--百花繚乱-- +1+
その部屋はほの暗く、明かりと言えば、宙に浮かぶ淡く光る宝玉だけ。
その中央で、彼女はどうやら自分が来る事が分かっていたらしく、結跏趺坐の姿で待ちわびていた。
五大菩薩の一人、観世音菩薩は共もつけずに一人この館にやってきた。
「よぉ」
「お待ちしておりました。観世音菩薩」
観世音菩薩が彼女に短く声をかけると、ゆっくりと頭を垂れる。
「具合はどうだ?元気してるか?春艶祭主」
「おかげさまで」
春艶は下げていた頭を上げゆったりと微笑む。
春艶祭主。
天界の未来を占う、天界最高の予言者・星見。
星の軌道をよみ、星が作り出す運命をみる。
そして、この天界の祭事を一手に引き受ける者でもある。
「相変わらず、お前の娘は表に出たがらんな。問題じゃねぇのか?」
「それはココに来てまだ日も浅くそして、友達もいないからでしょう」
「作らせないつもりか?」
「まさか…彼女が望む時にそれは出来ます。星見でも見ていきますか?」
「いや、今日はお前を見舞いに来ただけだ。痩せたな、春艶。疲れてはいないか?」
観世音特有の皮肉げな笑顔ではなく、その名の通り慈愛と慈悲を湛えた表情で春艶に問い掛ける。
春艶は病にかかっていた。
この天界でとみにはやり始めた病。
観世音自身も肉親を無くしている(金蝉の親)。
「状況は分かるのか?」
「…おっしゃるほどの事でもございません。次期に終息に向かうでしょう」
「そうか……」
菩薩はその言葉に少しだけ安堵する。
この天界で上位神である観世音は病を無くす役目にある。
「春艶、何を案じている」
「この、天界の行く末に一つの影が見えます」
「そうか…」
春艶の言葉に観世音は宙に浮く宝玉に触れながら呟く。
それは、自身も気付いていた事で、恐らく、釈迦如来も気付いている事だろう。
大地が…いや、世界が望んでいる事を。
「ですが、天の光は影を否定します」
「だろうな。天界は、安定を望む。その世界に、突如現れる『異端』は邪魔なんだろう。大地に望まれた子は天にはそぐわねぇ。自由に動き回らせてやりてぇがな」
「…天にも望む者はあります。子を子の存在を。もそうでしょう」
暗幕の後ろから顔を出していた少女は突如、母の言葉に驚き顔を隠す。
「そうか、あいつは望むのか」
隠れた方を見ながら観世音は言う。
「春艶。おられますか?」
少し高めの声が部屋の外から聞こえる。
調子から言うと、少年だろう。
「あぁ、いるぜ」
その言葉に応えたのは観世音。
春艶の様子が見るからに悪化しているのが分かっているからだ。
「観音!!!がいる。天蓬、戻るぞ」
「駄目ですよ、金蝉。せっかく来たんですから、春艶に逢っていきましょう」
そう言って入ってきたのは年の頃は人の世で見るならば12.3ぐらいの少年の二人。
一人は黒髪に利発そうな少年。
目が悪いのか、天界では珍しくめがねをかけている。
一人は金髪の不機嫌そうな顔の少年。
天蓬と観世音菩薩の甥、金蝉である。
「観世音、怖がらせないで。二人とも私の小さな友人なのだから」
そう言って春艶は天蓬と金蝉を呼ぶ。
「二人は未来の武神将様と文官様ですのよ」
「春艶」
春艶の言葉に天蓬と金蝉は驚く。
「こいつ等が、未来の武神将と文官…ねぇ。世も末だな」
「何が言いたい」
「別に、何でもねぇよ」
菩薩の言葉に甥の金蝉がにらむ。
恐らく、春艶は、この甥と友人である天蓬の未来すらも見えているのだろう。
大地が望む子がどうなるかすらも…。
「…天界では子が成人する間…か…」
春艶が天蓬と金蝉の二人と楽しそうに話しているのを見ながら、下界だとすれば、気の遠くなる程の先を思う。
そして…時は数百年の時間を有する…。
あとがき
いったん、切ります。
次回も観音大活躍。