…幼児ってのは意思疎通が計りにくい所為か、怪獣のようだと聞くけれど。
それが的を射た表現だとつくづく思い知った。
アカデミーの新入生よりもじっとしていない。…保育園の子供だってもう少し落ち着いている…ような気がする。
本当に、何をしだすか判らない。言葉だって通じてるかどうか判らないし。カカシ先生の話だと、大概こんなモノらしいが、本当だろうか。
…まぁ、救いがあるとすれば、こんなに小さくても元の…俺の知ってるコイツらと同じ性格してるので、何となくポイントが判るって事かもしれない。
…それにしても…。
カカシ先生、本当に手慣れてるなぁ。俺なんか、子供たちが何かしでかす度にビクビクし通しなのに。のんびり座って見てる。ナルトだって、先刻俺が抱いたら泣きじゃくってたけど、カカシ先生に変わった途端、上機嫌なんだもんな。
…上忍やってるより、保育園やアカデミーの先生やった方が向いてるんじゃないか?
いや。…里一の業師を捕まえてそれも変だけど。
でも本当に慣れてる。
「イルカ先生?どうしました?」
「あ。いえ。…あやすの上手ですね」
「…これ?慣れで〜すよ。慣れ」
「…はあ」
慣れって言われても。それって慣れる位頻繁に子守してるって事だよなぁ…。
事実、俺は全然慣れてないし。
逆に慣れてるカカシ先生の方が変じゃないか。
カカシ先生だって子守なんてしてない年代なんだから。
…そうだ。
変なんだ。
何でこんなに子供慣れしてるんだろう…?
だいたい、カカシ先生が下忍だったのなんて、ほんの少しの間だし。今の七班だって、子守なんて殆どない。
いつ、子供に慣れたんだよ。
いくら忍犬飼ってるからって、流石に人間の子供とは勝手が違うだろうし。
こういうのって毎日やってりゃ慣れるんだろうけど。
もしかして。
…毎日…やってる…のかな。
ふと、思い付いただけの事、だった。
カカシ先生が凄く子供慣れしてて、俺と雲泥の差って位、容易く子供達をあやしてて(俺だって、幼児はともかく、子供に関しては一応プロなのに)。
本当に、父親ってこんな感じだろうな、て思って。
もしかしたら、こういう状況は日常的なのかな、て思って。
本当に本当に、それだけだったのに。
不意に鼻の奥がツンとしてきてしまった。
ヤバ。
ポタリと。
主を無視して勝手に落ちた雫に慌てる。
何で。
泣く理由が判らない。
確かに胸は痛い気がするけど。その原因が解らない。
ただいきなり。
本当にいきなり。
胸が締め付けられて。
鼻の奥がツンと痛んで。
哀しくなってしまったから。
何で────────
「…イルカ先生?」
唐突に挙動不審になった俺を訝しく思ったのだろう。カカシ先生が心配そうに覗き込んで来る。
「な、何でもないですから…!」
こんな情けない顔を見られたくない一心で顔を背け、慌てて顔を拭う。にも関わらず、何故か雫は後から後から湧いてくる。痛くて痛くて耐えられない。
いい大人なのに。
こんなみっともない。
そう、思えば思う程に、知らず湧く涙を止めようとすればする程に、溢れる。どうしようもなく混乱しかけた時、遠くでカカシ先生の溜息を聞いた。
「お前ら、ちょっとナルト頼むね?」
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