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山菜採りへの道
 2003年春、山菜関係の仕事をする決意を固めた時点で、私の山菜知識はほぼゼロ。

 そんな私が山菜採り名人になるまでの道程を描いた地沸き肉踊る感動巨編・・・にはならないハズ。「山菜採りへの道」は、自然や山歩きを愛する私の、山菜採り生活やそれから得た経験・知識などを書き散らしていくコーナーです。
 山菜を自分で採る人もそうでない人も楽しめるようなモノにしていきたいと思っています。文体がマチマチなのはご愛嬌・・・ってことで。


 「×」がついたものは、読む人の気分を害する可能性のあるモノですので、見ないほうがいいでしょう。ちょっと毒吐いちゃってます。山菜採りや田舎暮らしの「暗部」を知りたい方だけ読んでくださるようお願いいたします。m(_ _)m

目次 目次(2ページ目)
はじめはふきのとうから 杉林の宝石
木の芽を採る 「きのこ博士」
山菜眼 雪消えを追う
熊の気配
熊よけ
熊より怖いモノ
巣立ち
山菜の探し方
山菜採りの分類
× ごみを捨てるヒトビト
道遠し
× ダマされる
〜塩蔵わらび編2003年初夏〜
たけのこ採りの恐怖
× ずりぃわらしだ

はじめはふきのとうから
 少なくとも阿仁では一番先に出てくる山菜がふきのとうです。必然的にふきのとう採りから始めることになりました。 ふきは何所にでも生えています。道の脇、崖、畑・・・。とくに畑では手ごわい雑草と化しています。畑の雑草としてのイヤラしさはたいしたことはないのですが、生命力が強いのがやっかいです。 「ふき」のうち、春に出る花が咲く茎を「ふきのとう」と呼び、それ以降に出てくる大きな葉がついた茎を「ふき」と呼んでいます。質のいい「ふき」は奥山に行かないと採れませんが、「ふきのとう」は身近なところでも採ることができます。春の雪解けで真っ先に顔を出す最も身近な山菜がふきのとうです。 そんな山菜ですから山菜採り初心者には最もとっつきやすい山菜と言えるでしょう。 採るのはふきのとうのつぼみだけではなく、茎が20cm以下の茎の伸びた状態のものも採ります。雄花(花の部分が白いものが雌花、黄色いのが雄花)が咲ききらないものをとります。それを塩漬けにしたものを加工用原料にするのです。熟練の山菜採りは一日で60kg近くとりますが、私は8kgがやっとでした・・・。






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木の芽を採る
 木の芽といえばたらの芽しか知らなかったのですが、この年(2003年)には「こしあぶら」を知りました。

 こしあぶらの木はつるつるしていて、木の枝のつき方(分かれ方)はシンプルです。こしあぶらの芽の旬の時期は、周りに緑が少ない時期なので、慣れてくるとぱっと見てわかるようになります。初心者にも見分けられやすい木です。

 高くなる木ですが幹が細くて弾力性に富む木なので、芽を採るときには体重をかけてしならせて採ります。あんまり力を入れすぎると折れてしまうので注意します。

 こしあぶらは脂肪分が多いようで、独特の香りがあります。採った後は車の中がなんともいえないいい香りにつつまれます。山うどなどもいい香りがするのですが、私はこしあぶらの香りが一番好きです。


 たらの芽よりも芽の数が多いのですが、採り過ぎないように注意しています。阿仁では知名度がないので今のところ大丈夫ですが、いずれはたらの芽と同じ運命をたどることになると思います。つまりは「ほ木」として全ての芽を切り取られ、衰弱し、枯れていく運命です。

