官地と民地の境界確定-境界確定訴訟,筆界特定制度,所有権確認訴訟,不動産の時効取得
2008(H20)年6月20日改訂
2011(H23)年5月7日再改訂
2014(H26)年2月17日改訂
2021(R3)年2月7日改訂
第一 境界確定訴訟
第1 公法上の境界(筆界)と私法上の境界(所有権界)の違い
- 1 公法上の境界(筆界)
- (1)公法上の境界(筆界)の定義
- ① 表題登記がある一筆の土地とこれに隣接する他の土地との間
- ② 当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた
- ③ 2以上の点及びこれらを結ぶ直線
- (2)公法上の境界(筆界)の変更
公法上の境界(筆界)は,客観的に固有するものであり,各筆の登記簿上の所有名義人の意思のみによって筆界を処分したり変更したりすることはできない。(最高裁昭和31年12月18日判決)
公法上の境界(筆界)を変更するためには,登記官が分筆,合筆(不動産登記法39条)という形成的行政処分を行わなければならない。 - (3)紛争の解決方法
紛争の解決は,これまで境界確定訴訟によって行われてきたが,平成17年の不動産登記法改正により,筆界特定制度も紛争解決の新たなメニューとして加わった。 - 2 私法上の境界
- (1)私法上の境界(所有権界)の定義
私法上の境界(所有権界)は,所有権に基づき,隣接地当事者間で合意された境界線である。 - (2)私法上の境界(所有権界)の変更
私法上の境界(所有権界)は,私的自治の原則に基づき,当事者が自由に決定し,処分できる。 - (3)紛争の解決方法
私法上の境界(所有権界)に争いがある場合は,所有権の範囲を確認する所有権確認訴訟(民事訴訟法134条)によって解決する。 - 3 これまでの裁判実務においても,公法上の境界(筆界)と私法上の境界(所有権界)は,明確に峻別され,境界確定訴訟の審理の対象である「境界」は,公法上の境界(筆界)を指すものと解され,私法上の境界(所有権界)は通常の所有権確認訴訟により解決されてきた。
- 4 公法上の境界(筆界)と私法上の境界(所有権界)が異なる場合
- (1)公法上の境界(筆界)は,手続法である不動産登記法により,私法上の境界(所有権界)は実体法である民法により規律される。
- (2)公法上の境界(筆界)と私法上の境界(所有権界)は一致する場合が多い。
- (3)しかし,一筆の土地の一部が売買されたにもかかわらず,分筆・合筆登記がなされなかったり,また,公法上の境界(筆界)を越えて土地の一部が時効取得される(民法162条)などして,両者が一致しない場合がある。
- (4)公法上の境界(筆界)と私法上の境界(所有権界)が一致しない場合は,分筆登記手続により一致させることが出来る。
第2 境界確定訴訟の対象としての境界
判例・通説は,公法上の境界(筆界)こそが境界確定訴訟の対象であるとする。
第3 境界確定訴訟の性質
実質的な非訟事件であり,少なくとも立証責任の適用がなく,従って,境界線について証拠上証明がなくても原告は請求を棄却されることがなく,裁判所によって妥当な境界線を確定してもらうことができる。
形式的形成訴訟説が通説・判例である。
客観的な境界線を発見できない場合でも,また,当事者の主張に拘束されないで(当事者の合意にも左右されない。民事訴訟においては,裁判所は当事者の申し立てない事項について判決することができないとされている(民事訴訟法246条)が,境界確定訴訟は,民事訴訟法246条の適用がない。認諾にも拘束されない。)衡平の観点から境界を確定し得る訴訟としてこそ境界確定訴訟の存在理由がある。
控訴審での不利益変更の禁止(民事訴訟法304条)の適用がない。
このような訴訟の本質は非訟事件であるというべきで,境界確定訴訟は本来非訟事件であるものを民事訴訟の形式によらしめたもので,形式訴訟というほかはない。
第4 国有地と私有地との境界
国有地と私有地との境界に関して紛争を生ずることがある。
その場合の解決方法として,国有財産法に特別の定めがある。
国有財産の境界が不明な場合で,その管理に支障がある場合には,隣接地の所有者に対し,立会場所,期日その他の必要な事項を通知して,境界を確定するための協議を求めることができ,その所有者は,やむを得ない場合を除き,その協議をしなければならない。
協議が整えば書面により確定された境界を明らかにしなければならないし,協議が整わないときは,行政上の処分を行えない(国有財産法31条の3)。
隣接地の所有者が協議に応じない場合には,当該隣接地の所在する市町村の職員の立会を求め,更に,その地域を管轄する財務局に置かれた地方審議会に諮問する等の手続を経た上で,各省各庁の長は,境界を確定することができる(国有財産法31条の4)。
この境界の定めには,公告のあった日から60日内に不同意を通告することができ,その通告がないと同意があったものと見做され(国有財産法31条の5),境界が確定する。
上記の国有財産法31条の3ないし5による境界確定については,裁判例(大阪高裁昭和59年10月26日判決・判例タイムズ560・205,東京地裁昭和56年3月30日判例・判例時報1007・45)は,国有地と隣接民有地との所有権の範囲を定める私法上の契約と解すべきであるとして,その行政処分性を否定している。
従って,当事者としては,改めて公法上の境界(筆界)の確定を求めて境界確定訴訟を提起することは可能である。
しかし,一旦所有権の範囲を確定したということは,相当強く斟酌される。
(大阪地裁平成4年6月22日判決・判例地方自治105・168,鳥取地裁米子支部平成6年11月10日判決・判例地方自治140・79)
- ①証人尋問
