──────────── 十二月三十一日、深夜。
「…ちっ。何でこんな時に限ってカカシはいないんだよ。ガイは外回りだし。メンドくせぇ」
「仕方ないでしょ。何か知らないけど、今年は忍の数が足りないんだから。それより、そろそろ神事が始まるわよ。神殿に行かないと」
白い息を紫煙に交えて吐き出しながらアスマがぼやく。それに、同じく白い息を吐きながら紅が応じる。
二人は、今朝から二日間、木の葉神社の警備を担当しているのだ。もっとも、警備自体は中忍達が行っているのだが、責任者を負わされている以上逃げる訳にも行かず、定期的に見廻っているのだ。
そしてこれから、新年神事…つまり、歳旦祭が始まる。十数年振りに行われる上に式年祭を控えている今回の神事は、参詣者なら誰でも拝観出来るとあって、神殿付近にはかなりの人が集まっている。神事の途中で万が一にも事故や事件などないよう、警備の人員数や配置に穴などないよう、確認しなければならないのだ。
「でも、ちょっと楽しみなのよね。あの子たちが出るから」
「…確かにな」
自分達の教え子がこの新年神事に借り出されたのは三ヶ月前。それ以来、どれ程キツい練習を受けたのか。日々へばっていく子供達を見せられていた分、期待が募る。
二人で顔を見合わせ、にやりと笑うと神殿に向かった。
新年を告げる合図を兼ねた鳳笙が鳴り、神官による祝詞の奏上が始まる。そして、長い祝詞奏上が終わりに差しかかった所で神降ろしの舞が踏まれ、新年神事が始まるのだ。
神降ろしの舞は、ゆったりとした動きの中に慶びと感謝が表される。
それは、神を呼び、招く意味合いのもの。常なら、祝詞奏上のみで済ませられるのだが、今年は式年祭が控えている。歳旦のうちに神を勧請しなければならない。この舞は、それを意図しているものでもあるのだ。
その為、必ず祭司自らが舞う事になっており、今回は前回に引き続き三代目が舞っている。
能で言えば、翁に近い舞と言えるかもしれない。
二十年振りとはいえ、三代目の舞は危なげなく、また、年を経た事によって表現力も増していた。参詣者のざわめきが一つ、また一つと減っていった。
ゆるりとした神降ろしの舞が終わり、音もなく三代目と囃し方が退出すると、神妙な顔をした子供たちが出てくる。
太鼓にチョウジ。
大鼓にキバ。
小鼓にいの。
横笛にシノ。
最後に謡はシカマルである。
彼らの囃子が始まると、可愛くコミカルな稚児舞が始まる。
嬉しそうに、元気良く、そして凛々しく。ナルトとサスケが二人で舞う。その可愛らしさに、観客の表情が綻ぶ。寒さも飛ばすような二人に、知らず心が温まる。多少、足運びを間違っても、二人の息が乱れても、それこそが舞の振り付けそのものと信じてしまう、そんな風情だった。
元気の良いまま、舞台から退場すると、可憐な巫女舞。サクラとヒナタが鈴と扇を持ち、しゃらんしゃらんと舞う姿は、清しく真摯。幼さと艶やかさを併せ持つ、微妙な年頃の二人の舞は、なんとも言えない世界を醸し出す。
そして。
決して目立つことはない、五人囃。彼らがまた、稚児・巫女の両の舞を際立たせた。個人の資質に添った楽器の選択故に、素養のなかった子供とは思えない出来である。特筆すべきはシカマルの謡。声変わり前後の伸びやかな声が、朗々と謡いあげる。観客は、彼らの退場に気付かない程に、一体と化した舞台に見入った。
「お疲れ〜。甘酒があるから飲んでいーわよ」
表面上は堂々としたモノだったが、内心は緊張に固まっていたのだろう。舞台裏に戻った瞬間に座り込みかける子供たちにアンコが甘酒を振舞う。それまで、斎戒潔斎していた為、仲間と喋る事すら禁じられていた子供たちが、嬉しそうに口を開く。
「や〜っと、終わったってばよ」
「二度とやりたくねぇ」
「き、緊張したぁ…」
「こらこら。まぁだ、神事は続いてるの。ここからが本番なんだから。ちゃあんと、観てなさい」
気が抜けてはしゃぎ出す子供たちに笑いながら注意すると、誰も居なくなった舞台を指す。
「神主さんの祝詞で神様を起こして、三代目の舞で神様を呼んだの。神様を迎える準備が整いましたーってね。それから、アンタたちの舞で、木の葉は神様のお陰でこんな元気な坊や達と可愛い女の子が居ますよ、て教えてあげた訳よ」
大人しくなって、舞台に目を向ける子供たちに笑いながら説明する。口調が心なしか先生っぽくなったのは、ここ三ヶ月ばかり付きっ切りで舞を仕込んでいた所為だろうか。
「…それでね。ここからが本番。神様はまだ、近くには来てくれたけど木の葉の里には来てくれてないから。依り代に呼び込まなきゃいけないの」
「依り代?」
「そう。今から神楽を舞うから。その舞い手の中に神様が入るのよ。これは、男神の舞。そして、男神にはお嫁さんが居るから、彼女も呼ばないといけないでしょ?それが女神の舞。ちゃんと、観てないとね」
「誰が舞うの?」
「観てたら判るわよ。…それにね。神様がちゃあんと呼べると合図があるわよ」
「合図?誰でも判るのかってばよ?」
「判るわよ。雪が降るから」
「雪?雪が降るの?晴れてるのに?」
白々と明けていく空を見ながら問う。初日の出に照らされる、雲一つない空。
「らしいわよ。…でもねぇ、初代様が舞った時以来、雪なんか降った事ないらしいけどね」
「へー」
感心し、必死に舞台を注視する子供たちに、裏方に従事している者達が微笑んだ。
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