離婚に伴う年金分割
2006年(H18)12月25日
第一 離婚時の厚生年金の分割制度(平成19年4月施行)・改正厚生年金保険法
1.基本的な仕組み
- ○離婚時の厚生年金の分割制度により,婚姻期間中(※1)の厚生年金の保険料納付記録(夫婦の合計)を,離婚した場合に当事者間(※2)で分割することが認められます。
- ※1 事実上の婚姻関係にある方も対象になりますが,その場合,分割の対象になるのは,当事者の一方が被扶養配偶者として国民年金法上の第3号被保険者と認定されていた期間に限られます。
- ※2 分割される側が,厚生年金受給資格(老齢基礎年金受給資格)すなわち国民年金,厚生年金,共済年金のいずれかの公的年金制度に全体で25年以上加入している必要があります。
- ○分割ができるのは,施行日以降に成立した離婚(平成19年4月1日以降の離婚)ですが,施行日前の婚姻期間に係る厚生年金の保険料納付記録も分割の対象とすることができます。
- ○離婚当事者は協議により按分割合について合意した上で,社会保険事務所に厚生年金の分割請求を行います(添付書類として合意に関する公正証書等が必要です。)。
- ○当事者間での合意がまとまらない場合,離婚当事者の一方の求めにより,裁判手続により按分割合を定めることができます。(調停調書,判決書,審判書,訴訟上の和解調書)
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○按分割合(婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録の夫婦の合計のうち,分割を受ける側の分割後の持ち分となる割合をいいます。)の上限は50%とし,下限は分割を受ける側の分割前の持ち分にあたる割合とします。
これは多い方から少ない方への分割であることが必要です。 - ○離婚後2年以内に社会保険事務所に分割請求することが必要です。
2.離婚時の厚生年金の分割の効果
分割を受けた当事者は,自身の受給資格要件に応じて,増えた保険料納付記録に応じた厚生年金を受給することができます。
この場合
- ・分割を受けても,自身が老齢に達するまでは老齢厚生年金は支給されません。
- ・分割を行った元配偶者が死亡しても自身の年金受給に影響しません。
- ・原則として,分割された保険料納付記録は厚生年金の額計算の基礎としますが,受給資格要件には算入されません。
第二 離婚時の第3号被保険者期間の厚生年金の分割制度(平成20年4月施行)
基本的な仕組み及びその効果
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1.平成20年4月1日以降は,妻が専業主婦の場合でも,夫婦は共同して厚生年金保険の保険料を納めていたとみなし,離婚時には平成20年4月以降に納めた年金については,夫名義の老齢厚生年金の2分の1を妻の老齢厚生年金として分割して支給するものです。
すなわち,平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間(※1)については,離婚をした場合に,当事者一方からの請求により,第2号被保険者の厚生年金の保険料納付記録を自動的に2分の1に分割(※2)することができます。 - (※1)事実婚関係にある方の第3号被保険者期間についても,分割の対象になります。
- (※2)平成20年4月1日前の第3号被保険者期間については,離婚をしても自動的に2分の1に分割することはできませんが,第一の1で前述したように当事者間の合意又は裁判所の決定により按分割合を定めれば,分割することができます。
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2.分割の効果は,前記第一の2に記載した,平成19年4月施行の離婚時の厚生年金の分割と同じです。
第三 分割の請求手続について
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1. 当事者間における合意又は裁判手続により按分割合を定めたとしても,実際に分割改定の請求をしないと,当事者それぞれの厚生年金の分割は行われません。
分割の請求にあたっては,請求書に必要事項を記載し,請求する人の現住所を管轄する社会保険事務所に対して提出する必要があります。 - 2.請求にあたっては以下の書類を添付書類として提出する必要があります。
- ・年金手帳又は国民年金手帳
- ・戸籍謄本若しくは抄本又は住民票
- ・公正証書等の按分割合を定めた書類等(公正証書又は公証人の認証を受けた私署証書,調停調書,確定審判,確定判決,和解調書)
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3.分割の請求は,原則,離婚をしたときから2年を経過するまでの間にしなければなりません。
※事実婚に係る厚生年金の分割の請求は,事実婚が解消していると認められたときから2年を経過するまでの間にしなければなりません。
第四 分割制度対象外の年金
分割制度対象外の年金は,国民生活基金,厚生年金基金,確定拠出年金,企業年金等です。これらは離婚時年金分割制度の対象外ですが,一般的な財産分与の対象となります。
按分割合は,厚生年金分割と同様と思われます。
支払金は,定期金払いか平均余命までの年数に対応する中間利息を控除した一括金のどちらかになると思われます。
第五 離婚時の厚生年金分割の税務上の取扱い
- 1. 前記第一の場合は,「夫婦間の合意等」に基づき分割される厚生年金保険であることから,離婚による財産分与で取得した財産と同様に贈与税の問題は生じません。
- 2.前記第二の場合は,夫婦間の合意等があるか否かに関係なく夫婦どちらか一方の請求さえあれば自動的に半分ずつに分割できるものであり,そもそも贈与とは考えられないので,贈与税の問題は生じません。
参考文献
- 離婚時における厚生年金の分割と財産分与
- 勝てる!?離婚調停
- 週刊税務通信 No.2945号
- 日本弁護士連合会日弁連特別研修会
- 小野浩司,榊原富士子 講演
- 池内ひろ美・町村泰貴著 日本評論社 平成18年11月27日付