「セニア王女でいらっしゃいますね?」

 突然、声をかけられる。

 あたしに声をかけてきたのはプラチナブロンドの髪に北の海を思い起こさせるフィヨルドブルーの瞳を持つ少女。
 誰にも犯すことの出来ない気品を漂わせ、力強い意思の力を感じさせる。
 年は…隣に守るようにたっているヒイロと同じぐらいかな?

 …ヒイロが…どことなく警戒している。
 あたりに神経を張り巡らせているってことは…っ!?

「りっリリーナっ何でこんな所にいるのよっっ」

 リューネが突然声を上げる。

「ま…まさか、ウィングゼロに…乗ってたぁなんて、…言わないよね」
「ごめんなさい。乗ってました」

 リューネの言葉に、彼女は平然と応える。

「へ…平気なの?」

「以前、エヴァにも乗ったことがあるから…平気だそうだ」

 リューネの言葉にヒイロが代わりに応える。

「エヴァに乗ったんだぁ…あれって国家レベルの超機密物の機体だったよねぇ。良く乗れたねぇ」
「たまたまです」

 ………なにも恐れない強い表情。

「あっあなたが、リリーナ・ピースクラフト???あなたの話はいろいろ聞いていたわ。そう、あなたがそうなのね。ヒイロがめちゃくちゃぞっこんだって言うお姫様っっ」
「せっセニア」

 ヒイロが隣で珍しくポーカーフェイスを捨ててあたふたしてるけど(珍しいっっ。滅多に見ることの出来ないものだけどっっ)無視して話を続ける。

「ガロードにも見せたかったわぁ。ガロードって言うのは聞いた?ヒイロから」
「えぇ」

 あたしの言葉ににこやかに彼女、リリーナは微笑む。

「そう。あっあたしは、セニア・グラニア・ビルセイア。ちょっとしたラングランって言う所の王女様やってるんだけど、あなたみたいに王位継承権はあたし持ってないの。その代わり、ラングランの情報網はすべてあたしが管轄してるのよ。あなたに逢えて嬉しいわ。マサキやリューネからいろんな話聞いてたから。そう、あなたが最初はヒイロを追いかけてたのに、最後はヒイロが追いかけるようになった完全無欠の王女様。あぁ、すっごいうれしいっっ。ずっとあなたに逢ってみたかったのぉ」
「…セニア…もしかしてヒイロのことからかってない?」

 リューネがこっそりあたしに話しかける。

 やっぱり分かる?か…。

 まぁだってこんな機会ないじゃない。
 ヒイロがぞっこんだって言う王女様を前にヒイロをからかう。
 リューネ達やデュオの話聞いたら、あんまりヒイロってばリリーナ王女の事構ってあげてないって言うじゃない。
 かわいそうだわっ。

「相変わらず、他人の恋愛は好きなのね」

 当然っ。

「あ…あのセニア王女」
「あぁ、セニアでいいわよ。堅苦しいことなし。あたしも、リリーナって呼ばせてもらうから。さて、シュウのオフィスにでも行きますか。で、シュウのオフィスってどこ?」

「…そうだ、セニア、何の用事があるのだ?シュウのオフィスに」
「ついてから話すわ。すべては、そこからよ」

第4話 亡霊

 DC日本支部のある場所は以前と変わらない東京湾上の新都心の高層ビル内にある。
 今は、プリベンターの極東支部もかねている。

 で、シュウのオフィスは最上階にあるそうだ。

「何があるか分からないんでな、ほぼそのままにしてある」
「それでいいわ。まず、ここからのネットワークはすべて切ってあるわよね」

 オフィスに着いてまずあたしはそのことを確認する。

「切ってあるけど何をするつもりなの?」
「…まぁ、見ててよ。ヴィレッタ、シュウが使っていたメインのパソコンってこれかな?」

 ヴィレッタに問いかけると彼女はうなずく。

「…さて、始めますか」
「セニア、一体何するつもりなんだい?」

 沙羅があたしに聞く。

「クリストフの使っていたパソコンを立ち上げて、それに外部…このデュカキス小型版を搭載したノートパソコンで潜り込むの」
「潜り込む???シラカワ博士のパソコンって確かすべてウィルスが発生してダメになったんじゃなかったっけ?」
「あぁ、そのせいでイージス計画は最終段階で崩壊しそうになったんだ」

