第12話　コロニー・スペランツァ防衛

「これより、SRXチームの合同演習を行う」
「……」

　リュウセイ達SRXチームはL4コロニー群にある『スペランツァ』コロニー近郊の産業衛星の宙域に各々、機体に乗って待機している。

　目の前にいるのは地球連邦極東支部所属のイルムガルド・カザハラ中尉がのるグルンガスト。

「…な、なんだよ」
「いや、な〜んで、イルム中尉がいるのかなぁって思って…」

　リュウセイの言葉にアヤ・ライ・そしてレビの三人はうなずく。

「ヴィレッタから頼まれたんだよ」
「ヴィレッタ隊長に？」
「そう、自分は極東支部を動けないから代りに頼むって」
「私がヴィレッタから聞いたのと違う」
「レビ、なんか聞いたのか？
「うん、ヴィレッタ言ってた。イルムがどうしてもSRXの合体演習を見たいからここはオレに任せろって。ヴィレッタの話だとイルムは誰かに用があるんだろうって」
「……ふ〜ん」

　レビの言葉にリュウセイ達はイルムに怪しげな視線を集める。

「な、なんだよ」
「リン社長とは仲直りしたのかなぁって思ってさ」
「……う……」
「今回のケンカ、かなり派手にやらかしたってロバートが言ってたわね」
「女性問題のケンカだそうだ。我慢の限界に達したらしいぞ」
「ヴィレッタが言ってた、絶縁状たたきつけられたとか…って」

　言いたい放題のリュウセイ達。

「お前等なぁっっ少しは目上の人間を敬おうって言う気持ちがないのかっっ。ライ、お前まで言うとは思わなかったぞ」
「イルム、いい加減にしろっっ」

　突然、聞こえてきた声にイルムは驚く。

「そ、その声は……」

　イルムが搭乗しているグルンガストのモニタに現れたのは中年の男性。

「げっオヤジっっ。なんであんたがいるんだよ」
「綺麗な女性の誘いは断らない主義でな。リン社長に頼まれたんだよ。整備が終了したSRX機を見に来てくれって」

　イルムの父親、ジョナサン・カザハラ博士。
　スーパーロボット工学の権威でグルンガストシリーズの産みの親でもある。

「……ぐ……」

　言葉に詰まってたイルムを無視してロバートが管制室からリュウセイに話しかける。

「はぁ、イルムの事は放って置いて、今回の演習はSRXの起動実験も兼ねているというのは知ってるよな」

　SRX計画者の一人、ロバート・オオミヤの言葉に四人は頷く。

「その件を考えて、フォーメーションを組んでくれ」
「了解」

　4人はシミュレーターで行ったフォーメーションを組んでいく。

　レビの乗るR-GUN。
　アヤの乗るR-3改。
　ライの乗るR-2改。
　そして、リュウセイの乗るR-1改。

　それらは全て、新たに製作されたものだ。

　Rシリーズは先の大戦及び事件の後に全て解体処分を受けた。
　だが、新たな敵の出現を知り、地球連邦所属のコロニー支部トップであるマイヤー・V・ブランシュタインが中心となってマオ社及びD.Cの協力を経てもう一度、Rシリーズを作り上げたのであった。

