事業承継と相続について
2007(平成19)年8月16日
2019(平成31)年3月11日改訂
2019(平成31)年3月11日改訂
- 第一 事業の継承
- 第1 事業継承方法による分類
- 1 親族内で継承する場合
- ① 後継者への株式・財産等の分配
- ⅰ)後継者への生前贈与
問題 ア 特別受益,遺留分減殺請求
イ 贈与税 - ⅱ)遺言書の活用
問題 ア 遺留分減殺請求 - ⅲ)会社法の活用
ア 株式の分散防止
定款による譲渡制限規定
イ 種類株式の活用
・議決権制限株式の活用
・取得条項付株式の活用
・拒否権付種類株式
(いわゆる黄金株の活用・後継者の暴走防止方法) - 2 従業員への承継又は外部からの後継者を雇い入れる場合
- ① 後継者への株式・財産等の一定程度の移転
- ⅰ 前記①の親族内で継承する場合と同様の方法で行う。
- ⅱ MBO(マネージメント・バイ・アウト)の活用
会社の経営陣が,事業の継続を前提として,所有者から株式を取得して経営権を取得することを指します。
株式買取資金は,経営陣が持ち寄る資金の外,会社自身の財産や会社の将来の収益を担保とした,金融機関からの融資や投資会社からの出資によって補うことも考えられます。
- ② 個人(債務)保証・担保の処理ないし圧縮
- ③ 後継者の報酬の確保等の配慮
- ④ 平成28年4月1日施行の改正経営承継円滑化法では,後継者について,先代経営者の推定相続人であることという要件を削除して,民法の特例の適用対象を親族外承継にまで拡張しています。
- 3 M&Aによる承継
合併(Merger)と買収(Acquisition) - ① 会社の全部を譲渡する方法
- ⅰ 合併(会社の全資産,負債,従業員等を丸ごと他の会社に売却すること・吸収合併と新設合併がある。)
- ⅱ 株式の売却(経営者が所有している株式を第三者に売却すること)
- ⅲ 株式の交換(自社の株式と他社の株式を交換すること)
- ② 会社の一部を譲渡する方法
- ⅰ 会社分割(複数の事業部門を持つ会社が,その1部を切り出してこれを他の会社に売却する手法,新設分割と吸収分割がある。)
- ⅱ 営業譲渡(個別の営業(工場,機械等の資産に加え,ノウハウや知的財産権また顧客など営業を成り立たせるため必要な要素)を売却すること)
- 第2 事業継承についての会社法の活用
- 1 自己株式の取得
- ① 余剰金の分配可能額の範囲で取得可能(会社法(以下「法」という。)461条)
- ② 自己株式取得の効果-自己株式については配当不要,議決権停止
- ③ 活用の狙い
- イ)後継者以外の株主の持分の取得
- ロ)相続人による納税資金の捻出
- ④ 自己株式の取得手続
- イ)特定株主からの取得についての株主総会の特別決議(法156条,309条2項2号)
非公開会社では株式市場での取得(法161条)は有り得ない - ロ)定時総会・臨時総会のいずれでも可能
- ハ)買受人追加請求権あり(法160条)
- ⑤ 自己株式取得に応じてくれない株主への対応
→全部取得条項付株式(法108条1項6号)への転換(定款変更・特別決議法466条・309条2項,種類株主総会の特別決議,法108条1項7号・111条2項)による強制的自己株式取得 - 2 相続人等に対する売渡請求(法174条以下)
- ① 定款に基づく譲渡制限のための承認制度は,相続・合併等には及ばない
- ② 相続・合併等の包括承継人に対する売渡請求-会社法において許容
- ③ 売渡請求の要件
- イ)定款の定めが必要(株主総会の特別決議・法175条1項,466条,309条2項)
- ロ)会社による自己株式取得であるため,剰余金の分配可能額があることが必要
- ハ)売渡請求の為の株主総会の特別決議(法175条1項・309条2項)
決議事項=株式数・対象者
会社が相続・合併等による一般承継の事実を知ってから1年以内に権利行使が必要(法176条1項)
- 第1 相続分
- 妻の法定相続分
- 借金の相続負担額(法定相続分により分割債務となる。)
- 代襲相続
Aが祖父より先に死んでしまったので,Aの兄弟であるB及びCがそれぞれ
1/2×1/3=1/6を相続し,Aの2人の子供がそれぞれ1/2×1/3×1/2=1/12ずつ代襲相続する。
- 第2 遺言
遺言は,死後における自分の財産の処分等を自分が決める文書のことです。
遺言は法律の定めに従って法定の文書を作成しなければなりません。
遺言は人の最終意思決定であり,また,遺言者の死後における法律関係を決める重要な文書だからです。
単に口で家族に言ったとしても法律でいう遺言にはなりません。
また,いくら仲が良いからといって,夫婦が同一の遺言書に遺言をすると両方の遺言が無効になります。共同遺言の禁止といいます。
遺言は15才になれば一定の判断能力をもっている以上誰でも作成できます。
毎年でも毎日でも遺言書を作成してかまいません。
最後に書いた遺言書が有効になります。
また,遺言書を書いても遺言内容にかかわらず財産を自由に処分できます。
その処分された財産に関する遺言部分が無効になるだけです。
通常の遺言書の作成方式は以下の3通りです。 - 1 自筆証書遺言
遺言者が,遺言書の全文,日付,及び氏名を全部自筆で書き,これに押印する方式です。
全文を自筆で書かなければなりません。
ワープロで本文を書いて自署だけやった遺言書は無効です。
ビデオテ-プに録画する方法もだめです。
自筆証書遺言は,全部自分でやるので簡単ですし,金もかからず,遺言の秘密も保てます。
