障害者,高齢者,児童に対する虐待防止制度の比較
2012(平成24)年9月1日
以下「①」,「②」,「③」を下記法律を示す記号として記載します。
① 障害者虐待防止法
② 高齢者虐待防止法
③ 児童虐待防止法
上記3制度の比較
1 正式名称
- ① 障害者虐待の防止・障害者の養護者に対する支援等に関する法律
- ② 高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律
- ③ 児童虐待の防止等に関する法律
2 制定日(最終改正日)及び施行日
- ① 平成23年6月24日制定,平成24年4月6日最終改正,平成24年10月1日施行
- ② 平成17年11月9日制定,平成18年4月1日施行
- ③ 平成12年5月24日制定,平成12年11月20日施行,平成20年12月3日最終改正,平成21年4月1日施行
3 目的
- ① 障害者虐待の防止,養護者に対する支援等に関する施策を促進し,もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的(1条)
- ② 高齢者虐待の防止,養護者に対する支援等に関する施策を促進し,もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的(1条)
- ③ 児童虐待の防止等に関する施策を促進し,もって児童の権利利益の擁護に資することを目的(1条)
4 該当者の定義
- ① 障害者とは,障害者基本法第2条第1号に規定する障害者(2条)
「身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者をいう。」 - ② 高齢者とは,65歳以上の者(2条)
- ③ 児童とは,18歳に満たない者(2条)
5 虐待の行為主体
- ①(2条)
- ア 「養護者」とは,障害者を現に養護する者で,障害者福祉施設従事者等及び使用者以外の者
- イ 「障害者福祉施設従事者等」とは,障害者福祉施設又は障害福祉サービス事業等にかかる業務に従事する者
- ウ 「使用者」とは,障害者を雇傭する事業主,派遣労働者に係る労働者派遣の役務提供を受ける事業主,事業の経営担当者
- その他,その事業の労働者に関する事項について,事業主のために行為をする者
- ②(2条)
- ア 「養護者」とは,高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外の者
- イ 「養介護施設従事者等」とは,老人福祉法に定める老人福祉施設,有料老人ホーム,介護保険法に定める地域密着型介護老人福祉施設,介護老人福祉施設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設,地域包括支援センターの業務,及び老人居宅生活支援事業,居宅サービス事業,地域密着型サービス事業,居宅介護支援事業,介護予防サービス事業,地域密着型介護予防サービス事業,介護予防支援事業に従事する者
- ③ 「保護者」とは,親権を行う者,未成年後見人,その他の者で児童を現に監護する者(2条)
6 虐待の定義
- ①(2条)
- ア 「養護者による障害者虐待」とは,養護者がその養護する障害者について行う次に掲げる行為をすることをいう。
- a 障害者の身体に外傷が生じ,若しくは生ずるおそれのある暴行を加え,又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。
- b 障害者にわいせつな行為をすること,又は障害者をしてわいせつな行為をさせること。
- c 障害者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
- d 障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置,養護者以外の同居人によるaからcまでに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
- e 養護者又は障害者の親族が当該障害者の財産を不当に処分することその他当該障害者から不当に財産上の利益を得ること。
- イ 「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」
障害者福祉施設従事者等が,当該障害者福祉施設に入所し,その他当該障害者福祉施設を利用する障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者について上記アのaないしeに掲げる行為をすること。
但し,dについては,他の障害者によるaないしcに掲げる行為と同様の行為の放置その他の障害者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
eについては,障害者の養護者,障害者の親族は含まれない。 - ウ 「使用者による障害者虐待」
使用者が当該事業所に使用される障害者について前記アのaないしeに掲げる行為をすること。
但し,dについては,当該事業所に使用される他の労働者による前記アのaないしcに掲げる行為と同様の行為の放置,その他これらに準ずる行為を行うこと。 - ②(2条)
- ア「養護者による高齢者虐待」
養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為 - a 高齢者の身体に外傷が生じ,又は生ずるおそれのある暴行を加えること
- b 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置,養護者以外の同居人によるa,c,又はdに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること
