ガスの満ちた星。
 人が生きていける環境の整っていないこの星は、貴重な資源であるヘリウム6が産出される星だった。

 木星。

 この地球より遠く離れた星で、暮らす人は何を考えているのか。
 地球から来た少年はまだその答えを見つけられていなかった。

「もうすぐ…地球に帰るのか…」

 まだ地球では何事も起きておらず、かりそめとも思われる平和な時間を過ごしていた頃。
 木星船団ジュピトリスは静かに木星から地球へと帰る準備を行っていた。

第9話 ジュドー・アーシタとルー・ルカ

「オーイ、出発の準備は出来てるのかー?」
「もうすぐで終わるよ!!」

 ステーションの窓から見える荒涼とした景色を眺めながらジュドーは視線に入った船団のリーダーに答える。

 木星船団ジュピトリス。
 木星の貴重な鉱物資源採掘の為に組織された船団。
 現在は破嵐財閥・ウィナーコンツェルン・ロームフェラ財団が出資している。

「なーに、黄昏れちゃってるのよ」
「ルー」

 周りが慌ただしく動いている中、声を掛けたルーにジュドーははじかれたように見返した。

「ジュドー、出発まで時間がないんだからね。分かってるの?」
「分かってるって…。今、やるよ」
「なーに?結局まだやってないわけぇ?まったくしょうがない。手伝うからちゃっちゃとやるわよ」
「あ、あぁ」

