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写真家・浅野久男さんの 東川リポート |
今回は、浅野さんに報告を書いてもらいました。長文の力作です | |
東川町 フォト・フェスタ2004 1985年(昭和60年)全国で初めて「写真の町」宣言を東川町が行い、第一回東川賞須田一政・田原桂一両氏以来20年、篠山紀信・奈良原一高・荒木経惟氏ら写真界のそうそうたる作家が受賞してきました。 第20回を迎えた今年の東川賞は、海外作家賞にフランスのアントワーヌ・ダガタ氏・国内作家賞は中川幸夫氏・北海道ゆかりの作家が対象の特別賞には襟裳在住の倉沢栄一氏が選考され、7月30日(金)東川町環境文化センターにて授賞式が行われ、8月1日までをメイン会期とするフォトフェスタ2004が開催されました。 メイン会場である東川町文化ギャラリーでは東京から多数のゲスト写真家・評論家を招いての様々なフォーラムが行われ、会場周辺ではストリートギャラリー(公募型野外展)、東川町民主催の祭りである「どんとこい祭り」など様々なイベントが開かれます。また全国から高校生を招いて行われる「写真甲子園2004」も開催されました。
東川町は人口およそ7000名の小さな農業と木材工業を主とする小さな町です。 札幌圏の平均的な私立大学の在学生数にほぼ匹敵します。 そんな小さな町が20年にもわたって続けてきたフォト・フェスタは現在転機を迎えようとしています。
2004 フォトフェスタのテーマは「いきる、いかす、いのち」とあります。毎年の事ですがこのテーマについて意味があるとは思えません。表面的にそれらしい「言葉」をとりつくろっているだけで、今回受賞した作品が「いのち」をテーマにしているとは決して思えないですし、「いのち」を主題とした展示もありません。安易に言葉をもてあそぶ軽佻な姿勢が感じられるのは私だけでしょうか? フォトフェスタの主要な企画は
このうちの写真甲子園が写真の町・東川町を全国に広めた立役者であるといえます。今年も全国から14校が東川に集まり、東川町および大雪国立公園一帯を舞台にした「戦い」が繰り広げられました。 写真甲子園2004全応募校作品展は7月26日〜8月29日まで東川町環境改善センターにて開催されています。
今年は、北海道旭川工業高校が全国出場となりました。 各高校、出展内容は様々で、予選応募校は代表作品が1枚、予選通過校は組写真が展示してあります。 スペースの関係でどうしようもないとは思いますが、全応募作品を見てみたいという気持ちになりました。 全般的に白黒写真での応募が多い中で、関東地区代表の和光高校はカラーですが校内での夕日の色と影を活かしたモノトーンな作品が目をひきました。
余談ですが、これは私の持論ですが、白黒での作品はその写真の良し悪し以前にプリントという技術が判断の基準となる特徴があると思います。プリントの上手い下手というとっても「おたく」チックな基準によって良し悪しが決まるのですが、下手なら上手いところに金を出して頼めば良いという事を邪道とする風潮があるのですが、白黒プリントをその技術だけで勝負したいという人には一度東京の写真弘社に依頼する事をお薦めします。 アラーキーもプリントは写真弘社に依頼してるいそうです、アラーキーの写真展にいって「オリジナルプリントの素晴らしさを語る」ような真似をしないようにしましょう(荒木が上手いとかそういうのとは違いますので誤解の無いように)。
メイン会場である文化ギャラリーには受賞作家展とインディペンデンス展が8月29日まで開かれています。
ストリートギャラリーといえば郷土館前庭で夕張の風間健介氏(第18回特別賞)が中心となるAZUMA組が草分け的存在です。 今回は東京から大西みつぐさんのゼミ生を中心に全国から「作家」志望の皆さんが、風間さんを中心にテントに寝泊りしながら、夏の日差しの中ビールを飲みつつ写真論というか「風間」節を聞くのが特徴ですが、今年は少し趣が違いました。
(AZUMA組)
無いんです。 あれ、今年は風間さん出してないのかな、と思っていたら。暑いから上半身裸で、酒焼けなのか日焼けなのかわからない状態の風間さんが、独特の語り口で(彼は三重県出身なので北海道人にとってちょっと癖が在るように聞こえるのですが・・)「わからんかったろぉ」と話し掛けてきました。 そう、今年は風間さんの炭坑遺跡の写真が無いんです。 「おれぇはもともとアーティスティックな写真が撮りたかったんだ」というように、今回出展されているのは、火花を象徴的に撮影した作品群です。 (風間さんの作品)
