ここでは、ゼータ関数と微分方程式との関連を調べます。
私は、1年ほど前に無限演算子(∫+∫^2+∫^3+・・・)と微分方程式との関連を調べ、一つの定理を得ていました。
詳しくは<e^xに関する公式の発見 その2>の<(∫+∫∫+∫∫∫+・・・)g(x)は、微分方程式を解くことで求まる>
を見てほしいのですが、その定理を書きますと、次のようになります。
ここで(∫+∫^2+∫^3+・・・)G(x)とは、つまり、∫G(x)dx+∫^2G(x)dxdx+∫^3G(x)dxdxdx+・・・のことです。
∫^2は2回積分∫∫・・dxdxを、∫^3は3回積分∫∫∫・・dxdxdxを表しています。
全ての∫は積分範囲を0〜xとする定積分です。
私は、作用素(∫+∫^2+∫^3+・・・)を”無限演算子”と名付けていました。
この定理を用いれば(∫+∫^2+∫^3+・・・)x、(∫+∫^2+∫^3+・・・)x^2・e^(-x)、(∫+∫^2+∫^3+・・・)(cosx+sinx)
などもたちまちに計算できます。答えを書いておきますので、みなさんも計算してみてください。
(∫+∫^2+∫^3+・・・)x=-x−1+e^x
(∫+∫^2+∫^3+・・・)x^2・e^(-x)=e^(-x)・(-x^2/2−x/2−1/4)+e^x/4
(∫+∫^2+∫^3+・・・)(cosx+sinx)=e^x−cosx
さて、これまで「いくつかの点」シリーズ以来中心的な役割を果たしてきたゼータ関数の統一的法則性と上の定理を
関係づけることができます。
なぜ関係するのか。
上の定理は、重回積分が出てくる定理です。一方、統一的法則性は重回積分の規則です。
よって、二つは必然的に相性がよくなるわけです。
さらに、もう一つの観点(定理)を組合せて考察しましょう。もう一つの定理とは、e^xに関する公式の発見 その3 で
見つけていた次のものです。
定理2と定理3を見るとすぐ気づきますが、次の三つはすべて同じことを述べている。
@(∫+∫^2+∫^3+・・・)G(x)を計算すること。
Ae^x∫e^(-x)G(x)dxを計算すること。
B微分方程式 f′(x)−f(x)=g(x) を解いてf(x)を求め(特解だけで十分)、f(x)−f(0)・e^x を求めること。
すなわち@、A、Bは全て同値であるということです。
AとBが同値であることはじつは簡単にわかるのですが(考えてみてください)、AやBが@と関わるということが
重要な観点となります。重回積分が関係する@があるおかげで、これまでゼータ関数で中心的な役割を果たしてきた
統一的法則性と関係づけることができるのです。
無限演算子(∫+∫^2+∫^3+・・・)を介して、「ゼータ関数の世界」と「微分方程式」という異なる世界の関連性を
見ることができるといえるかもしれません。
注意:もちろん、cosx/sinx=cotxですが、以下では、もっぱら、左辺の表現で通します。
では、早速、具体的にみていきましょう。
目標は次の[1]、[2]、[3]が同値ということを利用して、面白い結果を導くことです。
*******************************************************************
[1] 微分方程式 f′(x)−f(x)=cosx/sinx を解いて、f(x)−f(0)・e^x を求めること。
[2] (∫+∫^2+∫^3+・・・)(cosx/sinx) を求めること。
[3] e^x∫{e^(-x)cosx/sinx}dxを計算すること。
*******************************************************************
まず、[2]と[3]は同値ですから、
e^x∫{e^(-x)cosx/sinx}dx=(∫+∫^2+∫^3+・・・)cosx/sinx -----@
ですが、e^x∫{e^(-x)cosx/sinx}dxまたは(∫+∫^2+∫^3+・・・)cosx/sinx の計算は、じつは「水星 その5」で
行っていました。そこでは、最も大切な等式の一つ
cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + ・・・) -----A
を用いたのでした。そこでの結果を示すと、次のようになります。