 ルーの言葉にうなずくも、ジュドーはその場から動こうとしない。

「ジュドー…」

 ルーは文句を言うでもなくただジュドーを見つめる。

「どうしたんだよ。出発の準備するんだろ?」
「そうだけど……。ZZの整備した?」

 ルーの言葉にジュドーは黙り込む。

「噂…知ってるよね」
「…木星公社ジュピター・エンパイアの事だろ?他の船団が襲われてるっていう話があるんだよな」

 ルーの言葉にジュドーはうなずく。

 木星公社『ジュピター・エンパイア』。
 木星の事業を一手に引き受けている公社。
 噂では元ザンスカール帝国もその一部と言われている。

 その公社に他の船団が攻撃を受けているらしいのだ。

「うん…だからね。いつでも出撃できるように…って思って。そうなった時あわてるのだけは嫌だから」
「そっか…」

 そう呟いてジュドーは黙り込み、地球帰還の為の荷造りをする。

「ジュドー。ねぇ、ZZの整備しておく?どうせしてないんでしょ?」

 何かの為に持ってきたモビルスーツ。
 ジュピトリスに運んでいた時はお守り気分で乗せていた。
 ジュドーとルーの2機。

 もっとも、戦闘になった場合、この2機でどれだけの事が出来るか、考えなくても分かるが。
 乗せた時はその戦闘でさえ笑い話程度のものだった。

 木星を拠点としていたザンスカール帝国とバルマー人達。
 その彼等がいない今、笑い話になっていた。

 だが……。

「こら、二人とも遊んでる暇なんてないんだぞ!!」

 手を休め考え込み始めた二人にジュピトリスの船長が声を掛ける。
 その声にはじかれるように二人は作業を再開し、話は立ち消えとなっていた。

「ZZの整備してくる」

 思いだしたかのようにジュドーはルーに告げ、格納庫へと向かった。

 全ての積み込みなどの作業が終了し、木星船団は地球への帰路をとっていた。

「窓の外に見える大いなる木星に別れを告げよう。母なる地球はもうすぐで見えるぞ」

 船長が陽気に言葉を紡ぐとジュピトリス内は久方ぶりの地球への思いを語るためにぎやかになる。

「地球に帰ったらなにする?」

 との質問に

「海水浴」
「日光浴」
「森林浴」
「読書?」
「ナンパ」

 銘々、いろいろな答えが返ってくる。

「オレは大地を踏みたい」
「空気を吸いたいな。深呼吸して」
「ルー。ルーは、どうしたい?」

 不意に訊ねられた言葉にルーは考え込む。

「あんまり、よくわかんないかな。あたし、コロニー育ちだから」

 木星のシェルターでの生活も、コロニーでの生活もあまり変わりないような気がする。

 ルーはシェルターに入って初めにそう感じていた。
 密閉された空間であることはシェルターもコロニーもかわらないからだ。

 違うところと言えば、太陽光を感じることが出来ることと月が見える事ぐらいだ。

 けれども…。

「でも?」
「でも、海に行きたいかな。地球に降りた時、海に入ったりしたから。太陽の日差しは強くって。焼けちゃうけどね」

 そうおどけてルーは言う。

 ロンド・ベルのプリベンターの一員として地球に降りた時、真っ青な海の色と、鮮やかな青の空に少なからず感動を覚えたのだ。

 あの海と空を守るために戦うのなら悪くない。

 そうルーは思ったのだ。
 そうして辺りを見回し姿を探した時に気付く。

 ジュドーの姿がない。

「ねぇ、ジュドー知らない?」
「ジュドーだったら格納庫じゃないのか?ZZの整備しに行くって言ってたから」

 乗組員の言葉にルーは驚く。
 さっきジュドーは別れ際に

「ZZの整備をしに行く」

 と言ったからだ。

「あいつ、木星に来てからこっち全然ZZに手をつけてなかっただろう?お守りだからいいんだよって言いながらさ。そのぶん時間かかってるんじゃないのか?」

 その言葉にルーはいてもたってもいられず格納庫へと向う。
 格納庫のルーの乗るモビルスーツの隣にZZガンダムはある。

 その前でジュドーは静かにたたずんでいた。

「ジュドー、どうしたの?」
「…ずっと考えてたんだ。何故人は戦争なんてするんだろうって」
「……」
「どれだけ考えてもわかんなくってさ。考えるのやめようかな…って思ったんだけど」

 ジュドーはそこで言葉を止め、ルーの方を見る。

「ルー、お前はどうして戦うんだ?元々志願兵だったんだよな」
「そうよ。あたしはエウーゴの志願兵だった。その時はコロニーを…自分達が住む所を守りたいって思ったの。そりゃ、あたしだって戦争なんてしたくない。でも、守ることが出来るならいいと思ったのよ。地球に降りた時余計にそれを感じた。綺麗な青空と真っ青な海。あれ見た時、感動しちゃった。あの場所守れるのなら戦ってもいいかなって思ったのよ」
「…そっか…」

 ジュドーはもう一度ZZガンダムを見上げて言葉を紡ぐ。

「そう言う考えもありなんだよな。戦争してた奴等って自分達の領域とか政治のこととか、自分達が優位に立ちたいからってやってた奴がほとんどだったろ?だから、オレがZZに乗る意味がわかんなくなったんだよな。でも、今のルーの話聞いてなんか分かったような気がする。サンキュ、ルー」
「な、何言ってるのよ。それより整備、終わったの?」
「あぁ。終わったよ」

 そうジュドーが言った時だった。
 ジュピトリスがものすごい衝撃に見舞われたのは。

「キャアアアアアアア」
「ワァァ。ルー、大丈夫か?」
「大丈夫っ。何?今の」
「…着弾の衝撃?」
「まさか…」

 二人の脳裏にあることが思い浮かぶ。

「ルー、ブリッジに行こう」

 ジュドーの言葉にルーはうなずいた。

「くっそ…ジュピター・エンパイア…」
「キャプテン、識別信号がもう一つあります」

 オペレータの言葉にキャプテンは驚く。

「何?それは本当か?連邦か?」
「いえ、違うようです。この信号は不明です。恐らく、例の海賊かと。」

 そうオペレータが言った時だった。

「キャプテン、どうなってるんだよ」

 ジュドーが入って来るなりそう言う。
 その後にルーも続く。

「ジュドー、ルー。どうやら、我々は木星公社…ジュピター・エンパイアと謎の一団の戦闘に巻き込まれたようなんだ」
「何ですって?で、状況はどうなの?」
「状況は悪いな。火星と木星の間にあるアステロイドベルトに入ればどうとでもなるが、まだその手前だ。たとえ、このまま向かったとしても流れ弾に当たる可能性がたかい。それにジュピター・エンパイアは輸送船団を襲っているという話を君たちも聞いているはずだ」