「ロブ、調子はどうだ？」　

　モニタに目を向けるロバートに同じSRX計画者のカーク・ハミルが声をかける。

「問題ない。けど、」
「けど…？」
「あぁ…」

　カークの問いに答えず、ロバートは計器を見つめる。

「それだけじゃ分からないんじゃないか？」
「カザハラ博士」

　答えを出そうとしないロバートに隣で聞いていたカザハラ博士が問い掛ける。

「……SRXを…Rシリーズを復活させて良かったのかなって思って」

　そう言ってモニタから視線を外し窓の外に映るR-シリーズを見つめる。

「新たな驚異。その事は分かってるけど、危険なT-LINKシステムも搭載させなくたって良かったんじゃないのかとかいろいろ考えてしまうんだ」

　もちろん、SRXに合体する為にはT-LINKシステムは必要不可欠なのだが。

　ロバートの不安げな視線にカザハラ博士やカークが言葉を失う。

「火星基地と連絡が取れないこの状況下で言う事じゃなかったな。申し訳ありません」
「ロブ。SRXの合体はもう少し待とう」

　そう言いながら、マオ・インダストリー社の社長リン・マオが入ってくる。

「社長」

　驚くカークを片手で制しながらロバートに言葉をかける。

「貴方の気持ちは私にも良く分かる。確かに火星基地と連絡が取れない、状況で、地球を守る手段を減らすと言うのは得策ではないのかも知れない。それでもあえて危険な方法を取るのではなく確実な手段を執りたい。それがたとえ結果的に、間違っていようとも、彼等の負担を少しでも減らしたいと言うのだろう？事を急いで、彼等に何かあってからでは遅いからな。SRXへの合体は保留だ。ブランシュタイン総統も分かってくださる」
「ありがとうございます」
「謝る必要はない。私も、同じ事を思っているんだ。そうだろう？」

　リンはそう言って微笑んだ。

「緊急通信入ります。コロニースペランツァに謎の機体接近中。以前、カサレリアに飛来した機体と同型機の模様。SRXチームに出動を要請します」

　通信オペレーターのユン・ヒジョンが送信されてきた通信を読み上げる。

「ともかく、リュウセイ達にでてもらおう。それから、ロンデニオンに駐留しているロンド・ベルにも連絡を」

　リンが指揮をしていく。

「リン。どういう事だ？」
「聞いての通りだ。イルム、行ってくれるか
「了解、ま、非常事態だしな。SRXチーム出動だ」

　そう言ってイルムとSRXチームはコロニー・スペランツァに向かう。

「……ロブ、早いうちに、完成させなくてはいけない。SRXは」
「分かってます。リン社長」

　苦悩の表情を見せたリンにロバートは頷いた。

　分かっていたのかも知れない。
　今はまだ激しさを見せない戦闘が、一部でしか不振な動きを見せない事が、これから、どんどん激しくなっていくことに…。

　コロニー・スペランツァ宙域。

　L4コロニー群の中でもかなりの大きさを誇るコロニー・スペランツァから少し離れたところに、その一群は現れた。

「敵機14。最遠部に見慣れない機体発見。他は過去にウーイッグに攻撃を仕掛けてきたものと同機。ガロイカと思われる」

　レビが冷静に情報を分析していく。

　最遠部の機体は緑色をしており、形状はどこかモビルスーツに似ている。

「ウーイッグに攻撃しかけてきた指揮官機らしい奴は、サイバスターに似てたらしいけど、あれは、なんかモビルスーツみたいだよな」
「確かにな。ともかく、迎撃に当たるぞ。あくまでも、目的はコロニーの防衛だ」
「了解」

　イルムとSRXチームは散開し、コロニーに攻撃を仕掛けてきた敵機を迎撃していく。

「動く様子が無い」
「どうした、ライ」

　ライのつぶやきをリュウセイが聞き止める。

「あの一番奥の機体が気になる。さっきから動かない」
「確かにそうね。あの場からずっとこっちを見ている感じがするわ」

　ライの言葉にアヤも頷く。

「大尉、イルム中尉。俺が仕掛けてみます」
「ライっだったら、俺が」

　ライが最後で言い終わらないうちに、リュウセイが言葉を挟む。

「無鉄砲に突っ込んでいくつもりか、リュウセイ」

「そ、そう言う訳じゃ…でもっ」
「ココは、俺が出る、俺だったら、遠距離から最大攻撃を仕掛けることが出来る。だが、お前の場合は最大攻撃は近距離だろう。攻撃レンジの問題だ」

