「で、連絡しないの?」

 エーテル通信機の前でうなっているあたしに、リューネが聞いてくる。

「……今更、できないよ」
「だろうね」
「…リューネ、あきれてるでしょう?」
「当然。だから、言ったじゃん、とりづらくなる前に、連絡しろって」

 …言ったっけ?

「多分」
「あぁ、もぉ、絶対に怒られるっっ」
「で、いきなりどうしたわけ?」
「……分からないところがあってぇ、シュウに聞けば、分かるかな?なんて」
「………知らない」

 …見捨てないでよぉ。

「まぁ、あきらめて、連絡しな。あたしはここで見守ってあげるから」
「裏切りものぉ〜」
「裏切るもなにも、あたしは、最初っから忠告してあげたよ?連絡しなくてもいいのかって」

 あぁもぉ、いい、自分で解決するっっ。

「…ますます連絡しづらくなること分かってるのかな?セニアは」

 ため息ついたリューネを背にあたしはやっぱりエーテル通信機をしまった。

 今更、後悔したって遅いのは分かってるのよ。
 意地になってるのもあるんだから、しょうがないよね。
 うん。

 そう自分に納得させて、あたしは資料に目を通し始めた。

第14話 再び地上へ

 セニアとリューネが地上に出てから、もうすぐで、一ヶ月がたとうとしていた。
 今、このラングランの王城は不穏?な空気が漂っていた。

「あなたに聞きたいことがあるんでございますの」

 相変わらず、なんだかめちゃくちゃな話し方のモニカがオレに聞いてくる。

「オレに聞きたい事って?」
「シュウ様の事でございますわ」

 やっぱりな。

 モニカが聞いてこないはずがない、そう思ってた。
 ら、案の定って奴だった。

「シュウ様はこのところ機嫌が悪いようでございますの。マサキさんあなたならご存じだと思いましたの。シュウ様が一番心を開いていらっしゃるのは、マサキさんあなただと思ってますし」

「そう言われても…」

 あんまりうれしくない。
 だいたいその、オレに一番心開いてるってどこからそんな情報が出てきたんだよ。

 オレの心の叫びを無視してモニカは話を進める。

「私がシュウ様にお聞きしようと思いましても、軽く交わされてしまいます。おそらく、私に心配をかけないようと言うシュウ様のお優しさなのでしょう」

 そうか?

「サフィーネさんに頼るつもりは毛頭ございません。やはり、ここはマサキさん、あなたしか頼れる方がおられないのです」

 …モニカの言いたいことも分かる。
 おそらく、この場内にいる人間全員が思っていることだろう。

『シュウの機嫌は何故、悪い』

 と言うことは。

 オレは、知っている。
 もう、確実に、完全に、知っている。
 その理由を。

 けど、誰にも言えない。
 正直言って、最初は半信半疑だった。
 リューネやクロやチカが言っても、信じられなかった。

 あの、シュウが。
 冷静沈着なシュウが。
 何が起きてもほとんど動じることのないシュウが。

 セニアから連絡がこないだけで、何であんなになるんだよぉっっ。

 誰も、近づけねぇっつーの。
 だから、言えない。

『地上に行ったセニアがシュウに一度も連絡をよこさないから』

 なんて誰にも言えない。

 モニカ(シュウのことを好きだという)なんてもってのほかだ。
 聞いたとたんに卒倒しちまう。

 サフィーネは暴れ出すだろうな。

 リューネとオレとの通信の時、セニアはリューネの近くにいる。(どうやら、エーテル通信機をセニアが確保しているらしい)。
 で、シュウはオレがいる部屋にいる。
 どうやら、オレやリューネの会話の間に割り込んでくるセニアの話の内容を盗み聞きしているらしい。

 つーか、自分から連絡しろよ。

 前に、そう言ったら

「セニアが連絡すると言ったのです。何も、私からする必要はないでしょう?」

 なんて意地張って。

 チカの話じゃ、通信を拒否られたって話だし。
 かわいそうっちゃ可哀想なんかもしれないけどな。

「マサキさん、シュウ様の事、何かおわかりになりましたら、私に教えてくださいませ。よろしく、お願いいたしますわ」

 そう言って、モニカは部屋を出ていく。

 いっつも思うけど、本当、セニアとモニカって双子なのかぁ?
 とてもじゃねぇが、そうには、みえねぇぞ。

 とはいえ、問題は、シュウのことだ。
 モニカには言わなかったが、実はシュウの様子を聞いてきたのは、彼女だけじゃなかったのだ。
 他の人間、どちらかと言えば、シュウに接触を『しなければならない』人がオレに聞いてくる。

