黒と茶の幻想　第4部　節子 / 恩田陸　（小説現代　メフィスト9月増刊号）　講談社　1400円
大学時代の同窓生、利枝子、節子、彰彦、蒔夫。
卒業から十数年後、ふとしたきっかけから、4人は揃って屋久島へと旅立つ。
題して、”美しき謎と過去への思索の旅”。
そこで彼らが直面する事態とは…。

この作品、めっちゃ面白かったです！！
恩田さんの十八番、閉ざされた空間で展開される、緊迫した心理ゲームが最高！
その迫力、そして緊張感は、読んでいて胸が苦しくなるくらい。
彼女の近作、”ネバーランド”や”木曜組曲”と同系統の作品です。
勿論、どちらにもヒケを取らない出来栄えでした。

さて本作では、一部毎に語り手が交替します。
私は、最終回の節子の話が一番好き。
（以下ネタバレ）→近い将来、人間には抗えない力により、愛する人と引き裂かれてしまう節子。終末がすぐ其処に見えている恋愛に、胸が切なくなりました。

その恋愛の終局と、旅の終わりの物哀しさが、上手にシンクロしていましたね。読んでるこちらの淋しさも、増幅されてしまいます。
それでも、雄雄しく前を向き、進んで行こうとする節子。彼女の前途に、どうか沢山の幸福がありますように。←

昔からの恩田ファンには絶対おすすめの作品です。
単行本としてまとまるのは、何時頃かな？今からとっても楽しみです。

ふわふわの泉 / 野尻抱介　（ファミ通文庫）　640円
女子高生、朝倉泉が主人公のＳＦジュヴナイル。

化学部部長の泉は、文化祭の展示品、フラーレンの合成に取り組んでいた。
ところが偶然のいたずらで、夢の新物質合成に成功してしまう。
人類の未来さえ左右しかねないこの発明が、泉の人生を大きく変える…。

ネットにいらっしゃるＳＦ読み、ライトノベルス読みの方々に、とても評判の良い作品です。
それに釣られて私も手に取りました。

…でも、あんまり楽しめなかったなあ。（以下、ぐちっぽいので関心がある方だけどうぞ）→
おそらく、ＳＦ作家である野尻氏が、完璧にこの作品をコントロールしようとした為だと思います。物語が、小さな枠の中に、ちんまりと納まってしまったような…。

現実の科学との整合性を重視するＳＦ作家さんは、自分の手の内だけで物語を終わらせたいんでしょうね。

ただ本作では、設定やキャラクタが優れていた分、手綱を持つ手を少し緩めて、もっと”作品世界が持つ力”にストーリーを預けても良かったのでは、と思いました。←

My Fair Rainy Day　千葉千波の事件日記・5月 / 高田崇史　（小説現代　メフィスト9月増刊号）　講談社　1400円
お気楽、極楽浪人生、ぴいくんこと通称八丁堀（本名は未だ明かされず）が主人公の短編ミステリ。人情あふれる東京の下町が舞台です。
八丁堀とその友人慎之介、さらに従兄弟の高校生、千葉千波（ちば、ちなみ）が大活躍！

高田さんお得意の、論理パズルが堪能できる作品です。
パズルの面白さを第一に追求するからでしょう、設定やストーリーにさほど現実感はありません。でも、このリアリティの無さが却って心地良いですね。スカッとパズルが解けた時の爽快感は最高！気分転換したい方は是非どうぞ。頭の良い運動にもなります。

何気に小ネタ満載の地の文章も楽しいです。
（この”千波くんシリーズ”は、9月に「試験に出るパズル」として刊行されるそうです。）

アベラシオン / 篠田真由美　（小説現代　メフィスト9月増刊号）　講談社　1400円
イタリア美術界を舞台にした、蘊蓄一杯のミステリです。連載第4回。
篠田さんの看板作品、建築探偵シリーズとも微妙に世界が繋がっています（本当にごく微かですけど。詳細は、読んでみてのお楽しみってことで…）。

今回では何と！→（以下ネタバレ）前回ラストで現れた死体が消失してしまいます。さらに、主人公芹の命も風前の灯火に！彼女はこの危機を切り抜けることが出来るのでしょうか！？←

もう、篠田さんたらすんごい場面で”以下次号”にしちゃうんだから。続きが気になって仕様がありません。これで最終話だけ文庫書き下ろしになったら、買っちゃうんだろうな、私。まさに講談社の思うツボです（笑）。

連載を全く読んだ事がない方は、図書館等でバックナンバーを探してから、手に取って下さいね。本誌には前号までのあらすじも付いていますが、それで済ますには余りに勿体ない面白さなので。
バックナンバーが入手できないという方は…文庫が出るまで気長に待つのが宜しいかと思います（私ってば、煽るだけ煽っておいて、鬼畜ですかね？）。

マリア様がみてる　チェリーブロッサム　/ 今野緒雪　（集英社コバルト文庫）　476円
カトリックの、伝統あるお嬢様学校が舞台の学園コメディ。
ちょっと百合が入ったストーリーです（”お姉さまっ”の世界ですね）。

本作で、主人公祐巳も1学年進級して、高校2年生になりました（サザエさん状態にはならず）。新旧メンバーの入れ替わりがあって、ちょっと寂しいです。
でも、学園モノで時間的経過を許すという事は、イコール登場人物が成長していくという事。これからの祐巳の成長を見守っていきたいな。

ほんわかした気分に浸りたい方はどうぞ。
ちなみに、シリーズ第1作”マリア様がみてる”（サブタイトルが付きません）から読んだほうが楽しめます。

エタニティ　1、2、3 / ひちわゆか　（ビーボーイノベルス）　850、850、900円
ひちわゆかの代表作、ＴＯＫＹＯジャンクシリーズより3作一気読み。
日本を牛耳る大財閥、四方堂家を舞台にしたボーイズ・ラブです。
臓器売買を扱った、メディカル・サスペンスとしても楽しめます。

これ、なかなか面白かったです。
人間の悪性と善性がよく描けてると思う。
それから、当初はどことなく頼りなかった高校生の主人公、柾。
幾多の苦難を経て、彼も成長しましたねぇ。
柾が最後に出した結論には、思わずウルッときちゃいました。

ただこの作品、すんごいえっちがこゆいんですよ…。
なので、万人にはお薦めしましぇん…。

竜飼いの紋章 / 久美沙織　（ハヤカワ文庫）　680円
ドラゴンファームシリーズ第一弾。

物語の舞台は、牛や羊と同様に、竜を飼い育てている小さな牧場。
そこで働く気の良い少年、フュンフが主人公です。

その牧場に、突如降り掛かる買収騒ぎ。
都会の成金、ベンジョフリン氏はあの手この手で攻めてくる！
果たしてフュンフと牧場の行く末は如何に…？

どことなく鈍重で、手が掛かるけど愛嬌一杯の竜が可愛い。
お約束だと思いつつ、彼らとフュンフの間にある信頼関係にグッときちゃいました。

それから、ベンジョフリンの一人娘で勝気なヒロイン、ディーディーも良いですね。
ボーイ・ミーツ・ガールものとしても楽しめます。