「サリィさん」

 プリベンターの事務所に戻るサリィさんをあたしは呼び止める。

 理由はさっき彼女が呟いた言葉。
『ガンダム・ファイト』
 あたしはその意味を知りたかったのだ。

「何?セニアさん」
「さっき、呟いた『ガンダム・ファイト』って何?」
「……」

 あたしの言葉にサリィさんは突然、無言になる。

「サリィさん?」
「ご、ごめんなさいっ」

 な、何?

「私、今から五飛と出かけなくちゃならないの。その事は、コロニー出身者の方が詳しいわ。そうね、ヒイロなんかどう?」
「え?」

 なんで、コロニーが?

「ガンダム・ファイトってナショナル・コロニーの関係らしいの。コロニーの事はコロニー出身者に聞けってね。じゃあね」

 と、サリィさんは嵐の様にさっていく。

 何だろう。
 何か、ガンダム・ファイトにあるのかなぁ…。
 隣にいたリューネに顔を向けると訳が分からないと肩をすくめる。

 仕方ない、ヒイロを捕まえよう。
 ちょうど、格納庫から戻ってきたヒイロをあたしは捕まえる。

「ヒイロ、ちょっと、ナショナル・コロニーとガンダム・ファイトについて知りたいんだけど…」

 と言い終わらないうちに

「済まない、今からオレはリリーナと共にホンコン・シティに行かなくてはならないんだ」

 そう告げてヒイロも嵐のようにさっていく。

 な、何ナノよぉ!!!

「あたし、オヤジから聞いた事がある」
「何?」

 リューネが思い出したかのように口を開く。

「政府(連邦)にとってナショナル・コロニーはあまり関わり合いたくない組織なんだって」

 な、何それぇ。

「あたしも、オヤジが愚痴ってたのを聞いただけだから詳しい事はわかんないよ」

 とリューネ。

 こうなったら、もうとことん調べてやる。

「って言うか、シュウに聞いた方が早いんじゃない?ドモンとレインの二人が探している人物っていうのも気になるし」
「調べるのっっ。自分で調べなきゃ身になんないでしょ」
「……身にならないって…あんまり意味ないと思うけどね」

 とリューネはあたしの言葉に呆れたように呟いた。

第8話 カミーユ・ビダンとファ・ユイリィ

月面・ケイリー高原。

 そこに建設された恒久居住都市『セレヴィス・シティ』の郊外にその大企業はあった。

 マオ・インダストリー社。

 月面作業機器からパーソナルトルパーの開発まで手広くやっており、同じ月面都市のフォン・ブラウン市にある『アナハイム・エレクトロニクス社』と肩を並べるほどの大企業となっているそのマオ社の一室。
 窓から見える外の風景に、部屋の主は目を移していた。

 とはいっても目に荒涼とした月面は映っておらず、その先の青い宝石のような惑星に目を向けていたのかも知れない。
 それは無意識の行動で、入れていた事はもちろんその部屋の主は気付いておらず、不意に開いた扉にはじかれたように顔を向けた。

「お邪魔だったかしら?」
「いえ、大丈夫ですよニナさん」

 部屋の主は入ってきた金髪の女性ニナ・パープルトンに答え、体をニナの方に向ける。

「カミーユ君、あなたに頼まれていた、『例の物』終わったわよ」
「本当ですか?ありがとうございます。わざわざスイマセン。でも、ニナさんだったら安心ですからね」
「あら、ありがとう。私も楽しかったわ。あなたの『設計』を間近で見る事が出来て、幸せ、だったもの」
「ニナさんらしいですね」

 カミーユはニナの言葉ににこやかに笑う。

「カミーユ君」
「何ですか?」

 ふっと真顔になったニナにカミーユは身構える。

「言っておこうと思う事が一つあるの」
「?」

 カミーユは首を傾げる。

「もう一つ、修理しているから」

 一瞬だけ考え込んだカミーユはある一つの事を思い出し顔を上げる。

「多分、伝えないでくれって、あの子なら言うと思ったけれど、そうもいかないだろうしね」

 そう言ってニナはカミーユの部屋を出ていった。

「気付いて…いたのか…。じゃあ、あのことも知ってるよな…」

 出ていったニナを見ながらカミーユはそうつぶやいた。

「ごめんね この世界を ゆっくり ゆっくり 忘れられない 光を放ち 星になっていく あなたたちを 私は これっぽちの 歌でしか 償えない(song by globe)」

 月面の空に浮かぶ星を眺めながらその人物は小さく歌を歌っていた。

「…リン・ミンメイね。なかなか上手いのね。ファは」
「ニナさん…。それ程でもないですよ」

 照れてニナに向けた顔をファは逸らした。

「今、地上ではスゴくはやっているそうね。『Lights Pought the future』 だっけ?」
「ニナさん、よく知ってますね。タイトルとか」
「そりゃそうよ、一日中、有線でかかってるんですもの」
「でも、タイトルまでは分かりませんよ、有線じゃ」
「言われてみればそうね」

 そう言って二人は軽く笑う。

「カミーユ君は…あなたの行動に驚いたみたいよ」
「…そうですか。カミーユは気付いてるんです」

 ニナから告げられた言葉にファは驚きながらも、冷静に、答える。

「ニュータイプだから?あなたも、少しはそうなんでしょ?」
「…そう言う訳じゃないんです。ニュータイプだからとかじゃなくてただ、何となく。ニナさんも分かりますよね。そのただ、何となく、という気持ちなんです」
「…そうね…。空気が慌ただしいとか、どことなく苛立っているとか…そんな些細な事が……」
「えぇ、それに…」
「それに?」

