手のひらの汗
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−精神性発汗の特徴−

手のひらや足の裏の汗腺は,精神的な緊張や情緒的興奮,あるいは音や光などの感覚刺激に反応して汗の分泌を起こす..これを「精神性発汗」と呼ぶなんてこと,前にお話したよね.
手のひらの汗について語る時に,これを避けては通れない.そこで今回は,その特徴について触れてみることにしましょう.

精神性発汗命令を出すところ

 斎藤によると「精神性発汗・情動性発汗は大脳に支配され,特にその前運動野大脳辺縁系の影響が強い」とのことだ.この大脳皮質運動前野から「動作のプランニング情報を統合する細胞活動を発見」した,なんていう話もNature(2000.11)に載ってたかな..つまり,どの筋肉をどう動かすか,どう組み合わせるかなんてことをここで一瞬にして決め,指令するワケだ.それによって,動くための力加減や速さが調節できる.精神性発汗の中枢がそこにあるというのも,手掌,足底の汗が前に話した「すべりどめ」の役割を持つということに,大変よくマッチすると思うのだ.
 また「思考や計算など,前頭葉が深く関与する知的作業時には,手掌や足底の発汗が強くなるが,同時に他の区域の発汗は少なくなる傾向を示す(斎藤)」そうだ.これは,暑い夏の最中,何かに意識を集中した時に,全身の汗がひいたという経験から,自身納得できる部分がある.
 逆に「強い不安・緊張などの情動性興奮時には手足ばかりでなく,全身の発汗が起こり得る」ことも日常経験されることである.また「睡眠中には手掌・足底の発汗は低下・消失し,他の部位の発汗は多くなる」(斎藤).この事実から小川は「大脳辺縁系は全身の発汗に作用し,前頭葉などの新皮質は手掌・足底の発汗(精神性発汗)には促進的に,その他の区域には抑制的に働く可能性を示唆している」という.
 (参考:斎藤 博「発汗−その病態生理と検査法−」,小川徳雄「発汗と自律神経系」)

汗は間歇泉

 汗をかいた手のひらを眺めていると,汗腺からじわじわにじみ出てくるように思えるよね.ところが違う,持続的に流れ出してはいないのだ.これは発汗状態をを連続的に計る装置や,マイクロスコープなどで観察してみるとよく分かるのだが,汗は,1分間に数回から十数回の不規則なリズムをもって,あたかも間歇泉のように拍出する(発汗波:sweat expulsion,下図)んだ.知ってました?実際に自分の目で見てみると,感動モノですよ..
 このリズムを観察してみると,手のひら,足の裏とそれ以外の一般体表面では違っていることに気づく.みなさんが気になる腋(脇)の下も,額も首筋も..一般体表面の発汗リズムは全部位で同期していて,しかも風のない部屋では室温や体温と比例してる.ということからも一般体表面の汗が体温調節のために制御されているのに対し,手のひら,足の裏は違うんだなってことが推測できるよね.
 (参考:小川徳雄「中枢発現機序と体液性要因」)

手足の汗と身体の汗

 両手のひら両足の裏の発汗を同時に計ってみると,全部に同期した発汗波が見られる.これが最初にお話した,中枢からの精神性発汗の命令の表れなのだ.では,手のひら,足の裏の汗は,一般体表面の汗とは全く同期しないのかというと,そうではなく,一部に同期した波が観察される.この事実から,温熱性発汗と精神性発汗の両方の中枢機序の間には,部分的な相互干渉があると考えられている(小川ほか).
 手掌・足底の発汗にもいくらか温熱要因の影響が認められ,低温環境でも発汗が止まる(小川)し,高温環境下では抑制される(菅屋).
 腋窩(脇の下)では温熱性発汗も,常温下での精神性発汗もともにみられる.ヒトによっては前額部も腋窩と同様の発汗様式を認める.種々の非温熱性要因の全身発汗量への影響は,体温調節中枢に対する効果とみなされる.温熱性発汗に対する精神活動の影響もその1つと考えられる(小川).
 非常に難しい表現で理解しづらいのだが,人によっては,額や脇の下でも,精神性発汗つまり,手のひら,足の裏と同じように発汗する.それは体温調節を司る中枢,つまり視床下部に精神的な活動が影響を及ぼした結果であるということなのだ.
 (参考:小川徳雄ほか「発汗波の特性」,小川徳雄「末梢発現機序」,菅屋潤壹「発汗の中枢機構(U)」)

手背部の発汗例


図.手背部の発汗例
 さて,ここで実例をお示ししましょう.これは私の手の甲の発汗の様子なのだが,1992.4.11,皮膚科学会の機器展示会場でドクターに汗や機械のことを話している場面.横軸に時間,縦軸に発汗量をとっている.
 私はスーツを着ており会場は少し暑い感じがあった.待合時間(@)に2度ほど,ほんの少し汗が出ており,首の周りにも多少の発汗を覚えていた.そこに商談相手のドクターが現れ会話を始める(A).緊張と同時に身体がほてり,額や腋窩(腋の下)に汗がにじむのを自覚する.律動的な発汗が頻発しはじめ3分後には全体的な量も増えた(ベースラインが上がっている).これは温熱性発汗が主体と考えられるが,ドクターとの会話による緊張もまじり,精神的負荷による影響も重畳しているのだろう.会話が終わる(B)と,発汗量は減少傾向を示した.そこで私は皮膚交感神経活動を賦活化する負荷,息を素早く吸い込んだり(▲),手を握り締めたり(△)という行動をとる.するとそれに合わせて反応性の発汗がみられた.これは精神性発汗とまったく同じ発汗様式なのだ.緊張も解けボーっとしているところ(C),数分前に見られた発汗もなくなり,さらに負荷試験(▲△)をしてもほとんど発汗は起こらない.
 このようなことから考えると,少し汗ばむような状況下では,精神性発汗部位でなくとも,精神性発汗を発現させるような刺激が加わるだけで,容易に発汗しうる状態になると推測されるのだ.
なんだか,分かりにくかったね.
まぁ,汗の出方って,こんな感じっていうのがイメージできれば,よしとしましょう.
勝手に終わるなって?...m(_"_)mスンマソーン
じゃあ,私の脇汗ってなんなのよ?思ったあなた.手のひらから少し離れますが,今度はそんなお話,してみましょうか...


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