「そろそろ自分のイメージを変えたい」という風間さんの意気込みを感じる事が出来ました。8月20日から東京の新宿のペンタックスギャラリーで個展を開催されるようです。他にも東京の大西ゼミの皆さんの作品など興味深い作品を数多く見る事が出来ました。札幌からもHAKONIWAなどのグループ展に積極的に参加されている大沢亜実さんの作品も見うけられました。 ストリート展は今年は趣を変え、新たな展開を模索する事になりました。
昨年筆者を含むグループ展passageのメンバーが自主企画として東川町に自腹でスペインから写真家とキュレーターの方を呼び、札幌から来た音楽メンバーとのコラボレートライブを自主的に特設会場で演奏したときに、警備員の方が「町の責任者連れて来い」という事になったときに「私、町の責任者です」といって一緒に説明していただけたのが東川町長松岡氏でした。
松岡町長と、写真の町担当係長高平氏の呼びかけに今回札幌の大学生を実行委員として、筆者や音楽家の方達などが協力して運営し、「北海道写真月間2004 東川ストリートフォトライブ」という考えが生まれました。 今回大学生を中心とする100名近くが、これまでに無かった町民主体の祭りと一体となった展示を試みることになりました。 今年から文化ギャラリー前・どんとこい祭り会場にも出展) 今回出展に参加した大学は、札幌学院大学・札幌大学・北星大学・浅井学園大学・北海学園大学・室蘭工業大学・札幌医科大学・北海道教育大学などで、ストリート展以外にも富士写真フイルム(株)の協力でチェキを使って、学生がお祭り会場内を仮装しているのを探し出して撮影するスタンプラリー「YO ちけらっちょ」。 (yo ちえけらっちょ)
大学生だけではなく一般のアマチュアの方、長倉洋海(第10回東川特別賞)・天売島在住の寺沢孝毅・中国から井岡今日子・広島から門脇俊照・東京から庄司利男氏など多数の写真家の方にも出展協力をいただいた 「写真のフリーマーケット」ふぉとまーけっと in 東川など展示だけに留まらない写真を楽しむ企画が行われました。 (ふぉとまーけっと in 東川) ストリートギャラリーで筆者が注目した作家には、黒田拓さんがあげられます。 黒田さんは社会人で、仕事を持つ傍らカラーで長時間露光で水面を撮影した作品を主に発表されています。今回始めての企画としてストリートギャラリーの作品の中から「写真の町実行委員会賞」「富士フイルム賞」が選ばれたのですが、黒田さんは「富士フイルム賞」を受賞されました。8月には新風舎より作品集が出版されます。 (黒田拓さんの作品)
また、心象的というか神的なイメージを発表された福井香菜子さんの「眠る記憶」という作品に大変興味を覚えました。一部具象的な作品が交じっていたのが全体のイメージを弱める結果になっているのが残念でしたが、彼女の今後の活躍に期待したいと思います。
やまぎしせいじさんは立体的・抽象的な作品作りで知られていましたが、ここ数年「写真」の世界にやまぎしさんは戻ってきています。やまぎしさんのやさしい性格がそのまま感じさせる柔らかい雰囲気の作品が今回もストリートギャラリーで見る事が出来ました。作品は撮影技術的には多重露光を3回ほどする事による微妙なブレ・ズレをもちいることによって、やまぎしさん独特の柔らかさを表現するもので、職業写真家として撮影技術的にも高度な作品であると言えます。
他に札幌大学の藤原さんの白黒プリントには、今回写真の町実行委員会賞を受賞されましたが、審査にあたられた東川在住で海外での活動経験が豊富な写真家渡辺信夫さんが「ピエール・ガスマン(マグナムフォトスのプリンター)のプリントそのまま」と大絶賛されてました。 (福井香菜子さんの作品) 他に札幌学院大学の大谷剛さんの白黒作品・渡邊かおりさん・置田貴代美さんのカラー作品、フォトマーケットには木川恵介さんの丹頂鶴の作品などに興味を覚えました。
また今回特別展示として東京在住の写真家北野謙氏によるour faceプロジェクトの野外特別展示が行われ、オリジナルプリントによるour face プロジェクトの展示がストリートギャラリーで行われました。 Our faceプロジェクトは、先ごろ写真評論家などによって選抜される「写真の会賞」を受賞され、各集団・社会の肖像を一枚づつ重ね合せて焼きつけていき、プロジェクトで、今回東川町に在る幼児センター「ももんがの家」の幼児63名を重ね合わせた肖像も制作され、1日には「写真の町かめらあんぐる」の中でも札幌在住の作曲家綾部潤和氏の音楽作品とともに映像化された作品が公開されました。
