セクシャルハラスメント
第一 セクシャルハラスメント(セクハラ)規制,ジェンダーハラスメント
- 1. セクシャルハラスメント(以下「セクハラ」という。)とは,職場における性的言動で,これに対する相手方の対応によって,男女を問わず,
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(1) 不利益ないし利益を与えたり
(地位利用型セクハラ・性的関係を強要し,それを拒絶したことを理由とする降格や賃金減額措置の他,それを受け入れたことにより昇格させることなども含まれます。) -
(2) 職場環境を悪化させること
(環境型セクハラ・職場で性的な噂話をふりまくことやヌードポスターを貼ったりして女性が不快に感じ,職場に居づらくさせるものをいいます。)をいいます。 - 2. 男女雇用機会均等法(正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」といいます。)が改正され,平成19年4月から施行されました。
- (1) 従前は女性に対する差別的取扱いの禁止でしたが,改正では,男女双方に対する差別的取扱いが禁止され,また,差別禁止の範囲も大きく拡大しました。
- (2) 間接差別禁止規定が新設され,厚生労働省令で定める措置については,合理的な理由がない限り禁止されました。
- (ア) 性別以外の事由を要件とする措置であって,
- (イ) 他の性の構成員と比較して,一方の性に相当程度の不利益を与えるものを,
- (ウ) 合理的理由がないときに講ずること
- (3) 妊娠・出産・産休取得等を理由とする解雇だけでなくその他の不利益取扱いも禁止されました。
- (4) セクシャルハラスメントの防止として,
- (ア) 男女労働者を対象とする事業主の雇用管理上の措置義務が法定されました。
- (イ) 調停などの紛争解決援助の対象に,セクシャルハラスメントを追加しました。
- (ウ) 是正指導に応じない場合の企業名公表制度の対象にセクシャルハラスメントを追加しました。
- 3. 具体的な義務の内容は,厚生労働大臣が定める指針で定められている。
- 4. 国家公務員については,男女雇用機会均等法とは別に人事院規則でセクハラ防止に関する定めがおかれている。
- 5. 地方公務員には男女雇用機会均等法11条が適用される。
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6. 法的概念としての,「セクハラ」は,相手方の意に反する性的言動が行われ,それによって同人の労働条件に不利益をもたらし,あるいはその労働条件を著しく悪化させたりするといったように,被害の程度が大きく,重大であるような場合において,違法行為としての法的責任が肯定されるものをいいます。
言い換えれば,労働条件や労働環境に対する現実の被害の発生(またはその蓋然性)の存在が民事上ないしは刑事上の違法行為としてのセクハラの要件である。
この場合の「意に反する」という要件は,法律問題として解する場合は,「純然たる本人の意識(不快感・嫌悪感)」を指すのではなく,「平均的な女性の意識」を考慮して判断します。 -
7. ジェンダーハラスメントは,女性の能力や存在を一段と低くみたり,あるいは,「職場の花」として性的対象視する状況を反映した職場における女性労働者に対する取扱いや言動をいいます。
たとえば,お茶汲みや掃除当番,昼食やタバコの買物などの使い走りを女性が担当することを当然とする取扱いや,明確に性的言動とはいえないとしても,「いつ結婚するのか。」など,男性と女性とで意味合いが異なる質問をすることなども問題となる可能性があります。
その改正の主な内容は以下の通りです。
間接差別とは,
を言います。
同法11条は,事業主に対して,職場における性的言動によって男女を問わず労働者がその労働条件に不利益を受けたり,就業環境が害されないよう,雇用管理上必要な措置をしなければならないと改正されました。
第二 セクハラの法的責任
1. 不法行為責任
- (1) 直接の加害者が負うのは民事上の不法行為責任があります。(民法709条)
- (2) 会社代表者が加害者である場合は,法人の不法行為も成立する。(民法44条,商法261条3項,78条2項)
- (3) 被用者が,事業の執行について第三者に損害を与えた場合は,使用者も使用者責任として損害賠償責任を負います。(民法715条,国家賠償法1条)
- (4) 被害回復の方法は原則として金銭賠償ですが(民法722条1項,417条),名誉を棄損された場合は名誉回復措置として謝罪広告要求ができます。(民法723条)
- (5)人格権に基づき事前の差止請求が出来るかは,問題があります。
2. 債務不履行責任
