手のひらの汗
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−上位中枢レベルで汗を止める−

上位中枢すなわち脳のレベルで発汗を止める.これは精神活動によって引き起こされる汗出せ命令自体を,根源から減らそうって方法だ.多汗による精神的苦痛が元で,悪循環にはまってしまった方には有効な方法となるだろう.

Key word  内服療法心身医学療法音楽療法

内服療法

 掌蹠多汗症には,精神安定作用のある飲み薬セルシンアタラックスのようなマイナートランキライザーも処方されているようです.これは発汗に対する心の痛みを和らげようということですね.
 セルシンは向精神薬で,神経症やうつ病,心身症の不安・緊張などに効くとされている.また麻酔の前投薬としても使われる薬だ.アタラックスは抗アレルギー性緩和精神安定剤.蕁麻疹や皮膚の疾患に伴うかゆみ(掻痒)や神経症における不安・緊張・抑うつを効能としてうたっている.できて40年ほどになる内服薬だ.詳細にいてお知りになりたい方は,リンクページにある「おくすり110番」などのHPで調べてください.
(参考:横関博雄「皮膚疾患と発汗異常」)


心身医学療法

 心身医学療法とは一体どんなものなのか.ここで医療保険の中での定義を紹介しよう.「心身医学療法とは,心身症の患者について,一定の治療計画に基づいて身体的傷病と心理・社会的要因との関連を明らかにすることにより,症状の改善または傷病からの回復を図る治療方法を総称するものである」とのことだ.いつ見ても回りくどい表現でピンときにくいのだが...
 私は心身症じゃないよって? まぁ言葉なんてどうでもいいじゃないですか.汗が出すぎることを苦にし,それを今すぐにでもなきものにしようと思っているあなた,こんな方法も効くことがありますよ.森田療法については,以前メイン・コンテンツ「心と身体の談話室」で紹介しました.またいずれ機会があれば他の方法もメインの方で紹介したいと思うので,今回は一部のみとさせていただきますね.
自律訓練法
・カウンセリング
・行動療法
・催眠療法
バイオフィードバック療法
・交流分析
・ゲシュタルト療法
・生体エネルギー療法
森田療法
・絶食療法
・一般心理療法
・簡便型精神分析療法

 自律訓練法
 自律訓練法はメイン・コンテンツでも書いていますが,自己暗示のようなもので意識的にリラックス状態を作る方法なのです.
 菊池は,第31回循環器PSMの会−これは私も出席した研究会なのですが−ここで,2分間の暗算負荷により手掌部発汗が誘発され,安静にしても止まらなくなった心身症患者に自律訓練法を施行し,発汗をコントロールした症例を報告しておられました.
(参考:菊池長徳「ストレスと精神性発汗」)

 バイオフィードバック療法
 ここで川原の行った方法を紹介しましょう.被験者には経時的に連続して計測される発汗量に応じ,多くなるほど青→黄→赤と発光ダイオードが点滅する装置を用い,自分の汗の状態がフィードバックされる.赤ランプが点灯し始めるレベルは任意に設定でき,対象に合わせてレベルを変えることができる.ランプの色を見ながら被験者はどうしたら青色に近づけられるかいろいろと工夫するワケだ.5分間トライし5分間休む,これを4回ほど繰り返す.この方法により,回を重ねるごとに発汗が抑制されていく傾向が認められたという.
 バイオフィードバック療法は,脈拍計を使い心臓のドキドキを鎮めたり,血圧計を用い高血圧のコントロールにも用いられる.自律神経の制御下にあり,普通はできないと思われる鼓動や血圧の意識による制御なのですが,人間とはすごいもので,自分で自分の状態が分かることで,その状態をコントロールすることができるようになるものなのですね.この方法はスポーツの世界ではよく使われており,競技前の緊張を適度に解くのにも役立っているそうだ.
(参考:川原健資ほか「手掌発汗バイオフィードバックに関する研究(予報)」)
私たちの体内状態を変化させることは意識とは無縁であると,長らく信じられてきました。たとえば,自分の体温を意識するだけで変化させることなどは不可能であると思われてきました。ところが,このような体内状態を適切な計測器によって測定し,その情報を画像や音の形で自身が意識できるよう呈示することにより,従来制御することが不可能であると考えられてきた諸機能を意識的に制御することが可能であることが分かってきたのです。・・(中略)・・バイオフィードバックはすでに多くの分野で応用されています。まず,医療の方面で,気管支喘息,高血圧,不整脈,頭痛,てんかん,手足の冷え,過敏性腸症候群,円形脱毛症, 自律神経失調状態など種々の病態の治療やその予防に用いられています。
「日本バイオフィードバック学会」http://wwwsoc.nii.ac.jp/bf/)のホームページにはこのような記載がある.人間は自分の身体の状態を意識の力で変えることができるのです.そのことが分かるだけでも,心が随分と軽くはなりませんか?
[関連文献]
坂井 誠ほか「自律訓練法を適用した慢性多汗症の一例
鹿野亮一郎ほか「両側手掌発汗過多へのバイオフィードバックトレーニングの臨床応用について

