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展覧会の紹介

第48回 新道展 2003年8月27日−9月7日 札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
10月9−14日 藤丸カルチャーホール(帯広市)

 創立会員・菊池又男が2001年に、そして会の運営に力のあった阿部国利が昨年と、あいついで世を去ったが、新北海道美術協会(新道展)じたいは、これまでとあまり変わらず48回目の展覧会をむかえている。
 ただ、新道展にとってむずかしい時代になったなとは思う。阿部が力をそそいだとつたえられるインスタレーション・立体造形部門は、1993年の協会賞(最高賞)・阿智信美智(札幌。現会員)から、ことしの堀部江一(苫小牧)まで、何人かの重要な作家を輩出してきた。
 
 インスタレーション重視は戦略としてやむをえない選択だったかもしれない。
 道内の作家の半数以上を輩出している教育大の卒業生画家の多くが道展に、のこる一部とカルチャーセンター出身者が全道展に流出しているのが現状である以上、清新な新人を得るには、絵画以外の作り手を得る必要があったのだろう。
 ただし新道展にとって誤算だったかもしれないのは、インスタレーション=現代美術志向のつよい若手は、そもそも公募展に興味のない人が大半だったのである。
 いくら道展や全道展にくらべて余裕があるといっても、会場に制約がないはずがない−といった現実的な理由以前に、いまの若手で現代美術を志向する人は、公募展そのものが眼中にないのだ。
 一方、人数的に多いのが、子育てや仕事を終えて、おだやかな写実の風景画などを描こうという人たちだ。この人たちは、道内の公募展入選は「むずかしい」と感じており、はじめから、全国規模の公募展をめざすようになっている。りくつに合わない話だが、独立美術など一部をのぞけば、道内の公募展の方が全国のそれよりも入賞・入選は難関になっている。また、もともとアンデパンダン的なノリではじまった新道展としては、あまり進歩的とは言いがたい絵画にひろく門戸を開けるわけにもいかないだろう。
 新道展がほかのふたつの公募展にくらべるとあたらしい芸術にたいして理解があるという認識は若い世代にはわりあいひろまっているのだが、最大の問題のひとつは、応募が続かないことだろう。いまの若者は、下積み何年という苦労は性に合わないのかもしれない。ともあれ、将来を期待されておきながら、ぱたっと出品しなくなった作家が、どうしたものか新道展には多いのだ。
 今回、初出品で入選、入賞した人が例年になく多いが、彼女らをどうやってつなぎとめるかが、課題になるかもしれない。
  
 その初出品組では、合田尚美(札幌)が新道展のインスタレーションの伝統をかろうじてつなぐ佳作賞。また、須藤恵美(同)が、簡潔な画面構成による大作で、やはり佳作賞を得た。後者は、描き入れたテントウムシがきわめて小さいために、画面がより大きく感じられる。
 ほかに、朝もやの樹林を描き、長谷川等伯や菱田春草の幽玄の世界を連想させる有岡麗子(同)、川で少年が馬を洗う夕方の情景を明暗ゆたかに、かつ丁寧に描いた花田麗子(同)などは、はっきり言って、今回会友に昇格した何人かの絵よりもよっぽどよかったと思う。
 ほかにも、波打ち際に裸婦がよこたわるさまをクリアな色彩配置で構成した青木幸浩(同)や、初秋の森を枯れた色でうまく処理した大橋有(胆振管内鵡川町)もわすれがたい。
 真冬の森に生きるシカを描いた池畠史幸(石狩)は、すでに個展などでおなじみの存在なので、むしろ新道展に初登場というのが意外な感じだった。
 ただし、初出品イコール清新、というわけではもちろんない。
 ほかの一般入選組では、窓越しに西洋の街並みが見える教会堂のような室内を題材にした杉本昌晴(札幌)、水彩ながらきわめて精緻なタッチで白鳥のいる冬景色に取り組んだ森田明志(小樽)をはじめ、浜地彩(札幌)、土田裕子(苫小牧)、大西亜希(滝川)が佳作賞を得た。
 賞には漏れたが、筆者の印象に強くのこったのは、永野曜一(札幌)である。
 ひじょうにひろがりのある抽象世界を展開しているのだが、地味な色合いのためか、ちゃんと評価されていないのでは−と気の毒な感じがする。
 また、昨年も取り上げたけど、橋本明美(空知管内長沼町)。能勢眞美タイプの、緑をゆたかに描く画家−という片付け方では惜しいような気がする。じっと自然を凝視する姿勢のようなものがじわっと画布のむこうからつたわってくるのだが。
 なお、伊東みゆき(札幌)の銀色の立体が壁から突き出ていたが、もし床置きになっていれば、あたえるインパクトはつよかったはずと惜しまれる。
 なお、大林雅(同)が、例の、しわだらけの宇宙生物のようなぶきみな絵で一般入選しているが、彼は1975−89年には会員であった。新道展には、いちど退会した会員がもどれる「会員復帰」という温情ある制度が存在するので、来年には会員として出しているかもしれない。