 雅人の問いに亮が答える。

「そんなパソコンに潜り込んだら、それダメになっちゃうんじゃないの?」
「大丈夫よ。リューネ、あたしはハッキング&クラッキングのプロよ」

 そこら中に簡単に入り込めたりしちゃうんだから。

「プロって言ったって…それラ・ギアスだけの話でしょう」
「ホントにそう思ってる?」

 不敵に笑うあたしにリューネは汗を垂らす。

「え…セニア。でっでもぉ、どうせ、その後ヒイロ達入ったんだよね?セニアだって知ってるよね。ヒイロ・デュオ・トロワ・カトル・五飛の5人はプロの工作員だって」
「もちろん知ってるわよ。でもね、あたしと、クリストフのつきあいの長さは彼らより上よ。あたしは、彼のプログラミングの癖、すべて知ってるの。もちろん、クリストフ・グラン・マクソードがクリストフ・ゼオ・ヴォルクスに変わったとしてもね」

 あたしはあっけにとられているリューネ達を後目にノートパソコンを立ち上げ、机の上のメインパソコンを立ち上げる。

 あたしのパソコンにはありとあらゆるウィルスバスターのソフトが入ってるの。
 もちろん、シュウにも聞いてあるわ。

 ただ、

「あなたにそのウィルスバスター組み上げることが出来るんですか?」

 なんて言われたけど。
 情報局特別監察官のあたしの腕を見くびらないでね。

 なかなかに手強い、シュウのウィルスをすべて消し去って、ウィルスチェック、その後、確実にデータ再生。
 もしもの為に、何重にもロックして隠して置いて時々それ、引き出してたって言うんだからやっぱりあの人って悪役よっ。

「オールグリーンっ。完璧っね。さて、とりあえず、今の状況教えてくれる?少しは甲児君達に聞いたわ」
「今の状況か…極東支部は、見ての通り地下勢力の混合編隊がこちらに攻めてきている。…極東、この日本に限っての事で、今そのことは全力を挙げて調査中だ。が…何分、情報が全くない。気付いただろう、彼らの中には常日頃ならいるはずの指揮官が存在しない。暗黒大将軍だったりあしゅら男爵だったり…。彼らの常に中心となる人物が表にでてきていない。そのせいで、何故、彼らがこの極東支部に攻めてきているのかが全く分からない」
「お手上げって奴だよ。そのせいで、オレたちもいろんな所にかり出される始末。全く、休みなんてあったもんじゃねぇ」
「忍っ。話の腰を折るんじゃないよ」

 ヴィレッタの言葉に忍は愚痴るように言う。

 日本の状況はだいたい理解できた。

「他は、何かあるの?」
「…リリーナが、ココにいるって事は…サンクキングダムで何かあったの?」

 リューネがあたしの代りに聞いてくれる。

 調べたとは言え、地上のことはあたしよりかずっとリューネの方が詳しい。

「…ヨーロッパ地区は今…妙な噂が立っている」
「妙な噂?」

 リューネの問いにヒイロが答える。

「あぁ、妙な噂。亡霊の噂だ」
「亡霊?、何それ。別に妙でも何とも…」
「…ただの亡霊だったらまだ、ましだ。だが、その亡霊は…連邦軍地球至上主義のエリート部隊の亡霊だそうだ」

 地球至上主義のエリート部隊?

