最高裁判所の判例変更により,遺産の普通預貯金等は,遺産分割前に相続人が個別に自己の法定相続分に応じて金融機関に対して払戻請求ができなくなりました。
それに対応して,2019年7月1日から改正民法により,各相続人は遺産分割が終わる前でも,一定の範囲で遺産である預貯金の払戻しを受けることができるようになります。

2011(平成23)年11月30日
2011(平成23)年12月14日改訂
2016(平成28)年5月30日改訂
2016(平成28)年12月23日改訂
2019(平成31)年2月28日改訂

 

 従前,遺産の内,普通預貯金すなわち金融機関に対する被相続人の預貯金払戻請求債権は,相続開始とともに法定相続分に応じて当然に分割され,各相続人に移転するとされていました(最高裁判決昭和29年4月8日,昭和30年5月31日等)。

 

 また,自動継続の定めのある定期預金について,共同相続人の1人からなされた払戻請求について認めた裁判例がありました(山口地方裁判所下関支部平成22年3月11日判決(確定))。

 

 しかし,平成28年12月19日最高裁大法廷決定は判例変更して,預貯金は現金と同様に法律に定められた割合に縛られずに裁判所の家事審判で遺産分割できると判断しました。

 

 従って,この判例変更により遺産分割前に相続人の1人が金融機関に対して,自己の法定相続分に応じた預貯金の払戻し請求を行うことが出来なくなりました。

 

 また,金融機関に対する普通預貯金以外の,投資信託や国債が遺産の場合は,従前から相続人の一部だけでそれらの解約金請求権や中途換金請求権を行使することは出来ません。

 

 更に,定額郵便貯金も同様に,従前から相続人の一部だけで解約請求権を行使することは出来ません(東京地方裁判所平成21年6月11日判決(確定),最判平成22年10月8日民集64巻7号1719頁)。

 

 民法が改正され,相続人の資金需要に対応できるように,2019年7月1日施行の改正民法により,以下の預貯金の払戻しが出来るようになります。

✓ 預貯金債権の一定割合(金額に上限があります。金融機関ごとに150万円を限度とします。)については,家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口において支払を受けられるようになります。(改正民法909条の2)
なお,経過措置として,施行日前に開始した相続に関しても,施行日以降に預貯金債権の支払請求が行使できる旨定められています。(改正民法 附則5条1項)

 預貯金債権に限り家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和し,家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようになります。(改正家事事件手続法204条3項)


以上


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