 里山のたらの芽はほぼ全滅状態です。奥山に行かなければ採ることはできません。かといってうっそうと草木が茂る場所にはありません。日当たりがいい場所にタラノキは生えます。ですから(林道を作るために林を切り崩した)林縁や木を伐採して数年の場所によく自生しています。そして周りの木々が大きく育って日陰になってしまうと消えていってしまいます。近年タラノキが激減しているのは、「ほ木」として切り殺されてしまうのが大きな原因と言われていますが、このような環境の変化も関係していると思われます。
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山菜眼
 山菜採り名人は、ぱっぱっと山菜を見つけていきます。私の場合、じーっと目を凝らして探して歩いてピントが合ったものをやっと見つけることができますが、見逃すものもかなり多いはずです。慣れてくると、ピントが合ってない状態でも、ざっと視線を流すと姿かたちで「あれっ」と気づくことが多くなってきます。名人級になると林道を車で走っていても(時速〜20km)見つけることができます。さらにすごい人は舗装道路を走っているときにも見つけることができます。私はこの、山菜を発見する眼能力を「山菜眼」と勝手に命名しています。
 私のような山菜採り初心者は、しどけを探しているとき、頭の中をしどけのカタチが占領しています。そのため、同時期に同じような場所に生えるあいこを見逃します。逆にあいこを探しているときにはしどけを見逃します。山うどを探しているときはすぐ目の前にあるタラノキやコシアブラを見逃します。



 私はまだ山菜眼のチャンネルをひとつにしか合わせることができません。そのため上のようなことが起こってきます。山菜取りの師匠に聞くと、これは「慣れ」しかない、ということでした。私がそこまでになれるのはいつのことやら・・・。とりあえず2004年には2チャンネル同時受信できるくらいにはなりたいと思います。 
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熊の気配
 山菜採りのフィールドには熊がいます。というか、家の裏にも熊が出てくるんですから、阿仁では熊に出会う可能性は非常に高いといえるでしょう。「マタギの里」の面目躍如ってところですね。

 阿仁町には熊牧場があるのですが、そこで見ると、ツキノワグマはたいした大きさではありません。一見「なんだたいして怖くないや」と思う人も多いそうです。しかし手を叩いてえさをねだっている熊たちの行動をよーく観察していると、彼らが恐ろしい力を持っていることに気づきます。あんなのに山の中で突然出会ったら・・・・そう思うと非常にコワイです。

 幸いなことにまだ熊さんに直には出会っていませんが、気配を感じたことは何度かあります。

 まずは早春。まだ雪が残る時期。暖気で雪がなだれて土が出ると、植物が顔を出します。その柔らかな新芽を食べに、冬眠から覚めた熊が来るのです。山菜採りと同じ場所をめがけてくるのですから鉢合わせしてもおかしくありません。実際私もよく熊の足跡を見つけました。

 あとは秋。ある日きのこ採りにでかけると、山の上から「ボキッ」という音がします。しばらくするとまた「ボキッ」と音がします。少し足を止めて山の上の方に耳をすましましたが、どうも音の出所が妙です。なんだろなーと考えながらもきのこを探していたら、見つけてしまいました。私の腕ほどもある栗の木の枝と、熊の糞。そう、熊さんは栗の木に登って枝をへし折っては栗を食べていたのです。私がすぐその場を離れたのは言うまでもありません。もしかしたら、樹上で息を潜めた熊が私をじっと見つめていたのかもしれません。 
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熊よけ
 熊をヒジョーに恐れる私が実践している熊よけの方法を紹介。

 基本的に熊は臆病な動物で、人の気配を感じると逃げていってくれます。熊に襲われるという事件は、突然鉢合わせする事で起こります。熊も突然人間に出会ってびっくりするわけですね。で、えーい、襲っちゃえ、と。ですから人間の存在を熊に知らせることが重要になります。

 熊よけとして最もポピュラーなのは「鈴」でしょう。地元の山菜採りはうるさいと言ってつけない人も多いですが、私はたくさんつけています。ベル型のものを2個、皮に3つの大きな鈴がついたものを1個、キーホルダー型鈴2個。ただ装備して歩いているだけで賑やかなのに、私の場合熊怖さのあまりそれを振り回して歩くものだから、シャンシャンチンチンうるさいことこのうえありません。でも、まだまだつけていく予定。熊鈴コレクターになるかも。

 二つ目は爆竹。山火事にならないように、水の流れる沢に入っていくときに限って使っています。沢で熊らしき痕跡や臭いに出会うことが多いので。熊と鉢合わせしてしまったときにすぐに使えるよう、胸ポケットにいつでも常備しています。でも実際その場になったら、胸ポケットから爆竹とライターを取り出して、火をつけて、投げつける・・・という作業ができるか不安です。真っ先にナガサに手がいきそう。・・・鉢合わせしたときに爆竹投げるっていうのは効果的なんだろうか?かえって刺激しそうな気もするが・・・。