 あの、サフィーネですらシュウに近づけないと言うから重傷だ。

 はぁ、これもそれも、セニアが連絡してくれば、一発で収まるのによぉ。

『……』

 エーテル通信機が反応する。

 リューネからだ。
 セニアが連絡してこないおかげで、このエーテル通信機はもっぱらオレとリューネ専用と化している。

 ほとんど私物通信。

 個別の通信機って言うのはあるが、リューネは絶対に、セニアが持っている本体の通信機から連絡してくる。
 多分、セニアを通信機の前に引きずり出そうっていう魂胆なんだろうが。
 なかなかそうも行かないって言うのが、問題だった。

「やっほー、マサキ」

 リューネがモニターの中に現れる(セニアが持っていったのは、モニター通信もできる通信機)。

「相変わらず、元気そうだな」
「当たり前でしょ?元気じゃなきゃ、やってけないよ?」

 リューネはそう言って笑う。

「まぁな、それは言えてる。そっちの様子はどうだ?」
「こっち?まぁ、いろいろってトコ。それより、マサキの後ろ、かな〜り気になんだけど」
「後ろ?」

 リューネに指摘された後ろを見てみる。

「あたし達の事は気にしにゃいで」
「はにゃし続けるにゃ」
「そうですよ。私たちはここで愚痴聞いてもらおうなんて思ってもいませんから」

 ……クロシロチカの3匹だった。

 なんでいるんだよ。
 クロとシロがいるのは分かる。
 オレのファミリアだし。

 けど、チカだ。
 聞きたくねぇよ、その理由。
 分かり切ってるから。

「どうしたわけ?クロとシロがいるのは分かるけど、チカ、あんたの主人はどうしてるの?」

 オレが止める間もなく、リューネは聞いてくる。

 いや、多分、分かってるんだ。
 分かって、言ってるんだ。
 リューネの近くにいるはずのセニアに聞かせるためにっっ。

「チカがいたって別にいいじゃない」

 集音機でも作ったのか、セニアのぼやきにも似た声がこっちにも聞こえる。

「聞いてくださいよぉ、リューネさんっっ」

 モニターの向こう側のリューネはいやそうな顔を一瞬見せるも我慢して、チカの言葉に相づちを打つ事にしたらしい。

「シュウ様がですねぇ、元気ないんですよぉっ」
「元気にゃいって言うよりも、機嫌がわるいにゃ。とばっちりを食らうオイラ達の身にもなって欲しいにゃ」
「身…ねぇ」
「マサキはどうなの?」
「オレか?」

 オレは…関わり合いたくない。

「全員、オレに聞いてくるんだぜ?『クリストフ様はいかがなされたのでしょうか』って今さっきも、モニカが聞いてきたんだ」
「……あっちゃー」

 最悪な状況になってるって言うのはリューネも分かったらしい。

「……セニアもね…反省してるんだよ。ほら、よくあるじゃない。一回タイミング逃したらなかなか次のタイミングがつかめないっていう。さ、その状況なんだよ、今のセニアは」

 リューネはオレの斜め後ろの方にいるシュウに気づきながらセニアのフォローをする。

「まぁ、分からなくもないけどさぁ……。最悪なんだぜ?こっちの状況」
「マサキの様子見てれば分かる」

 そう言って、リューネはため息をつく。

 ラングラン王城に来なければいいのに。
 って言われるかもしれない。
 けど、なんだかんだといって用事があるから、こないわけにも行かないって言うのが現状で。

 くっそぉ〜オレも、地上に行きてぇ。
 っつーか、この状況から、抜け出したい。

「大丈夫?マサキ」
「何とか」
「まぁ、あたしもさ、もう少し、セニアを説得してみるよ」
「頼む、そうしてくれ」
「了解。あぁ、そうだ、シュウに聞いといてくれる?キョウジ・カッシュって言う人の行き先、心あたりあるかって事」
「キョウジ・カッシュ?」
「うん。多分、家族か親戚だと思うんだ。その人の身内の人が聞きに来たんだ。ガンダムファイターなんだよ、聞きに来た人。ヒイロにけんか売ってた」

 って言っても、ウィングゼロにだけどね。
 そうリューネは付け加える。

 後ろの方に隠れるようにしているシュウを見ると、何かを考えているようだった。

「分かったら連絡して?なるべくつながるようにいるからさ」
「了解。リューネ」
「何?」
「気をつけろよ」
「…ありがと。じゃあね、また連絡するね」

 そう言って、リューネは、通信を終了させる。

「…で、心あたりあるのかよ」

 オレは、後ろにいじけている男に声をかける。

「…彼とは、知り合いです。以前学会で顔を合わせたことはありますが…バルマー戦役以前の話ですからね」
「ふ〜ん」

 ガンダムファイター…って事は、ガンダムファイとの時期…か。
 4年に一回行われる、コロニーの大会って聞いたことあるけど。
 あんま、いい話聞いたことねぇな、そういや。

