自己破産について
(2005(平成17)年1月1日改正法施行)
2004年12月16日作成
2006年 9月 6日改訂
2008年 7月10日改訂
2011年 1月26日改訂
2011年 3月 9日改訂
2016(平成28)年3月29日改訂
2016(平成28)年3月30日改訂
2017(平成29)年4月10日改訂
2004年12月16日作成
2006年 9月 6日改訂
2008年 7月10日改訂
2011年 1月26日改訂
2011年 3月 9日改訂
2016(平成28)年3月29日改訂
2016(平成28)年3月30日改訂
2017(平成29)年4月10日改訂
破産は,債務者が経済的に破綻して,その有する総財産をもってしても,債務総額を完済できない状態に陥った場合に,その債務者の総財産を強制的に管理換価して,その総債権者に,各債権額に応じて公平な比例的平等弁済を得させる一般的強制執行手続きです。
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第1 破産能力(破産者となりうる資格)
自然人は,商人,非商人の区別,行為能力の有無を問わず,人はすべて権利能力を有しますから破産能力があります。
法人の場合,国や地方公共団体の公法人は破産能力はありませんが,私法人は公益法人,営利法人(株式会社,有限会社)を問わず破産能力があります。 -
第2 破産財団と自由財産
- 1 法定財団の範囲(固定主義)
破産財団とは破産手続き上一般的強制執行の目的となる破産者所有の総財産です。
破産手続開始の時において破産者の有する一切の積極財産であって,差押さえ得るもので,日本国内にあるか否かを問いません(破産法34条1項)。
破産手続開始後に破産者の取引関係や精神的,肉体的労働によって取得した財産や破産手続開始後になって初めて相続した遺産も破産財団にはなりません。
従って,破産者が破産手続開始後新たに取得した財産(新得財産・給料等の収入)はいわゆる自由財産で破産管財人の管理処分権の対象にならず, 破産者が自由に管理処分することのできる財産となります。 - 2 自由財産について
自己破産手続を行うと,手元から,すべての財産がなくなる,ということはありません。
法律上一定の財産は,破産者の手元に残しておくことが認められており, 破産管財人によっても処分されないことになっています。
これを自由財産と言います。
自由財産として認められるものは,- (1) 99万円までの現金(破産法34条3項1号,民事執行法131条3号,民事執行法施行令1条)
- (2) 金銭以外の差押えが禁止された財産(破産法34条3項2号)
- ① 民事執行法上の差押禁止財産(民事執行法131条)
- ア 債務者等の生活に欠くことができない衣服,寝具,家具,台所用品,畳及び建具
- イ 債務者等の1箇月間の生活に必要な食料・燃料
- ウ 農業・漁業従事者の,農機具・漁具など
- ② 民事執行法上の差押禁止債権(民事執行法152条)
- ア 給料から税金等を控除した金額の4分の3相当部分(ただし,給料から税金等を控除した手取金額が44万円を超える場合は,33万円だけが差押え禁止債権)
- イ 退職手当の4分の3
- ③ 特別法上の差押禁止債権
- ア 生活保護受給権(生活保護法58条)
- イ 年金(国民年金法24条)
等があります。 - (3) 自動車について
自動車ローンの残債がある場合には,自動車について所有権留保がされているケースがほとんどです。
そのため,自動車ローンが残っている場合には,販売会社やローン会社が,所有権に基づいて自動車を引き揚げるため,自動車に乗り続けることは困難です。
自動車ローンがない場合には,その後の手続の流れや自動車の時価によって,扱いが異なってきます。 自動車を含めた,債務者のすべての破産財団の時価が,同時廃止基準内に納まっていれば,乗り続けることができます。
自動車を含めた,債務者のすべての破産財団の時価が,同時廃止基準を超えていれば,管財事件になり,いったんは破産管財人の占有管理下に置かれますが,破産財団の時価が,自由財産拡張の範囲内に納まっていれば,乗り続けることもできます。
自動車や,自動車を含めた,債務者のすべての破産財団の時価が,自由財産拡張の範囲を超えていた場合には,例外的に自由財産の拡張が認められなければ,自動車に乗り続けることはできません。 - 3 自由財産の拡張
