木星帝国軍とその一団の戦闘が始まる少し前。
 木星と火星の間にあるアステロイドベルトに一つの艦船があった。

『マザー・バンガード』

 フロンティア4にあった『クロスボーン・バンガード』の輸送船である。

 その艦内で、艦長である一人の女性の演説が始まった。

「みなさん、今まで私たちが今日この日のために、調べ、そして準備を進めてきたのは、承知のことだと思います。私たちが行おうとしていることは、地球圏統一連邦政府が今日まで押し進めていた、政策とは全く異なるものです。『クイーン・リリーナ』が提唱した『完全平和』及び『対話による交渉』。これから私たちが向かおうとしている所の者達にはそれが通じない。
その事は調べた皆さんがよくご存じの事と思われます。私達がやろうとしていることは無駄になるかも知れません。けれど、私はこれが私達の為にひいては地球圏の為になると思っています。
…私の意見に賛同し、そしてついてきてくれた、皆さんに感謝の意と敬意とそして武運があることを!!
これより、我らクロスボーン・バンガード母艦『マザー・バンガード』は、敵艦隊を迎撃しつつ、木星宙域に発進します」

第10話 クロスボーン・バンガード

「ここ…どこ?」

 気がついて直ぐにルーは先に気付いて自分を揺り起こしたジュドーに問い掛ける。

「わかんねぇ。気がついたらココだったよ」
「あたし達…どうなったの?やっぱり…捕まった?」

 ルーの不安げな様子にジュドーはあっさりとうなずく。

「そっか…。で、どっち?」
「どっちって?」
「だからぁ…。ジュピターエンパイア…か…『クロスボーン・バンガード』」
「…多分、クロスボーン・バンガードだと思う…」
「理由は?」

 ルーの言葉にジュドーは少し考え込み

「…勘…」

 短く答えた。

「勘って…。なんか気がついたの?」
「……ジュピターの機体は…なんか地球圏に似てなかったんだけど…」
「木星圏だもの当たり前でしょ?」
「違う、そう意味じゃなくって……。あぁ〜今は、クロスボーン・バンガードの事だろ?ルー、気付いたか?機体…。3機、同じ機体があった…」
「そう言えば、そうね…。確か……」

 ルーは思い出すように考え答える。

「…ガンダムタイプよね。一機はあたしも確認したわ。あたしの背後に気配もたたせずまわるなんてなかなかのもんじゃない?」

 ルーの言葉にジュドーは苦笑するように笑ってから思っていたことを口に出す。

「その…ガンダム。…なんて言うか…その…敵…って言う感覚が無かったんだ。そいつの前にたった時。なんか…知り合いって言うか…。…仲間…って言うか」
「じゃあ、あのガンダムには知り合いが乗っていると言うの?あたし達の顔見知りが。だ、だって、クロスボーン・バンガード…よ?」
「分かってるよ。でも間違いない。あの感覚は敵じゃない。ルーは感じなかったかのかよ?」

 ジュドーの言葉にルーは俯く。

「感じたわよ。だから…だから…反応が遅れたんじゃないっ」
「……だろ?オレも、あのガンダムがお前の後ろに来るまで気付かなかった。普通は気付くだろ?でも、気付かなかったんだ。つまりそれは仲間だった人間がクロスボーン・バンガードにいるって事だ。ルー、一つ聞いていいか?」
「何?」
「バルマー戦役の後、クロスボーン・バンガードってどうなったんだ?オレ、知らないんだけど」
「えっと…市民運動が起ってなくなったの。そう、セシリーがクロスボーン・バンガードの提唱するコスモ貴族主義は必要ないって言って」
「そっか……」

 ルーの言葉にジュドーは考え込む。

「ねぇ、ジュドー。なくなったはずのクロスボーン・バンガードにいるのってやっぱりシーブックとセシリーの二人なのかな?」
「……わかんねぇ。でも、あの時感じたプレッシャーは…知っている人のだ。シーブックさんって言われればそうかもしれない」

 そう言ってジュドーは備えられていたベッドに寝転がる。

 部屋の内部はあまり重力がかかっていないのか、軽く浮き上がった後、静かにゆっくりとジュドーの体はベッドに沈む。

 部屋の扉が開き、女性が中に入ってくる。

「ジュドー・アーシタさんと、ルー・ルカさんですね。初めに、手荒なまねをしてしまったことをまず艦を代表して謝ります。疑問などあるようですから、ご説明します。ここはクロスボーン・バンガードの母艦マザー・バンガード。今から、クロスボーン・バンガードのリーダーでもありこの船の艦長でもある方の所にご案内いたします。我らが艦長はあなた方に逢いたがっていますので」

「艦長って誰だよ」
「お逢いになってください。ご案内いたします」

 その女性はにこやかにジュドーの言葉をかわし、外へと促す。

「ココに留まっていても仕方ない。ルー、行くぞ」
「うん」

 二人は女性に促され、艦長の部屋へと向かった。

「初めまして、ジュドー・アーシタさんとルー・ルカさんですね」

 艦長室で待ちかまえていた人物は二人を見て鮮やかに微笑んだ。

 鮮やかなオレンジ色の短い髪、まっすぐこちらを見るアメジストの瞳、赤い軍服に身を包んだ女性。
 そしてその女性のうしろにいるコスモブルーの髪にブルーグリーンの瞳を持つ男性。