e^x∫0〜x e^(-x)・cosx/sinx dx
=-2[{1/(2^2+1)・(2cos2x + sin2x) + 1/(4^2+1)・(4cos4x + sin4x)
+ 1/(6^2+1)・(6cos6x + sin6x) + 1/(8^2+1)・(8cos8x + sin8x) +・・・}
+ e^x{(log2)/2 - ζ(1)/2 + ζ(3)/2^3 - ζ(5)/2^5 + ζ(7)/2^7 - ζ(9)/2^9 + ・・・}]---B
( 0 =< |x| < π )
左辺を計算すると、右辺にリーマン・ゼータ特殊値が現れるという驚くほど秩序だった形になっています。
「水星 その5」の導出過程をみるとわかりますが、右辺の
{1/(2^2+1)・(2cos2x + sin2x) + 1/(4^2+1)・(4cos4x + sin4x)
+ 1/(6^2+1)・(6cos6x + sin6x) + 1/(8^2+1)・(8cos8x + sin8x) +・・・}
の部分も、リーマン・ゼータ特殊値を生み出している母体であり、結局、Bの右辺は、リーマン・ゼータ関数そのものと
いえると考えられます。
[1]と[3]の同値性から、f′(x)−f(x)=cosx/sinx の解 f(x)による f(x)−f(0)・e^x がBの右辺に等しいことより、
f(x)−f(0)・e^x=-2[{1/(2^2+1)・(2cos2x + sin2x) + 1/(4^2+1)・(4cos4x + sin4x)
+ 1/(6^2+1)・(6cos6x + sin6x) + 1/(8^2+1)・(8cos8x + sin8x) +・・・}
となる。すなわち、
f(x)=f(0)・e^x - 2[{1/(2^2+1)・(2cos2x + sin2x) + 1/(4^2+1)・(4cos4x + sin4x)
+ 1/(6^2+1)・(6cos6x + sin6x) + 1/(8^2+1)・(8cos8x + sin8x) +・・・}
+ e^x{(log2)/2 - ζ(1)/2 + ζ(3)/2^3 - ζ(5)/2^5 + ζ(7)/2^7 - ζ(9)/2^9 + ・・・}]---C
となります。
よって、 f′(x)−f(x)=cosx/sinx の特殊解 f(x)はCのようになるといえるのです。
あるいは、Cの右辺のf(0)・e^xとe^x{(log2)/2 - ζ(1)/2 + ζ(3)/2^3 ・・}の部分は、f′(x)−f(x)で相殺されるので
f′(x)−f(x)=cosx/sinx の特殊解 f(x)は、
f(x)=- 2{1/(2^2+1)・(2cos2x + sin2x) + 1/(4^2+1)・(4cos4x + sin4x)
+ 1/(6^2+1)・(6cos6x + sin6x) + 1/(8^2+1)・(8cos8x + sin8x) +・・・} ---D
であるとも言える。Dに至って、裸のゼータは姿を消してしまいました。
念のため、 f′(x)−f(x)=cosx/sinx の一般解も求めておきましょう。
まずf′(x)−f(x)=0の場合の一般解は、容易に
f(x)=C・e^x
と出ます。Cは任意定数です。
これに、f′(x)−f(x)=cosx/sinx の特殊解(特解)を一個加えれば、一般解が求まります。
CかDを加えればよいわけですが、Cを加えましょう(Dを加えても結局同じ)。
よって、微分方程式 f′(x)−f(x)=cosx/sinx の一般解は、
f(x)=C・e^x - 2{1/(2^2+1)・(2cos2x + sin2x) + 1/(4^2+1)・(4cos4x + sin4x)
+ 1/(6^2+1)・(6cos6x + sin6x) + 1/(8^2+1)・(8cos8x + sin8x) +・・・} ---E
となります。Cは任意定数。
f′(x)−f(x)=cosx/sinx という微分方程式の一般解が[1]、[2]、[3]の同値性を利用することにより、
ゼータ世界を介するというやや遠回りの道筋を経由しつつ、割合簡単に求まってしまったことも面白い点では
ないかと思います。
ただ最後には裸のゼータが忽然と姿を消してしまったのは、ゼータ関数の憎らしい性質の一面を示して
いるといえるかもしれません。