個別具体的な事情によっては,破産者の経済的再生のため,自由財産の拡張が認められる場合もあります。
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第3 破産の要件
サラ金債務者などの個人が行なう自己破産の破産原因は,支払不能の状態にあることです(破産法15条1項)。
支払不能とは,債務者が弁済能力の欠乏のために即時に弁済すべき債務を一般的かつ継続的に弁済できない客観的状態をいいます。
弁済能力の欠乏とは,財産信用及び労力ないし技能によっても金銭調達することができないことをいいます。 -
第4 債務者に対する審問
裁判官が債務者に破産原因の存否を問う手続です。
通常1回で終了します。
申立から1ヵ月くらいの間に行われることが多いです。 -
第5 破産手続開始決定
- 1 破産決定の主文において,当該債務者について,手続開始を開始する旨が記載されます。
- 2 同時処分事項
破産管財人の選任
債権届出期間
第1回債権者集会期日
債権調査期日 - 3 同時破産廃止
破産財団をもって破産手続きの費用を償うに足らないと認めるときは,破産手続開始と同時に破産廃止の決定をします。この場合は破産管財人は選任されません。 - 4 簡易管財制度
債権者集会が1回で終了することが予定されるケースについて,予納金が約20万円(法人の場合約30万円)として簡易管財制度が導入されています。
- ① 自由財産拡張型
- ② 財団調査型
- ③ 免責観察型
- ④ その他((1)~(3)以外で簡易管財事件とするのが相当であるもの)
破産管財人が選任され債権者集会期日(財産状況報告・廃止意見聴取・計算報告)が指定されます。
- 5 通常管財事件
破産管財人が選任され,通常の破産管財手続が実施されます。
債権者集会期日及び債権調査期日が指定され,破産財団が配当できるだけの金額があれば配当手続が実施されます。
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配当等の順位
- ① 第1順位 財団債権(破産手続開始前の原因に基づく租税債権については,破産手続開始当時,納期限の到来していないもの,又は納期限から1年以内のもの(破産法148条1項3号)
破産手続開始前3ヶ月分の給料債権,及びその額に相当する退職金債権(破産法149条)
破産財団の管理・換価・配当に関する費用の請求権(破産法148条1項2号)
破産財団に関して破産管財人の行為によって生じた債権(破産法148条1項4号) 双方未履行の双務契約について管財人が履行を選択した場合の相手方の請求権(破産法148条1項7号)) - ② 第2順位優先的破産債権(一般先取特権等)
- ③ 第3順位一般的破産債権
- ④ 第4順位 劣後的破産債権(破産手続開始後の利息・損害金,破産手続参加の費用,罰金・科料・加算税等)
- ① 第1順位 財団債権(破産手続開始前の原因に基づく租税債権については,破産手続開始当時,納期限の到来していないもの,又は納期限から1年以内のもの(破産法148条1項3号)
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第6 破産手続開始決定の効果
- 1 財産上の効果
- A 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は,破産財団となります。
但し,現金では99万円まで自由財産として所有することができます。
その他,自由財産については,上記第2を参照して下さい。 - B 破産者は,破産財団に属する自己の財産の管理処分権を失い,この権限は破産管財人に専属します。
- C 破産手続開始決定後に破産者が新たに取得した財産は,破産者が自由に管理処分できます。したがって,破産すれば生活ができなくなるということはありません。
- D 債務者の財産が少なく同時廃止決定がなされた場合は,債務者は破産手続開始決定時にもっていた財産の管理処分権を失いません。
- A 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は,破産財団となります。
