定型約款に関する民法の改正
2019(令和元)年6月3日
民法(債権関係)改正法が2020(令和2)年4月1日から施行されます。
定型約款に関する改正法も同日に施行されますが、
定型約款の改正後の民法が適用されることに反対する意思表示に関する規定は、2018(平成30)年4月1日から施行されています。
- 第一 定型約款の定義
- 改正前の民法には、約款の定義や約款の組入れ・内容規制に関する規定は設けられていません。
- 一方、改正民法では、「定型約款」という概念を定義しました。
「定型約款」とは、
「特定取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの)」において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体と定義されました。(民法548条の2第1項) - この定義には、労働契約のひな型や、事業者間のみで行われる取引に利用される約款や契約書のひな型は含まれないと考えられます。
- 第二 定型約款の契約への組入れ
- 定型約款の個別条項についての合意をしたものとみなされる場合は以下のいずれかの場合です。(改正民法548条の2第1項)
- ① 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
- ② 定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき
- 相手方からの請求がない限り、約款を開示することは必ずしも定型約款の契約への組入れの要件にはなっていません。
- 第三 定型約款内容の信義則制限
- 定型約款が契約の内容とされた場合でも、定型約款に含まれる条項のうち、相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項は、その定型取引の態様及びその実情ならびに取引上の社会通念に照らして民法1条2項(権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。)に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなされます。(改正民法548条の2第2項)
- 第四 定型約款の内容の表示
- 定型約款準備者は、相手方に書面を交付したときやホームページで開示等をしたときを除き、定型取引合意の前、または定型取引合意の後相当の期間内に、相手方から請求があった場合には、遅滞なく相当な方法で当該定型約款の内容を示さなければなりません。(改正民法548条の3第1項)
- 定型約款準備者が、定型取引合意の前において、上記の表示請求を拒んだときは、一時的な通信障害等の正当事由がある場合を除き、定型約款は契約内容にならないとされました。(改正民法548条の3第2項)
- 第五 定型約款の変更
- 1 以下のいずれかの個別の要件を満たすときは、相手方の個別の合意なく、定型約款の変更で契約内容を変更できることになります。
(改正民法548条の4) - ① 相手方の一般の利益に適合するとき
- ② 契約をした目的に反せず、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更条項の有無、その内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
- 2 手続要件(改正民法548条の4第2項3項)
- 定型約款準備者は、定型約款変更の効力発生時期を定め、約款を変更する旨・変更後の約款内容・効力発生時期を、インターネットの利用など適切な方法で周知しなければなりません。
- 3 約款変更の効力喪失
- 上記1の②の規定による約款変更をするときは、定型約款準備者が、効力発生時期の到来までに上記2の周知をしなければ、約款変更の効力が生じません。(改正民法548条の4第3項)
- 第六 改正後の定型約款の規定の適用に反対する意思表示
(平成29年6月2日法律第44号の附則33条2項・3項) - 定型約款に関する改正後の規定は、上記施行日(2020(令和2)年4月1日)前に締結された契約にも適用されます。(上記附則33条1項)
- しかし、上記施行日前(2020(令和2)年3月31日まで)に反対の意思表示をすれば、改正後の定型約款に関する規定は適用されないことになります。(上記附則33条2項・3項)
- この反対の意思表示に関する規定は、2018(平成30)年4月1日から施行されています。
参考文献
- ・Q&A消費者からみた改正民法
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会 編
株式会社民事法研究会 発行 - ・新債権法下の債権管理回収実務Q&A
増本善丈他5名 著
一般社団法人金融財政事情研究会 発行 - ・詳細改正民法
潮見佳男他3名 編
株式会社商事法務 発行 - ・企業法制からみた改正債権法の実務ポイント
阿部泰久 著
新日本法規出版株式会社 発行