──────── …全く。そんなんで何でもないはないでしょう?」
 呆れた吐息と共に肩を強く引かれ、体勢を崩してしまう。ぽすん、という音が変に耳に残って、そのまま顔と肩と背に暖かい物を感じる。
 え?
 も、もしかして、抱き込まれてる?
 状況を認知した途端、今まで溢れていた涙が止まり、急激に顔が熱くなっていく。
「さ。話して?何をいきなり泣いてるの?」
 耳許で低く問われる。
「あ、あの、ほんとに何でも…」
「嘘おっしゃい。何でもなくてあんなに哀しい顔しませんよ」
 額同士をくっつけた状態で、問い詰める口調。これは、きっと嘘を許してくれない。誤魔化そうとしても写輪眼を使ってでもバラされそうな気配すらする。…でも、俺だって解らないんだから、説明しようがないじゃないか。
 ただ、哀しくて、痛かっただけ。
「ほ、ほんとに何でもないんです…!本当に、カカシ先生って子守慣れてるなって思って、きっとご家庭でもこんな感じなんだろうなって思っただけで。俺にも何が何だか…」
 そう。
 本当にそれだけなんだ。そう思ったら何かいきなり勝手に涙なんかが湧いてきて…。やだな。またこみ上げてきた。

「…は?ゴカテイ?」

「えぇ。お子さん、小さいんでしょう?」
 驚いたように瞬きをするカカシ先生に頷く。
 だって。
 そうでもないと、こんなに子供に慣れてる説明が付かないし。きっと凄く可愛がってるんだろうな。…いつも、ナルトたちに対するのを見てても判る。

「…いませんよ、子供なんて」

 え?
 呆れ気味の声に顔を上げると、苦笑を浮かべているカカシ先生。
「なあに?アナタ、そんな事考えて泣いちゃったの?」
 くすくす笑うカカシ先生を呆然と見詰める。まさか、そんな事で泣いた?
 俺が?
「俺に家族なんて居ませんよ。居ても忍犬たちだけですねぇ。アナタ、よく知ってるじゃない。合鍵、あげたでしょーに」
「嘘」
 だってそれじゃあ、説明がつかない。
 …そりゃ、合鍵貰ったし、たまに連絡もしないで行くけど。でも。
「嘘です。だって、あんなに…」
 慣れてて。懐かれて。
 任務で子守をした可能性がほぼ、ない以上、そうとしか考えられないじゃないか。それも、絶対可愛がってるって。そう思ったのに。
「…あー。慣れてるのはね、『子守に』じゃなくて『コイツらに』ですよ」
 俺の表情を正しく読んでくれたらしいカカシ先生の言葉に首を傾げる。何?意味が解らない。
「コイツらが本当に小さな頃ね。任務明けの度に子守させられてたの。…した事ないのはサクラだけですね」
「へ。何で?」
「…何ででしょうね。とにかく!俺には妻子はありませんよ。居たらアナタの事、口説いてないよ」


 はい?


 くすりと笑われたのに反応して、思わずカカシ先生から飛び退く。今、この人、何て言った…?
「俺ねぇ、浮気はしない主義なんです。妻子ある身でアナタを口説くような不誠実な真似、する訳ないデショ」
「な…」
 何て事言い出すんだよ!
 そ、そりゃ、そんな事された、身に覚えがないとは絶対に言わないけど。でも、何の関連性が…。
「ま!でも、アナタが俺の事かなり好きだって判ったから、こんな誤解も悪くないですねぇ」
「な、な、な…」
 そりゃ、誤解だった…ってか、俺の早とちりだった、て事は判ったけど。かなり…いや、ほんのちょっとだけ、ほっとしたような気がするけど。でも、それが何でそんな事になるんだよ。
 大体、俺はカカシ先生の事は…──────────────── …その、かなり、好き…だけど。
 でも!
「な〜。ナルト。イルカ先生、俺の事凄い好きだって」
 小さなサスケから受け取った更に小さなナルトの頬にキスしながら笑う。…視線だけ、こっちを向いて。
「ね?子持ちかと疑った途端に泣き出した、イルカセンセ?」
 子供達を周囲に取りつかせたまま、視線をこちらに定めて、目を弓形に細めて笑う。
「そ、そんなこと…」
 慌てて否定しようとすると、すい、と手を伸ばされる。
「ほら、おいで。イルカ先生?それで俺にゴメンナサイでしょ?」
 くすくす笑うカカシ先生に、何故だか神妙にこっちを見詰める小さな18個の目。それに釣られて、つい、ふらりと傍に戻ってしまう。
「ほら、ゴメンナサイは?」
 笑ったままのカカシ先生の前にぺたりと座ると、キバといのが膝に上ってくる。元はアイツらだし、初めて見た時よりは慣れたけれど、あんまり小さくて、やっぱり少し緊張してしまう。
 その緊張を解くようにカカシ先生がこっちの髪に触れ、くつりと笑う。
「…その。あの、ご、誤解して、ごめんなさい」
 …やっぱり。誤解したのは悪いと思うから。
 理解力があるかないかは判らないけれど、子供達の前で変な意地を張ってはいけないから。
 この先まだ、子守が続くのに、変に仲違いしたままじゃマズいから。
 他意はない。
 これ以上、呆れられたくないとか、誤解だと判って物凄く安心したからだとか、そういう事は一切ない。
 ない筈だ。
 …多分。
「ごーかっく」
 ただでさえ秀麗な顔に鮮やかな笑みを浮かべて、満足そうに合格を言い渡すカカシ先生から、つい、目を逸らしたのも…多分、他意はない…と思う。
 …ちょっとだけ、自分専用、とか思ってしまったけれど。






 ちなみに、子供達は3日後に、勝手に元に戻ったのを追記しておく。


粗品。10万打キリリク。…こんな感じで如何でしょう…?

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