- 2 身上の効果
- A 説明義務
破産者は,破産管財人や債権者集会の決議に基づく請求等により破産に関し必要な説明をしなければなりません (破産法40条)。 - B 居住の制限
破産者は,裁判所からの許可がなければ居住地を離れて転住または長期の旅行をすることができません(破産法37条1項)。 - C 引致
破産者は,裁判所が必要と認めた場合には,身体を拘束されたりすることがあります(破産法38条) - D 郵便物等転送嘱託
破産者にあてられた郵便物などは破産管財人に配達するように嘱託されることがあり,この場合は,破産管財人は受け取った郵便物などを開披できます。 - E 同時廃止決定がなされた場合は,これらの自由の制限はありません。
- F 公私の資格制限
破産者は,保険外交員や証券外交員など,他人の財産を預かったり管理したりする業務を一定の資格のもとに行っている場合には,破産によってその業務を禁止される場合があります。
具体的には,警備業者と警備員,生命保険募集人(保険外交員)と損害保険代理店,金融商品取引法上の外務員,信用金庫等の役員,建設業者,風俗営業者とその管理者,旅行業務取扱主任,弁護士,司法書士,税理士,公認会計士,土地家屋調査士,不動産鑑定士,社会保険労務士,宅地建物取引業者と宅地建物取引主任者,中小企業診断士などの資格や業務の制限を受けます。
ただし,免責決定などで復権すれば,この資格や業務の制限はなくなります。
また,選挙権,被選挙権などの公民権は失いません。 - G 私法上の資格制限
破産者は,後見人,後見監督人,保佐人,遺言執行者などになれません。
平成18年5月1日に施行された新会社法により,合名会社及び合資会社並びに合同会社の社員は退社事由となります。
株式会社の取締役,監査役については,破産が退任事由となりますが,すぐに株主総会を開催して,その人を再度取締役にすることができます。
破産決定を受けた人を,新たに取締役や監査役として選任することもできます。 - H 破産手続開始決定は,労働基準法上の解雇事由にあたりません。
破産者は,勤務している会社に継続して勤務できます。
破産を理由に解雇されることはありません。 - I 復権
免責決定の確定等の復権がなされれば,公法上,私法上の資格制限がなくなります。 - J 破産手続開始決定がなされると,その情報が金融機関等が利用している信用情報機関に登録されてしまうので(ブラックリスト),7~8年間はカードでの買い物や住宅ローン,自動車ローン等を組むことが出来なくなります。
- A 説明義務
- 3 破産債権者に及ぼす効果
破産債権者は,破産手続きによらなければ債権を行使できません(個別執行禁止の原則,100条)。
また,破産手続開始決定前に開始していた個別執行,一般先取特権者の競売手続の続行は許されません。
- 1 財産上の効果
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第7 免責(破産法252条)
破産法における免責主義とは,不誠実でない破産者をして破産終結後速やかに更生させるため,破産手続による配当で弁済されなかった残存の破産債権につき破産者の責任を免除する主義をいいます。
免責は,従前は破産申立とは別個に申立をする必要がありましたが,平成17年1月1日からは破産申立をしたときはその申立と同時に免責許可申立をしたものとみなされますので,別個に申立をする必要がなくなります。
- 1 申立権者
自然人たる破産者またはその法定代理人のみが申立てできます。 - 2 免責の審理
従前は,裁判官が破産者から直接事情を聴く免責審尋が必ずなされましたが,平成17年1月1日からは必要な場合だけなされることになります。 - 3 免責の裁判
- A 申立の却下決定
- B 免責許可決定
以下の免責不許可事由(破産法252条)がないときに免責許可決定がなされます。
- ① 自己の利益を図り又は債権者を害する目的で,財産を隠したり毀棄したり不利益に処分すること。
- ② 債務を著しく不利益な条件で増加すること。
- ③ 一部債権者への弁済又は担保の提供等の不公平な行為
- ④ 浪費,賭博その他射幸行為をなし,著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担すること。