 もうひとつ熊よけの役に立つのが「蚊取り線香」だそうです。6月前後からアブやカなどの虫が増えてきます。特にミズなどはモロ沢ですから蚊取り線香は必須装備になってきます。この煙が沢を上っていって人の存在を悟らせてくれるらしいです。タバコも同じ役を果たすらしいですが、タバコを吸わないので私は蚊取り線香派。

 ただ、モラルの低い入山者が弁当の残りなどを山に捨て、その味を覚えた熊が人を襲う、という事もあるらしいです。そんな熊にとってはわたしは絶好の的かもしれません。


※熊のことについて知るうち、熊を刺激するのは危険ということがわかりました。これを書いた時点では、出くわしたら爆竹を鳴らして追い払おうと思っていたのですが、それはかえって危険だそうです。大声を出すなどして刺激すると襲われる可能性が大。不幸にして出会ってしまったら、刺激しないように、静かに、かつ背を向けないようにして離れるのが一番とのことです。(2004年末)
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熊より怖いモノ
 熊の他にも怖いものがあります。

 ひとつは「マムシ」です。他の蛇は怖くないのですが、マムシは少し怖いです。毒を持っているのももちろん怖いですが、その習性がコワイのです。他の蛇は歩いている人間の気配がするとさっさと逃げてしまいますが、マムシはじっとしています。日当たりのいいところでわらびを採ろうと手を伸ばすと、その先にマムシがいた・・・ということがよくありました。いくらマムシがおとなしくて、噛まれてもたいした毒ではないといっても、治療しなければいけないから痛いし面倒くさいのは確実。

 ほかにも「つつがむし」や「うるし」などがありますが、0.1mmくらいのツツガムシはいくら気をつけてもどうしようもないですし、体質的にうるしには強いらしいのでこれも大して気になりません。

 マムシよりも熊よりも、ダントツで怖いのが、スズメバチです。コレは怖い!熊のコワ度が10なら、スズメバチのコワ度は100。カレに出会うくらいだったらエモノ持ったヤンキー10人に囲まれるほうがまだマシ。なんたって相手はムシですから、哺乳類と違って何考えてるかわからない。
 一度刺されたら身体が抗体を作ってくれます。が、この抗体がアダになり2度目に刺されたときに過剰反応してショック症状を起こし、下手したら死にます。これをアナフィラキシーショックといいます。スズメバチの致死率は非常に高いのです。幸い私は一度も刺されたことはありませんが、「死」にリーチがかかるってのは気分的につらいことこの上ない。できれば永遠に刺されたたくありません。


 カブトムシくらいの大きさのスズメバチが扇風機のような羽音をたてて近づいてくると、私はしゃがんで動きを止めます。動くものに反応するらしいです。なぜかはわかりませんが、スズメバチは決まって頭の周りを飛び回ります。もしかしたら人間の吐く息か何かに反応しているのかもしれません。それと、「黒いもの」を攻撃する本能があるようです。蜜をとりにきた熊を攻撃するためでしょう。幸いというかなんというか私の頭髪はまだ健在ですので、頭の周りを飛び回るんだと思います。扇風機のような・・・と書きましたが、決してオーバーに書いたわけでなく、本当のことです。音だけでなく、耳の辺りに来たときは風もきます。ここらへんが一番の恐怖を感じる瞬間です。これにくらべればドス抜いたヤク○さん10人に…(以下略)
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巣立ち
 山菜採りを始めてからずっと、毎日毎日山菜採りの師匠と一緒に山菜採りをしてきました。ふきのとう、こごみ、たらのめ、こしあぶら、しどけ、ぼんな、あいこ、やまうど、わらび・・・を教えてもらいましたが、だんだん一人歩きをしなきゃアカンと思い始めました。

 師匠はベテランですから、どこにどの季節になにがあるかを熟知しています。ですから、師匠の知っている場所に行き、採る。翌日も師匠の知っているところに行き、採る。これではいつまでたっても一人前になれません。

