--百花繚乱-- +2+
「よぉ、元気か?」
いつもの様に暇をもてあました観世音菩薩はその宮殿にやってくる。
「か、観世音菩薩、先触れもなしに突然、いかがされましたか?」
観世音が来るのは日常茶飯事なのに、その宮殿の主に使える女官はあわてふためく。
「な〜に、星見に逢いに来ただけじゃねぇか?いつもの事だろ?俺が先触れ出す方が異常だと思わねぇか」
「いや、確かに、その通りだとは思われますが…、しかし」
「なんだ?客でも来てるのか?だったら帰るぜ?」
観世音がそういって引き返そうとした時だった。
「観世音菩薩、星見がお待ちです、どうぞ、奥の間へ」
「悪いな」
突如現れた女官に観世音は微笑む。
そして、静かに観世音はその女官の後をついていく。
ここは九曜殿。
天界の未来を占う星見が住まう場所である。
「元気か?」
部屋に入り、観世音は声をかける。
明かりとなる宝玉があり、いるはずの人物はいない。
観世音菩薩は遠慮もせず、奥の間にかかっている暗幕を開く。
先程の間と違い、こちらは明るい。
部屋全体に窓がありこの常春の天界では少し熱いぐらいの熱量が空から降る。
その場には一人の少女とおぼしき女性が座っていた。
結跏趺坐…の格好ではなく、椅子に座って、お茶の準備が整ってあった。
「お待ちしてました、観世音様」
そう言って彼女は微笑む。
腰まである深栗色の髪をそのままたなびかせ、夜色の瞳に銀の星を瞬かせて。
彼女の名前は。
天界最高の予言者、星見の名を持つ少女である。
「、堅苦しいしゃべり方はよせ。どうせ、俺とお前しかいないし。遠見が出来る奴なんざ、そうそういないしな」
「分かった」
は頷いて敬語をやめる。
の口調の気安さは幼い頃からの顔見知りと言うのもあるし、彼女の母親で先の星見の春艶がなくなった後、観世音が実の娘の様に見てきたというのもある。
「それにしても、さすがじゃねぇか。近未来予測は春艶でも難しかったのに。軽々と出来るとは」
「時々しか見えないけど?」
観世音の言葉に、は軽く応える。
「時々?冗談だろ?いつもじゃねぇのか?」
観世音の言葉に困ったように微笑んでは観音の碗に茶を注ぐ。
「あと、お前の式神は相変わらず見事だな。最初見た時は一瞬、本物かと思ったけどな」
「でもね、まだ誰も、あれを式神だと分かる人いないのよ。今度、私の姿で対応させようと思って」
「適当な予言、言うつもりか?」
「適当って失礼ね。誰が訊ねてきたって平気なの知ってるくせに」
「あぁ、そうだったな」
そう言って観世音はお茶を飲む。
は先見の能力に長けていた。
未来を確実に言い当てる。
もちろん、星見としての能力も高い。
「話しとは何だ?」
他愛もない雑談が一息ついた頃、観世音はに問い掛ける。
「………」
観世音の言葉には黙って俯く。
「話がしたいと言ったのはそっちだろう?何が見えた」
「言わなくちゃだめ?」
は上目遣いに観世音を見ながら言う。
は星見という能力故に、その内容をはっきりと話すことをしない。
トラブルを避ける為だ。
そのが、式神を使ってまで、観音殿に使いをやり、自分を呼び出したのは、それ相応の理由があると観世音は見ていた。
その内容には、心あたりがあるのだが。
「当然だ。まぁ、だいたい予想はつくがな」
「何故?」
「春艶から聞いてる」
「…母様から?」
は俯いていた顔を上げて観世音に問う。
「言ってみな。それは、『事実』であり『真実』何だろ?だったら、それを咎める奴なんざいないさ」
「………分かった」
意を決したようには頷く。
「持国天様が守護する東勝身州の傲来国に、花果山と言う山があるんだけど」
「………」
の言葉に観世音は眉をひそめる。
傲来国の花果山周辺と言えば、その昔、大地の英霊を封じた所だ。
そんなことは、天界ではごく一部の者しか知らないが。
「そこで、子供が生まれるの」
「子供?」
の言葉に観世音は驚く。
「えぇ。大地が産む子。大地が望んだ子。大地の力を一身に受けた子供」
「赤ん坊じゃねぇのか?」
「大地が作り上げた子供です。年の頃はそうね…10にも満たないかしら。」
淡々と言うの言葉に観世音は顔をしかめる。
自分が感じていた事とは違う。
観世音は春艶から話を聞いた時、赤ん坊だと思っていたのだ。
それが、成長している少年とは…。
「……。お前はどう思っているんだ?」
「……観世音菩薩。わたしは、何も言うことができません。でも…あの子を守ってあげたい。星見が…わたしがあの子の存在を見えてしまったことで、あのこの先に暗い影が見える」
口調を改めたは、観世音の問いに答える。
「…そうか…」
「…………観世音菩薩、あなたの所で、あの子を保護してください」
「?、お前、本気で言ってるのか?」
「えぇ」
驚いている観世音をよそに、は言葉を進める。
「観音殿には観世音以外にも二郎神のおじ様や、金蝉童子もいらっしゃるでしょう?問題はないはずよ」
「…お前ねぇ…。だが、ま、それも面白そうだな」
甥や付き人の困った顔が想像ついて面白いが、それでもいいと思う。
広い大地が望んだ子が、狭く息苦しい天界を、思い切り駆け回れるのなら。
は、子が天界を走り回ってるのが見えるのだろう。
悪い方へは言わない娘だ。
だから、問題はないのだろう。
お茶を飲みながら観世音はゆったりと午後の時間を満喫していた。
それから数か月後
「すげー、きらきら、してるな。たいようみてぇだ」
金晴眼の子供が甥の長い髪をわしづかみにする。
力あまって抜いてしまったようで、気楽に謝った子供と、怒りに打ち震えている甥が面白くて、思わず笑ってしまった。
「『太陽みたい』…か」
「どうかなされましたか?菩薩」
甥の金蝉と子供が部屋を出ていった後、観世音は呟く。
その目は遠くにある九曜殿の方に目を向けられている。
恐らく、には大地の影を金色の光が消すところが見えたのだろう。
「何でもねぇよ?二郎神。…ただな。『太陽みたい』なんてすげー口説き文句だなって思ってよ」
そう言って、観世音はこれからの事に思いをはせた。
あとがき
菩薩さま大活躍編。
観音視点だから3人称でも問題なかったでした。
私の3人称の欠点は、視点がころころ変わってしまうこと。
固めた方がいいのは分かってますが…、うまくいかないんですよねぇ。
だもんで、普段は1人称です。
乱入!!
観音:よぉ!元気か?
長月:お、恐れ多くも観音様に御登場願えるとは思っても見ませんでしたよぉ。
観音:ホントに思ってるのか?
長月:思ってますって。
観音:まぁ、この後も好きにやんな。あいつら、どのくらい困らせたって構わねぇからな。
長月:ありがとうございます。(観音様のご了承がでたぞっ!)
観音:この後はどうなるんだ?
長月:えっとぉ、まずは天蓬元帥が出てきて、そのあと捲簾大将との話があって、悟空が迷い込んで、あなたの甥御さんの金蝉童子は当分後ですね。
観音:面白そうだな。まぁ、精々殺されないようにな。
長月:っっ(゚〇゚;)