「刑の全部の執行猶予」と「刑の一部の執行猶予」,そして「仮釈放」
2012(平成24)年10月22日
2021(令和3)年5月1日改訂
2021(令和3)年5月1日改訂
- 第一 刑の全部の執行猶予
- 1 刑法第25条に「刑の全部の執行猶予」が定められています。
「刑の全部の執行猶予」とは,情状により必ずしも現実的な刑の執行を必要としない場合に,一定期間その執行を猶予し,猶予期間を無事経過したときは刑罰権を消滅させる制度です。
「刑の執行猶予」とは,3年以下の懲役又は禁錮あるいは50万円以下の罰金の言い渡しを受けた者が下記に該当する場合,情状により裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間その刑の全部の執行を猶予することが出来る制度です。(刑法25条1項)
刑の全部の執行猶予期間中に,保護観察に付される場合があります。(刑法25条の2) - ① 前に禁錮以上の刑に処されたことがない場合
- ② 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない場合
(5年の期間計算の開始は,刑の執行を終わった日又は執行の免除を得た日であり,前刑の判決言渡日や判決確定の日ではありません。また,5年の期間が経過しているかどうかは,1審,控訴審ないし上告審の判決日を基準に判断します。) - 2 再度の執行猶予(刑法25条2項本文)について
前に禁錮以上の刑に処せられたが,その刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言い渡しを受け,情状が特に酌量すべき場合も,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その刑の全部の執行を猶予することができるとされています。
但し,前の刑の執行猶予で保護観察が付されていた場合は再度の執行猶予はなされません。(刑法25条2項但書)
また,再度の執行猶予の場合は,必ず保護観察に付されることとされています。(刑法25条の2第1項) - 第二 刑の一部の執行猶予(刑法27条の2)
刑の一部の執行猶予は,被告人の再犯防止と改善更生を図るため,宣告刑の一部についてその執行を猶予するという新たな選択肢を裁判所に与える趣旨と解されます。 - 一 「刑の一部の執行猶予」は,
下記に掲げる者が3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において,犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して,再び犯罪をすることを防ぐために必要であり,かつ,相当であると認められるときは,1年以上5年以下の期間,その刑の一部の執行を猶予する制度です。(刑法27条の2第1項) - ① 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
- ② 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その刑の全部の執行を猶予された者
- ③ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終った日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
- 二 執行猶予期間の起算日(刑法27条の2第2項)
刑の一部の執行猶予が言い渡された場合には,まず執行が猶予されなかった実刑部分が先に執行され,その後に猶予期間が起算されることになります。
「実刑部分の期間の執行を終った」とは,刑の実刑部分全部の執行が終了することをいいます。
それは,刑の執行を実際に全期間受けた場合だけでなく,仮釈放された場合には,それが取り消されることなくその期間を満了した場合も含みます。 - 三 刑の一部の執行猶予中の保護観察(刑法27条の3)
刑の一部の執行猶予の期間中保護観察に付される場合があります。 - 第三 薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律による「刑の一部の執行猶予」
- 一 同法に定める薬物使用等の罪を犯した者で,刑法27条の2第1項各号に掲げる者以外のものに対しても,同法3条により,刑の一部の執行猶予の特則として刑の一部の執行猶予をすることが出来ます。
- 二 すなわち,同法に定める薬物使用等の罪を犯した者が,その罪又はその罪及び他の罪について3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において,犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して,刑事施設における処遇に引き続き社会内において同法3条1項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが,再び犯罪をすることを防ぐために必要であり,かつ,相当であると認められるときは,1年以上5年以下の期間,その刑の一部の執行を猶予することが出来ます。(同法3条)
- 三 同法3条に基づく刑の一部の執行猶予の言渡しをするときは,猶予の期間中必ず保護観察に付さなければなりません。(同法4条1項)
- 第四 仮釈放(刑法28条)
- 一 仮釈放は,懲役・禁錮の執行を受けている者に改悛の状があるとき,刑期満了前における一定の時期に条件付きで釈放する制度です。
- 二 すなわち,懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは,有期刑についてはその刑期の3分の1を,無期刑については10年を経過した後,行政官庁の処分によって仮に釈放することが出来ます。(刑法28条)
- 三 仮釈放中の者は,必ず残刑期間中保護観察に付されます。(更生保護法40条)
- 四 仮釈放の効果
仮釈放中の者は,残刑期間中保護観察に付され(更生保護法40条),この間も保護観察の停止がない限り刑期は進行し,(刑法29条3項の反対解釈),仮釈放の許可を取り消されることなく残刑期間を経過すれば、刑の執行は終了することになります。 - 第五 刑の一部の執行猶予と仮釈放との関係
- 一 刑の一部の執行猶予付の判決がなされた場合には,まず執行が猶予されなかった実刑部分が先に執行されます。
そして,この執行が猶予されなかった実刑部分について仮釈放の規定が適用され仮釈放された場合は,必ず保護観察に付されます。(更生保護法40条) - 二 仮釈放の許可が取り消されることなく執行が猶予されなかった実刑部分の期間が満了した時点から,刑の一部執行猶予期間が起算されます。(刑法27条の2第2項)
- 三 この場合に,刑法27条の2による一部の刑の執行猶予で刑法27条の3により保護観察に付された場合は,仮釈放の保護観察に続いて保護観察が続行されます。
- 四 また,薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律3条により刑の一部の執行猶予がなされた場合は,同法4条1項により必ず保護観察に付されますので,仮釈放の保護観察に続いて保護観察が続行します。
記
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参考文献
条解 刑法(第4版)
前田雅英外 編
株式会社弘文堂 発行