 というわけで、わらびの季節に卒業です。後は師匠から習った知識をフル動員して山菜探しの毎日です。あそこにありそうだ、と見当をつけて沢や斜面を登っていっては手ぶらで戻る、なんてことも多いですが、実際かな〜り多いですが、その分目指す山菜を見つけたときにはそれはそれはウレシイものです。そして新しい場所を知るのも楽しいです。何度も何度も無駄足踏んで骨折って、山菜採りは成長していくのです。
 
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山菜の探し方
 山菜採りは、ふきのとうを探すとき、ふきのとうだけを探しているわけではありません。わらびを探し、秋のきのこを探しています。「ふきのとうは早春だよ。わらびも秋きのこもあるわけないじゃん」、そう思う方もいることでしょう。しかし本当のことなのです。

 早春に外を歩いていると、去年育ってそして枯れていった植物を見ることでしょう。チェックするものの一つははそれです。わたしがこの方法で探すのは、わらびとこごみです。あと秋田では食べる習慣がないので採っていませんが、いたどりも目立つ枯れ草をしています。ベテランはあいこ、やまうど、あざみ、ぜんまいなどもこの方法で見つけるらしいですが、わたしにはまだ区別がつきません。

 わらびは日当たりのいいところに群落をつくるので、高圧線の下(メンテナンスのため電力会社で下刈りをしている)や、何年か前に伐採した斜面などにまず目をつけます。そしてわらびの枯れ草がないか探すのです。わらびの枯れ草は赤い色をしていて、腐りにくいのかカタチがはっきり残っています。下草が多く茂ってきても下から伸びてくる草の上に乗っかって起きて来るので、夏ごろでも目立ちます。大群落地では斜面一面が赤褐色に染まります。 

 秋きのこを春に探すとは?探すのは木。沢や川近くの湿気のある場所の倒木には「さもだし」や「なめこ」が生える可能性がありますから特に目をつけます。杉の切り株には「すぎひらたけ」。枯れた(?)きのこを発見したりすることもあります。


 探すのは「ガラ」や「木」だけではありません。数々の山菜やきのこの、それぞれが生えそうな場所を頭に入れておくのも大切なことなのです。 
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山菜採りの分類
 山野を歩いていると、同じ山菜採りの人に出会うことも結構あります。山菜採りの人たちをわたしなりに分類してみました。

 @アウトドア派山菜採り・・・自然が好きで山野に入り、楽しみで山菜を採る方々です。必要な量だけ採り、ベテランですと良いものだけしか採りません。

 Aリタイア山菜採り・・・仕事を退職して年金生活をしながら、地元の山菜加工所や集荷業者に山菜を売っている山菜採りです。多くは林業を長年やってきた方々で、山の隅々まで熟知しています。伐採や切り出しの休み時間や時には真っ最中に、山菜を探して歩いていたそうです。採る量は半端ではありません。よく夫婦で行動しています。品質は人によりますが、歩留まりの悪い採りかたをする人も結構多いです。


 Bお母さん山菜採り・・・若いお母さん方(ともすけ注:阿仁町で「若い人」は60歳以下の人を指します。)が少しでも家計の足しに、と山菜を採る形態です。採る量はそんなに多くありませんが、とても良いものを、綺麗に丁寧にに束ねて持ってきてくれます。

 Cお父さん山菜採り・・・若いお父さん方(ともすけ注:阿仁町で「若い人」は60歳以下の人を指します。)が、休日に採りに行きます。採った山菜は、家で塩漬けや缶詰にして保存して食べたり、知り合いにあげる用途に使うことが多いようです。道の駅の直売所に出す人もいますが、どちらにしても「リタイア山菜採り」よりもだいぶ少量です。品質はとてもいいです。

 D集荷業者山菜採り・・・ともすけのような山菜集荷業者も、他の山菜採りに頼むとともに、自ら採りにいっています。元手がゼロですし、歩留まりが悪いものを採らないのでこうでもしないと利益はでないのです。

 E雇われ山菜採り・・・山菜集荷業者などに雇われた山菜採りです。日給プラス歩合らしいです。白い大きなワンボックスで集団で現れ、山菜を根こそぎ採りまくっていきます。

 Fじっちゃんばっちゃん山菜採り・・・その日食卓で食べる量を、あまり奥に入らずに採っています。よく林道で出会って車で家まで送っていきます。
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× ごみを捨てるヒトビト ×
 山野を歩いていると、ごみをよく見かけます。こんなときなんだかがっかりします。どんな人がごみを残していくのか、わたしの少ない経験のなかからですからだいぶ偏っているとは思いますが、少し書いてみたいと思います。

