「…そんなににらまなくても私は何もしやしない」
男は自分をにらみつけていたキンケドゥに声を掛ける。
肩までのばした金色の髪と特徴的なのは右目にかけられた眼帯。
「オレは、あんたを信用した訳じゃないからな」
キンケドゥは声を掛けた男にそう告げる。
周りに人がいるため、あまり大きな声では無い。
「信用するかしないかは君の勝手だ。だが私はクロスボーン・バンガードの為に戦っている。それだけじゃ不満かな?」
「…そう言う問題じゃない。けど、ベラのやろうとしていることを邪魔させるわけには行かない。それだけは忘れるな」
「忘れるつもりは無い。さっきも言ったが私はクロスボーン・バンガードの為に戦っている。ただそれだけだよ」
そう言って金髪の男は
「…失礼…」
ジュドーにぶつかった後、ジュドーを一瞥してから自分のMSであろう所まで向かう。
その身にまとう気配はジュドーとルーの二人に軽いプレッシャーを感じさせる。
「なんだよ、あいつ…」
「シーブック…じゃなかったキンケドゥさんと話してたわよね」
ジュドーとルーは遠くにいる金髪の男を見る。
「どうかしたのかい?ジュドー君」
考え込んだジュドー達にキンケドゥは話しかける。
「シー…キンケドゥさん一つ、聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「あの金髪の人はなんて言う人ですか?見たことあるような気が…」
ジュドーの視線の先にいた男性を見てキンケドゥは静かに息を吐く。
「彼は、ザビーネ・シャルだよ。君たちも知っていると思うけど?」
キンケドゥの言葉にジュドーとルーは驚く。
ザビーネ・シャル。
クロスボーン・バンガードのエースパイロット。
「別に敵対してるわけじゃないから」
警戒態勢をとったジュドーとルーにキンケドゥは落ち着いて答える。
「さぁ、もうすぐで火星圏だよ。ホントだったら地球圏まで行ければいいんだけど、こっちもやらなくちゃならないことがあってね」
キンケドゥの言葉にジュドーとルーの二人は礼をいい、火星基地へと向かう準備を始めた。
ザビーネは、その場から動き始めたジュドー達を視線に入れながら、音にならない声で呟く。
「クロスボーン・バンガードを守ることが復活につながる。その間は充分に守らせてもらうさ」
喧噪の中に消えた言葉をザビーネは一人笑った。
「それでは、お二人はどうするおつもりですかっ?」
作業員の一人が目の前の二人の人物に向かって叫ぶ。
火星基地。
テラ・ホーミング化計画が1年ほど前に始まり、ゼクスとノインが中心となってここに準備基地を製作してきた。
「我らのことは心配無用だ。ココのシステムを全て止めなくてはならない。場合によっては爆破もあり得る。その準備をしなくてはならない」
「この…基地をでありますか?」
ゼクスの言葉に作業員は聞き返す。
「そうだ。奴等に使われるよりはましだ。確かに、もう一度ココまで作り上げるのは至難の事だろう。だが、ここを奴等の拠点とされるよりいいと思っている」
「……」
「気持ちは分かる。私達の気持ちも同様だ。お前達は急ぎ30分ほど前に火星上空を通過したジュピトリスを追って地球へと向かってくれ」
納得いかない作業員達にノインは説得を試みる。
作業員はほとんどが軍に所属していた人間。
それが故にここの防衛に力を尽くしたいと思っているのがほとんどだった。
「状況はあまりよくない。敵機の数はたんなる攻撃や偵察の域を遙かに越えている。恐らくこのまま火星基地を守るのは得策じゃないだろう」
「無駄死にとなるよりはましだ…。とおっしゃる訳ですね」
ゼクスの言葉に納得がいったのか、作業員の一人がそう言葉を吐く。
「そう言うことになるな」
ゼクスの言葉に作業員達は黙り込む。
「了解しました。これより我らはジュピトリスを追い、彼等と共に地球圏へと向かいます。ゼクス長官、ノイン副長。どうか、ご無事で」
「我らの事は心配しなくてもいい。お前達も無事で」
ゼクスとノインはシャトルに向かう部下達を見送った後、基地の方へと戻っていった。
事は、1時間ほど前にさかのぼる。
「ゼクス、仕事の進み具合はいかがですか?」
その声に資料を読んでいたゼクスは顔を上げる。
「ノインか…」
「コーヒー、おもちしました。少し、休憩なさってはいかがですか?」
そう言ってノインはゼクスの机にマグカップをおく。
「済まない、ノイン。君の言う通りだな。少し休もう」
そう言ってゼクスは机の前に置いてあるソファに体を預ける。
「その資料は…例の『ジュピター・エンパイア』の事ですか?」
「それだけじゃない。『クロスボーン・バンガード』やカサレリアに来たという謎の機体の調査依頼もかねている」