- c 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
- d 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること
- e 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
- イ 「養介護施設従事者等による高齢者虐待」
養介護施設従事者等が当該養介護施設に入所し,その他当該養介護施設を利用する高齢者に対し,また当該養介護事業に係るサービスの提供を受ける高齢者に対して行う次に掲げる行為 - a 高齢者の身体に外傷が生じ,又は生じるおそれのある暴行を加えること
- b 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること
- c 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
- d 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること
- e 高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること
- ③(2条)
- a 児童の身体に外傷が生じ,又は生じるおそれのある暴行を加えること
- b 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること
- c 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置,保護者以外の同居人によるa,b又はdに掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること
- d 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応,児童が同居する家庭における配偶者(内縁関係も含む。)に対する暴力その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
「児童虐待」
保護者がその監護する児童に対して次に掲げる行為をすること
7 虐待の禁止
① 何人も,障害者に対し,虐待をしてはならない。(3条)
② 特に規定なし
③ 何人も,児童に対し,虐待をしてはならない。(3条)
8 国及び地方公共団体の責務等
-
①
- a 関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携強化,民間団体の支援その他必要な体制の整備に努める
- b 関係機関の職員の研修等必要な措置を講ずるよう努める
- c 障害者虐待に係る通報義務,人権侵犯事件に係る救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行う(4条)
- ② ①にほぼ同じ(3条)
- ③ ①にほぼ同じ(4条)
その他必要な事項についての調査研究及び検証を行う
児童の親権を行う者は児童の利益を尊重するよう努めなければならない。
何人も良好な家庭的環境及び近隣社会の連帯が求められていることに留意しなければならない。
9 国民の責務
- ① 国民が理解を深めること,及び,国又は地方公共団体の施策に協力するように努める(5条)
- ② ①とほぼ同じ(4条)
- ③ 前記8項③のその他の項目記載(4条)
10 虐待の早期発見等
-
①
- a 国,地方公共団体の障害者の福祉に関する事務を所掌する部局その他の関係機関は障害者虐待の早期発見に努めなければならない。
- b 障害者の福祉に業務上関係のある団体,障害者の福祉に職務上関係のある者及び使用者は,障害者虐待の早期発見に努めなければならない。
- c bに記載した者は,国,及び地方公共団体が講ずる障害者虐待の防止のための啓発活動,障害者虐待を受けた障害者の保護,自立支援施策に協力するよう努めなければならない。(6条)
- a 高齢者の福祉に業務上関係のある団体,高齢者の福祉に職務上関係のある者は,高齢者虐待の早期発見に努めなければならない。
- b 前項の者は,国,地方公共団体の高齢者虐待防止の啓発活動,高齢者虐待を受けた高齢者保護のための施策に協力するよう努めなければならない。(5条)
- a 児童の福祉に業務上関係のある団体,児童の福祉に職務上関係のある者は児童虐待の早期発見に努めなければならない。
- b aの者は,国,地方公共団体の施策に協力するよう努めなければならない。
- c 学校,児童福祉施設は,児童虐待防止のための教育,啓発に努めなければならない。(5条)
11 虐待に係る通報等
-
①
- a 養護者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者の市町村への速やかな通報義務(7条)
通報を受けた市町村職員は通報者が特定される情報をもらしてはならない(8条) - b 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者の市町村への速やかな通報義務(16条1項)
障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けた障害者はその旨を市町村に届け出ることが出来る(16条2項)
障害者福祉施設従事者等は通報による解雇,不利益な取り扱いを受けない(16条)
通報を受けた市町村は障害者虐待に関する事項を都道府県に報告しなければならない(17条)
通報を受けた市町村職員,報告を受けた都道府県職員は通報者を特定させる情報を漏らしてはならない(18条) - c 使用者による障害者虐待に係る通報等は,bとほぼ同じである。(22条,23条,24条)
