養育費・婚姻費用の計算方法について
2017(平成29)年11月16日
- 1 婚姻費用とは,夫婦間で分担する家族の生活費のことです。
民法760条は,「夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定しています。
そのため,収入のある者は,その配偶者や子に対して,収入に応じた生活費用を支払わなければならない法的義務があります。
この義務は,「生活保持義務」と言われており,権利者に義務者の生活程度に等しい生活を保持させるものです。
生活保持義務は,「一個のパンでも分け与えなければならない。」等と,たとえられています。
ただし,婚姻費用を請求する配偶者の側に,別居の原因(不貞行為等)があるような場合には,その配偶者の分の婚姻費用請求が認められないこともあります。 - 2 養育費とは,未成熟子の生活費のことです。
いつまで養育費を支払うか(養育費の終期)については,一般には,成人年齢(20歳)に達する月までとされるのが多いですが,当事者間の合意により,未成熟子が18歳に達してから最初の3月(高校卒業時)や,22歳に達してから最初の3月(大学卒業時)まで,と定めることもできます。 - 3 算定表
婚姻費用や養育費を簡易迅速に算定するため「算定表」が作成され,実務で使用されています。
ただし,「算定表」は標準的な事案を想定して作成されているため,個々の事案によっては,算定表を用いることができないこともあります。
そこで,婚姻費用や養育費の計算方法を確認しておく必要が生じます。
なお算定表は,東京家庭裁判所のホームページから見ることができます。
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/
(PDFのページ) http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf - 4 用語の説明
婚姻費用や養育費を計算するに当たっては,以下の用語を用います。 -
(1)総収入:収入の総額のことです。
給与所得者は,源泉徴収票の「支払金額」が総収入とされます。
自営業者は,確定申告書を認定資料として、総収入を認定します。 - (2)基礎収入:総収入から税金や社会保険料,特別経費などの費用を控除したもので,生活費に充てられる収入(手取り収入)のことを言います。
統計によって,給与所得者の基礎収入割合は,総収入の34%~42%,自営業者の基礎収入割合は,総収入の47%~52%とされています。
以下に,基礎収入割合の表の一例を記載しますので,参考にして下さい。 -
(3)生活費指数:世帯の収入を,世帯の構成員に,どのように割り振るかを示した指数です。
親:100
15歳未満の子:55
15歳以上の子:90
とされています。 - 5 婚姻費用の計算方法
- (1)まず,権利者世帯に割り振られる婚姻費用を算出します。
計算式は,
(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×(権利者世帯の生活費指数)÷(世帯全体の生活費指数)
となります。 - (2)次に,義務者から権利者に支払われる婚姻費用分担額を算出します。
計算式は,
(1)で得られた数値-権利者の基礎収入
となります。 - 6 養育費計算
- (1)まず,子の生活費を算出します。
計算式は,
義務者の基礎収入×子の生活費指数÷(義務者の生活費指数+子の生活費指数)
となります。 - (2)次に,義務者の養育費分担額を算出します。
計算式は,
(1)で得られた数値×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
となります。
給与収入(万円) | 基礎収入割合(%) | 事業収入(万円) | 基礎収入割合(%) |
~100 | 42 | ~421 | 52 |
~125 | 41 | ~526 | 51 |
~150 | 40 | ~870 | 50 |
~250 | 39 | ~975 | 49 |
~500 | 38 | ~1144 | 48 |
~700 | 37 | ~1409 | 47 |
~850 | 36 | ||
~1350 | 35 | ||
~2000 | 24 |
参考文献
簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集
森公任・森元みのり 編著
新日本法規出版株式会社 発行
要件事実マニュアル5 家事事件・人事訴訟・DV(第5版)
岡口基一 著
株式会社ぎょうせい 発行