検算の意味で、Eを f′(x)−f(x)=cosx/sinx に放り込んで成立を確認してみてください。
その際、cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + ・・・)を使いますが、きちんと成り立っています。
「水星」でやっていたことに、さらに、ある定理を加えることにより微分方程式の世界にまで足が伸びてきたといえる
かもしれません。まだ、特殊な場合を見ただけですので、無理やり結びつけたという感じがしないでもないですが、
さらにもっと一般的な場合にも考察を広げられそうなので、さらに研究をすすめたいと思います。
最後に、一言述べます。
読者は、上の結果Cに対して、e^x∫0〜x e^(-x)・cosx/sinx dx がBのようにゼータ関数に関わる!といっても、
次のFやGのように元々sinxやcosxはゼータ関数と密接に繋がっているのだから、e^x∫0〜x e^(-x)・cosx/sinx dx
の計算結果がゼータに関わるのは当然と思われるかもしれません。
しかし、FやGをBの左辺に放り込んだところで、その先どのように計算してよいのか方針すら立たず、Bの右辺の
ように調和に満ちた形におちつくなど想像もできません。
強力な定理3のおかげで、なんとかBへもっていけるのです。
πx/sinπx = 2{ (1-2^1)ζ(0)x^0 + (1-2^(-1))ζ(2) x^2 + (1-2^(-3))ζ(4)x^4 + (1-2^(-5))ζ(6)x^6 + ・・・ } -----F
( 0 < |x| < 1 )
(πx/2)/cos(πx/2)= 2{L(1) x^1+ L(3)x^3 + L(5)x^5 + L(7)x^7 ・・・} -------G
( -1 < x < 1 )
ここでL(s)は、L(s)=1 - 1/3^s + 1/5^s - 1/7^s + 1/9^s - ・・・です。
こういうふうに見てくると、無限演算子(∫+∫^2+∫^3+・・・)が重要な役割を演じているのを感じます。
今度は、f′(x) - f (x)=1/sinx という微分方程式に注目して、これと定理2とを絡めることで上と類似の議論を
行います。
もう一度、定理2を書いておきます。
ここで(∫+∫^2+∫^3+・・・)G(x)とは、つまり、∫G(x)dx+∫^2G(x)dxdx+∫^3G(x)dxdxdx+・・・のことです。
∫^2は2回積分∫∫・・dxdxを、∫^3は3回積分∫∫∫・・dxdxdxを表しています。全ての∫は積分範囲を0〜xとする定積分です。
さて、ここでも一つ上とは別種の統一的法則性と、定理2を関係づけます。
さらに、もう一つ定理を絡めますが、その定理とは、e^xに関する公式の発見 その3 で見つけていた次のものです。
定理2と定理3から、次の[1]、[2]、[3]は全て同値であることがわかります。
*******************************************************************
[1] 微分方程式 f′(x)−f(x)=1/sinx を解いて、f(x)−f(0)・e^x を求めること。
[2] (∫+∫^2+∫^3+・・・)(1/sinx) を求めること。
[3] e^x∫{e^(-x)・1/sinx}dxを計算すること。
*******************************************************************
早速、具体的にみていきましょう。
まず、[2]と[3]は同値ですから、
e^x∫{e^(-x)・1/sinx}dx=(∫+∫^2+∫^3+・・・)(1/sinx) -----@
となります。 e^x∫{e^(-x)/sinx}dxまたは(∫+∫^2+∫^3+・・・)(1/sinx) の計算は、じつは「水星 その5」の
<等式2-2の導出(等式2の変形)>で行っていました。最も大切な等式の一つ
1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・) -----A
を用いた結果でした。そこでの結果を示すと、次のようになります。
e^x∫0〜x e^(-x)・(1/sinx)dx
=2[-{1/2・(cosx+sinx) + 1/(3^2+1)・(3cos3x+sin3x)
