--出逢いと再会-- +1+

 桃源郷で異変がおこってはや数か月以上たったある日。
 西へと向かっている一行があった。
 ジープにのって砂煙吐いて、ときどき…いや毎日、妖怪のなれの果てを築き上げて…。
 説明しなくても、もちろん、分かると思われるので割愛。

「…っていうか、なんで割愛されるんでしょうか」
「さあね。案外面倒くさくなってたりして」
「オレ、腹へったよぉ」
「相変わらず、小猿ちゃんは腹減ったがメインだねぇ」
「何だと、エロ河童!!!自分だって、頭んなかは女のことでいっぱいじゃねぇか!!!」
「まぁ、軽くおわさないと、狙われますよ」

 バックミラー越しに言うモノクルをかけた青年の言葉を後部座席に座っていた赤髪の青年と茶髪の少年は聞いてない。

「だーっっうっせぇっっ」

 助手席から発砲する金髪の法衣を身にまとった青年に、後部座席は大人しくなる。

((絶対狙ったっっっ))

 かなり不機嫌度が高い青年が行った行為に後部座席の二人は大人しくしていようと心に決める。

 ただ、問題はどのくらい続くか…。
 運転席の青年は未来についてすこしだけ…考えた。

 これが彼等の毎日だった。

 ジープに変身する小龍を運転する猪八戒。
 後部座席にすわる赤髪の青年、沙悟浄。
 その隣に座る茶髪の少年、孫悟空。
 …そして助手席で不機嫌そうに眉間にしわを寄せているのが…最も徳の高い法師と呼ばれている三蔵の名を持つ玄奘三蔵。

 彼等一行は…合いも変わらず、西へと向かっていた。

 

 ****

 

「……大人しくなりましたね」
「腹へった」
「二言目にはそれかよ」
「んな事言ったってしょうがないじゃんっっ。腹減ってんだからさぁ! 」
「少し、我慢してくださいね…。お客さんですから」

 と悟空をあやしていた八戒は前方を見据えながら、そう呟く。

「数、多くねぇ?」
「そうですねぇ。どうしますか、三蔵」
「どうもしねえだろ?かなり、めんどうだがな」
「まぁ、いつもの通り行きますか」

 三蔵の言葉を悟浄が受ける。

「まぁ、もう少しで町ですしね…。って悟空、どうしたんですか?」

 一点を見つめたままの悟空に八戒は声をかける。

 

「…いる」

 

「え…?いるって…何がですか?」
「いるんだ」
「だから、何がいるって聞いてるんだ」

 要領を得ない悟空の言葉に三蔵のいらだちが募り始める。

「わかんねーよ!!!」

 そう叫んで、悟空は飛び出していった。

「悟空!!!!」

 三蔵が呼び止める声も聞かず。

 

 

「…かなりの…数よね…」

 妖怪達の攻撃から逃れるように焦げ茶…深栗色の長い髪をふわりとたなびかせ、身をかわす少女はそうつぶやく。

 襲いかかろうとする妖怪を見る紺色の瞳は見かけより、もう少し上か…。
 式服…道士の正装を身にまとい、手には霊符と剣の変わりに一般的な道士は通常使わない銃(セミオートタイプ。ちなみにベレッタM92FS)。

「雷帝招来」

 霊符を使っても大挙して押し寄せてきた(正確には三蔵一行が目的だったが矛先を変えた)妖怪がそうそう減るわけでもなく。
 いつもの、本来の彼女であれば軽々と消せるはずの数を遙かに凌駕しているのだから、苦戦するのは当然だった。

「だーもー多いよぉ!!!!」

 そう叫びながら銃弾を打ち込んでも減るはずでもなく、彼女が使うはずの『大技』は間合いがあまりにも狭いがために使えない。

 

「うぉりゃあああああああああああ!!!!」

 

 不意にかけ声いっぱい目の前に少年…悟空…が飛び込んでくる。
 ついでに妖怪を数名なぎ倒して。

「やっぱりいた、大丈夫か?」

 如意棒を構えながら悟空は彼女に聞く。

「え…?う、うん…。えっとぉ…」

 この状況を把握出来ないまま、向かってきた妖怪に銃弾を撃ち込む。

「孫悟空!!!!!!!三蔵一行がいるぞぉ!!!!」

 口々に叫び、大音量となった妖怪の言葉についていけないまま彼女は応戦しながら、成り行きを見守っている。

「大丈夫?」

 突然、のぞき込んだ悟空の瞳に彼女は引かれた。

 

 金晴眼…。

  