「それって…ヒイロ…」

 リューネが何を言いたいのかヒイロは分かったのかゆっくりとうなずく。

「あぁ、…今、そのことを五飛とサリィが調べにでているはずだ。そのせいで、リリーナをこっちに移動という形で避難させた。単なる噂に終わればそれでいい。だが」
「本物だったら…やばいと言うわけか」

 忍の言葉にヒイロはうなずいた。

「どう、五飛。映った?」
「いや、まだだ。そろそろ、見えてくるはずだが」

 サリィの言葉に五飛は手元のパソコンを操作しながら別のモニタをにらみつけていた。

 アイルランドの首都、ダブリン。
 ある噂を確認するために二人がこのダブリンに入ったのはリリーナの会議がある前日のことだ。

「ずいぶんへんぴな所にあるものよね…」

 モニタを見てサリィはため息をつく。

 モニタに映し出されている映像はどこにも身を隠すことの出来ないだだっ広い草原。

「これじゃどこに誰がいるのかまるわかりね」
「そう言う理由で、やつらはこの場所を集会所に選んだんだろう」
「でしょうね」

 その草原の中に1件の家が見えてくる。
 もちろん、家の周りにも木などの身を隠す場所は全く存在しない。

「あたり、の様ね」

 サリィの言葉に五飛は無言でうなずく。

 ある噂…、ヨーロッパ全土に広がっている、亡霊の話。
 ゾラ事件のさなかに、死亡または逮捕されたと言われている人物が数々目撃されているのである。

「…画像は綺麗に映っているようね」
「あぁ、超小型の高感度望遠カメラ。アンテナの固まりだから、映像が乱れることがない。さすが、プリベンターとDCとで共同で開発しただけはある」

 プリベンターの役割は火消しである。

 火消し…つまり紛争の元を消して回る。
 そのためには情報収集はもちろん欠かせない。

 そう言う理由からこの超小型の高感度望遠カメラは開発された。

 1cm弱の大きさの物が飛翔していても気付くことは容易ではない。
 もっとも、室内に入ってしまえば、飛行する時のエンジン音で気付かれるということもあるが(それでも微量の音)、音声を拾うために開発されたわけではないので、問題はなかった。

「五飛、あまり窓に近付きすぎないようにね」

 場所が場所だけに、用心の為のカーテンは窓にはかけられていない。
 カメラはそのカーテンのかけられていない窓へと近付いていった。
 部屋の中は集会所の様になっており、20人近くの人数がその場所で討論の様なものをしていた。

「…なにこの人数」
「全員、生き残りのようだな。あの制服を来ている」

 連邦軍の制服の色調を紺にした制服。
 それがエリート部隊と呼ばれていたティターンズの制服である。

 その中で神経質そうな男に五飛は目をとめる。

「この男、ジャマイカン・ダニンガンじゃないか?」
「…いつの間に脱獄していたの?」
「サリィ、あの後の状況を…詳しく教えてくれ。あの時全員吸い込まれたんじゃないのか?」

 五飛は、サリィにあの時…ネオ・グランゾンの爆発で発生した時空間が消えた後の事を問いただす。

「あの後、わたしたちはあの場所に向かったの。すでに、マクロスの防衛として当たっていた元SDF艦隊のバルキリー小隊がすでに収拾に当たっていたわ。あの場所に合ったのはティターンズの残骸と…死亡したパイロット。そしてわずかな生存者よ。ジャマイカン・ダニンガンはそのうちの一人。生存者は彼が搭乗していた戦艦アレキサンドリアのクルーがほとんどね。死亡が確認されたのは、戦艦ドゴス・ギアに搭乗していたジャミトフ・ハイマン、戦艦スードリに搭乗していたバスク・オム、MSパラス・アテネに搭乗していたライラ・ミラ・ライラ、MSバイアランに搭乗していたカクリコン・カクーラー、MSハンブラビに搭乗していたラムサス・ハサ、そしてダンゲル・クーパー。MSバウンド・ドッグに搭乗していた、マウアー・ファラオ。…以上よ」