企業と労働者との間は,雇用契約があるが,この雇用契約に付随して,事業主は労働者が安全に勤務できるように配慮する信義則上の義務があると解される。
この度の上記男女雇用機会均等法の改正で定められた改正男女雇用機会均等法の措置義務は,公法上の義務であるため,労使双方の当事者に私法上の請求権を与えるものではないが,同法の措置義務は,私法上の配慮義務を判断する上で参考になると思われる。
職場環境配慮義務には,セクハラの発生を予防する義務(職場環境整備義務)と,セクハラが発生した場合に迅速,適切に対応する義務(職場環境調整義務)がある。
これに違反して義務を怠った場合,事業主に損害賠償義務が発生する。
3. 労働法上の責任
人事,解雇権をもつ上司が,部下にセクハラをしたうえ,拒否した部下を解雇したり,配置・昇進・査定・賃金などで差別的待遇をした場合,労働者の立場からは,仮処分によって労働者の地位保全や賃金の仮払いを求めたり,解雇無効確認や賃金請求の訴訟を提起できます。
事実無根であるのにセクハラの犯人扱いされて不当に解雇された場合も,同様の手段で争えます。
4. 公法上の責任
男女雇用機会均等法により,同法違反があれば,事業主に対する報告聴取,助言,指導,勧告などの行政指導がなされるほか,過料の罰則,或いは事業主が指導勧告に従わなかった場合にその企業名を公表することがあります。
5. 刑法上の責任
強姦罪,強制わいせつ罪,名誉棄損罪,脅迫罪,強要罪,侮辱罪,傷害罪などの刑法犯の他,軽犯罪法違反,ストーカー規制法違反などがある。
第三 公務職場(国・公共団体)と私企業との違い(使用者責任と国家賠償責任)
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1. 公務職場は,民間企業と同様に,民法715条の使用者責任を負う可能性があるほかに,国家賠償責任追及の対象になります。
国家賠償責任は,民法715条の使用者責任と類似しています。 - (1) 国,公共団体に被用者の選任・監督について相当の注意による免責事由がない。(民法715条1項但書)
- (2) 国・公共団体から公務員への求償権の行使が故意または重過失の場合に限定される。(国家賠償法1条2項)
- 2. ある事件について,国家賠償法1条が適用されるか否かは,問題になっている行為が公務員の「公権力の行使(国家賠償法1条1項)」に該当するか否かによります。
- 3. しかし,職場に対して追及していく場合は,公権力の行使に当たらないとして国家賠償請求ができないとしても,民法715条の使用者責任を追及できるので問題はありません。
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4. 加害者個人の責任を追及する場合,国家賠償請求の場合は,公務員個人に対しては公権力の行使に関する行為については個人責任の追及はできないとするのが判例です。
民法上の責任追及の場合は民法709条で可能です。 - 5. 公務員の特性
- (1) 公務員には高いモラルが要求されるため,自治体関連のセクハラ事件は特に話題性,ニュースバリューが高い。
- (2) 公務職場は,一般に人事交流の範囲が限られているため,同じようなメンバーでずっと一緒に仕事を行い,極めて密度の濃い人間関係が作られている。馴れ合いや仲間同士の逸脱についても,外部からのチェック機能が働かないため身内に寛容な土壌ができていることが多い。
- (3) 教員,自治体の事務職場を通じて,酒席でのトラブルが多い。
- (4) 一般職国家公務員を対象とする人事院規則は,男女を問わずセクハラを規制する内容になっている。
しかし,
という違いがあります。
第四 賠償額の高額化
- 1 1992年の福岡セクハラ事件の賠償額は165万円
- 2 横山ノック元大阪府知事セクハラ事件の賠償額は1100万円
- 3 1996年米国三菱自動車製造セクハラ事件の賠償額は約48億円
- 4 クリントン前大統領のアーカンソー州知事時代のポーラ・ジョーンズに対するセクハラ事件の賠償額は約1億円弱
- 5 日銀京都支店事件は慰謝料150万円,逸失利益466万8960円
- 6 岡山人材派遣会社事件では原告一人につき慰謝料200万円,未払い給料相当損害金339万円,逸失利益799万9320円
- 7 その他
参照文献
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1 中野麻美,飯野財著 自由国民社
「全図解セクハラ・DVストーカー・ちかん被害者を救う法律と手続き」 -
2 山田秀雄編著 三省堂
「Q&A セクシャル・ハラスメントストーカー規制法解説第2版」 -
3 日本経団連労政第二本部 編著 日本経団連出版
「Q&A改正均等法早わかり」 -
4 TKC事務所通信 平成19年4月号 鈴木会計事務所
「4月から改正男女雇用機会均等法がスタートします」