 部屋で考え事をしているシュウを放っておいて、クロとシロを連れて中庭に出る。

「マサキが迷わないで中庭に来られるにゃんて珍しいわねぇ」
「いつもは、いろんにゃ所に連れてかれるからにゃぁ」

 ほっとけ。

 あれこれ言ってるシロとクロの会話を無視して、草場に寝転がる。

 ここに来るまでも、いろんな人に聞かれた。
 シュウの機嫌の悪さ。
 知るかって一蹴しようとしたけれど、もうどうでも良くなった。

 そういや、…さっきのシュウはいつものって言うかこのごろの機嫌の悪さはなかったような気がする。
 セニアがしゃべったからか???
 っつーか、それだけで機嫌良くなるなよな。

 内緒で、地上に出ちまおうかなぁ。
 ここにいたらいろいろ聞かれるし。

 リューネの事、やっぱ心配だし。
 ビアン博士の事、探すって聞いたとき、手伝おうかって思った。
 まぁ、オレが手伝うより、リューネ一人で探してた方が早い気もするけど。
 それでも、一人で探すよりはいいかなとは思うけど。

「どうしたの?マサキ」
「う、ウェンディっっ」

 不意に、頭上からウェンディがオレの顔をのぞき込む。

「驚かすなよ」
「ごめんなさい、マサキ。私、あなたのことを驚かすなんてこれっぽっちもなかったのよ」

 そう言って、体を起こしたオレの隣にウェンディが座る。

「何を考えてたの?」
「いろんな事」
「クリストフ様の事?それとリューネさんの事?」
「……」

 ズバリ、ウェンディに言われる。

「何で、分かったんだ」

 って言って気がついた。
 今のところ、頭を悩ませてるのはこの事だけだって事。

「クリストフ様のことはね、皆あなたに聞くもの」
「モニカにも聞かれたよ」
「そう」

 おもいだしただけで疲れる。

「リューネさんの事はやっぱり、心配なんでしょう?いくら、彼女が大丈夫だって言っても」
「まぁな……オレも行けば良かったかなって…。ここから逃げ出したいって言うのも実はあったりするんだけどさ」

 そう言いながらオレはウェンディの言葉に応える。

「今の状況じゃ仕方ないのかもね。でも、マサキが地上に出たら寂しいかな」

 ウェンディ…。

「なんてね。ごめんね、マサキ。のんびりしているところをじゃましちゃって」

 そう言って、ウェンディは城内へと戻っていった。

 しかし、参ったなぁ…。
 今の状況、どうすればいいんだよ。

「ここにいたんですね、マサキ」

 ウェンディと入れ違いでシュウがやってきた。

「何だよ、珍しいじゃん、おまえが中庭に来ること。部屋でくすぶってるかと思ってたけどよ」
「考え方を改めたんですよ。ただ、それだけです」

 そう言って、シュウはいつもの調子で静かな笑みを浮かべる。

「考え方を改めたってどういう事だよ」
「言ったとおりですよ」

 意味がわからねぇ。

「部屋の中で考えていたから、考えが煮詰まる。だったら、外に出てしまえばいい。ただ、それだけのことです」
「……??」
「マサキ、付き合ってくれますよね」

 ……な、なんだこの言い回し。

「あなたは、私の監視をしてるんですよね。ここから逃げ出したいとも言ってましたっけ」

 ……いやぁな予感がする。

「おまえっっ」
「いやなんですか?せっかく、誘って差し上げてるんですけどね」
「っつーか、平気なのかよ」
「問題はないでしょう。一機減った分は一機補えばいいんですから」

 ……おいおい、それで周りの連中説得できるのかよ。

「説得するつもりありませんよ。いなくなったら、そう対処するように言ってありますから」

 誰にだよ。

 っつーか、こいつ、マジで地上に出ようとしてやがる。
 セニア、知らないんだよなぁ、こんな事、こいつが考えてるなんて。

「知ったら、ビックリするぞ」
「今まで、連絡しなかった罰ですよ。これでも足りないぐらいですけどね」

 セニア、がんばれ。
 オレにはそれしか言えねぇよ。

 それから、数日後、オレとシュウは周りに内緒で地上に出るためラングランから離れた。
 正直、シュウが一緒で安心した。

 迷わなくってすむ!!!!!!!

 地上の連中元気かな?
 あいつらにシュウのこと説明する事が少しだけ気が重いなと思ったのはここだけの話だ。
 ついでに、セニアにも。

 リューネと通信介さなくて、はなせるのは楽だけどさ。

次回、スーパーロボット大戦〜星達が伝えたいこと〜
 みなさま、お待ちかね次回のスーパーロボット大戦は、プリベンター極東支部にいた張五飛に突然つかみかかる影。少年の名前はサイサイシー。なんと驚くべき事に彼は、ネオ・チャイナのガンダムファイターだったのです。サイサイシーと張五飛の関係とは。そして謎のロボットが彼らに襲いかかるのでした。
次回、スーパーロボット大戦『星達が伝えたいこと』第15話『張五飛vsサイサイシー』にレディーッゴー!