--出会いと再会-- +2+
「宿…全部、空きがないってどういう事だよぉ!!」
「誰のせいだと思ってる」
悟空のわめきに三蔵がにらむように言う。
「猿」
「河童」
悟空と悟浄は口々に責任をなすりつける。
結局、この二人が原因となった。
街全体が祭りの会場なのかそこかしこに屋台がでており、悟空はいちいち立ち止まって中身を確認する。
その内容が小物や占術本なら素通りだが、食べ物となると立ち止まり、三蔵または八戒にねだる。
で、悟浄と言えばいつもの通りナンパ。
早くしないと宿がなくなると教えてくれたの言葉は無駄になった。
「…どーすんだよぉ。俺、野宿なんてやだかんねぇ」
「だいたい、猿があれ食いたいこれ食いたいってさまよい歩いたのが原因じゃねぇか」
「悟浄だってそうじゃねぇか!!!ナンパばっかしやがって赤ゴキエロエロ河童!!」
「テメェら!!!ちったぁ黙りやがれ!!!」
始まったケンカに三蔵の銃が火を吹く。
その中で八戒はため息をつきながらこの街の祭り『斉天大聖祭』の中心である道観を眺める。
「せっかくですから、道観の方に行ってみませんか?せっかく、が進めてくれた事ですし」
「なぁ、八戒、またにあえるのか?」
「道観に行ったんですからあえると思いますよ。いいですね、三蔵」
「この際仕方がないだろうがな」
三蔵は舌打ちしながら足を進める。
それに従い他の3人も進んだ。
道観。
民間信仰の一つである道教の寺院、
きらびやかな装飾が異彩を放ち、辺り一帯を包む香が薫る。
抹香の香りになれているはずの三蔵ですら顔をしかめる。
入り口にいた人間が三蔵の姿を見とがめる。
「三蔵法師様とお見受けいたしますが、法師様が何故道観に?」
「一夜の宿をお借りしたい。李の代理という人間よりここを紹介された」
そう言いながら三蔵はにもらった霊符を見せる。
「こ…これはっっ!!!!」
その札を見た門番らしき人間は突如あわてふためく。
「も、申し訳ございません!!少々お待ち下さい!!!」
そう言って道観内に走って行く。
「スゴいですね。李の札の威力」
「この李の札を持っていたちゃんもかなりのもんだって事だよな。かなりのもんだろ?」
「でしょうね。…三蔵どうしたんですか?」
霊符を見続ける三蔵に八戒は問い掛ける。
「……この札は式神の時に使っていた奴だ」
「…がですか?」
「あぁ…」
少しだけ含みを持たせた三蔵の言葉に八戒が疑問を持った時だ。
「お待たせして申し訳ございません」
中に入っていた門番と違う男が三蔵一行に話しかける。
かなり、落ち着きがない。
「どうぞ、こちらに」
男は腰を低くして三蔵達を案内する。
落ち着きのない男の後に付いてやってきた部屋は一夜の宿…という部屋ではない。
テーブルが一つに4脚の椅子。
「こちらでおくつろぎ下さい」
そう言って男はまた落ち着きなく部屋を出ていく。
「この部屋…どう見ても控えの間ですね…」
「この後、この道観のエライ人とお食事って奴?」
「めんどくせー」
この後来るであろう事態に空腹の限界を越えそうな悟空以外ため息をつく。
悟空はテーブルに顔を突っ伏している。
「…腹へった…」
「困りましたね…、これでがいてくれると…何とかなるんでしょうけど…」
八戒の言葉に悟空が顔を上げる。
「…なぁ、三蔵、李って何?が言ってたじゃん。俺、気になったんだけど…」
「天道師、李。道教界のトップで、この桃源郷の呪術界の権威でもある」
「仏教界でトップに立つ三蔵と双璧をなすんです。方力では右に出る人はいないと言うほどの方なんですよ」
「へぇ。すげーな。で、三蔵はあったことあるのか?」
「ない」
悟空の言葉に三蔵は即答する。
「は?」
その言葉に悟空はおろか他の二人も驚く。
「…逢った事ないって…おいおい、相手は道教界のトップだろ?いくら何でも」
「ないものはない。確かに李は天道師として君臨しているが表に出ているのは李ではなくその後見人張竜祥だ。奴には会った事が有るがな、李本人には逢った事がない」
だからこそ、李の代理と名乗っているを三蔵は信じられなかった。
沈黙が部屋を支配した時だった。
「お待ち下さい!!」
「私は言ったはずだ。彼等を離れに案内しろと。そう言ったのがお前には聞こえなかったようだ」
「しかしっっ」
部屋の外から言い合いが聞こえてくる。
一人は低い…どちらかと言えば女性の声。
もう一人はさっきの落ち着きのない男。
「っ何をなさるのですか?」
「決まっているであろう?彼等を離れに案内する。私の霊符を持っていたと言う事は私の客に値する違うか?」
「滅相もございません。ただ、彼等が本当に三蔵法師様とそのお弟子様一行かと言う事であります。弟子の方々はどう見ても妖怪ではありませんか!。それを供にするとはとても三蔵法師様のする所行とは思えませぬ」
男の声が部屋中に響く。
「弟子じゃねぇよ。なんで俺がこんな奴の弟子になんなきゃならないわけ?」
「そうだよ、俺が三蔵の弟子になったんだよ」
「まったく、心外ですね」
「お前らは下僕だ」