 艦長の言葉にジュドーはモニタを見つめながらルーに問い掛けた。

「ルー、行けるか?」
「もちろん。行けるわよ」

 ルーの言葉にジュドーは力強くうなずく。

「ジュドー、ルー?」

 二人の様子にキャプテンは訝しげに見る。

「キャプテン。オレたちが誘導なりおとりになるよ。アステロイドベルトに入れば何とかなるんだろ?アステロイドベルトの先に火星基地があるから。そこまでなら何とか行けると思う。だから」
「いいのか?二人とも、これはかなり危険な賭だぞ?」
「危険かどうかやってみなくちゃ分からないだろ?このままジュピター・エンパイアやわけ分かんない奴等に落されて地球帰れなくてもいいのかよ。そっちの方がまずいだろ?大丈夫だって。ルー、行くぞ」
「了解っ」

 ブリッジを飛び出していったジュドーとルーを呆然と眺めていたが、不意に我に返り、艦長はあれこれ部下や作業員達に支持を出し始めた。

 ノーマルスーツに身を包み、格納庫へと来てみると作業員達も作業用スーツを着用しあれこれと作業をしていた。

「ルー、ジュドー。キャプテンが気をつけてくれって。後、火星基地までたどり着けるようにエネルギーポットとか装着したからな」

 その言葉に二人は微笑んだ後、お辞儀をしてからモビルスーツに乗り込む。
 格納庫の扉が開かれZZガンダムが出動態勢に入る。

「ジュドー、もう一つの一団は恐らく、海賊だと思われる。ジュピター・エンパイアと何度かやり合っているという噂のある奴等だ」
「分かった。ジュドー・アーシタ。ZZガンダム、行きますっ」

 ZZガンダムが出撃していく。

「ルー、気をつけろよ。無事、地球で逢おう」
「そうね。その時はあたしの水着姿見せてあげる。ルー・ルカ。Z2出ますっ」

 ルーの乗るZ2が出撃した。

「ジュドー、あたしがおとりになるから、ハイメガキャノンよろしくね」
「勝手な事言って。エネルギーなくなっちまうだろ?」
「そうよね、ごめん。じゃあ、ともかく、攪乱してジュピトリスから視線を外そう」
「それしかないな。ルー気をつけろよ」
「ジュドーもね」

 そうして、二人は戦場になっている場所へと飛び込んでいく。
 ジュドーとルーの二人は巧みに機体を操りジュピター・エンパイアや謎の一団を攪乱していく。

「さすがZ2調子いいじゃん」
「カミーユさんからの借り物だから丁寧に使わないとね。ん?ジュドー…識別信号用モニタ見て」
「え?」

 ルーの言葉にジュドーは識別信号が映し出されるモニタに目を向ける。

「…クロスボーン・バンガード?!」

 識別信号に現れたのはクロスボーン・バンガード。
 L1コロニー群のフロンティアサイドにあるロナ家が作り出した組織。

 だが、バルマー戦役時に実質的最高指導者であった鉄仮面(カロッゾ・ロナ)を倒し、その1年後にはクロスボーン・バンガードが提唱する『コスモ貴族主義』に反発した次期代表の人物が反対し、消滅したはずであった。

「なんで?ジュドー、クロスボーン・バンガードは」
「オレに聞くなよ…。ルー、後ろ!!!」

 ジュドーの声に背面を確認すると謎の機体がZ2の後ろに入っていた。

「えっきゃあああああ」

 着弾したのか、衝撃でルーは叫び声を上げる。

「ルー、どうしたんだよっルーっ。返事しろよっ。クソッ」

 ジュドーは謎の機体に接近していく。
 見たことのない機体。

 けれども、見たことのある形状にジュドーは驚く。

「…なんだよ…これ…。うあっっ」

 そう小さく叫び声を上げた時ZZガンダムはその謎の機体の攻撃を受けていた。

次回、スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜
「…、ジュドー、Z2傷ついてないよね」
「ルーっ……。って気付いてすぐそれかよ」
「言ったでしょ。あれは、カミーユさんからの借り物なのっっ」
「じゃあ、もうちょっと丁寧に扱えよ」
「扱ってるわよっ。で、ココどこ?」
「知るかよ」
「もぉっ。スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜第10話クロスボーン・バンガード」
「怒るなよ」
「怒ってないわよ」