　まだ、何か言い足そうなリュウセイにライはそう言い放つ。

　ライがのるR-2改の最大攻撃はハイゾルランチャーは遠距離攻撃も可能な武器。
　それに対して、リュウセイのR-1改の最大攻撃はT-LINKナックル。
　近距離の格闘技だ。
　敵が攻めてくる中で、遠距離から攻撃出来る、ライの言うことは最もだった。

「その最遠部の敵は、私に任せていただこう」

　黒い機体が、コロニーから出てくる。

「あれは、ヒュッケバイン…なんで、こんな所に」
「…mk-3。廃棄処分になったんじゃないのか」
「あれは、量産型だ。T-Linkを外し、通常のコクピットと変わらない状況になっている」

　驚いているアヤとリュウセイをしり目に、イルムは冷静に説明していく。

「久しいな、イルムガルド・カザハラ中尉」
「…やっぱり、あんたか。教導隊の一人、連邦軍コロニー宇宙支部所属、エルザム・V・ブランシュタイン少佐」

「え、ブランシュタイン」

　イルムの言葉にエルザムともう一人以外全員驚く。

「その名字って…」
「久しいな、ライディース」
「…何しに来た」

　驚きを隠せないアヤ、リュウセイ、レビをしり目に、親しげに声をかけたエルザムに対して、ライは怒りを隠さない。

「何しに来たとは、挨拶とはいえないな。もちろん、このコロニー・スペランツァを防衛にしに来たとしか言えないだろう」
「良くもそんなことを。カトライア義姉さんを見殺しにした男がよく言う」
「その事については、私は何も言わない。言うつもりなど無い」

　エルザムの言葉にライは歯ぎしりをする。

「…イルム中尉、どういうこと？…」

　アヤがエルザムの言葉に疑問を持つ。

「いや…俺も詳しいことは知らないが…」

　そう前置きして問いに答えたのはイルム。

「とある事件に巻き込まれた奥さんを結果的とは言え、殺してしまったらしい」
結果的に？」

「あぁ、そうするより他に方法がなかった。それ以外は出来なかった。と、言う話だ」
「…なん…だよ、それ…」

　リュウセイのつぶやきにライは叫ぶ。

「理由はどうあれ、貴様は義姉さんを殺した。お前ほどの腕があるならば、助け出せたはずだ！！！」
「先程も言ったが。その事について、あれこれ弁解するつもりはない。だが、今はその事を言い合っている場合ではないはずだ。ライディース、それは、お前も分かっているだろう？」
「っっ」

