手形・小切手の基礎知識
第1 手形・小切手について
手形・小切手は「一定の金額の支払いを目的とする」「有価証券」です。
有価証券とは,「財産的価値ある私権を表章する証券で,その証券に表章されている権利の移転及び行使が証券によってなされることを要するもの」です。
第2 手形・小切手には以下の性質があります
- ア 設権証券性
証券の作成によって初めて権利又は法律関係が発生する性質をいいます。
- イ 要式証券性
一定の事項についての記載が法律上要求される性質をいいます。
- ウ 無因証券性
証券上の権利が証券作成の原因となった実質的法律関係の有無や実質的法律関係の有効無効によって影響を受けない性質をいいます。
- エ 文言証券性
有価証券に表章された権利の内容が証券記載の文言によって定まる性質をいいます。
- オ 呈示証券性
証券の呈示がない限り,債務者は弁済をしなくてもよいことをいいます。
履行期が到来していても遅滞の責任を負いません。
遅延損害金は,商事法定利率の年6%と高率です。
- カ 流通証券性
権利を移転する場合には同時に証券の交付を要する証券のことです。
- キ 指図証券
証券に記載された特定の者又はその指図人が証券上の権利者と認められる有価証券をいいます。
- ク 受戻証券性
証券と引換えでなければ債務の弁済をしなくてよい性質をいいます。
- ケ 免責証券性
債務者が証券の所持人に弁済すれば,その所持人が無権利者であっても,債務者がそのことについて悪意又は重大な過失がない限り,債務を免れる性質をいいます。
- コ 手形・小切手行為独立の原則(手形法7条,小切手法10条)
手形・小切手の振出行為に無効又は不存在事由があっても,その手形・小切手上の保証・裏書行為は有効であることをいいます。
第3 手形の定義
- 1 約束手形
- ・振出人が受取人(及びその指図人)に対して一定の金額の支払いを約束する証券です。
- ・消滅時効
- 2 為替手形
- ・振出人が支払人にあてて受取人(及びその指図人)に対する一定の金額の支払を委託する証券です。
- ・消滅時効
- 3 小切手
- ・振出人が支払人にあてて小切手の正当な所持人に対する一定の金額の支払を委託する証券です。
- ・消滅時効
振出人は,約束手形の振出しにより受取人(又はその指図人)に対して確定的な約束手形金支払義務を負います。
受取人は,約束手形と引き換えに振出人に対して手形金の支払いを求めることができますが,その外に,裏書によって約束手形を第三者に譲渡することも出来ます。
その譲渡を受けた者は更に別の第三者に裏書譲渡することもできます。
約束手形の正当な所持人は,満期に振出人に対して約束手形と引き換えに支払いを求めることができます。
もし振出人が支払わないときは,その手形のすべての裏書人(無担保裏書,取立委任裏書,期限後裏書は除きます。)に対して手形金その他一定の金額の支払いを求めることができます。
これを償還請求権又は遡求権といいます。
この支払いに応じて手形を受け戻した裏書人は,自分以前の裏書人に対して同じように償還請求権を行使でき(再遡求),そのように再遡求して受取人に至ります。
受取人は,最終の償還義務者です。
振出人は,最終の支払義務者です。
振出人への手形金支払請求権の消滅時効は満期から3年です。
裏書人など遡求義務者への請求権は,拒絶証書作成義務が免除されている手形にあっては満期から1年です。
手形金の償還をした裏書人の前者である裏書人への再遡求権は,受け戻しをした日から6カ月です。
振出人は,支払人が引受拒絶又は支払拒絶をした場合に償還義務(遡求義務)を負担するが,手形金支払義務は負担しません。
為替手形も裏書によって転々流通します。
支払人が手形金を支払うかどうかを確かめるため,手形所持人は,支払人に対して引受のための呈示をすることができます。
その際支払人が引受をすると支払人は確定的に為替手形金支払義務を負います。
引受後の支払人を「引受人」といいます。
為替手形の引受人への手形金支払請求権の消滅時効は満期から3年です。
裏書人や為替手形の振出人など遡求義務者への請求権は,拒絶証書作成義務が免除されている手形にあっては満期から1年です。
手形金の償還をした裏書人の前者である裏書人への再遡求権は,受け戻しをした日から6カ月です。
権利者の指定方法として,記名式(又は指図式),記名式持参人払,持参人払式(又は無記名式)の3種類があります。
記名式小切手は裏書により,それ以外の小切手は譲渡の合意と小切手の交付によって譲渡することができ,手形と同様に流通します。
小切手の所持人は,振出日から10日以内に支払のために呈示しなければならず,これを怠ると,振出人及び裏書人に対する償還請求権を失うとともに,支払保証人に対する小切手金支払請求権を失います。
小切手の振出人と裏書人に対する請求権は,支払呈示期間の経過後6カ月です。
小切手金を償還した者が前者に対する再遡求権は,受け戻しの日から6カ月です。
支払保証をした小切手の支払人に対する請求権は,支払呈示期間経過後1年です。
第4 手形交換制度
- ・手形交換
- ・取引停止処分
同じ地域内にある銀行その他の金融機関が他行を支払場所とする手形や小切手を取り立てるため手形交換所に持ち出し,あるいは,受け入れて,その交換所規則に従って決済を行うことです。
手形又は小切手が不渡りとなった場合の振出人,為替手形が不渡りになった場合は引受人に対し課される処分で,第1回目の不渡りの交換日から6カ月以内の日を交換日とする2回目の不渡届が提出された場合に,これに対する異議申立の措置がとられないかぎり,交換参加銀行に対し,振出人(引受人)との当座勘定取引及び貸出取引を禁止する処分です。取引停止処分日は,交換日から4営業日目,すなわち取引停止報告が交換参加銀行全営業店に配布された日になります。
取引停止期間は,取引停止通知日(報告配布日)から2年間です。
第5 手形・小切手訴訟
手形金請求,小切手金請求の場合,通常訴訟も提起できますが,手形・小切手訴訟という迅速な訴訟手続を利用することができます。
手形・小切手訴訟の特徴は,
- ア 証拠調べは書証に限定されます。証人尋問などは出来ません。
- イ 文書提出命令又は文書送付嘱託ができません。
- ウ 対照用の筆跡または印影を備える物件提出命令または送付嘱託ができません。
- エ 証拠調べの嘱託ができません。
- オ 裁判所は職権調査をしません。
- カ 反訴が禁止されています。
- キ 口頭弁論は1期日で審理終了するのが原則です。
- ク 手形・小切手訴訟の終局判決に対しては,控訴できず,判決の送達を受けた日から2週間以内に第1審の裁判所に異議の申立をすることができるだけです。
参考文献 書式手形・小切手訴訟の実務 大崎晴由著 民事法研究会 手形小切手法講義案(5訂版) 裁判所書記官研修所編 司法協会 手形法小切手法の理解 坂井芳雄著 法曹會 手形小切手の実務事典 安西勉外共著 自由国民社 不渡処分の先例と実務 石井眞司・住田立身共著 金融財政 不渡処分と支店実務 井上俊雄著 経済法令研究会