「それもムカツクっっ」
部屋の中の喧噪が聞こえたのか女性?は静かに言葉を紡ぐ。
「私が認めたのだ。別に問題はあるまい。それとも何か?お前は私の言葉を信用出来ぬと言うのか?」
「し、しかしっ」
「信用してないようだな?ならば、こうしよう。私も離れで休む、それで問題はあるまい?」
「っ、様!!!!」
男の言葉に4人は驚く。
「斉天大聖祭の準備はまだなのだろう?ならば早くしろ。私の方はすでに整っている。準備が終わったら呼びに来るがいい」
の言葉に男は慌てながらその場を立ち去る。
そしては静かに扉を開けた。
そこにいたのは腰ほどある深栗色の髪を一つに縛り儀礼用の式服をみにつけた、人物。
その紺色の瞳は忘れる事がない。
「…?」
誰が、呼んだのだろう。
は静かにその部屋にいる三蔵一行一人一人に目を向ける。
「どういう事だ」
三蔵の言葉に答えず、は静かに言葉を紡ぐ。
「このたびは道観にいる道士の犯した非礼を天道師としてお詫びします。では、これより離れへと案内します。詳しい話はそこで…。私も忙しい身でありますから」
凛とした瞳は、最初にあった時より大人びて見せる。
もしかすると彼女は思ったより年上なのかも知れない。
彼女の後を付きながら三蔵はそんな事を考えていた。
それでも、彼女自身を包むフワリとした雰囲気は消せずにはいるが…。
「どうぞ、こちらが離れになります。私の部屋はこの奥。三蔵様方はこちらをお使い下さい」
の言葉に4人はうなずき家にあがる。
は入り口に向かい、札を貼り神咒を聞こえないように唱える。
「……でよろしいですか?」
入り口に戻ってきた4人が見たものは扉の方を向いて俯いている。
「……うん、大丈夫」
その口調は先ほど聞いた高い少女の声に戻っていた。
「ごめんね。なんか、騙したみたいになっちゃって」
振り向いては微笑む。
「説明、するね」
部屋にあがりは4人に説明する。
「まぁ、もう分かってると思うけど。わたしが天道師、李です。まぁ、女の子じゃまずいからって…って名前変えて。一応、仏寺院にも行ったりするからね」
「…へ?」
「あぁ、三蔵様は長安のお寺にいらっしゃるんですよね。わたし行った事がありますよ。最も、その時は張竜祥の後をついてくという役目だったんですけどね。そう言えば、三蔵様お見かけしませんでしたね。どちらか行っておられたのですか?」
の言葉に三蔵は思い出す。
悟空の声がひどく聞こえたのはその時で…煩いから殴ってやろうと思ってた癖に結局拾ってきて…戻ってきたら何故か話題は張竜祥のお供についてきた少年の事。
自分と同い年ぐらいだから話があっただろうにとかぬかして腹が立った。
「ばれないのか?」
「全然。八戒も悟浄も知ってるけど、前も髪後ろに縛った状態で式服きて寺院に入ったら全然ばれなかったしね。今でも行けるわよ!!」
そう言ったの言葉に三蔵は呆気にとられ、悟浄と八戒は苦笑する。
「そうそう、ご飯食べた?食べてないんだったら用意させるけど」
食事の事を持ち出したの言葉に悟空が目を輝かせる。
「まだ食ってねぇんだ。だからちょー腹減って。っそうだ、、俺達と一緒に飯食わない?」
突然、悟空が申し出る。
「へ?わたしと?」
「しかいないじゃん」
「…でも…わたし、今から祭に出なきゃならないんだけど……」
助けを求めるように八戒と悟浄を見る。
「それ終わってからだって問題ねぇよ、俺達は大歓迎だぜ?」
「ほら、つもる話もありますし、遠慮しないでね」
「で…でも」
八戒と悟浄の言葉を聞きながらは三蔵の方を見る。
「別に…構わない」
素っ気なく言った三蔵の言葉にはふわりと微笑む。
「じゃあ、ご飯用意させるね。あ、あとお酒も合った方がいい?どうしよう。食事はここじゃなくって2階の座敷にして…あそこだったらお祭り見れるしね。それから…」
が慌ただしく考え始めた時だった。
「失礼いたします。様、祭りの準備、整いましてございます」
女性が部屋の中に入ってくる。
それと同時にの表情及び口調が変わる。
「分かった、今行くと伝えてくれ。それから食事の準備を、二階の部屋に整えて欲しい」
「かしこまりました」
そう言ってその女性は出ていく。
「祭、…斉天大聖祭と言いましたよね…」
「うん、今からね、メインの演舞やるの。さっき言った座敷から見えるよ。斉天大聖様の格好した男の子とね、私、剣舞するんだ。とりあえず、わたしの出番はそれだけにさせたから、じゃあ、行ってくるね」
そう言っては離れの屋敷から出ていく。
入れ違いに先ほどの女性がやってきて三蔵達を2階の座敷に案内する。
そこからは、メインの剣舞をやる広場が一望出来る。
「様より、申し使っております。お酒などをたしなみながら、祭をご覧下さいませ。様がこの地で剣舞をすることはそうそうないでしょうから」
そう言って女性はその場を料理で彩り始める。
大鑼(大きい銅鑼)が鳴り響く。
剣舞がどうやら開始されるようだった。
あとがき
出会いと再会2…夕方編?です。
ヒロインの正体がそうそうに明らかになりました。
次は夜です。