 力強い意思の力で全てを取り込もうとする金色の瞳に…。

「あ、うん、平気」
「マジ?良かったぁ、オレ、悟空、孫悟空って言うんだ。っていうか、こいつらしつけーよぉ!!!」

 三節棍と化した如意棒を振り回す。

「確かに、しつこいね。私は。ねぇ、君に手伝って欲しい事があるんだけど」

 彼女…は銃を撃ちながら妖怪をなぎ倒している悟空に話しかける。

「手伝い?別にいいよ」
「ありがと。じゃあ、この連中少しの間、押さえておいて。わたしに近づけさせないで欲しいの。で、よんだらすぐに戻ってきてね。ただし、わたしの前に立たない事」

 霊符を取り出しては言う。

「え?」

 とまどう悟空には鮮やかに微笑んで

「一発で片、つける」

 答える。

「分かった」

 腑に落ちないながらも悟空は向かってくる妖怪をあしらっていく。
 その悟空を見ながらは霊符を前方にさしだし神咒と呼ばれる呪文を唱える。

「北帝勅吾 打邪気敢有不伏者 雷灼光華 縛鬼伏邪 それ清陽は天となり、濁陰は地となる…戻って!!!」

 の呼ぶ声に戻ってくる悟空が見たものは彼女の前に浮かぶ霊符と銃を構えて銀色の輝きを闇色の瞳の中に輝かせる

「謹請し奉る 九天王元雷声普化天尊 急急如律令!!」

 そう唱えて銃を撃つ。
 銃弾はまっすぐ霊符を打ち抜き。

「え…うわぁあああああああああああああああ!!!」

 大音響で爆発した。
 は反動で後ろに飛ばされるもすぐさま体勢を整え、地に降り立つ。

「…やっぱ、もう少し制御…考えた方がいいよね…。反動で飛ばされるのは問題。…って」

 大爆発の煙の中から突然飛び出してきた妖怪にさすがの悟空も咄嗟に反応は出来ず

っっ」

 襲いかかる妖怪に追いついた時にはふわりと攻撃をかわし、銃弾を撃ち込んでいたがいた。

「これで終了っ」
「…すげーーーーーーーっっ」

 ふわりという言葉がホントに似合うように着地したに悟空は一瞬呆気にとられながら驚きの声を上げる。

「すごい…かなぁ?」

 悟空の勢いにおされはたじろぐ。

「あぁ、三蔵みたいだ。銃、ぶっ放して、魔戒天浄みたいな奴つかって…。それに、ってなんかすっげーふわふわしてるんだな。それから、の目ってスゲー綺麗。夜みたいなのに月みたいなのがあって」

 そう無邪気に悟空はまくし立てていく。

 

「…これで片づきましたね」
「あの爆発のおかげだな」
「えぇ、悟空があの爆発に巻き込まれてなければいいんですが…。大丈夫でしょうけど」

 八戒は自分の元に戻ってきたジープを撫でながら言う。
 あまり悟空を心配していない感じをだす八戒に三蔵は訝しがる。

「なぁ、八戒あれって…」
「…悟浄も気付きました?」
「あぁ、相変わらず、派手にぶちかますよな。どっかの鬼畜法師様みたく」
「……あれは…方術だ。道士がつかう術。知っているのか?」

 悟浄に銃を突きつけながら三蔵は八戒に問う。

「多分ですけどね。さて、悟空の方にでも行きましょうか。きっと一緒にいるはずですから」

 銃はしまったものの今だ悟浄をにらむ三蔵とその視線に怯えている悟浄にニッコリと笑顔を見せて八戒は二人を促す。

 

「ふーん、じゃあ、君は『三蔵』様と一緒に旅してるのね」
「そうなんだ。なぁ、も旅してるんだろう?一人なのか?」
「うん。まぁね。ちょっとした用事もかねてなんだけど。わたし『手に入れたいもの』があるんだ。まぁ、とりあえず、次の目的地はあそこに見える街なんだけど」
「じゃあ、俺達と一緒だな。あ、三蔵達だ!!三蔵!!!」