「調査…依頼ですか」
ノインの言葉にゼクスはゆっくりとうなずく。
「…やはり武装化への道を地球圏は歩もうとしているのでしょうか…」
「…恐らく、防衛の為の武装化だろうな。政府としても地球圏を守るためにはやむなしと考えているのだろう」
「そう…ですか…」
ノインは少し俯き、窓の外に目をやる。
赤い荒涼とした大地。
この火星は地球と同じような環境にあったと言われている。
そんな火星を第二の地球としようというのが『テラ・ホーミング化』計画なのだ。
計画には技術者や作業員以外に軍を退役した兵なども参加している。
「ゼクス…そうなったらこの火星基地はどうなるのでしょうか」
そうノインが呟いた時だった。
「失礼します」
慌てたようにテラ・ホーミング化の作業員の一人が入ってきた。
「何事だ?!」
「デイモスの外側で、大量の熱源を発見しました」
「なに?」
「恐らくではありますが、MSの様なものと思われます。数は…小艦隊分あります」
作業員の言葉にゼクスとノインは顔を見合わせる。
「識別信号などはなかったのか?」
「…はい、どうやら我々が知る信号はありませんでした」
ゼクスはそれを聞くと考え込む。
「ノイン、クロスボーン・バンガードとジュピター・エンパイアの識別信号は登録されているのか?」
「はい。それはもちろん入っていますが」
「そうか…」
そう言ったきりゼクスは黙り込む。
「ノイン副長…どうするのでありますか?」
「………今から、1時間後、必要な荷物をそろえ、全員を格納庫に集めてくれ。この火星基地で作業している全ての人間をだ」
ノインの言葉に作業員はうなずき、踵を返し部屋の外を出る。
「ゼクス……」
出たのを見計らいノインはゼクスに声を掛ける。
「…我らも急ぐぞ。彼等はココを乗っ取るつもりだろうな」
「わたしもそう思います」
ゼクスの言葉にノインは応える。
「ノイン」
「はい」
「……いや、何でもない。急ぐぞ」
そう言って二人は作業を始めたのだった。
そうして、今に戻る。
ゼクスとノインはその足で管制室へと向かう。
「ノイン、済まない。つきあわせることになってしまって」
「今更、何を言うかと思えば。私はあなたの側にいることを選んだのです。このぐらいは覚悟の上」
ノインはゼクスの言葉にそう返す。
「それよりもどうするのです。本気で爆破なんてするつもりですか?」
「その事だが…。小艦隊というならば艦の数は少なくとも1、2艦じゃ無いはずだ。そしてそれに搭載されているMSもかなりの数があるはずだ。その事から考えれば、この火星基地は簡単に落される。そして彼等の地球攻略の足がかりになるだろうな。そうなっては遅い。だが、まだそう判断するのも早い。何よりも今は状況が確認したい」
ゼクスの言葉にノインはうなずく。
「ノイン」
不意にゼクスがノインを呼ぶ。
「どうかしましたか?」
「……これから先、何があっても、共に、地球へと帰ろう」
「ゼクス……。はい」
ゼクスの言葉にノインは嬉しそうにうなずいた。
管制室内に入ると逃げるとまでは考えていなかったのか、使い古したデータなどが散らばっていたが、管制室内に設置されているモニタや機械類は電源が落されていた。
ノインは落されている電源を入れる。
「ゼクス、現在のデイモスの様子ですね。…熱源反応を表示します」
ノインはコンピュータを操作し、モニタに現す。
「…かなりはっきりと出ているな。…だが…、動く様子がない」
「そうですね。何かを待っているのでしょうか?」
「…それもあり得るかも知れないな。もう少し調べよう」
そう言ってゼクスも手元のコンピュータを操作し始めた。
その時、不意に通信が入る。
聞こえてきたのは少年と少女とおぼしき声…。
「えっと、プリベンターシークレットコード、MSタイプZ2より火星基地へのファイアーへ」
「こちらファイアー接続を許可します。ルー、ジュドー久しぶりだな」
画面に映ったのはルー・ルカ。
その隣にはジュドーの姿も見える。
「お久しぶりです、ノインさん」
「二人とも元気そうじゃないか。……ルー、お前達はジュピトリスに乗っていたのではないのか?」
「その事なんですけどぉ」
「クロスボーン・バンガードとジュピター・エンパイアとの戦闘に巻き込まれたと言うわけか」
ルーの言葉の先を読み、言葉を続けたゼクスにルーとジュドーは驚く。
「さすが、ゼクスさんっっ。で、そっちに行っても平気ですか?なんか…ここらへん」
「ヤバイ感じなんだよな。デイモスだっけ?見たこともない、そこに戦艦みたいなのが集まってるんだ」
ジュドーはそう言う。
「お前達がいる所から見えるのか?」