　エルザムの言葉にライは黙り込む。

「ライディース、あの敵に狙いを定めるぞ」
「…了解した」

　エルザムの言葉に、ライは従い、共に、緑色の指揮官機らしきものに向かっていく。

「大丈夫なのかよ」

　その2機を見ながら、リュウセイはイルムに問い掛ける。

「問題ねぇだろう？一応は兄弟なんだし。俺達は、こっちを片付けるぞ」

　イルムの言葉に残った3人は、迫ってくる謎の機体に攻撃を仕掛ける。

　そして、残る機体がライとエルザムが向かった指揮官機の周辺だけになった。

「砕け散れ…照星の彼方で！」

　指揮官機を射程に入れたエルザムが、グラビトン・ライフルを撃つ。

「ターゲットインサイト…、ハイゾルランチャー……シューッ！！」

　同じく、射程に入れたライがハイゾルランチャーを撃つ。

　ダメージを与えたその時だったっ。

「っ、逆方面に機体反応あり」

　レビが叫ぶ。

「識別信号はっ？」
「…現在交戦中の機体と同じ。数は、12っ」

「なんですってっっ」

　レビの言葉にアヤが叫んだ時だった。

　SRXチームがいるコロニーの入り口とは逆の位置に、機体が出現する。

　今、目の前で戦っていた機体…ガロイカが12機。

「まさか…狙ってたの？」

　アヤがあまりのタイミングの良さに愕然とする。

　残った敵はライ達が戦っている指揮官機の小隊。

　そして、気がつけば、SRXチームは少しずつ、コロニーより引き離されていた。

「くそっ。あいつ等を、コロニーの中に入れるわけには行かないっ」

　リュウセイがそう叫んで、12機のガロイカの方面に向かう。

「間に合うか、どうかはそこについてからだな。レビ、アヤ、お前達は、ココで、防衛だ。いつ、ドコから現れるかわからねぇからな」

「了解っ」

　イルムの言葉にアヤとレビはそう答える。

「リュウセイ、飛ばすぞ」
「あぁっ」

　そして、2機は変形してそこに向かう。

　リュウセイのR-1はR-ウィング。
　イルムのグルンガストはウィングガストに。

「間に合うかっ」

　そう、リュウセイが呟いた時だ。

「こいつ等は任せろよ。行けえええぇええええハイメガキャノン砲！！！！」

　遠距離から、太いビームが趨ってくる。
　そのキャノン砲にやられ、ガロイカは次々と落ちていく。

　そして、その間から、機体が4機現れた。

　行方不明と思われていたジュドーの乗るZZガンダム、ルーのZ2、ゼクスのトールギス3、ノインのトーラスだった。

「その機体…、ジュドー達か？ルー、ゼクスに、ノイン？」
「あぁ、その通りだよ、イルムさん」

　イルムの問いにジュドーが答える。

「連絡をしなかったこと、申し訳ない。こちらとしても、出来る状況になかったので」

　ゼクスが、イルムにそう謝る。

「こっちは、本当に焦ったよ。ジュピトリスが海賊と木星帝国軍との争いに巻き込まれた、で、火星基地とも連絡が取れない。無事で良かったよ。ともかく、詳しい話は、こいつ等をやってからだ」
「了解っ」

　そして攻撃を仕掛けていく。
　ジュドーがハイメガキャノン砲でほぼ、一掃したため、残りは少ない。

「プリベンター皆さん。ラー・カイラムより入電です。、ロンド・ベル隊が間もなく到着するとのことです」

　コロニーの管制室より通信が入る。

　そして、プリベンター宇宙支部ロンド・ベル隊の旗艦、ラー・カイラムがスペランツァ宙域に姿を見せる。
　それに反応するかのように、ガロイカが次々に戦闘宙域を離脱していく。

　呆気にとられる一同。
　そして、最後に、指揮官機も離脱していく。

「な、なんだったんだ？」
「……」

　ただ、呆然と見送るしか無かった。

「なるほど、謎の船団に、木星公社『ジュピターエンパイア』と海賊クロスボーン・バンガードか…。それにしても、ジュドー、ルー、お前達は無茶をしすぎだっ」

　ラー・カイラムのブリーティングルームにブライト・ノアの声が響く。

「いや、だってさぁ。あれしか方法無かったわけだし」
「結果的に助かったんですから」
「そう言う問題かっっっ」

　ジュドーとルーの言い訳にブライトは怒り出す。

「クロスボーン・バンガードに助けられてなかったら今頃は、ココにいられなかったんだぞっ」
「クロスボーンか…。ジュドー、ルー。シーブックとセシリーがクロスボーン・バンガードにいたのは間違いないのか？」

　アムロが二人に問い掛ける。

「間違いないよ。一緒に戦ってきた仲間を、間違えるわけないよ」
「……。『ジュピターエンパイア』は、良い噂を聞かない。恐らく、独自に彼等を追い、何かを掴んだんだろう」

　アムロの言葉にジュドーとルーは頷く。

「この事は保留にするしかないな。正体をあかさなかったと言うことは、何とか出来ると考えているからだろう。 あまり心配することもないさ」
「アムロさん…」

「今は、まだ静観するしかない…今はな…」

　そう、アムロは呟いた。

　その表情は、どこか苦しそうだった。