- ②当事者尋問
- ③鑑定
- ④書証
- ⑤現場検証
- ⑥職権証拠調は出来ない(通説)。
- ①地図
不動産登記法14条1項地図 - ・法務局作成地図
- ・国土調査法に基づく地籍図
- ・土地区画整理法,土地改良法に基づく土地所在図
- ②測量図
- ③土地登記簿謄本
- ④公図
旧土地台帳附属地図 - ⑤写真
- ⑥古文書
- ⑦古地図
- ⑧空中写真
- ⑨その他
- (注)国土調査法による地籍調査はあくまでも土地の現状のあるがままを調査するものであり,その結果によって境界を確定したり,形成したりする効力を有するものではない。(最判昭和61年7月14日判例タイムズ606-99)
国土調査の結果地籍図が作成されても,その記載の通り境界が画定するわけではない。
第5 境界確定訴訟の立証
1 証拠調手続
2 書証
第6 境界確定訴訟の判決の効力
境界確定訴訟の判決は,形成判決だから,対世効があり,訴訟の当事者でない第三者も登記官も拘束される。
第二 筆界特定制度について
- 1 筆界特定の定義
- (1)筆界特定とは,一筆の土地及びこれに隣接する他の土地について,筆界の現地における位置を特定すること(その位置を特定出来ない場合は,その位置の範囲を特定すること)を指す。(不動産登記法123条)
すなわち,筆界特定登記官という公的機関が,筆界の現地における位置について,不動産登記法第6章の「筆界特定」の手続に基づく「認識を表示」する行為である。 - (2)筆界特定登記官は,筆界の形成はできない。
あくまで筆界の位置ないし筆界の位置の範囲を特定し確認するだけである。 - (3)「筆界特定」は,行政機関である筆界特定登記官が行う行為だが,単に筆界特定登記官の認識を表示し,位置を特定する行為であり,新たな筆界を形成する行為ではなく,行政処分としての性質を有しない。
- 2 境界(筆界)確定訴訟(不動産登記法147条,148条等)と筆界特定制度との関係
- (1)手続の先後関係はない。(筆界特定前置主義はとらない。不動産登記法147条)
- (2) 効力の関係
筆界特定は,境界確定訴訟の判決に抵触する範囲で失効する。
(不動産登記法148条)
① 境界確定訴訟が未提起 →筆界特定の申請可能
② 境界確定訴訟が提起済み
ア 判決が言い渡されていない →筆界特定の申請可能
イ 判決が言い渡されたが判決が確定していない→筆界特定の申請可能
ウ 判決が言い渡されて判決が確定した →筆界特定の申請は却下
③ 既に筆界特定がなされている →筆界特定の申請は却下
(特段の必要がある場合を除く)
→境界確定訴訟は提起可能
第三 公共用財産についての時効取得
- 1 公共用財産について,黙示の公用廃止が認められ,これについて取得時効の成立を妨げない場合の,黙示の公用廃止が認められる4要件
(最高裁昭和51年12月24日第二小法廷判決,民集3011・1104,判例時報840・55) - ①長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置されていること
- ②公共用財産としての形態,機能を全く喪失していること
- ③その土地の上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが,そのため実際上公の目的が害されるようなことがないこと
- ④もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなったこと
- 2 公共用財産について黙示の公用廃止が認められる4要件に適合する客観的状況は,自主占有開始の時点までに存在していることを要する。
(福岡地裁小倉支部昭和58年4月28日判決,訟月29・11・2046)
(京都地裁昭和61年8月8日判決,判例タイムズ623・106)
(東京高裁平成3年2月26日判決,訟月38・2・177)
(大阪高裁平成4年10月29日判決,訟月39・8・1404)
(法定外公共物(道路)につき黙示の公用廃止が認められたが,他主占有事情が認められるとして取得時効が認められなかった事例
函館地裁平成19年11月28日判決,公刊物未登載) - 3 公共用財産についての時効取得を主張する場合は、境界確定訴訟ではなく、私法上の境界(所有権界)を確認する所有権確認訴訟をしなければならない。
第四 官民境界確定方法
- 1 地番の付されていない国有地の所在を図面上で表示し,同地と地番の付された民有地との境界の確定を求める訴訟は,事実の確認を求めるものではなく,適法な境界確定の訴えである。
(国が,河川敷地について,所有権を主張する被告らに対し,所有権確認・境界確定を請求した事案である。)
(最高裁平成5年3月30日判決,訟月39・11・2326) - 2 国有財産法31条の3の協議による境界確定は行政処分に該当しない。
但し,この判決は,国有財産法31条の4の決定による境界確定には触れていない。
(東京地裁昭和56年3月30日判決,判例時報1007・45)
- 参照文献
- 1 よくわかる境界のトラブルQ&A 安藤一郎著 三省堂発行
- 2 私道・境界・日照の法律相談 野辺博編著 学陽書房発行
- 3 新訂版 官民境界確定の実務 秋保賢一共著 新日本法規
- 4 Q&A新しい筆界特定制度 清水規廣外著 三省堂発行
- 5 Q&Aでわかる筆界特定制度 鈴木仁史著 日本法令発行
- 6 一問一答 国有財産訴訟の手引第二版 国有地をめぐる紛争処理ハンドブック 国有財産訴訟研究会編 社団法人 民事法情報センター発行
- 7 平成17年不動産登記法等の改正と筆界特定の実務 テイハン
- 8 土地境界紛争処理のための取得時効制度概説 秋保賢一監修 馬渕良一著
日本加除出版株式会社