「え、あぁ。隠れてる感じで。この近くに来るまで気付かなかったんだ。で、気付いたら、戦艦らしき姿が見えて、慌てて避けたよ。なんか強力なジャミングが掛けられてるみたいなんだよな」
ジュドーの言葉にゼクスとノインは考え込む。
「それよりも、お前達どうやってココまで?まさかMSで来たわけではないだろう?」
「あぁ、それなんだけど…。詳しいこと話したいんだ」
「分かった。こっちまで来てくれ。私達も今後の事を話したい」
ノインの言葉にジュドーはうなずいた。
「クロスボーン・バンガードにセシリー・フェアチャイルドとシーブック・アノーがいただと?」
ゼクスの言葉にジュドーとルーはうなずいた。
「オレたち、めちゃくちゃ驚いたんだけど」
「…だが、いてもおかしくはないだろうな」
「どういう事?」
「クロスボーン・バンガードのいきさつはどのくらい知っている」
ゼクスの言葉にルーは答える。
「セシリーが貴族主義に反対して…その声に賛同したフロンティアコロニーの住人達がクロスボーン・バンガードを倒す為に戦った…ってぐらいですけど」
「なら、話は早い。その後、クロスボーン・バンガードは復活している。ただし、前のような貴族主義を提唱する一族としてではなく、フロンティアコロニーの復活に力を注いでいる。その中心にセシリー・フェアチャイルドとシーブック・アノーがいたとしてもおかしくはない」
ゼクスの言葉にジュドーとルーは納得する。
「ですが、ゼクス。何故、二人はジュドー達に何も言わなかったのでしょうか」
「…恐らく、何らかの方法で、プリベンターの一員と言うことを知ったのだろう。クロスボーン・バンガードは現在、ジュピター・エンパイアとの戦闘を行っている。今後も行うだろうな。これは想像でしかないが…、二人はジュドー達に…いや我々に迷惑がかかると考えたのだろう。プリベンターの存在意義を考えれば充分に想像はつく」
ゼクスの言葉に、一同は黙る。
プリベンターの存在意義。
それは、地球圏の争いの種となるものを排除することである。
知らない者から見れば戦闘を行っているクロスボーン・バンガードはその争いの種の一つとして数えられるだろう。
その中にバルマー戦役時にプリベンター(元ロンド・ベル)として戦いに参加していた者がいたと知られれば、プリベンターにしわ寄せが来ることは容易に考えられた。
「……ともかく、この件は保留にしておくべきだ。彼等二人が何を考えているのか、今の我々には分かる余地がない。恐らく、ジュピターエンパイアと何か関係があるのだろう」
そうゼクスが言った時だった。
強烈な振動が室内を襲ったのだ。
「何?何なの?」
「ゼクスっ。デイモスに隠れていた、戦艦が火星上空に現れています。どうやら、砲撃がこの火星基地に対して行われているようですっっ」
ノインがモニタを見てそう叫ぶ。
「やはり奴等はこの火星基地を乗っ取るつもりか?」
「…もしかしてあたしたちのせい?あたしたちがココに入ったから」
「違う。けれど、何故、奴等はココに…」
ノインがモニタを見ながら呟く。
火星上空にはデイモスに隠れていたと思われる戦艦が数隻、静止していた。
「挑発しているのか?だが、その手に乗るわけにはいかん。脱出するぞ。ノイン、手伝ってくれ。ジュドーとルー、お前達もだ」
「ゼクスっ。まさか?」
ゼクスの言葉に驚いたノインにルーとジュドーは訝しる。
「何をするつもりなんですか?」
「この、火星基地を爆破する」
ジュドーの質問に即答したゼクスにジュドーとルーの二人は驚く。
「な、何でですか?せっかく、ココまで作り上げた物を爆破するなんて」
「ここを使われないようにするためだ。他にもココには機密データなどもある。それを利用される事の恐れから、ココを爆破するしかないんだ」
ゼクスの代わりにノインが二人の疑問に答えた。
それから数十分後、火星基地より高速艇が地球へとむかって発進。
そして、その数分後、火星基地は爆発したのだった。
次回、スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜
「爆発しちゃったね」
「まぁ…、また作り直せばいいことだからな」
「ところで、ノインさんとゼクスさんって、結婚式上げたんですか?」
「なっっなっっなっっ!!?」
「もっぱらの噂ですよ。火星基地は二人の新婚旅行先だって」
「そっそんな事っっ。ぜ、ゼクスも何か言ってくださいっっ」
「…スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜」
「あっ…誤魔化さないでくださいっっ」
「第12話コロニー・スペランツァ防衛」
「あぁ、ノインさんまでぇっっっ