 田舎幻想(いなかファンタジー)という言葉があります。アウトドアフィールドにおいて、「都会人」は自然を汚し、「田舎人」は大切にする、というイメージを持っていないでしょうか。ですがそんなことはありません。「都会人」は冷たい、「田舎人」はあったかい、というモノと同じで、「都会だろうと田舎だろうと関係なくそういう人はそういう人」です。


 山菜採りの「ポイ捨て」という視点から見ると、はっきり言って田舎の人のほうが捨てています。里では捨てなくても、山の中では捨てます。山の中ではだれも見てませんし、「おらほの敷地の中さごみ捨てた」といわれることがないからでしょう。お年寄りの山菜採りと一緒に歩いていると、平気で空き缶やお菓子の袋を捨てています。昔の、おにぎりを包んだ笹の葉を捨てるような感覚で捨てているみたいです。

 特にひどいのが、上の「山菜採りの分類」で述べた「雇われ山菜採り」です。彼らは多町村から来る人で地元の人間ではありませんから、山菜は小さいもの・細いものから、時期を過ぎたものまで、資源を残すという考え無しに片っ端から採っていってしまいます。そしてその代わりに例外なくコンビニ弁当をはじめとする大量のごみを残していきます。さながら台風が通り過ぎたような惨状です。

 以外に多いのが、昔の電力会社、林道作りの建設会社、林業関係者のゴミです。強調しておきたいのは「昔の」というところです。最近ではこんなことはありません。数十年前のものです。使った機械ののオイル缶、ワイヤーなどの朽ちた残骸がまとめて捨ててあるのをよく目にします。おどろいたのは、里や林道から1時間も2時間も離れた場所にある大量の一升瓶やビールケース。背負ってきたのか、高圧電線の資材をヘリで運んだときに持ってきたのか・・・。その量ははんぱじゃありません。これにはびっくり。


 不法投棄も多いです。林道の途中の川へ落ちていく崖、このようなところは不法投棄のメッカです。始末に終えないのは、田舎では共同体のつながりが強すぎるためか、不法投棄を発見してそれを行政や警察に報告すると、「通報」ではなく「密告」と言われることです。飲酒運転の「通報」も「密告」と呼ばれます。そこには多分に批判や侮蔑の意味が含まれています。狭いコミュニティだと「負のハナシ」だけが野山を駆け巡るのでそれを嫌って「通報」をしない人が多いのです。「○○が密告したどや」ってなことが話されるのはイヤだと。また、「親戚だ」ってだけで何も考えず投票するような、人のつながりを「大切にする」土地柄なので、見てみぬフリをする人が多いのも事実です。これらのことが不法投棄を助長します。

 逆に、自然が好きで都会からわざわざ山に来た人には、ごみを捨てていく人はほとんどいないようです。数年前までは多かった釣り人のごみ捨てもほとんどなくなりました。古くから自然と付き合いのある人々が平気でゴミを捨て、付き合いの浅い人々が自然を大切にしている・・・。皮肉な話。
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道遠し
 山菜採り名人と呼ばれるレベルに達するには、山菜の自生場所を数多く知らなければならないのはもちろんですが、他にも必要なことがあります。それは教えてもらって覚えられるものではありません。

 いくら「しどけ」の自生場所を100箇所覚えていたとしても、まだ谷に雪が残る場所に行ってしどけは採れませんし、春も早よから陽がよく当たる場所に5月下旬に行っても採れません。「どの時期にどこに行けば旬の山菜に会える」と判断できるようになるには長年の経験が必要です。名人は、里の植物の様子やある一箇所の山の様子を基準にし、天候、斜面の向き、日の当たり方、去年の人の入り方、積雪、その他いろいろな要素を考慮に入れて、「○○に行こう」と決めます。たとえそうやって決めて行った場所の山菜が旬のものでなくても、その場所の状態を見てデータ修正、そして次にはちょうどいい場所を当ててしまいます。

