　手のひらの汗

－秘伝・顔の汗止め法－

少し暑くなってきましたね．額や顔から汗が垂れて困るんだよ，そんなあなた．薬や制汗剤なんて要りません．生理現象をちょっと応用するだけで，滴る汗を抑えることができちゃう．
今回はそんな方法をご紹介します．ただし病的に多い汗は，これだけではなんともなりませんので，あしからず．．m(__)m

半側発汗

　高木健太郎先生がみつけた不思議な汗，半側発汗．これ「はんそくはっかん」と読みます．つまり片側の発汗．なんだそれ？．．ですよね．たぶん初めて耳にされる方がほとんどだとは思いますが，これを知っておくと額や顔面の汗，止められるかもしれません．そしてこの「半側」についてですが，身体の左右ばかりか，上下にも及ぶことを頭に入れておいてくださいね．
　さぁ実験です．汗をかいた身体を横たえてみてください．どうですか？．．あ～ら不思議．．上になった片側は汗をいっぱいかいてるのに，下の方はどうよ．だんだんひいていっているじゃない．そんな感覚ありませんか？
　畳に吸い取られてるだけだよって．．？　確かにそうともいえる．．いやいや，これがちょっと違うんだなぁ．今はそんなに暑くないから，なかなか実感できないかもしれないけれど，分からなかったら真夏の暑い日にでもまたやってみてください．
　この仕掛けを紹介しましょう．横に寝た時，下側の皮膚は自分の体重がかかって押されているよね．実はこの圧が重要なんだ．難しくは「皮膚圧－発汗反射」なんていう脊髄レベルで起こる反射の一種．脊髄レベルってのは，汗の経路の話を前にしたけれど，大脳皮質から脊髄を通って．．．この末梢側だけでのお話で，高次中枢（頭）は，この汗に関係ないってことなんですね．
　いま顔面や腋に汗がにじんでるってあなた．身体の片側，たとえば腋の下の方から上へ，順にグッと拳で抑えて押さえていってごらん．その真反対の腋の汗，だんだん止まってくるからさ．そして腋の上の方を押さえた時，顔の発汗はどうだろう．．．
　私はそういうところとは縁がないので感覚がないのだが，芸者さんは帯を胸高に締めるそうだ．すると顔に浮かぶ汗を抑えることができ，化粧崩れを防ぐことができるという．また両手をグッと握り締めることで，上半身の汗も押さえられるとも．．ただしこの反応，汗をたくさんかくことを必要としている，つまり激しい運動をした時などは現れにくいそうだ．なぜかって？　それは体温を上がり過ぎないように調節しなければならないからだ．これは脳を介さない末梢のしくみ，中枢は強しだね．

　皮膚圧迫部位と発汗抑制部位

　指で指している部分を圧迫することで，グレーの部分の発汗が抑制されます．


皮膚圧迫部位＞	第４～５肋骨上		第９～10肋骨上		腸骨稜上

　（参考：小川徳雄「新・汗のはなし」，「汗の常識・非常識」）

圧－半側発汗反射

　「皮膚圧－発汗反射」について，高木自身の著書に記述されている．それを発見した時の苦労話がエピソードとして載っているので紹介しておこう．
　半側発汗は戦後の食糧難に追い回され，疲れの出た高木が，熱を出して寝込んだ時に気がついた現象だそうだが，当時は誰にも相手にされなかったとのことだ．「頭を横に向けただけでは変化は起きず，逆に頭をそのまま，身体を横にしてみると，汗の変化が起こった」という．この現象自体は，発汗研究の草分け久野寧先生の「Physiology of Human Perspiration」に記載があるという．
　その後高木は，熱でおかしくなったのではないかという人々の声にももろともせず，肘掛け椅子に座り，片側の胸がアームに押し付けられ，その逆の額が湿っているという経験をし，握り拳１つで額の汗を止められることをみつけるのだ．
　「交叉性半側発汗反射」などという，これまた難しい名前の反射がある．例えば，右の腋窩部と左の側臀部を同時に圧迫すると，上半身では右半側の発汗が抑制され，下半身では左半側の発汗が抑制されるのだそうだ．

　（参考：高木健太郎「やぶにらみの生理学」）

おまけ．．鼻詰まり解消法

　余談になるが，この皮膚圧反射．利用すると睡眠時の鼻詰まりに効くのだ．寝ていて鼻が詰まって息苦しいことはないかな？　
　下になった方が詰まり，上になった方が開く．これは皮膚の血管が反射によって反応するからであり，下になった側の交感神経（この神経は鼻甲介の毛細血管を収縮させる作用を持つ）が抑制され，鼻甲介血管が拡張，粘膜が腫れて気道が狭くなるからなのだそうだが．．．
　そんなことはどうでもいい．通したいなって思う鼻と反対側の「側胸部」が下になるように横向きに寝てみてよ．ホラ，すぐにポッと鼻が通ったでしょ？これ，頭の向きじゃないからね．

　（参考：小川徳雄「新・汗のはなし」）

人間の身体ってのは，ホント不思議なものですね．