 その二人を見たジュドーとルーの二人は言葉が出なかった。

「私はクロスボーン・バンガードのリーダーでこのマザー・バンガードの艦長。ベラ・ロナです。彼は私を手伝ってくれている、キンケドゥ・ナウ」

 艦長と名乗った女性…ベラは今だ呆気にとられているジュドーとルーにそう名乗る。

「…セシリーさんに、そっちはシーブックさんでしょ?どういう事だよ、これっ」

 我に返ったのかジュドーはベラにそう言う。

 だが、ベラは穏やかな表情を変えず、驚くジュドーに対し

「あなた方は、私達二人がお知り合いに似ていると思われているみたいですが。残念ながら、私達はあなた方とは今日初めてお会いしました」

 と、冷静に答える。

「でも、ホントに、セシリーとシーブックじゃないの?」
「はい。そうです」

 ルーの言葉にはっきりとベラはうなずく。

 それ以上の追求は無駄と考えジュドーとルーは口をつぐむ。

「ジュドー・アーシタさん、ルー・ルカさん。手荒な真似をし、あなた方を捕らえたことお詫び申し上げます。あの場からあなた方を守る手段だったとそう思ってください。これより、あなた方を火星圏までお送りします。正直申し上げますと、心苦しいのですが、そこまでしかあなた方をお送りすることが出来ません。ですが、火星圏には統一連合の基地があります。そこに向かえば、無事地球まで帰ることが出来るでしょう」
「待ってくれ」

 不意に何かを思いだしたのかジュドーが声を上げる。

「何ですか?」
「ジュピトリスはどうなった?」

 そのジュドーの言葉にもベラははっきりと答える。

「あなた方の見事な機転でジュピトリスはあの戦闘宙域を脱して地球への進路をとっています」
「そっか……」

 ジュドーとルーは顔を見合わせほっとする。

「では、火星上空になったらお呼びします。そうそう、あなた方のMSですが、お詫びとして整備させて頂きました。のでご安心ください」

 ベラの言葉にもう一度ジュドーとルーは顔を見合わせほっとする。

「では、今しばらく、先ほどの部屋でお休みください。何か入り用があれば彼女に何なりと申しつけて結構です」

 とベラはジュドーとルーに告げた。

「ジュドー、どう思う」
「…何が?」

 部屋に戻り、ルーはジュドーに話しかける。

「さっきの二人。ベラとキンケドゥよ。どう見たってセシリーとシーブックじゃない。何で言ってくれないのよ」
「言えない事情……があるんじゃないの?」
「…どういう?」
「そんなの、オレに聞かれても分かんないよ。…それとさ…結局肝心な事聞けなかったよな」
「……そうだね。クロスボーン・バンガードって何かって言うこと。ジュドー、あたし達何かした方がいいのかな?」
「…何かって?」
「……分かんない」

 そうしてルーはそう言ったきり黙り込んでしまった。

「………これでよかったのよね?」

 ジュドーとルーが出ていった後、ベラはキンケドゥに問い掛けた。

「…ベラがそう決めたんだろ?だったら、オレが反論する理由はないよ」

 ベラを気遣うようにキンケドゥは答える。

「……ありがとう。キンケドゥ。あなたがいてくれて本当によかった」
「ベラ……。後悔はしないんだな?」

 キンケドゥの言葉にベラはゆっくりとうなずく。

「…えぇ。そう決めたんだもの。決めたの」
「じゃあ、やっぱり反対する理由はない。オレは、ベラが動きやすいように動く。ただそれだけだよ」

 そう言ってキンケドゥは微笑む。

「ジュドーとルーには後で謝らないとな」
「何で?」

 唐突なキンケドゥの言葉にベラは首を傾げる。

「ほら、ZZとZ2を傷つけたから」
「悪気があってした訳じゃないでしょ?だったら許してくれるわよ」
「そうかな?」
「そうよ」

 ベラはキンケドゥに楽しそうに答える。

 ゆっくりと火星圏へと向かっているマザー・バンガード。
 艦長室の窓から見えるアステロイドベルトには数年前に起った激しいMS戦を思い出させるように残骸が浮遊している。

「……ねぇ」
「ん?」

 ベラの静かな呼びかけにキンケドゥは答える。

「……今だけ…あなたの本当の名前、呼んでもいい?」
「…今だけ?呼んでもらいたいの?」
「……そうかも…知れない…」

 そう彼女は静かに答えた。

 静かな時間の後に訪れるであろう激しい戦闘を感じながら。

次回、スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜
「…ってなんでこんな所で次回なのよぉっ」
「一応、読者には隠すって事じゃねぇの?」
「それ、無いわよっ。どのくらいの人が、待っていたと思っているのよっ?」
「ってどのくらいの人?」
「……知るわけないでしょっっ」
「怒るなよっ…?って前回も言わなかったか」
「スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜第11話火星基地」
「あっ…言ったな」
「言ったもん勝ちよ。ねぇ、ジュドー、火星基地にはゼクスさんとノインさんがいるんだよね…。言ってて思った…ゼクスさん…なんか妙な感じ」
「確かにな」
「ともかく、火星基地まで行きましょう」
「そうすっか。でも、気になるよな。何を隠してるんだ?」
「え?誰が」
「シーブックさんとセシリーさん」
「…キンケドゥさんとベラさんでしょ。一応ね」
「あ、一応か」