- ⑤ 破産手続開始申立前1年以内に破産原因があるのに,破産原因がないと信じさせるため詐術を用いて信用取引により財産を取得すること。
- ⑥ 業務及び財産の状況に関する帳簿,書類,その他の物件を隠匿し,偽造し,又は変造すること。
- ⑦ 虚偽の債権者名簿を作成して提出すること,財産につき虚偽の報告をなすこと。
- ⑧ 免責の申立前7年内に免責確定ないし給与所得者等再生における民事再生計画認可決定確定,及び,給与所得者等再生ないし小規模個人再生手続について民事再生法235条1項のいわゆるハードシップ免責を得たることがあるとき。
- ⑨ 破産者の義務に違反したとき。
- C 裁量免責許可決定
免責不許可事由があっても一切の事情を考慮して裁量で免責許可決定をすることができます。
- 4 免責手続中の個別執行禁止効
従来は,破産手続終了後の免責手続中において,破産債権者による個別的強制執行は許されるというのが実務の取扱でしたが,平成17年1月1日からは免責手続中の破産債権に基づく強制執行,仮差押,仮処分等が禁止されます。(破産法249条) - 5 免責の効力
- A 破産債権者に対する効力
免責を得た破産者は,破産手続における配当を除き破産法253条に掲げる非免責債権以外のすべての破産債権についてその責任を免れます。 免責された債務は,責任のないいわゆる自然債務となります。-
非免責債権(破産法253条)
- ① 租税等の債権(平成17年1月1日からは破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税債権で破産手続開始以降に納期限が到来するもの,又は,納期限から1年を経過していないものだけになります。)
- ② 破産者が悪意をもって加えた不法行為に基づく損害賠償
- ③ 破産者が故意又は重過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- ④ 破産者が養育費又は扶養義務者として負担すべき費用に関する請求権
- ⑤ 雇人の給料及び預り金
- ⑥ 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(但し債権者が破産手続開始決定を知っている場合は除く)
- ⑦ 罰金,科料,刑事訴訟費用,追徴金及び過料
- B 保証人,連帯債務者等に対する効力
破産債権者が,破産者の保証人,連帯債務者その他破産者とともに債務を負担する者に対して有する権利及び担保には影響を及ぼしません。 従って,保証人や連帯債務者などは弁済する義務があります。 - C 破産者の身上に及ぼす影響
免責の決定が確定すると,破産者は,復権許可の裁判を受けないで当然に復権し,身分上の公私権の制限から解放されます。
そのため,他人の財産を扱ったり,管理したりする資格(職種)の制限を受けなくなりますので,復権以降は,その資格を使った職業に就くことも可能になります。
- A 破産債権者に対する効力
- 6 一部免責
自由財産による弁済を債権額の一部について行い残余を免責してもらう手続が採用されることもあります。
- 1 申立権者
- 第8 弁護士費用等はいくらか。
個人の自己破産の場合は約35万円です。
会社や事業をしていた個人の場合は50万円以上であることが多いです(商取引を行っていれば,債権者数も多くなり,法律関係も複雑になるためです。)
個人や会社に不動産などの価値のある財産があると破産管財人をつけるのが原則ですから,その場合は弁護士費用とは別に,簡易管財事件では個人が約20万円,法人では約30万円,通常管財事件では個人が約30万円以上,法人の場合は約50万円以上のお金が必要です。
これは,破産手続のために裁判所に予納する費用です。 - 第9 その他,破産手続を行うことによる影響について
- 1 破産手続を行ったことが,戸籍や住民票に記載されることはありません(ただし,破産手続を行ったことは,「官報(日本国政府が発行する公報)」には,掲載されます。)。
- 2 破産手続を行ったことで,選挙権,被選挙権を失うことはありません。
- 3 破産者の家族が,破産者の保証人や連帯債務者となっていなければ,その家族が破産者の債務を支払う必要はありません。
- 1 法定財団の範囲(固定主義)