+ 1/(5^2+1)・(5cos5x+sin5x) + 1/(7^2+1)・(7cos7x+sin7x) + ・・・}
+ e^x{(log2)/2 + (1-1/2^1)ζ(1) - (1-1/2^3)ζ(3) + (1-1/2^5)ζ(5) - (1-1/2^7)ζ(7) + ・・}]---B
( 0 =< |x| < π )
左辺を計算すると、右辺にリーマン・ゼータ特殊値が現れるという美しい形になっています。「水星 その5」の
<等式2-2の導出(等式2の変形)>での導出過程をみるとわかりますが、Bの右辺の
{1/2・(cosx+sinx) + 1/(3^2+1)・(3cos3x+sin3x)
+ 1/(5^2+1)・(5cos5x+sin5x) + 1/(7^2+1)・(7cos7x+sin7x) + ・・・}
の部分も、リーマン・ゼータ特殊値を生み出している母体であり(ゼータの心を宿している)、結局、Bの右辺は、
リーマン・ゼータ関数そのものといえると思います。
[1]と[3]の同値性から、f′(x)−f(x)=1/sinx の解 f(x)による f(x)−f(0)・e^x がBの右辺に等しいことより、
f(x)−f(0)・e^x=2[-{1/2・(cosx+sinx) + 1/(3^2+1)・(3cos3x+sin3x)
+ 1/(5^2+1)・(5cos5x+sin5x) + 1/(7^2+1)・(7cos7x+sin7x) + ・・・}
+ e^x{(log2)/2 + (1-1/2^1)ζ(1) - (1-1/2^3)ζ(3) + (1-1/2^5)ζ(5) - (1-1/2^7)ζ(7) + ・・}]
となる。すなわち、
f(x)=f(0)・e^x + 2[-{1/2・(cosx+sinx) + 1/(3^2+1)・(3cos3x+sin3x)
+ 1/(5^2+1)・(5cos5x+sin5x) + 1/(7^2+1)・(7cos7x+sin7x) + ・・・}
+ e^x{(log2)/2 + (1-1/2^1)ζ(1) - (1-1/2^3)ζ(3) + (1-1/2^5)ζ(5) - (1-1/2^7)ζ(7) + ・・}]---C
となります。
よって、 f′(x)−f(x)=1/sinx の特殊解 f(x)はCのようになるといえるのです。
あるいは、Cの右辺のf(0)・e^x と e^x{(log2)/2 + (1-1/2^1)ζ(1) - ・・}の部分は、f′(x)−f(x)で相殺されるので
f′(x)−f(x)=1/sinx の特殊解 f(x)は、
f(x)=-2{1/2・(cosx+sinx) + 1/(3^2+1)・(3cos3x+sin3x)
+ 1/(5^2+1)・(5cos5x+sin5x) + 1/(7^2+1)・(7cos7x+sin7x) + ・・・} -----D
であるともいえる。やはりここに至って、裸のゼータは姿を消しました。
f′(x)−f(x)=1/sinx の一般解も求めましょう。
一つ上とほぼ同じ内容ですので、詳細は略しますが、微分方程式 f′(x)−f(x)=1/sinx の一般解は、
f(x)=C・e^x - 2{1/2・(cosx + sinx) + 1/(3^2+1)・(3cos3x + sin3x)
+ 1/(5^2+1)・(5cos5x + sin5x) + 1/(7^2+1)・(7cos7x + sin7x) + ・・・} -----E
となります。Cは任意定数。
[1]、[2]、[3]の同値性を利用することにより、f′(x)−f(x)=1/sinx という微分方程式の一般解が、ここでも
自然に求まったことになります。
検算の意味で、Eを f′(x)−f(x)=1/sinx に放り込んで成立を確めてみてください。
その際、1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・)を使いますが、きちんと成り立っています。
ここでは、f′(x)−f(x)=1/sinx の一般解を求めることができました。
一つ上の結果と合わせて、まとめておきましょう。
ゼータ関数の重回積分の規則(統一的法則性)と関連づけて、次の二つの微分方程式の一般解を求めました。
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