これは作品を直接見て貰うしかないのですが、浅野が最初にこの作品を見たときに感じたのは「共同体」という社会学の概念を写真で表現するとしたらこれしかないな、というものでした。「社会」という構成体は「家族」から始まり、「学校」や「職場」、「地域」といった構成体を形成していき、「国家」だとか「世界」といった広がりをもっていくのですが、まさしくこのプロジェクトが写し出そうとしているものは、この構成体を形成する手法と同じ、一人づつを重ねていくという手法です。 東川賞の審査委員の評論家平木収さんが「重ねていくと人間良い顔になっていく」「性善説なんだね」と評しましたが、日本という社会を写真にあらわす「顔」がこの作品の様におだやかな顔である事にほっとする思いがします。 Our faceプロジェクトについてはhttp:www.ourface.comを参照して下さい
31日の夜には文化ギャラリーの前庭にて、札幌在住の音楽家塚原義弘・西村伸雄・桑島はづき・井口勇氏らと大学生の写真とのコラボレーションライブが開催されました。 会場には札幌から造形作家の中橋修氏の作品がライトアップされ、町の人が足を止める光景が見られました。 (中橋修さんの作品) 20周年を迎えたフォト・フェスタの今後を考えると、その方向性は正直とても不透明なものであると言えます。
何より誰もが指摘する町の人と写真家・評論家とのギャップは残念ながら埋まってはいません。 東京から文化という名の下にありがたい写真の話をして、お酒を飲んでまた東京に帰っていく評論家や高名な先生達。 作家と称して、高尚な写真論やレクチャーを自分達の世界の中心で語る姿。
そして、残念ながらあまりにも低すぎる北海道の若者達の「写真」への意識、知識。
屋外というお粗末な環境での展示。 粗末な環境を、中身と同じにとらえて作品をきちんと見ようとしない評論家や作家たち。
町の子供達が使っている剣道場を無料で開放していただいているのに、その子供達への感謝も無くこんなところに寝れないと主張する若者達。
展示した後、ほったらかしにして温泉や観光に興じて平然としている姿勢。
無料という事は誰かがお金を出してくれているという事に気がつかない作家・若者達。
「写真の町」というのだから、町が金を出して当然だと言いながら酒を飲んでいる作家達。
感じるのは誰もがこのフォトフェスタというイベントが20年続けてこれたのは、東川という小さな田舎町に住む普通の人々のおかげであって、彼らが決して高尚な意識を今は望んでいないという事実に誰も目を向けないという事に怒りを感じます。 ただ、もしかしたら、という気持ちがあります。
私達の様に、権威に弱く処世に長けてしまった作家やおじさん達は、自分の作品を世に問うときに、知らず知らずの内に権威である評論家や写真家の目をあまりにも気にしすぎているのではないだろうか? 良いものを作るという切実な言葉を誰の為に使っているのだろうか? 評論家や編集者、作家といった人の目をあまりにも意識しているのではないだろうか? そういう疑念があります。
確かに今回のストリートギャラリーに出展した大学生の「質が低い」という指摘をする方は少なくありません。単なる「イベント」としての指摘をされる方も多いのは事実です。
少し話がそれますが北海道の若者文化を特徴付ける二つのものがあります。一つはYOSAKOIソーランという、騒々しいだけのかつ、高知県のよさこいにとってつけたイベントであり、もう一つがハンディのビデオカメラで質の悪い映像で全国を行脚する姿から人気に火のついた大泉洋らのオフィスキューによる「水曜どうでしょう」などのナンセンスな芸であると言えます。 共にアートや、いわゆる権威の世界からは、「嫌い」だとか「質が低い」とか言われるレベルのものであって「大学祭」の模擬店のような存在であるといえます。 ただともに少なくとも今では全国的な動員をかけれる存在になっているという事実は否定は出来ません(好きかどうかはまた別の問題であるのはいうまでもありません)。 底が浅く、質が低い「大学祭」の模擬店や発表がイベントやビジネスとして席捲しているのもまた事実であるわけです。
もしかしたらという気持ちと期待の一つがそこにあります。
もしかしたら作家や評論家や高名な先生の名前も、作品も見たことは無いし、そんな高名な先生の目を気にしていない彼らが本当は素晴らしいものを作り出すのではないだろうか? もしかしたら王様は裸なのに私達大人はあるフィルターを通して見てしまっているのではないだろうか?
町の人たちと「写真」の世界を繋ぐものが彼らの「可能性」にあるのではないだろうかと。 そういった若さこそがこれからの東川町フォトフエスタを続けて行く原動力になりうると思われるのです。
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