 会友。
 もともと新道展は、道展と同様、会員と一般が多く会友がすくなめ−という構成になっていた。
 ところが今回、一気に14人もの一般出品者が会友に推された。
 ことしの名簿には43人の会友が載っているから、そうとうな増加だ。
 さきほども書いたが、この14人には、受賞歴がまったくなく、作品を見てもどうしてこの人が会友なのか、まったく首をかしげざるを得ないという人が少なくない。
 何年も前から出品している−という功労賞的な意味合いもあるのかもしれないが、実力的には心もとない。
 もちろん、力作を寄せている会友も多い。リアルな人物像がつよく物語性をただよわせ見る者を飽きさせない志村まみ子(苫小牧)が佳作賞を得た。
 また、大塚富雄(函館)にも注目した。ねばりづよく焼却炉をモティーフにして描き続けてきた作家だが、今回そのモティーフがばらばらに解体した。力作である。画面がなお統一感を保っているのは、強靭なマティエールと、青を主軸にしながらも効果的な色彩の配置のためだろうと思う。ただ、画面上部の文字が必要だったかは、筆者としては疑問なしとしない。佳作賞。
 ほかに、青を主体に抵抗感ある巨大画面を構築した片野美佐子(同)と、おだやかな小樽の風景画の山口京子(札幌)が佳作賞に選ばれている。
 また、後藤哲(函館)、笹嶋スミ子(石狩)、鴇田由紀子(札幌)、永井唱子(渡島管内上磯町)、西尾栄司(札幌)、牧輝子(伊達)、渡辺恵子(恵庭)の7人が会員に推挙された。これも1981年の11人以来、22年ぶりの多さだ。
 そんななかで、4人の会友が姿を消している。
 とりわけ、和田仁智義(十勝管内芽室町)は、シュルレアリスム的な手法で大地の変容を描いていたスケール感ある画風の持ち主だっただけに、惜しいと思う。

 会員は、例年の仕事の延長線上で作品をつくりあげている作家がほとんどなので、今年はあえて詳述を避けたい。
 全員の名を挙げることはとうていできないが、今荘義男(空知管内栗沢町)、後藤和司(札幌)、比志恵司(夕張)、藤野千鶴子(札幌)、永井美智子(同)らは、ことしも安心して見られる高水準の抽象画を展開しているし、佐井秀子(胆振管内白老町)は例年とことなるタッチが目を引く。
 飯田辰夫(函館)、鈴木秀明(同)、高橋芳子(帯広)、西田靖郎(檜山管内熊石町)は、リアルなタッチで別世界を表現しえている。田中まゆみ(札幌)は、生命や死について見る者に問いを投げかける立体造形を発表しているし、田中進(同)、山口大(岩見沢)をはじめとする風景画のベテランも健在である。画風は異なるが、松本道博(札幌)、香取正人(同)らもいる。宮下章宏(函館)の色鉛筆による絵はことしも明るく、そして謎めいている。「13の追悼」とは、だれをさしているのだろう? 岩田琿(渡島管内七飯町)、岩佐淑子(石狩)、大田眞紀(同)、勘野悦子(札幌)、佐野雅子(石狩)、古田瑩子(同)ら水彩陣の堅実な仕事ぶりも新道展の柱のひとつになりつつある。
 ただし欠席者が多いのは、ことしもざんねんだった。17人の会員が出品していない。
 なお昨年の名簿に名がありながら、今年は掲載がなく、退会会員の項目にも名前がない会員として、坂本順子(札幌)と橋本竹夫(紋別)がいる。図録編集担当者さん、よろしくどうぞ。

 関連ファイル
第46回新道展
02年3月の会員小品展
第47回新道展
02年12月の「増殖・紙によるインスタレーション」
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