 悟空が、こっちに向かってくる三人の姿を認める。

 最初に目に飛び込んできたのは金色。
 手に入らないぐらい神々しい金。
 次に隠しているものを全てさらし、射抜くような紫暗の瞳。

 そして…。

「久しぶりですね」
 穏やかな声を持つ深い緑色の瞳の持ち主。

「元気そうじゃん?」
 燃えるような紅と軽口。

「八戒っ!悟浄!!!久しぶり、なんでこんな所にいるの?」
「こんな…ところってまぁ、そうだよな」

 そう言って悟浄は辺りを見回す。

 この場所は彼等の住む長安付近より西にかなり離れたところ。

「僕達はちょっとした理由で旅をしているんです」

 と八戒はニッコリと微笑みながら答える。

「八戒、悟浄、とは知り合いなのか?」

 普通に会話している八戒と悟浄に気になったのか悟空が二人に問い掛ける。

「えぇ、彼女は以前、李という方の代理で何度か一緒に仕事(三蔵に押しつけられた面倒事)しているんです。三蔵には話したと思うんですが…」

 そう言った八戒の言葉に三蔵は思い出す。

 天道師、李
 天才的な方術の使い手で、現在道教界トップの人間。
 道教界トップの天道師と言えば、仏教界でトップの座にある『三蔵法師』と同様の法力(この場合方力)を持ち、この桃源郷の呪術者の権威でもある。

 この目の前で悟空とのんびり話している少女がその道教界トップの人間の代理とはとうてい想像がつかなかった。
 さっきの術の威力を見てもだ。

「ってことは…悟空が一緒に旅している人たちって八戒達の事だったんだね」

 最後に逢った時と変わらない笑顔で微笑みに八戒は少なからずほっとする。

 と逢ったのは2年前。
 三蔵の命令で三仏神からの依頼事をこなす為、悟浄と二人洛陽方面に向かった時だ。
 木の上から軽く降りてきて彼女を端的に現す『ふわり』とした笑顔で悟浄と八戒の二人を出迎えたのだ。
 それから2年、何度か共に仕事をこなし、最後に逢ったのは旅に出る半年前。
 丁度、妖怪の凶暴化が始まる直前だった。

「でも、ホント、元気そうで何よりです」
「八戒もね。相変わらず、美人さんだし…悟浄も相変わらず…だしねぇ」

 横目で抱きついてきた悟浄にはため息つく。

「え?オレが何?もしかして俺に惚れ直した?」
「って言うか最初から惚れてないし」
「エロ河童!!!にさわんじゃねーよ!!」
「お、ガキのくせして色気でもついたか?」
「ガキってゆーな!!!あ"〜エロ河童、から離れろ!!赤ゴキ」

 まだまだ止まる事のない悟浄と悟空のやりとりには呆気にとられる。

「いつも…こう?」
「えぇ」
「いい加減にしやがれ!!!この、バカコンビ!!!」

 三蔵のS&Wが火を吹く。

「……いつも…こう?」
「えぇ」

 さっきと同じセリフをはき出すと八戒の二人。

「で…この、人が『三蔵法師様』って…事だよね」
「…残念ですが…そうです」
「…私の知ってる三蔵法師と雰囲気が違うから驚き…」
「…まぁ、この人はちょっと特殊なんですよ」
「ふ〜んそうなんだ」

 三蔵・悟浄・悟空のやりとりを見て八戒をもう一度みて、は苦笑した。

 

 ****

 

「街までは結構あるんですね」

 車に乗った4人と便乗させてもらっているは遠くに見える街に目を向ける。

「八戒〜腹へったよぉ」
「気持ちは分かりますけどね。もう少し我慢していてください」

 八戒の言葉にいつもの後部座席に座っている悟空は落ち込む。

「悟空、これ食べる?おいしいよ」

 その悟空の隣に座る形となったは悟空にクッキーを差し出す。

「いいのか?」

 目を輝かせていう悟空にはまっすぐうなずく。

「餌付けすんなよ」
「してるつもりはないよ。じゃあ、悟浄も食べる?」
「…俺はクッキーよりもがいい」

 そう言って悟浄はに抱きつく。

 ゴリ。

 と言う音と共に、銃口が悟浄のこめかみを狙う。
 そして…眉間と…。
 こめかみはいつものように助手席に座っている三蔵。
 そしてもう一つは…。

「…っ、ちゃん。じょ、冗談って言ってんじゃん」
「…前は聞いたけど、今日は聞いてないわよ、悟浄。今度やったら本気で撃つからね」
「ハハハハ…って三蔵、お前もおろせよ!!!!」
「てめぇは、一回死ね」

 そう言って三蔵は一発撃ち込んでくる。

「三蔵!!に当たったらどうするんだよ!!!」
「河童に撃ってんだ他人には当たらねぇ!!!」
「俺に当たってもいいのかよ!!!」
「…テメエは死んだ方が世の中の為だ」
「バリ最悪」

