ハリマオの設立話 第2話

【名西ラグビー部同期11人集う】

 高校を卒業してから13年の月日が流れていた。一口に『みんなを集める』と言っても大変なことと思われた。大変だと思えたから名乗りをあげなかった。

 ただただ庵原からの連絡を待っていたが、そのうち忘れていた。


30代前半のころは公私共に忙しく、人生の大きなイベントを一機にこなした感じだった。結婚、転職、引越し、マイホーム購入、ふたりの子供の出産。

  振り返って見ると、今まで団体スポーツしかやったことがない。いつも隣に仲間がいて楽しかったのだと気がついた。どうも個人スポーツは向かないみたいだ。個人スポーツはパチンコ以外やったことも無い。

 そんなことを考えながら自転車をこいでいたらころんだ。

 車道から歩道にあがりそこなって一回転した。小牧の愛知銀行の前の歩道にへたりこみ、ひじから流れ落ちる血を見ながらうずくまっていた。何をやってるんだ…

 …そして、決めた。

「ラグビーをやるぞ!!」

「ラグビー部のみんなに会いたかったのは自分ではないか!」

「人に頼らず自分で集めるぞ!」

自転車は前輪が曲がってしまい、ももと腕はすりむき、ひじからは血が流れ落ちていたが、心はすがすがしかった。

 めいっぱい意気込みはあったが、なにをどうすればいいか分からない。

まずはみんなの現在の居場所を探し、飲み会を企画して、飲み会が盛り上がったころあいを見計らって一緒に走ることを提案することにした。

 この気持ちにたどり着くまでに36才になっていた。

 住所を探すにも、年賀状のやり取りをしているわけでもない。頼れるのは、唯一卒業アルバムしかない。家では子供がまだ小さかったので落ち着いて電話が出来ない。幸い、当時血液センターでは月に二回当直があった。血液センターは24時間営業である。夜も病院から血液の依頼が入るので泊まり込んでいる。依頼が入れば緊急車でピーポーピーポー鳴らし血液を届けるのだ。忙しい日は一睡も出来ないが暇な日もある。この暇な日の当直相手がうるさくなさそうな人の日の、夜の8時から10時が連絡日となった。

 アルバムの住所に電話をする。親らしき人に事情を話す。本人の現住所を聞く。現住所に電話をする。かみさんらしい人に事情を話す。本人にたどり着く。

 みんな懐かしがってくれる。いずれ集合をかけることを伝える。だれかの消息を知らないか聞く。この一連の作業を繰り返していた。

 この作業を見ていたのが堀江昭伸(堀江ちゃん)である。

『林さん夜になると事務所に行って遅くまで何かやってますけど、仕事忙しいんですね。』

ドキッ、返答に困る。

 彼はああ見えても薬剤師さんである。血液センターでは技術部に属し、エリートであった。

そして現在では、青年実業家である。(堀江ちゃん、このぐらいでいいですか?)

それまであまり話す機会にも恵まれていなかった。

まあ、総務にチクルこともなさそうなので事情を話す。

しばし話を聞いていた彼が言った.

『いいですね。なにか夢がありますね』

「そうなの、これはぼくの夢なの」

『ぼくもラグビーやってましたよ』

「なに〜 そんな大事なこと早く言え〜」

彼の一言で態度が一変する。それ以後、一緒の日の10時以降は深夜まで話し込んだ。

話しを聞くと彼は見かけ通りムチャクチャな人間であった。よくここまで更生できたと感心させられた。

 ある日の夜など、ぼくはなにも知らないで打桐さん(堀江夫人)がとってもよいと口ばしってしまいました。あんな事こんな事そんな事を話してしまいました。

「付き合っているなら付き合っていると言え〜 言葉を選んで、話しの内容も変えたのに〜」

 丸1年かかり11人の同期の内10人にたどり着く。宮下はどうしても見つかりませんでした。

そして平成4年11月21日、栄「金馬簾」に名西ラグビー部同期11人集う。

 集合の連絡を入れた時、みんな『予定を見てみる』ではなく、即答で『行く』と言ってくれた。うれしかった。

 北は仙台、南は神戸から駆けつけてくれた。みんな当時の面影を残しながらもデブになっていた。ちなみに『おまえは変わっていない』とみんなに言われた。

そうです、ぼくは高2からデブをやっていて、そんじょそこらのデブとは年季が違います。


 話していると酒を飲んでいる高校生状態になった。みんなの記憶をつなぎ合わせると名西グランドがよみがえってくる。

宇佐美が試合中にケツが見えると審判に注意されたこと。

清水が試合中パキッという音とともに血だるまになっていたこと。

相手チームを振るえあがらせた川口の『ガマカツキック』。

スパイクをぼくが先に取ったので川口のキックが外れたという言い訳。

廣瀬さんが名工のNO8にタックルに行き、ふっ飛ばされたこと。

パック割れ割れのフォワード。

めくらの集まりのバックス。

タッチを切れない村田のパント。

長谷川商店のチェリオ。

部室から階段をのぞいたこと。

個人的にも色々思い出した。

ゴール前5mのパスを橋本さんが落としたこと。

鎖骨骨折しても痛くなかったこと。

病院へ行く車の中、養護の先生のスカートに折れた手が入っていたこと。

病院の看護婦さんに起こしてもらう時、右手オッパイ左手ブラジャーに触れドキドキしたこと。

思い出は尽きなかった。よく飲んで、よく笑った。

また夢が少しふくらんだ。

「彼らといっしょに一度でいいから現役と試合をしたい!!」

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