メンバーの中には試合は、怪我が怖いので河川敷の練習だけでいいと言う者もいた。そんな状態だったので結果はシャッタウトで負けたが怪我がなかっただけで、気分は爽快だった。試合後、グランド脇に座りこみ、プレーの話しで盛り上がっていた。そしたらノシノシと大柄なおじさんが近づいてきて言った。

『責任者の方いますか?』

だれも返事をしない。我がチームに責任者なぞいない。しいて言えば全員が責任者である。

『岐阜惑々クラグ(岐惑)と言いますが試合をお願いできませんか?』

葛西 満(葛西さん)の登場である。年のわりには大柄でおまけに声もでかい。しかし、笑うとかわいい。彼は岐惑の主務を担当しているとのこと。岐惑は文字通り40才以上のメンバーが中心で、主に試合をしており練習はあまりしないチームだという。試合は芝のグランドしかしないとのこと。かっこいいではないか。そのチームからの試合の申し込みである。もちろんグランドは用意するとのこと。我々には願ってもない話しであり、よだれがたれそうであった。すぐにでも「お願いします」と言い出しそうだったが、一応、「どうして負けた我々に声を掛けるんですか? レッドウォーリヤーズさんの方がいいんじゃないですか?」と言ってみた。

『いや〜 おたくらの方が紳士的だったから。ラフプレーは困るんだ。内は年寄りが多いから怪我がこわいのでね』

「まったく、葛西さん言い方うまいんだから。本当は勝ちたいんでしょう」 

目上の方なのに、彼の笑顔に誘われてなれなれしく話していた。

『秋にグランドが取れたら、良かったらどうかね?』

「是非お願いします」

『分かった、ところでおたくのチーム名は?』

「名西ハリマオと申します。よろしくお願いします」

 

 半信半疑でいたら、秋に試合の申し込みの電話がかかってきた。もちろん即答で「KO」した。グランドは大垣でいささか遠かったが芝のグランドとのことだった。

 連絡をもらった後の練習は、試合を想定した練習に変わりサインプレーなども考えるようになり大いに励みになった。

 

【第1回岐阜惑々クラブ戦】

日 程:平成8年12月8日(日)

場 所:(大垣)浅中公園グランド

Kick Off:14:00

〔プレーヤー〕

PR:澤田康則・植竹康人・大原雅彦

HO:山本隆志

LO:林周治・太田肇

FL:堀江昭伸・大橋英隆

NO8:廣瀬恵紀

SH:小島徳康

SO:堀井貞克

CTB:久松市吾・植竹芳裕・中島靖浩

WTB:川口久之・加藤武志・道家浩之

FB:佐々木英典

〔マネージャー〕

中嶋桂子

 

 この日の出来事はその後のハリマオの『道しるべ』になった日でもあった。

「いいグランドじゃん」 浅中公園グランドは名前のわりには立派であり、更衣室も整備されたタータントラックのグランドで芝も良かった。

 まずは、葛西さんに挨拶に行く。すると『内は60才以上(赤パン)がふたり入るからタックルはほどほどに』とのこと。

「え〜 60才以上の方が出られるんですか?」

『お〜 出るってきかないからよ〜 ま〜並のじいさんとは違うけどな』

『5分か10分ぐらいで替わるけどな。 50才以上(青パン)はいいからどんどんタックル行ってくれ』

「は〜い、分かりました…」

分かりましたとは言ったが、そんなじいさんたちと試合をしていいのか?と思いながら、チームに戻り、葛西さんから聞いたことをそのまま伝えた。

みんなも驚く。

『え〜 怪我させたらどうするの?』

「分からない」

『骨が折れたら一生つながらないんじゃない?』

「分からない。とにかく赤パンにロータックルは入るな。ラフプレーはするな」と話す。

 

 キックオフの笛が鳴る。この時はいつもドキドキする。舞い上がったボールを見ながら怪我をしないこと、怪我をさせないことを祈る。そんなことを考えているからボールを落とすのだが。

 