 はたして私がこのレベルに達するまでには何年かかることか・・・。
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× ダマされる〜塩蔵わらび編2003年初夏〜 ×
 たらの芽やぼんなが終わり、しどけ、あいこ、やまうどの最盛期の半ばあたりから、わらびが採れ始めました。

 塩蔵わらびを大量につくるため、各地の山菜採りの方々にわらび採りを依頼しました。近くの人からは生わらびを、遠くの方からは塩蔵わらびを買い取るカタチにしました。そんなある日ある山菜採りの方からわらびを買い取って欲しいという人がいる、と人を紹介されました。遠い場所だったので25kgの塩袋を2つ置いて塩蔵の仕方を説明し、塩蔵を頼んで帰ってきましたが、数日後、わらびをとったので取りに来て欲しいと電話が来ました。

 ちなみに、最初の日に説明したことは以下のことです。
@私の家から遠いので、塩蔵をお願いすること。そこへの往復の時間的・予算的余裕がない。
A塩蔵の仕方。塩のパーセンテージ、注意することなど。
B採ってきたものをその日のうちに塩蔵にしないといい塩蔵品ができないこと。
C最低でも1ヶ月半以上塩漬けにしておかないと『塩蔵』とは言えないこと。目方は減るし塩代はかかるが塩蔵品はその分生よりもやや高く買取すること。
D塩漬けにしてすぐ塩水から上げてしまうと空気に触れて変色してしまい商品にならないこと。

 あれだけ説明して「塩蔵」をお願いしたのに、いきなりこれか・・・と思いつつ、とりあえず夕方遅くに買取に行きました。わた
しの前に持ってこられたわらびは15kg弱。往復のガソリン代・拘束時間と収支的に釣り合わない量。そして追い討ちに「塩蔵にすると目方減るからやっぱり生買ってけれ」。その分買取料金高くなってると説明したはずなのに・・・。
生で買う件は、「周りの人にも何件か依頼すれば大丈夫かな」と思って了解しました。

 計量していたら、その人が一輪車に乗せて何かを持ってきました。「わらびの塩漬けだぁ」と言います。確かに塩で水が抜けてしわになっていますが、そのときまで見てきた塩蔵わらびよりも張りがあって色も鮮やかです。いつ漬けたのか聞いたら「もう一月半ぐれぇ経ったべか」。となりで旦那さんがうなずいています。山菜一年生の私はこう考えました「山菜名人が漬けるとこうもいいものができるのか!すごいな」。家に帰って生わらびは結束しなおして塩蔵し、塩蔵わらびもすぐに塩蔵しなおしました。


 さて翌日、前日塩蔵した「塩蔵わらび」の上に、その日採ったわらびを漬けようとした時、「塩蔵わらび」が真っ黒に変色していることに気がつきました。後でその人の隣の人に聞いた話では、私が「塩蔵わらび」だと言われて塩蔵品値段で買い取ったモノは、前日漬けたものだとわかりました。塩蔵値段で買い取った「塩蔵わらび」はパー・・・。

 お世話になっている人からの紹介だったし、私の眼がなかったということで、その後も黙って取引を続けましたが、その判断が後々さらなる悲劇を生むことに・・・・。  to be continued...
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たけのこ採りの恐怖
 山菜採り一年目の2003年初夏、初めてたけのこ採りに連れて行ってもらいました。

 朝早く車で出発。着いたのは秋田でも有名なたけのこ産地、玉川。温泉で有名な地域です。このシーズンは玉川温泉への道の脇には車がびっしり駐車されています。林道を登っていくと、料金所があります。そこで一人1000円徴収されます。有名なたけのこ地域には料金所が設置されます。入り口ではなく、ある程度上っていったところにあるのがポイント。狭い道をさんざん登っていった人間で、そこで引き返す人はまずいません。

 たけのこ採りでは毎年何人も遭難し、亡くなる人もいます。山菜の中で一番採取に危険が伴うのはたけのこ採りだと言っても過言ではないでしょう。危険といっても、滑落・怪我の危険よりも、「迷う」危険のほうがより多いのがたけのこ採りの特徴です。