 そのやりとりを見ては呆気にとられる。
 次第に自分が笑い出しているのに気付く。

「どうしたんだよ、
「あまりにもおかしすぎっっ!!毎日、こんなん何でしょう?」
「そうですね」
「楽しくない?」
「は?」

 の言葉に4人は耳を疑う。

 楽しい?…ってどこが?
 毎日、毎日ケンカ、発砲、にらみが絶えないのに。

 嫌そうな顔を見せる4人にまたは笑い出す。

「やっぱり絶対楽しいって。なんかうらやましいな。わたし、一人でいたりなんかしちゃうから」

 そう軽くいったの顔はどこか寂しそうに見える。
 不意にが顔を上に上げる。

「どうしたの?」

 遠くを見るの視線を悟浄と悟空、そして三蔵もたどる。

「…鳥…が居る。白い鳥…」

 悟空が見つけた白い鳥…が遠く街の方からこちらに向かってくるのが見える。

「…白鷺…」

 三蔵が呟く。
 遠目からでは見えないその姿をはっきりと言葉に表して。

「白鷺って、よく見えるな」

 悟浄が驚く。

「なぁ、三蔵!白鷺って美味い?」
「喰うな!!!」

 悟空の言葉にハリセンが飛ぶ。

「……これは食べられないよ」

 たどり着いた白鷺を指に止まらせながら、は悟空に言う。

「他のはどうかは知らないけどね。これは無理」

 の言葉を受け、悟空はつまらなそうにする。

「……式神……か?」
「はい…、そうですけど。さすがですね」
「…昔見た事がある。……ただそれだけだ」

 三蔵が呟いた言葉には少しだけ驚く。
 少し考えて、納得いって…そうして白鷺を霊符に戻す。

「食えないと思ったら、腹へったよぉ〜」
「お前ねぇ、ついさっきにもらって食ったばっかだろうが」
「そんな事言ったって腹減ったんだからしゃーねーじゃん!」
「小猿」
「猿ゆーなエロガッパ!!!」

 突如始まったケンカ。
 それを押さえたのは三蔵ではなく、

「悟空、悟浄、二人とも、同じ事を繰り返すのはやめてくださいね」

 少しだけ声のトーンが低い八戒。
 その言葉の裏に悟空と悟浄は何かを感じ取ったのか神妙にうなずく。

「とりあえず、これで静かになるでしょう。三蔵、いい加減、銃をしまってくださいね。そろそろ街にはいりますから」

 近付いてきた街からはにぎやかな声が聞こえてくる。
 音楽が鳴り響き、街道を通る人々はどこか浮き足だっている。
 街に入るとその喧噪はひどくなり、祭りが開かれるのだろうとどことなく考えていた。

「八戒、車、とめて」

 人々が華やかな衣装に包まれているのを横目で見ながらは八戒に告げる。

「どうしたんだよ。

 その言葉に最初に驚いたのは悟空。

「ここまででいいよ」
「でも、道観(道教のお寺)までお送りしますよ」
「ありがとう。みんな、宿に泊まるんでしょ?早くしないと宿、とれなくなるよ」
「祭りだからですか?」
「うん。斉天大聖様のお祭りなんだ」
「斉天大聖様?」

 三蔵、悟浄、八戒の三人が悟空を気付かれないように訝しげに見る。

「うん、斉天大聖様が生まれた花果山に似た山が、ほら見えるでしょ?」

 が指さす方向に山が確かに見える。

「で、今日が生まれた日とされるんだって。本当はどうだか知らないけどね」

 そう言いながら三蔵に霊符を渡す。

「なんだ、これは」

「もし、宿がふさがってたら、中央の道観まで来てください。李の紹介だと言えば、宿を貸してくれますから。わたしはこれで。ありがとう、街まで送ってくれて。スゴく助かった。じゃあ」

 そう言っては身を翻し、中央の道観へと向かっていった。

「そう言えば、は李の代理として動いていたんですよね。三蔵、どうしたんですか?」

 渡された霊符を見続けていた三蔵に八戒は問い尋ねる。

「いや…何でもない。ともかく宿を探すぞ」

 三蔵は霊符をしまいながら他の3人に向かって言う。
 に渡された霊符。
 それが、さっきが使っていた式神の霊符である事を疑問に想いながら。

あとがき

出逢いと再会編の1話です。
うそっぱちだらけの話が始まりました。
道士設定には嘘だらけです。
正しい事なんて極極わずか。
だから、ここはこー何じゃないんですかなんていう文句は却下。
でも、一応資料参照はしています。
本来だったら他の目的の為に使用されるはずだった『道教の本』と『陰陽師の本』&『密教の本』(どれもブックス・エソテリカシリーズ)。
が…こんな所で活用されるなんて…思っても見ませんでした。

ヒロインは、元々オリジナル小説の主人公なんです。
そこからドリーム読む時引っ張ってきました。
自分の名前を入れて読むのは抵抗があったので…。
次は夕方。分割しています。