 サリィの言葉に五飛は顔を青くしていく。

「…未来で、ティターンズのメンバーにオレたちは会っていない。居るとすれば、必ず会うはずだ。…サリィ…残りの主要な将官は…ココに居ると言うのか?」
「可能性がない訳じゃないわ。現に、ジェリド・メサ、ヤザン・ゲーブルの所在は不明だもの。彼らが生きている可能性はコクピットからの状況から見て間違いないわ。どうやら、爆発の直前彼らは脱出したらしいの。MAアッシマーに搭乗していたブラン・ブルダークはその後逮捕されているわ、現在も監獄に収容されているはずよ」

 サリィはそう五飛に告げながら部屋の様子がくっきりと映し出されたモニタに目をやる。

「もし、彼らが生きているのならここに…姿を見せないはずはないと思ってるんだけど…」

 だが、ジェリド・メサとヤザン・ゲーブルの二人の姿はこの部屋の内部にはない。

 部屋内部が不意にざわつき、男が2人、入ってきた。

「…ジェリド・メサとヤザン・ゲーブル…か…ん?」

 ティターンズの制服をかっちりと来たジェリド・メサとその制服を着崩したヤザン・ゲーブルが先導しその後に見慣れない男が一人入ってくる。

 クリーム色のダブルのスーツ、不敵な笑みをゆったりと湛えた、男。
 特徴的なのはその手に持つ団扇。
 古代中国で白羽扇(びゃくうせん)と呼ばれるそれを常に携えている。

「…っっこの男っっ」

 その男の顔を見た瞬間、五飛は絶句する。

「五飛…知っているの?この男を」
「……諸葛亮孔明…」

 五飛は食い入るように画面を見つめてサリィにそう言った。

「諸葛亮孔明?」

 三国志にでてくる天才軍師の名前をつぶやいた五飛にサリィは聞き返す。

「BF団を知っているか。そこの中心にいる十傑集の軍師だ」
「BF団って…あの秘密結社?世界的テロリスト集団って…。…まさか、BF団はティターンズの残党を使って?」
「考えられないことはない」

 五飛の言葉にサリィはため息をつく。

「なんて事なの…レディの勘当たったわね。リリーナさんを日本に移動させて正解って所ね」
「だが、BF団がでてくるとなれば、オレたちの手に負えない…」
「…五飛、忘れたの?BF団とやり合う時の原則。目には目を、十傑集には九大天王をってね」
「国際警察機構か」

 五飛の言葉にサリィはニッコリと微笑む。

「えぇ。ねぇ、五飛、ロンドンに行かない?」
「ロンドン?」

 突然のサリィの申し出に五飛は首を傾げる。

「うん。名探偵がいるのよ。そこに」

 サリィの言葉にもう一度、五飛は首を傾げたのだった。

次回、スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜
 世界を破滅に導かんとする悪の秘密結社BF団が2年間の沈黙を終え、再びその姿を地球上に表した。
 彼らに対抗するすべくプリベンターはある組織に接触を試みる。BF団と常に対抗している国際警察機構の面々。

 かつて、霧の都と呼ばれていたロンドン。
 この街に現代のシャーロック・ホームズと呼ばれる少年が居た。
 彼の名前は草間大作。

「………そこまでおっしゃるのでしたら…あなたが犯人でない証拠を僕に見せていただけませんか?僕は、あなたが主張するアリバイはすべて崩すことが出来ます。それでもよろしいのでしたら…犯人でない証拠を僕に見せてください」

 華麗に犯人を追いつめていく大作少年。

「また何かありましたら、僕に言ってください。僕はいつでも、あなた方に協力します」

 父の残した『ジャイアント・ロボ』共に今日も戦う。行け、草間大作!!!
 次回スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜第5話ロンドンの名探偵
 お楽しみに。