東日本大震災や阪神大震災等の地殻変動による土地表面の水平移動と土地の筆界の移動

2011(平成23)年4月12日

 今回の東日本大震災や阪神大震災により地殻変動が起こり,土地全体が水平方向に移動した場合の土地の境界がどうなるかという問題があります。

 そもそも土地には,土地1筆ごとに登記所が地番を付することとされており,その1筆の土地と隣接する他の1筆の土地との境界を「筆界」といい,登記実務上「筆界」は地球表面上の不動の点または線として取り扱われているので,これを示す地図は国家基準点を基礎に作製すべきものとされています。

 すなわち国家基準点は地球地理学的経緯度(地球座標値)によって表示されているので,この基準点を基礎に地図を作製すれば,各筆界点は地球座標値によって表示することができ,地球上の不動の点として表すことができると考えられています。

 しかし,今回のように東日本大震災そして阪神大震災のように土地が水平方向に広範囲にわたって移動した場合については,2つの考え方があります。

 土地全体が水平方向に移動した場合には,それに伴い境界も移動すると考える「境界移動説」と,境界は従前の形状のとおりであると考える「境界不変説」との2つの考え方があります。

 「境界移動説」によれば,境界も水平方向に移動していると考えます。
しかし,境界が従前の形状通りとして考える「境界不変説」によれば,水平方向に移動した土地の現況と土地の境界は全く一致しないことになります。

 この点について平成7年に起きた阪神大震災の際に出された法務省の地震による土地の移動に関する回答として平成7年3月29日付民3第2589号民事局長回答「兵庫県南部地震による土地の水平地殻変動と登記の取扱いについて」と題する通達があります。

 その内容は,地震による地殻の変動に伴い広範囲にわたって地表面が水平移動した場合には土地の「筆界」も相対的に移動したものとして取り扱う,という内容です。
ただし,局部的な地表面の土砂の移動(崖崩れ等)の場合には土地の「筆界」は移動しないものとして取り扱うとされております。

 従って,広範囲にわたって地表面が水平移動した場合は上記通達により土地の「筆界」も相対的に移動したものと取り扱われますので,「筆界」すなわち境界は移動していることになります。

 ただし,法務省の見解によれば土地の区画の変化があった場合には関係所有者間で「筆界」の調整を図る必要を指摘しており,調整により得られた合理的な合意を尊重することになります。

 そして,1街区にゆがみが生じているときにその中の各筆の所有者が従前の境界通りであると主張していくと最後にはとんでもない形の土地しか残らなくなってしまうことがあり得ますので,1街区の中の各筆の土地が少しずつゆがみを吸収していくかたちで調整をつける必要がでてくることになります。

 また,道路や水路のずれをそのまま認めることは,ずれたままの道路や護岸をずれたまま放置することになり(道路や護岸が直線ではなくなり折れ曲がったりしてしまいます。),妥当ではないので本来の直線にもどるよう境界の調整が望まれるものです。

 いずれにしても関係当事者による協議を待たなければなりませんので今後一定期間の話し合いによる境界確定が必要になってくると思われます。


以上



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