通報先ないし届出先は,市町村だけでなく都道府県も入る。
労働者の不利益取扱禁止
都道府県の都道府県労働局へ報告
市町村,都道府県職員,都道府県労働局職員の通報者等の特定情報の漏洩禁止(25条) - a 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者の当該高齢者の生命身体に重大な危険が生じている場合の速やかな市町村への通報義務(7条)
それ以外の場合は速やかな市町村への通報に努めなければならない(7条)
市町村職員の通報者特定情報の漏洩防止義務(8条) - b 養介護施設従事者等の,当該施設の養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合の速やかな市町村への通報義務(21条)
養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者による,当該高齢者の生命身体に重大な危険が生じている場合の速やかな市町村への通報義務(21条)
それ以外の場合の発見者は速やかに市町村への通報に努めなければならない(21条)
養介護施設従事者等の通報を理由とした不利益取扱の禁止(21条)
市町村の都道府県への報告(22条)
市町村職員及び都道府県職員の通報者を特定する情報の漏洩禁止(23条) - ③
児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は,速やかに,市町村,都道府県の設置する福祉事務所,児童相談所を介して,市町村,都道府県の設置する福祉事務所もしくは児童相談所に通告しなければならない(6条)
通告者を特定する情報の漏洩禁止(7条)
12 通報等を受けた場合の措置
-
①
- a 養護者による障害者虐待に係る通報等
市町村は,当該障害者の安全の確認その他当該通報又は届け出に係る事実の確認のための措置をとる。
当該市町村と連携協力する者(35条)とその対応について協議する。
市町村は,生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる当該障害者を一時的に保護するため身体障害者福祉法,知的障害者福祉法の措置を講ずる。
市町村長は,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律,知的障害者福祉法による審判を請求する。(9条)
市町村は,必要な居室を確保するための措置を講ずる。(10条)
立入調査
市町村長は障害者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは障害者の福祉に関する事務に従事する職員をして住所居所に立ち入り,必要な調査質問をさせることができる。(11条)
警察署長に対する援助要請等(12条)
面会の制限(13条)
養護者の支援(14条) - b 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待に係る通報等を受けた場合の措置
市町村長,都道府県知事は,社会福祉法,障害者自立支援法その他関係法律の規定による権限を適切に行使する(19条)
公表(20条) - c 使用者による障害者虐待の報告を受けた場合の措置
都道府県労働局長,労働基準監督署長,公共職業安定所長は,労働基準法,障害者の雇傭の促進等に関する法律,個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律その他関係法規の規定による権限を適切に行使する。(26条)
公表
厚生労働大臣は毎年度厚生労働省令で定める事項を公表する。
(28条) - a 養護者による高齢者虐待の通報を受けた場合の措置
市町村は,速やかに当該高齢者の安全の確認,当該通報,届出に係る事実の確認のための措置を講ずる。
市町村,市町村長は,当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められるときは,高齢者を一時的に保護するとともに,適切な措置を講じ,審判請求する。(9条)
居室の確保(10条)
立入調査(11条)
警察署長に対する援助要請等(12条)
面会の制限(13条)
養護者の支援(14条) - b 養介護施設従事者等による高齢者虐待の通報を受けた場合の措置
市町村長,都道府県知事は,老人福祉法,介護保険法に規定する権限を適切に行使する。(24条)
公表(25条) - ③
児童虐待に係る通告又は送致を受けた場合の措置
市町村,福祉事務所長は,当該児童との面会,当該児童の安全の確認を行うための措置を講じ,必要に応じて次の措置をとる。(8条)
- ア 児童福祉法による当該児童の児童相談所への送致
- イ 都道府県知事,児童相談所長への通知
出頭要求等(8条の2)
立入調査等(9条)
再出頭要求等(9条の2)
臨検,捜索等(9条の3)
警察署長に対する援助要請等(10条)
児童虐待を行った保護者に対する指導等(11条)
面会の制限(12条)
親権喪失制度の適切な運用(15条,民法834条(親権喪失の審判,834条の2(親権停止の審判),835条(管理権喪失の審判))
14 就学関係における虐待防止
- ① 就学する障害者に対する虐待の防止等
- ア 就学する障害者に対する虐待の防止等(29条)
- イ 保育所等に通う障害者に対する虐待の防止等(30条)
- ウ 医療機関を利用する障害者に対する虐待の防止等(31条)
- ② なし
- ③ なし
15 虐待防止のための行政機関
- ① 市町村障害者虐待防止センター(32条)
都道府県障害者権利擁護センター(36条) - ② この法律による行政機関はなし。
- ③ この法律による行政機関はなし。