 背丈以上の竹やぶの中を、「あっちにある!こっちにもある!」と嬉々としてたけのこを採っていると、あっという間に自分の場所がわからなくなります。

 たけのこ採り危険要素・・・
1)竹の高い竹やぶのなかで、自分の位置確認がしづらい。
2)まわりが同じ景色なので方向感覚が狂う。
3)竹をかきわける作業に体力を使う。
4)竹で目を突かないように気を使う。
 これらのことに加えて、毎年たけのこ採りで何人も亡くなっていることが全てのたけのこ採りの方々の頭にあるので、不安があせりを呼び、正常な判断力を奪ってしまいます。

 竹藪ラビリンス(迷宮)・・・。

 たけのこ採りを甘く見ていた私は、この日の経験から、「もうたけのこ採りはしない」と決心したのでした・・・。
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× ずりぃわらしだ ×
 わらび採りも最盛期のある日、私はある噂を耳にしました。私についての噂です。次のようなものでした。

 「〜が○○さばばぁど一緒にきでわらびば採っでらっけ。あれだばずりぃわらしだ」

訳すと
 「〜が○○に婆さんと一緒に来てわらびを採ってた。あれはずるいこどもだ」
になります。「○○」はある地区の名前。ちなみに阿仁では20代から30代前半までも「こども」です。なんたって「若い者」が60代以下の人間を指すのですから私が「わらし」と言われてもなんら不思議はありません。


 このうわさの出所は、前出の「ダマされる〜塩蔵わらび編2003年初夏〜」の私を騙した人です。この人は○○地区に住んでいるのですが、私が「○○地区のその人がわらびを採っているところにおばあちゃんを連れてきて採っていた、ずるいやつだ」と、そういうわけです。この訳はだいぶソフトな口調になっていますが・・・。その話が○○地区に広まり、恐ろしいことに2日と経たず車で30分かかる私の地域に広まってきたのです。

 この話について私が声を大にして言いたかった(既に過去形。今ではこのテのたいした確証もない噂はどうでもよくなっている ^^;)ことは二つあります。
 まずひとつは「その場所に行っていない」ということ。
 もうひとつは「もし行ったとしてもそれがどうしたの?」ということ。

 わらびは一度採っても、3〜4日でまた同じ株か
ら生えてきます。一度葉が展開してしまうともう生えてきませんが、折りとればまた生えてきて、それをまた折り取ればまた生えてきて・・・それを繰りかえせばお盆あたりまでとれるという稀有な特質を持っています。私は自宅から歩いていけるところに2つ、車で5分〜10分のところに5つ、計7つのわらび山をそのころには既に知っていました。そこを数日の間隔をあけて回っていれば十分事足ります。2、3人にわらび採りを頼んでいる○○地区に車で20分〜30分かけて行く必要も価値も全くありません。だいいちこの時期おばあちゃんは入院中でしたし・・・。


 この日本には所有者のいない土地はありません。ですから、厳密に言うと山菜を採っている人の多くは、国または個人の土地に勝手に「侵入」し山菜を「盗って」いっていることになります。ですが、暗黙の了解というかなんというか、一般的には山菜採りは黙認されています。私もあちこちに入って山菜を採っていますが、必ず守っていることがあります。それは、あきらかに下草刈りや木の世話がしてある林では採らない、「私有地につき立ち入り禁止」「土地の者以外立ち入り禁止」の場所及び林道には入らない、里近くでは採らない、ということです。○○地区は「私有地につき・・・」「土地の者以外は・・・」の立て札はありませんし、私は地元の人に非難されるようなところでは採りませんし非難されるような採り方もしません。聞けばその「わらびの場所」というのはその人の私有地でもなんでもなく、国有林。その人に非難される筋合いは全くありません。

 このように、私が「ずりぃわらし」と言われる理由は全くなくまた事実無根の噂でありながら、私にはそれを覆す「井戸端ネットワーク」も機会もなく、ただいたずらにこのテの噂は尾ひれをつけて広がっていくのです。 

 このことがあってから私は、山菜採りの方に「どこで採ったのか」「どこで採るのか」「どこで採れるのか」などを、たとえ雑談の時でも一緒に酒を飲んでいるときでも、決して、絶対に、訊かないことにしています。相手が言いかけたらストップをかけます。
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