「ここです」
案内されたのは、火影屋敷の奥の奥。九尾の厄災の後、一時的に火影屋敷で育った俺ですら入った事のないような場所にひっそりと建てられた離れ。
火影屋敷の敷地内なのに、滅茶苦茶強力な結界が張ってあって、俺なんかじゃとてもじゃないけど中を窺う事は出来ない。
ここで、何があるんだ…?
「…ったく。大騒ぎだねぇ」
え?
疲れたように呟くカカシ先生を見る。
…こんなに強力な結界なのに。中、判ってるんだ…。流石だなぁ…。
「イルカ先生」
「は、はい」
いけない。呆っとしてる場合じゃなかった。これから、機密性の高い任務だって言うのに。
…カカシ先生があんまりいつも通りだから、つい、気を抜いてしまった。
「…とりあえず、玄関入ってすぐの所に部屋があるので、そこでベストを脱いで、ホルダーと額宛も外してください」
ベストとホルダーと額宛を外す…?
「はぁ?!」
「…危険ですから。俺も外します」
…危険?何が?装備を外した方が普通、危険なんじゃないのか?
疑問はさておき、言われるままにベストを脱ぎ、ホルダーを外し、額宛も外す。カカシ先生も同様で、更に手甲も外している。…ここまで丸腰になるなんて、『何』が危険なんだろう?そしてそんな事より。
…どこから、あれだけの忍具が出て来るんだろう…?
ベストやホルダー、ポーチ以外の場所からも出てくる忍具に呆然としてしまう。戦忍って言っても、ここまで武器庫みたいになってるのって滅多にいない。
この辺が一般忍と天才エリート上忍の差なんだろうか…。
「さて。気を入れてくださいね。結構、凄いから」
肩を軽く回し、苦笑気味に言われて頷く。…訳が判らないけれど、とにかく指示に従わなくちゃいけないんだから。
玄関脇の部屋を出て、更に奥へ。離れと思っていたけれど、かなり奥行きがある。…ちょっとした戸建の家…いや、小規模な屋敷と変わらない。幾つかの部屋を通り過ぎ、一番奥、南向きの部屋の前のドアに立つ。
…複数の声…?
「…どうぞ。これが任務です。見た方が早いでしょう」
ドアを開けると。
憔悴したホムラ様とコハル様と。
そして。
どこか見た事のあるような、子供たちがいた。
…。
………。
………………。
「あの、カカシ先生」
「はい、何でしょう?」
「任務内容をお聞きしても宜しいでしょうか…?」
どう見ても乳幼児(推定2歳。…1歳未満ぽいのも居る)としか思えない子供が複数。
憔悴しきりの相談役のお二方。
Bランクとは言っていたけれど、精々Cランクだとかいう任務。
考えたくはないけれど、この状況の意味するところは…。
「ご覧の通り、『子守』です」
さらりと告げられた事実に、気が遠くなったのは、許して貰いたい。
「…子守は解りました。で、何で俺なんでしょう…?」
取りあえず、数秒で立ち直り、問い質す。子守なのは解った。でも人選が解らない。
なんで、俺なのか。いくら機密性が高いと言っても、信頼の置けるベビーシッターくらい居るだろう。
それに、忍の中にも子育て経験のある者は多い。何も独身の俺じゃなくても良いと思う。
…アカデミーの教師をしているので子守は得意と思われてるとしたら、それは間違いだ。こんな小さな子供を相手にした事は過去、一度もないのだから。
「機密性が高いって言ったでしょ」
「はぁ」
苦笑しながらカカシ先生が言う。
「見て、解りません?」
「何をです?」
「こいつらの、顔」
顔?そりゃ、どこかで見たような顔だとは思ったけど…。
「あの」
「こいつらねぇ、新米下忍たち、なんですよねぇ」
のんびりと告げられる。
え?
今、何て言った…?
新米、下忍…?
「…て。…え?」
「アナタの元生徒の。七班・八班・十班の、子供達です」
「ええええええええ?」
穏やかに、さり気なく、あっさりと教えられた内容に。
驚愕に悲鳴を上げてしまったのは。
もはや仕方ないと言えるだろう。
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