 最初のアタリで分かった。この人たちは、並のおじさんではない。

 最初のラックで分かった。この人たちは違う。

 最初のライン攻撃で分かった。この人たちはうまい。

 

 相手のことを心配している場合ではなかった。葛西さんにしてやられた。ハリマオは受身一方だった。決して彼らが走り回っている訳ではない。ハリマオの方が走っていて、ポイントにはハリマオの方が集まっている。しかしそのポイントを小人数の岐惑にコントロールされ、オープンに回されトライを奪われる。体の入れ方がうまい。球際の処理がうまい。全員がラグビーをよく知っている。若い時は相当やっていたと思われた。

 同じパターンでやられるがハリマオには修正する力はなかった。トライを5本くらい取られてしまった。

 どうしてこんなおじさんたちにやられるのだろう?悔しくて、一生懸命走った。ハリマオの反撃もあった。ハーフェーライン付近のスクラムから出たボールにポイントを作り、こぼれたボールを久松市吾(久松)が相手にあたりながら、絶妙のタイミングで堀井ちゃんにパス。堀井ちゃんが約50ヤードを走り切りトライを奪った。ハリマオの記念すべきファースト・トライの瞬間であった。うれしかった。グランドで吠えていた記憶がある。

 50ヤードを走り切った堀井ちゃんもすごいが、倒れながらパスを出した久松がよかった。あのトライは久松の物だと思っている。記録には残らないが、ぼくたちの記憶から消えることはないだろう。

 ノーサイドの笛が鳴った時、みんな崩れ落ちていた。始めての光景であった。みんな力を出し尽くしていた。やっと立ちあがり挨拶をした。その後、エール交換の『スリーチェアーズ』をされた。またも、やられた。 かねがねやりたいと思っていた『スリーチェアーズ』だが、まだ練習していなかったので、葛西さんに挨拶に行った。

「ありがとうございました」

『いや〜 たのしかったな』

「はい、ぼくたちも」とは言ったが悔しかった。ハリマオをやりだして、始めて悔しいと思っていた。それまでに出会ったチームより数段すばらしいチームだったので、このチームに勝ちたいと思っていた。

『何も無いが、交流会を準備してあるんで来て下さい』とのことだ。またまたやられた。

アフターファンクションも準備されていた。

本国イギリスの試合方式そのものだった。

試合はホームアンドアウェー方式(ラグビー界ではワールドカップが始まるまでトーナメント方式はなかった)

試合後のエール交換

アフターファンクション(ノーサイドの精神、スピーチの仕方を覚える)

話しは知っていたがちゃんとやっている人たちがいるのだと感心した。イギリスのパブリックスクールでラグビーが珍重されている由縁である。ここがサッカーとは訳が違う。ラグビーに能書きが多いのも大好きである。これ以降のハリマオの試合は、出来る限りこの形にしている。

 

 アフターファンクションは、一杯のビールと試合中のプレーの話しをつまみに充分盛り上がった。さもずっと以前から友達であったように。これがラグビーをする本来の姿に思えた。相手のことも気遣う『ゆとりのあるラグビー』をしたかった。あんなにうまかった人たちも着替えたら、気さくなおじさんになっていた。

 話しを聞いたら、やはり彼らは物が違っていた。岐阜ラグビー協会の理事、日体大OB等そうそうたるメンバーだった。プレーのこと、チームの運営方法など教えを請うこともいっぱいあった。それよりも何よりも彼らの存在事態が励みになった。自分たちはまだ老け込む年ではないと思い知らされた。彼らの笑顔は青年そのままだった。終わりの挨拶替わりに、みんなで肩を組んで『怪傑ハリマオ』を歌った。とってもいい気持ちだった。

 

 帰り支度をしながら、ハリマオのエンブレムをにぎり、誓った。

(今日お世話になったお礼は、いずれ『ハリマオの勝利』でお返しします。)

 

 帰りの車の中、みんな口々に言っていた。『何かすごい人たちでしたね。お手本になるチームでしたね』 

 

 この日の夕日は、ふだんより赤く大きく見えた。

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