しかし,自筆証書遺言は,筆跡が遺言者と違うので無効だとか,誰かが遺言者に手を添えて遺言書を作成させたとか,遺言者が遺言のときにはボケていてそのような遺言書を作成することはできなかった等という争いが起きやすい欠点があります。
また,遺言書の内容が法的に不明確で実行できないという危険もあります。 - 2 公正証書遺言
公正証書遺言は2人以上の証人に立ち会ってもらい,遺言者が公証人に対して遺言の内容を説明し,公証人がこれを公正証書として作成し遺言者及び証人の承認をとったうえ,遺言者及び証人に署名押印してもらい公証人が遺言公正証書として作成する遺言書です。
公証役場で保管する原本と正本謄本各1通を作ります。
この方式は,無効になる場合はほとんどなく,争いになるケ-スが少ないです。
また,公証人は自宅や病院にも出張してくれます。
しかし,証人を用意しなければならず,公証人の手数料がかかります。
弁護士に依頼した場合は,弁護士及びその事務員が証人となることもでき 遺言の秘密が保てます。
そして弁護士が遺言執行者に指定された場合は弁護士が公正証書遺言正本を保管して相続が発生した場合遺言を執行します。 - 3 秘密証書遺言
秘密証書遺言は,遺言書の内容が第三者に漏れることのないように配慮したもので,遺言者が,自分自身または第三者に書いてもらった遺言書に署名押印して,これを封に入れて封印したうえ,2人以上の証人の立合のもとで公証人に対して自分が作成した遺言書であることを述べるなど一定の手続きを必要とします。しかし,その手続きの煩雑さが欠点です。 - ※ 相続人全員の協議で遺言書と異なる遺産分割ができる。
- 第3 遺留分
被相続人が遺言でその遺産を法定相続分と大幅に相違して相続分の指定をしたり,生前贈与等をした場合,相続人が直系尊属だけの場合は相続財産全体の3分の1,その他の場合は相続財産全体の2分の1が対象となり,それに法定相続分を乗じて遺留分割合が決定されます。
兄弟姉妹には遺留分減殺請求権はありません。
遺留分は,被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額に,被相続人が既に贈与している財産の価額を加算し,その合計額から債務の全額を差し引いて計算します。
遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈等があったことを知ったときから1年間行使しないときは時効により消滅します。
また,相続開始のときから10年を経過したときにも消滅します。
なお,2019年7月1日施行の改正民法(1044条3項)により,相続人に対する特別受益に該当する贈与については,相続開始前の10年間にしたものに限りその価額を遺留分算定基礎財産に算入することにしました。
遺留分減殺請求権は,相続開始後はいつでも放棄できます。
相続開始前の遺留分減殺請求権の放棄は家庭裁判所の許可を要します。
これを利用して事業承継をうまくすることが考えられます。
事業承継は,被相続人の財産の生前贈与ないし生前売買又は遺言を活用する方法により行なうことが有効です。生前贈与や遺言と遺留分減殺請求権の生前放棄の許可を組み合わせることがポイントです。 - 第4 遺産分割方法
1 遺産分割協議
2 遺産分割調停
3 遺産分割審判 - 第5 相続の種類
1 単純承認
2 限定承認
家庭裁判所に相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に相続人全員で共同でする必要がある。
3 相続放棄
家庭裁判所に相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に個別に出来る。
相続人 | 妻の相続分 | その他の相続人の相続分 |
妻のみ | 全部 | |
妻と子 | 2分の1 | 2分の1を子供の数で均等に割る ただし,嫡出子は非嫡出子の2倍の相続分 |
妻と父母 | 3分の2 | 3分の1を親の数で均等に割る |
妻と兄弟姉妹 | 4分の3 | 4分の1を兄弟姉妹の数で均等に割る ただし,父母とも夫と同じ兄弟は片方のみが同じ兄弟の2倍の相続分 |
後妻及びその連れ子の相続権
参考文献
清文社 御器谷修外著 Q&A遺産分割の実務
- 第1 事業継承
中小企業庁 事業継承ガイドライン(案)事業承継協議会 事業承継ガイドライン検討委員会
中小企業庁財務課 事業承継ガイドライン20問20答 中小企業庁
村中徹弁護士著 非公開会社における会社法の活用について 大阪弁護士会
内藤良祐著 事業承継と会社法 大阪弁護士会
内藤良祐編著 新会社法対応 種類株式・新株予約権活用の実務 新日本法規出版㈱
村田英幸著 M&Aの法務 中央経済社
柏原智行著 近年の法改正を踏まえた事業承継アドバイスのポイント 銀行法務21 №839(2019年3月号) - 第2 相続
野田愛子・田山輝明編集 Q&A高齢者財産管理の実務 新日本法規出版株式会社
升田純著 成年後見制度をめぐる裁判例 判例時報1572号以下
東北弁護士連合会 高齢者の安心できる暮らしのために-財産管理を中心として-(レジメ)
桑野雄一郎著 高齢者の財産管理の問題点とその方策について(レジメ)
第一東京弁護士会司法研究委員会編 高齢者の生活と法律 日本加除出版
高村浩著 Q&A成年後見制度の解説 新日本法規出版
加藤淳一著 事例でみる新成年後見制度 大成出版社
高齢者・障害者の財産管理研究会 高齢者の財産管理Q&A 一橋出版
(社)成年後見センター・リーガルサポート実践成年後見No.1 民事法研究会
〈参考文献〉