ハリマオの設立話 第4話

【14着のジャージ】

 居酒屋HILTONから3ヶ月後の在る日、突然チューさんから電話がかかってきた。『名西ハリマオ』はどうなっているかという問い合わせだった。どうにもなっていなかったし、僕に電話をしないでと思っていたが、チューさんは居酒屋HILTONの時と同じテンションだった。

「誰が流すんですか?」

『おまえやれ』

まったく強引である。でも彼みたいな人がいないと前には進まないとも思えた。

 しかし本当にこの年でラグビーなんかやりだしてのいいのだろうか?出来るのか?と思ってもいた。

 まだ会社の同好会ならいざ知らず、まったくのプライベートチームである。血液センターの同僚、親、友達、みんな『やめとけ。いい年からげて骨でも折ったらどうするの?』と言われた。

 あまりに、もっともで反論出来ない。自分はさて置いても、みんなは会社でそこそこ責任のある立場になってきている。名刺の肩書きにも係長、課長と書いてあった。民間企業で1ヶ月も入院したら席は無くなっているかもしれない。自営業は仕事が無くなるかもしれない。人生を狂わすかもしれないことにみんなを引きずり込んでもいいのだろうか?そんな権利はだれにもないだろう。みんな本当にやるのだろうか?色々考えると結論は「NO」である。迷っていた。

かみさんに話した。

『やれば〜 やりたいんでしょ?』

そうなんだ。ぼくはやりたいんだ。

「でも、怪我するかもしれないよ」

『周ちゃん、わたしがやりたいって言ったら止める?』

止めないだろう。やめて悔いを残して欲しくないからだ。たった一度の人生でわないか。

この時、自分なりの方針と足かせを決めた。
自分はやりたいからやる。

怪我をして入院をしたらやめる。

みんなに連絡はするが強要はしない。

ハリマオであることとプレーをすることは別である。

プレーをするたのしさを伝える。

 平成6年5月15日10時、消防学校のグランド(守山区)に集まった。実質的に名西ハリマオが動き出した。集まったのは7、8人だったと思う。高校時代といっしょにランパスから始まった。
 走れない。速い遅い以前の問題で、走り方を忘れている。考えてみればもう10年以上全力疾走をしたことがない。走っているだけで足がもつれる。転ぶ。みんなそうだ。パスはポロポロ落とす。蹴っても飛ばない。

 重傷である。息もあがる。5分やって10分休憩する。ラグビーなんてとんでもない。自分の置かれている現事に直面する。ただ、練習の後のビールはうまい。長谷川商店のチェリオの味がした。

 月1回のペースでやっていたが毎回参加者が減ってきた。このままでは尻すぼみになっていくのは目に見えていた。なにか対策が必要だった。

小島と話し合い、みんなをつなぎ止めるために目に見えるたのしみとして、ジャージを作ることにした。ジャージを買えば来てくれるのではないかという思いであった。「ハリマオは形から入る」と今でも言っているが、この時考えた苦肉の策だ。

 柄は、カタログに載っていた『オールブラックス創立100年祭』のために組まれた世界選抜のティム・フォランの写真を見て決めた。いささか派手であったが自分には似合う(?)と思えた。

早速注文取りをしたが希望者は14人しかいなかったが仕方が無い。スミタに出かけた。

「14着お願いします」

スミタのおばあちゃんが

『え、14でいいの? 15じゃなくていいの?』

「はい、14着です。」

『ま〜、変わってるね』

「はい、変わってるんです」

 廣瀬さんから電話が入った。詳しくは分からないが、チューさんが倒れて救急車で病院に運ばれ、オペをしたとの連絡だった。日曜日、小島と掖済会病院へお見舞いに行った。奥様の話しでは週末にラクビーの練習があるからということで夜走っていて、頭が痛くなり病院に運ばれたとのことだった。病名は「くも膜下出血」で、出血をクリッピングしてバイパスを通したとのこと。大変なことになっていた。下手をすれば命にも関わることだ。

 ご家族に顔が合わせられない。気が重くなる。ドーしよう。ハリマオも終わりだ。

 ご本人は思ったより元気だった。暗い顔をしている小島と僕に気を使ってくれる。

『ちょっとラクビーはお休みだな』

ますます気が重くなる。絶えられない。

お見舞いに持っていったハリマオのジャージを出そうか迷っていたが、ああ言ってくれるのだからと思い、お見せする。『いいな』と言ってもらえた。ジャージをプレゼントする。

病室を出てきたら、涙が出てきた。

(なぜ〜)

(どうしてこうなるんだ)

(彼がなにか悪いことをしたのか〜)

帰りの車の中、小島もしゃべらない。息苦しい。沈黙の時が流れる。ぼんやりしていた。車窓の景色だけが無言で流れて行く。

小島がつぶやいた。

『ハリマオ続けよ』

一本の光の矢が暗闇を射った思いだった。

「そうだよな〜 やめたってチューさんよろこばないよな〜」

また決意をしてしまった。

(チューさん、早く良くなって下さい。いつでも戻ってこられるようにハリマオは続けます。

 チューさんはこれからもずーとずーとハリマオなんですから。)

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