音楽療法

 いい音楽は心のコリを解きほぐしてくれますよね.最後に一例,音楽療法が有効だったという症例を文献から紹介しましょう.それは竹内の行った治療である.患者は「幼少時より手掌,足底の多汗で,思春期に憎悪.異性と話す時や,電車に乗って人に見られるのではないかと気になる時,緊張して発汗量増加.17〜18歳頃より,近医の皮膚科で薬物療法を受けるも改善せず.書類を持つと紙がすぐボロボロになり,仕事に支障をきたすことが多かったという,22歳で心療内科を受診した」.このような訴えの彼女なのですが,共感するところはありませんか? もし,おありなら,こんな方法もあるかもよ.
 治療は抗不安薬リーゼ1日15mgの投薬と2週に1回の音楽療法.使われた曲は,オーゼの死,ジムノベッティ,アベ・マリア,G線上のアリア,亜麻色の髪の乙女とのこと.私も好きでよく聴くのですが,美しいバロック音楽ですよね.1回の治療は30分の聴音と前後10分間の安静.そして,その施療中の発汗量,脈拍数,非観血連続血圧の計測し,後で本人に値を提示し確認させたという.それによって,どんな時に汗が多くなり,またどんな時に少なくなるのかが分かる仕組みだ.結果「汗が1度出るともう駄目(1日中発汗が連続)」から,「発汗が出現しても深呼吸などで自分でコントロールできる」という状態に改善したという.
 この結果を竹内は「リラクセーションとしての効果に加えて,認知的な変容が症状の改善に影響を与えた.音楽療法によって発汗や脈拍数の減少を体験することで,もう治らないという認知が修正され,さらに自分で止めることができるという良い認知が形成されることにより,悪循環を止めることに影響した.」と考察している.
 人前で出た汗に恐怖し,必死に止めようと思う心が,余計に多汗を助長していたのだが,「自分で汗は止められる」それを体感できたことにより,彼女は悪循環から解き放たれたのですね.
 音楽療法は私の尊敬する日野原先生も取り組まれ,いろんな面で効果を上げておられます.音楽が心を癒し,多汗に固着した観念を和らげる..ご興味があればHPをご覧ください.サイトの紹介文では「国家資格化を目指した認定音楽療法士資格を出している唯一の組織です」とのことですよ.音楽療法と名のつくものの中には怪しいものもいっぱいありますから,ネット検索される場合はご注意を.
日本音楽療法学会http://www.jmta.jp/
(参考:竹内香織ほか「音楽療法が奏効を示した多汗症の1症例」)
遺伝的に多汗な方はみえます.その方に心身医学療法など有効ではないです.
しかし,汗のことは気になってはいたけれども,それほどではない.だけれども,幸か不幸かネットの中に「多汗症」「手術」などの文字を見つけてしまった.テレビで見てしまった.私は病気?..以来その文字が脳裏から離れず,余計に手に汗をかくようになってしまった.そんな話もよく聞かれます.
そんな方たちに何度でも私はいいたい.汗はキレイなものなのです.そして誰もがかき,モノを持つためには必要なものなのです.それを無理に止めようなどとは決して思わないで下さい.そして増えてしまったあなた.手のひらの汗は,音楽療法の彼女の例のように,認知をし直すことで減らすことができます.だからそんな手のひらを嫌わず愛してあげてください.自分の可愛い手のひらなのだから...


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