 ファが、付け加えた言葉にニナは首を傾げたが、何事も無かったかのように微笑みを返したファにニナはそれ以上聞く事は無く、なんでもないと首をふる

「私は、そろそろ、フォンブラウンに帰るわね」

 そう言って立ち去ろうしたニナにファは呼び止める。

「ニナさん。…ありがとうございました」
「いいのよ。ついでだもの。気をつけて、出来る限りの事はするわ。そう伝えて?じゃあね」
「はい」

 ニナはファに別れを告げ、その場を立ち去った。
 ニナの背中を見つめ、そしてファはまた窓の外に目を向ける。

 ケイリー高原にかかるドームのその上の星空。
 地球に降りた時には今まで見ていた星の位置と少しだけ違っておもしろがって見ていた事をファは思い出していた。

「カミーユ…私のしてる事に…気付いたのよね…。やっぱりカミーユも知ってるのかな」

 今まで内緒にしていた事を気付かれて少しだけファは気まずい思いをしていた。

 いつもなら大概、ファはカミーユの研究事務所でカミーユの研究を手伝っている頃だ。
 だが、まだ、研究室に戻ろうと考えていない。
 ニナがカミーユの部屋を出てからファと会いそして別れるまでかれこれ1時間はすでに経っている。
 いつもなら直ぐに戻るのにもかかわらず。

 あのゾラ事件の後、カミーユとファの二人はマオ社に入った。
 元の生活には戻れないと言う事は分かっていたが、このまま軍にいるつもりもなかったのだ。
 そんな二人をマオ社の社長であるリンは知り二人をマオ社に誘ったのである。

 その時から二人は共にいるようになった。

 軍にいる事はいやだったが、何か起きても対処する事が出来ないのもいやだったからだ。

 その事は二人でいるようになってから話し合って決めた事だ。

 地球圏に何か起きたら、『プリベンターの一員としてブライト艦長達が駐留しているロンデニオンか本部のある地球におりよう』と。

 だが、カミーユは一人で事をなそうとしていた。
 そして、それをファは気付いてしまった。
 その上、ファは気付いた事を隠し、自分も同じように行動した事をファは気まずい思いでいたのだ。

「こんな所にいたのか」

 はじかれたように振り向くと、そこにはカミーユがいた。

「か、カミーユ……。……ごめんなさい…」

 ふと、出た言葉にカミーユは眉をひそめる。

「なんで謝るんだよ」
「だって……。聞いたんでしょ?ニナさんから」
「別に、聞いてないよ」

 カミーユはファの言葉にさらりと答える。

 確かに言及されてはいない。
 ただ、その事を含ましていただけだ。

「ユイ…君も、気付いたんだろ?」

 カミーユの言葉にファはゆっくりとうなずく。

「何となくだけど…そんな気がするの。気配?そんな感じ。カミーユは………」

 ファはそこで言葉を止めカミーユを見つめる。

「感じている。多分、他の皆も感じてるんだろうな。だから行こうと思っている」
「私も…いいわよね」

 了解を取るかのようにファはカミーユに訊ねる。

「いいも、悪いも…どうせ見てもらったんだろ?そしたら、関係ないじゃないか」
「もう、そう言う言い方しなくたっていいじゃない」

 カミーユの言葉にファは少しだけムッとする。

「ごめん、…ごめん。……ユイ、今の状況、知ってるよね」

 カミーユの言葉にファはうなずく。

「……ティターンズの事でしょ?わたし、カミーユが気付いてなかったらずっとそのままにしておこうと思ったの」
「どうして?」
「…ほら…カミーユはティターンズといろいろもめ事があったわけだし、もし調べていた事が本当だとしたら、カミーユに危険が及ぶんじゃないかって…」
「ユイ…」
「でも、隠しておく必要無かったのよね」

 ファの言葉にカミーユは苦笑する。

「ヘンな気を回し過ぎなんだよ。リン社長の所に行こう。これからの事話しておかないと」

 カミーユの言葉にファは静かにうなずき、二人は社長室へと向かった。

-入電-

カミーユ・ビダン及びファ・ユイリィ両名。 至急連絡されたし。

プリベンター宇宙ロンデニオン本部 本部長:ブライト・ノア

次回、スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜
「カミーユ、ずっと疑問におもっていたんだけど一ついい?」
「何?ユイ」
「カミーユって何の研究してるの?」
「ん〜一言で言うと難しいな。」
「わたし、カミーユに手伝ってって言われる資料、全部統一性がないわよ?どう考えたって…何の研究してるか想像もつかないじゃない」
「別に、本編には関係ないんだから気にするなよ」
「あら、私はカミーユといつも一緒にいるのよ。これからも一緒にいるとするなら、やっぱり知らなくちゃならないと思うの」
「スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜第9話」
「あっカミーユ、誤魔化さないで」
「『ジュドー・アーシタとルー・ルカ』」
「カミーユっっ。ジュドーとルーの二人、木星から帰ってくるのよね」
「もう、戻ると思うんだけど。いつもは連絡来るはずなんだけどな」
「とりあえず、行きましょ」