ハリマオの設立話 第3話

名古屋HILTON HOTEL1622号室

 飲んだ時の勢いはいいが、現実に戻るとそうはいかない。

練習場所が無い。ボールすら無い。スミタまで行くのはめんどうだ。連絡は誰がするのだ。チームを組むには15人いるが頭数がたりない。

また暗礁に乗り上げる。

 ただラグビー仲間と飲むのは、たのしいことはよく分かったので、人数確保もかねて当直の夜の作業は続けていた。ひとつ上の廣瀬さんの代、ひとつ下の金田隆男(キンタ)の代と自分が高校時代に一緒にプレーをした人々を探し続けていた。彼らともう一度ラグビーボールを追ってみたいと考えていた。

 更に1年の歳月を費やし、合計30名の仲間にたどり着いた。電話をかけ続ける中、2名の死亡も確認してしまった。

 絶句である。予想もしていなかった出来事に言葉がつまる。

 ご家族に、電話をかけさせていただいた主旨をお話しする。

『それはいい事ですね。生きていたら、よろこんで参加させていただいたと思いますが……残念です。がんばって下さい。応援しています』

誰もいない血液センターの事務室で茫然自失となっていた。

 一年上のキャプテンの廣瀬さんを見つけたのは大きい。特にリーダーシップを発揮するわけでもないが何となく頼りになる。『重し』になる

 興亜火災の浜松支店にいるらしいというあいまいな情報を頼りに会社に電話をした。

かわいい女性の声が、

『お待たせしました、興亜火災です』

「廣瀬さんをお願いしたいのですが」

『支社長の廣瀬でよろしかったでしょうか?』

「いいえ、違います。そんなえらい方でない別の廣瀬さんです」

『当社には廣瀬は他におりませんが・・』

もう転勤してしまったのかと思いつつ、

「失礼ですが、その方は名古屋出身の方でしょうか?」

『はい、確か名古屋だったと思います』

「それでは恐れ入りますけれど、その廣瀬さんをお願いします」

「あの〜、私、名古屋西校のラグビー部でお世話になった林と申しますけれど」

『オーーー』

「廣瀬さんですか?」

『そうだよ。』

「お分かりですか?」

『お〜、声で分かった』

ウソこけ〜。まったく調子がいいんだから。でも助かった。電話を入れた主旨を話す。

廣瀬さんは、乗り乗りだ。『直ぐみんな集めろ』

「了解しました」

 小島と打ち合わせに入る。日にちは各地からも来られるよう1月2日とし、みんなで大学選手権を見ようということになった。中々いい企画ではあるが、宴会場所が問題だ。正月そうそう開いている店がない。

小島が『あてがあるからそこに頼み込む』と言う。

「おまかせ」、連絡はぼくがすることになり、とりあえず集合場所は伏見の名宝会館前に平成6年1月2日12時集合で連絡を流す。

 楽しみにしていたら12月31日午後11時40分小島から電話が入った。こんな時間になんだろうと思ったら宴会場所が確保出来ないという。

 頭がパニックになる。もう全国からみんな名古屋に向っているはずだ。もう連絡もとれない。小島も、方々別の会場をあたってくれていたがムリとのこと。

ただ、HILTONが宴会場はダメだが宿泊は出来るということだった。

 とりあえず集合場所には近い。何人集まるか分からないので全員納まるか心配だがテレビもある。時間は無制限、最悪泊まることも出来る。考えようによれば返って好都合である。「良い、良い、そこにしよ」 さっそくHILTONに予約を入れる。

窓の外では除夜の鐘が鳴っている。まったくゾクゾクする年越しであった。

1月2日、小島と早めに待ち合わせて買い出しをした。ふたりとも空の大きなバッグを持参している。缶ビール2ケース、ウイスキー1本、つまみ少々を詰め込みHILTONにチェクイン。

ルームナンバー1622。小島が会場作りを担当し、自分はみんなを名宝会館前に迎えに行く。うさんくさそうなのが集まっている。20年ぶりのもいるがすぐ分かった。状況を話し2、3人づつ目立たないように部屋に入ってもらい、12時30分まで集合場所で待ち、部屋に戻ると会場は中々いい感じに出来あがっていた。何人集まったかはよく憶えていないが、たぶん13、4人いたと思う。話しは俄然盛り上がった。積もる話しがあふれ出ていた。廣瀬さんが三輪弘光(チューさん)を連れて来た。彼は廣瀬さんと同期の、バレーボール部キャプテンであり名工大でラクビーをやっていたそうだ。名西ラグビー部とは直接関係ないが大歓迎である。

 テレビでは大学選手権をやっているが、みんな話しに夢中である。だれも見ていない。

『これだけいるからチーム組めるじゃん』 『やろうぜ、やろうぜ』 予想された展開になってきたと思っていたら、もうポジション決めが始まっていた。

続いて、『チーム名はどうする?』
柘植が『ハリマオは?』(怪傑ハリマオの主題歌が、当時名西ラグビー部の部歌だった)

他にも出ていたが、また柘植が『インキーズは?』

「なに、それ?」

『インキン(股部白癬)が流行ってたじゃん』

(高校当時、私を除いた大勢の方が感染していた。)

「いいじゃん、いいじゃん。それにしよ」

結局、多数決で決めることになり、『ハリマオ』が勝ち、『名西』を頭につけ『名西ハリマオR.F.C.』になった。

(個人的には『インキーズ』に手を上げた。響きがかわゆいし、「俺はなってないけど・・」と言いたかった。)

話しが進むにつれ気がついたがチューさんが仕切りまくっている。

『キャプテンは廣瀬やれ』

『酒ね〜ぞ〜』

HILTON HOTEL1622は居酒屋と化していた。重たい思いをして運び込んだ酒類がなくなった。後輩をつかまえ

「酒とたばこ、買って来い」

『こんな正月にお店やってますか?』

「何言ってんだ〜、俺たちは買ってきたぞ。探せ〜」

「子供の使いじゃねんだから、店が閉まっていたらシャッターたたいて買って来い」

「酒は剣菱、たばこはセブンスター、その他大勢」

「ついでに鯛焼きふたつ」

酔った勢いとはいえ、体育会系丸出しでむちゃを言っていた。後輩たちもなんだかんだ言いながら買いに行く。『金馬簾』の時は同期だけだったのでなかったが、この場は縦社会が出来あがっていた。いい感じ、いい感じ。

ただ、肝心の手配師については決まっていなかった

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